「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第5部
琥珀暁・姫惑伝 2
神様たちの話、第225話。
クーのやぶへび。
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2.
「それで、どうあっても聞き入れていただけないようでしたので、仕方無く、その場は鉾を収めることにいたしましたの。でも、今でもまだわたくし、憤懣やるかたない気持ちで一杯ですの。
ですからハン、あなたから何かしらの制裁を加えていただけないかしら?」
「そうか」
クーから船渠でのやり取りを聞かされ、ハンははあ、とため息をついた。
「まず第一に言うことがある。俺は数日前、『勝手なことをするな』と通達したよな?」
「ええ」
「その場には君もいたはずだな?」
「さようですわね」
「それじゃ確認するが」
ハンはキッとクーをにらみ、刺々しい口ぶりで尋ねる。
「君は俺やエリザさんの許可も無く、遠征隊ではなく王国軍が管理している場所へずかずかと立ち入り、作業員の邪魔をし、挙げ句に騒ぎを起こしかけたんだな?」
「あっ」
声を上げたクーを依然にらみつけたまま、ハンはこう続ける。
「それで腹を立てたから、俺に制裁しろって? 俺に君のワガママを聞き入れ、まっとうな対応をしたであろう作業員に不当な罰を与えろって言うのか? とんだ暴君だな。陛下が事の顛末を聞いたら、一体どんな顔をされるだろうな?」
話がまずい方向へ向かっていることを察し、クーは席を立とうとする。
「あ、あのっ、今のは無しで」
「無しにできるか!」
が、ハンがすかさず立ち上がり、クーの手を引きつつ叱咤する。
「いいか、今の状況をよくわきまえろ! そんな話が今の、不安を抱いている陛下の耳に入ったら、君は間違い無く強制送還だ! それだけじゃない。俺も班の皆も、監督不行き届きで帰還命令を出されるだろう。最悪の場合、遠征隊全員が引き揚げさせられることにもなりかねない。
そんなことも考慮せず、君の屈辱と鬱憤を晴らすためだけに罰を与えろって言うのか!?」
「あの、その、も、もう結構です。わたくし、その、は、反省いたしましたから」
「そんなことを口先で軽々しく言ったところで、本当に君が反省したと、俺が見なすと思ってるのか!?」
「あぅ……」
言葉に窮し、うつむくクーに、ハンが畳み掛ける。
「前々から思っていたが、君は本当に傲慢で自分勝手でワガママだ! その性分を直さなきゃ、いつか必ず大きなトラブルを起こすだろう。一度どこかで痛い目を見なきゃ、それがさっぱり分からないようだな!?」
「い……いえ、その」
「『その』!? なんだ!?」
「……なんでもございません」
クーが黙り込んだところで、ハンは咳払いし、声色を落ち着いたものに変える。
「ともかく、軽率にこんな振る舞いをするようじゃ、君をこのまま放置しておくわけには行かない」
「えっ?」
クーが顔を挙げたところで、ハンは彼女の鼻先に、びしっと指を向けた。
「君に罰を与える」
「わ、わたくしに?」
「君をこのまま放置していたら、また何をしでかすか分からん。一度きっちり、心の底から反省してもらわなくてはな」
「あっ、あなたに、そんな権限……」
クーは慌てて撤回させようとしたが――。
「まだ何か文句があるのか?」
「……いえ」
ハンににらまれ、クーはふたたび黙り込んだ。
2時間後、クーはいつもの瀟洒(しょうしゃ)なドレスではなく、簡素なエプロンと三角巾を着けてエリザの店に立っていた。
「ほな、まずは廊下の掃除からよろしゅう。終わったらアタシんトコ戻って来てや」
「うぐぐぐ……」
クーは涙目でエリザに訴えたが、彼女は肩をすくめて返す。
「そんな目ぇしてもアカンもんはアカン。アタシもアンタの味方してあげたいんは山々やけど、今回ばっかりはハンくんの言う方が正しいからな。諦めて丁稚さんになってもらうで。
はい、モップとバケツ。水は大事に使いや」
「……はぁい……」
その後3日間、クーはエリザの店の丁稚として、朝から晩まで働かされることとなった。
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クーのやぶへび。
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「それで、どうあっても聞き入れていただけないようでしたので、仕方無く、その場は鉾を収めることにいたしましたの。でも、今でもまだわたくし、憤懣やるかたない気持ちで一杯ですの。
ですからハン、あなたから何かしらの制裁を加えていただけないかしら?」
「そうか」
クーから船渠でのやり取りを聞かされ、ハンははあ、とため息をついた。
「まず第一に言うことがある。俺は数日前、『勝手なことをするな』と通達したよな?」
「ええ」
「その場には君もいたはずだな?」
「さようですわね」
「それじゃ確認するが」
ハンはキッとクーをにらみ、刺々しい口ぶりで尋ねる。
「君は俺やエリザさんの許可も無く、遠征隊ではなく王国軍が管理している場所へずかずかと立ち入り、作業員の邪魔をし、挙げ句に騒ぎを起こしかけたんだな?」
「あっ」
声を上げたクーを依然にらみつけたまま、ハンはこう続ける。
「それで腹を立てたから、俺に制裁しろって? 俺に君のワガママを聞き入れ、まっとうな対応をしたであろう作業員に不当な罰を与えろって言うのか? とんだ暴君だな。陛下が事の顛末を聞いたら、一体どんな顔をされるだろうな?」
話がまずい方向へ向かっていることを察し、クーは席を立とうとする。
「あ、あのっ、今のは無しで」
「無しにできるか!」
が、ハンがすかさず立ち上がり、クーの手を引きつつ叱咤する。
「いいか、今の状況をよくわきまえろ! そんな話が今の、不安を抱いている陛下の耳に入ったら、君は間違い無く強制送還だ! それだけじゃない。俺も班の皆も、監督不行き届きで帰還命令を出されるだろう。最悪の場合、遠征隊全員が引き揚げさせられることにもなりかねない。
そんなことも考慮せず、君の屈辱と鬱憤を晴らすためだけに罰を与えろって言うのか!?」
「あの、その、も、もう結構です。わたくし、その、は、反省いたしましたから」
「そんなことを口先で軽々しく言ったところで、本当に君が反省したと、俺が見なすと思ってるのか!?」
「あぅ……」
言葉に窮し、うつむくクーに、ハンが畳み掛ける。
「前々から思っていたが、君は本当に傲慢で自分勝手でワガママだ! その性分を直さなきゃ、いつか必ず大きなトラブルを起こすだろう。一度どこかで痛い目を見なきゃ、それがさっぱり分からないようだな!?」
「い……いえ、その」
「『その』!? なんだ!?」
「……なんでもございません」
クーが黙り込んだところで、ハンは咳払いし、声色を落ち着いたものに変える。
「ともかく、軽率にこんな振る舞いをするようじゃ、君をこのまま放置しておくわけには行かない」
「えっ?」
クーが顔を挙げたところで、ハンは彼女の鼻先に、びしっと指を向けた。
「君に罰を与える」
「わ、わたくしに?」
「君をこのまま放置していたら、また何をしでかすか分からん。一度きっちり、心の底から反省してもらわなくてはな」
「あっ、あなたに、そんな権限……」
クーは慌てて撤回させようとしたが――。
「まだ何か文句があるのか?」
「……いえ」
ハンににらまれ、クーはふたたび黙り込んだ。
2時間後、クーはいつもの瀟洒(しょうしゃ)なドレスではなく、簡素なエプロンと三角巾を着けてエリザの店に立っていた。
「ほな、まずは廊下の掃除からよろしゅう。終わったらアタシんトコ戻って来てや」
「うぐぐぐ……」
クーは涙目でエリザに訴えたが、彼女は肩をすくめて返す。
「そんな目ぇしてもアカンもんはアカン。アタシもアンタの味方してあげたいんは山々やけど、今回ばっかりはハンくんの言う方が正しいからな。諦めて丁稚さんになってもらうで。
はい、モップとバケツ。水は大事に使いや」
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