「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第5部
琥珀暁・姫惑伝 4
神様たちの話、第227話。
クーのかんさつ。
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4.
「ねえ、マリア。わたくし、以前からもしかして、と存じていたことがございますの」
「なんでしょー?」
「ハンは無趣味かつ無嗜好の人間だと以前より拝察していたのですけれど、もしかしてハンは、測量がご趣味でいらして?」
そう問われ、マリアはあごに指をやりつつ、「んー」とうなる。
「そーかもですね。尉官、いーっつもしかめっ面してるのに、測量する時はなーんか、楽しそうですもん」
「やっぱり」
二人はうなずき合い、前を歩くハンの後ろ姿に目をやる。
「楽しそうですねぇ」
「さようですわね」
そのハンは、隣のビートと話している。
「情勢が落ち着いて、沿岸部の測量もようやくできるようになったが、正直人手が足りないんだよな。人員を増やそうかと思ってるんだが……」
「でも計算とか集計とか、色々手間ですよね」
「そこなんだよな。それを教えるところから始めないとならない」
クーとマリアがささやき合っていたように、普段の堅い仏頂面とは打って変わって、ハンは比較的饒舌になっている。
「ここに上陸してから半年経って、ようやくこないだが1回目ですもんね。なんだかんだありましたし」
「さようですわね。以前にハンが、地元の方が作成された沿岸部の地図をご覧になった際、『何なんだ、この滅茶苦茶な地図は? もっとマシなものは無いのか!』とお嘆きになっておりましたし、相当焦れていらっしゃったようですもの」
「尉官はキッチリしたのが大好きですからねぇ。ま、それに測量に行くってなれば、数日はエリザさんの顔を見ずに済むってのもありますから」
「あら」
クーはハンの横顔をチラ、と見、マリアに視線を戻す。
「やはりお嫌いなのかしら?」
「嫌いって言ったら、言い過ぎかもですけどね。何だかんだ言って、信頼し合ってるってトコは感じますもん。でもやっぱり、しょっちゅう顔を突き合わせたい相手じゃ無いって思ってる節はありますね。
お城の中歩いてる時でも、いきなり廊下曲がって早足になって、『尉官、どうしたんだろ?』て思ってたら、後ろから『ハンくーん』って」
「クスクス……」
と、二人の話を聞いていたらしく、ハンが苦い顔をしている。
「あまり大声でそう言う話はしないでくれ。エリザさんの耳に入ったら、あの人は絶対俺にまとわりついて来るんだから」
「あー、エリザさんならやりそうですね」
「ええ、まったく」
測量と遺構調査のため、ハンたち一行はクーを伴い、雪の中をひた進んでいた。それでも防寒対策はしっかり施されており、一行の顔に辛さは見られない。
とは言え――。
「マリア。疑問がございますけれど、お聞きしてもよろしいかしら?」
「なんでしょ?」
「このような雪中で測量をいたせば精度の不安がございますけれど、どのように対策なさっているのかしら?」
「確かにそーなんですけどねー」
そう返しつつ、マリアはハンの背中にチラ、と目をやる。
「尉官、雨が降ろうが雪が積もってようが、構わず測るんですよね。クーちゃんの言う通り、そんな日に測ってたら絶対おかしな結果になるはずなんですけど、そう言う日は『回数を増やせば精度が上がるはずだ』って、いつもの2倍も3倍も計測するんです。だから一応、計測に関しては問題なしって言えるんですけども。
計測結果が気に入らないって時なんか、30回くらい往復させられたこともありますよ」
「……あの、マリア」
クーは額に手を当てつつ、呆れた声を上げた。
「シェロが離反した理由は彼自身の功名心や自尊心からだ、……とハンたちは論じておりましたけれど、やはりハンの言動に大きな問題があるように存じますわ」
「そりゃ、十分あるでしょーね。まともに付き合ってたら、そりゃ『やってらんねえよ』ってなっちゃうと思います」
「本当にもう、あの方は」
クーとマリアは顔を見合わせ、揃ってため息を漏らした。
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クーのかんさつ。
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4.
「ねえ、マリア。わたくし、以前からもしかして、と存じていたことがございますの」
「なんでしょー?」
「ハンは無趣味かつ無嗜好の人間だと以前より拝察していたのですけれど、もしかしてハンは、測量がご趣味でいらして?」
そう問われ、マリアはあごに指をやりつつ、「んー」とうなる。
「そーかもですね。尉官、いーっつもしかめっ面してるのに、測量する時はなーんか、楽しそうですもん」
「やっぱり」
二人はうなずき合い、前を歩くハンの後ろ姿に目をやる。
「楽しそうですねぇ」
「さようですわね」
そのハンは、隣のビートと話している。
「情勢が落ち着いて、沿岸部の測量もようやくできるようになったが、正直人手が足りないんだよな。人員を増やそうかと思ってるんだが……」
「でも計算とか集計とか、色々手間ですよね」
「そこなんだよな。それを教えるところから始めないとならない」
クーとマリアがささやき合っていたように、普段の堅い仏頂面とは打って変わって、ハンは比較的饒舌になっている。
「ここに上陸してから半年経って、ようやくこないだが1回目ですもんね。なんだかんだありましたし」
「さようですわね。以前にハンが、地元の方が作成された沿岸部の地図をご覧になった際、『何なんだ、この滅茶苦茶な地図は? もっとマシなものは無いのか!』とお嘆きになっておりましたし、相当焦れていらっしゃったようですもの」
「尉官はキッチリしたのが大好きですからねぇ。ま、それに測量に行くってなれば、数日はエリザさんの顔を見ずに済むってのもありますから」
「あら」
クーはハンの横顔をチラ、と見、マリアに視線を戻す。
「やはりお嫌いなのかしら?」
「嫌いって言ったら、言い過ぎかもですけどね。何だかんだ言って、信頼し合ってるってトコは感じますもん。でもやっぱり、しょっちゅう顔を突き合わせたい相手じゃ無いって思ってる節はありますね。
お城の中歩いてる時でも、いきなり廊下曲がって早足になって、『尉官、どうしたんだろ?』て思ってたら、後ろから『ハンくーん』って」
「クスクス……」
と、二人の話を聞いていたらしく、ハンが苦い顔をしている。
「あまり大声でそう言う話はしないでくれ。エリザさんの耳に入ったら、あの人は絶対俺にまとわりついて来るんだから」
「あー、エリザさんならやりそうですね」
「ええ、まったく」
測量と遺構調査のため、ハンたち一行はクーを伴い、雪の中をひた進んでいた。それでも防寒対策はしっかり施されており、一行の顔に辛さは見られない。
とは言え――。
「マリア。疑問がございますけれど、お聞きしてもよろしいかしら?」
「なんでしょ?」
「このような雪中で測量をいたせば精度の不安がございますけれど、どのように対策なさっているのかしら?」
「確かにそーなんですけどねー」
そう返しつつ、マリアはハンの背中にチラ、と目をやる。
「尉官、雨が降ろうが雪が積もってようが、構わず測るんですよね。クーちゃんの言う通り、そんな日に測ってたら絶対おかしな結果になるはずなんですけど、そう言う日は『回数を増やせば精度が上がるはずだ』って、いつもの2倍も3倍も計測するんです。だから一応、計測に関しては問題なしって言えるんですけども。
計測結果が気に入らないって時なんか、30回くらい往復させられたこともありますよ」
「……あの、マリア」
クーは額に手を当てつつ、呆れた声を上げた。
「シェロが離反した理由は彼自身の功名心や自尊心からだ、……とハンたちは論じておりましたけれど、やはりハンの言動に大きな問題があるように存じますわ」
「そりゃ、十分あるでしょーね。まともに付き合ってたら、そりゃ『やってらんねえよ』ってなっちゃうと思います」
「本当にもう、あの方は」
クーとマリアは顔を見合わせ、揃ってため息を漏らした。
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