「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第5部
琥珀暁・姫惑伝 5
神様たちの話、第228話。
クーとハン。
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5.
喜び勇んで測量と遺構調査に出向いたものの、街を発ってから数時間もしないうちに、一行はそれが実行不可能であることを痛感した。
「前が見えん……」
当初予想されていた以上に降雪がひどく、測量するどころか、現場に着くことも難しかったからである。
「風もなんかひどくなって来てますよー。もう1時間、2時間したら日が暮れちゃいますし、諦めて戻った方がいいですね」
マリアの意見に、ハンが――残念そうな目を向けつつも――渋々うなずく。
「そうだな。強行して死人でも出たら、独断専行どころの話じゃない。仕方無いが、引き返そう。……しかし」
軍帽に積もった雪を払い落としながら、ハンが愚痴をこぼす。
「前回も、腰まで雪が積もる中を無理矢理だったからな。厳寒期なら時間も空くし、どうにかして測量を進められればと思っていたんだが、これじゃどうしようも無い」
「自然が相手じゃ、仕方無いですよ。雪が溶けるまで待つしか無いんじゃないですか?」
ビートにそう言われ、ハンはもう一度、残念そうにうなずいた。
「溶ける頃には本土からの人員補充も終わり、別の仕事が増えるだろう。どっちにしても、測量に割ける時間は無い。
やれやれ……。道中でも言ってたが、測量はやはり、別の人間に任すしか無いか」
その言い方がとても残念そうに聞こえ、クーは思わず、クスっと笑みを漏らしてしまった。
「……なんだ? 何がおかしい?」
耳ざとくハンに聞かれ、クーは慌ててごまかす。
「あっ、いえ、……あの、ハン。雪が先程より一層厳しくなっているように見受けられますけれど、このまま戻るのは危険ではないかしら」
「うん? ……ふむ」
ほんの1分にも満たない時間で、既にまた、ハンの頭に雪が積もってきている。それをもう一度払い除けながら、ハンは周囲を見回しつつ、背負っていた荷物を広げ始めた。
「クーの言う通りだ。視界も悪いし、このまま戻ろうとすれば、その途中で遭難しかねん。ここに設営して、状況が変わるまで休止しよう」
「さーんせーいでーす」
猫耳をプルプル震えさせながら、マリアも荷物をどさっと下ろした。
防寒用の魔法陣を描き、テントを張り、早めの夕食を作ったところで、ハンたちはようやく一息ついた。
「はぁー……、スープあったかおいし~い……」
芋のスープが入ったカップを握りしめつつ、間延びしたため息を漏らすマリアに、ハンたち三人が吹き出す。
「クスっ、……ええ、身に沁みるような温かさですわね。実を申せばわたくし、あまり体温が高い方ではございませんので、こうして両手で包んでいると、ほっとした心地がいたします」
「そうなのか?」
これを聞いて、ハンがばつの悪そうな顔をクーに向ける。
「だったら、誘わない方が良かったかな」
「そんなことはございません」
クーは首を振り、こう続けた。
「かねてよりわたくしは、この地に住まう方の文化について学びたく存じておりましたから、古代の村跡や遺構が現存していると伺った時、とても嬉しく感じましたの。調査いたせるのであれば、多少の寒さは我慢いたします」
「……まったく、君は」
ハンは肩をすくめ、呆れたようなため息を漏らした。
「どこまでも自分の欲求に素直な人間だな」
「あら、いけませんかしら」
「ほどほどにしてくれ。度が過ぎると周りに迷惑をかける」
「あなたが仰るようなことかしら?」
「どう言う意味だよ」
「ご自分でお考えあそばせ」
「なんなんだ……」
と、二人のやりとりを見ていたマリアとビートが、揃って笑い出した。
「ふふっ」
「あはは……」
「何だよ?」
ハンに軽くにらまれ、マリアがぱたぱたと手を振って返す。
「なんだかんだ言って、お二人仲いいですよねーって」
「うん? ……まあ、そりゃな。ノースポートで会ってから2年も経つし、ある程度気心は知れてるってところもある」
「やっぱりお二人って」
そこでマリアがにやあっと笑い、こんなことを尋ねてきた。
「この北方遠征が終わったら、結婚されるんですか? それともこっちにいる間に既成事実作っちゃう感じです?」
「はぁ!?」「ちょ、ちょっと、マリア?」
ハンとクーは揃って立ち上がり、異口同音にマリアの質問を否定しようとする。
「なんでそこまで話が飛躍するんだ!?」
「わ、わたくしがそんなはしたないことをいたすはずが、ごっ、ございませんでしょう!?」
「クーとはまだそんな関係じゃない!」
「それにまだ、正式にお付き合いしている間柄でもございません!」
が、慌てふためく二人に生暖かい視線を向けつつ、マリアはうんうんとうなずいている。
「あー、はいはい、『まだ』ですね、『まだ』ですよねー、はいはーい」
「うっ、……い、いや、それは単純に、ただ言葉の綾であってだな、俺は、その、正直な意見としてはだな……」
ハンはまだ抗弁しようとしているらしく、しどろもどろに言葉を立て並べている。しかし――。
「はぅぅ……」
どう言い繕ってもごまかせそうにないと諦め、クーは顔を両手で抑え、黙り込んでしまった。
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クーとハン。
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5.
喜び勇んで測量と遺構調査に出向いたものの、街を発ってから数時間もしないうちに、一行はそれが実行不可能であることを痛感した。
「前が見えん……」
当初予想されていた以上に降雪がひどく、測量するどころか、現場に着くことも難しかったからである。
「風もなんかひどくなって来てますよー。もう1時間、2時間したら日が暮れちゃいますし、諦めて戻った方がいいですね」
マリアの意見に、ハンが――残念そうな目を向けつつも――渋々うなずく。
「そうだな。強行して死人でも出たら、独断専行どころの話じゃない。仕方無いが、引き返そう。……しかし」
軍帽に積もった雪を払い落としながら、ハンが愚痴をこぼす。
「前回も、腰まで雪が積もる中を無理矢理だったからな。厳寒期なら時間も空くし、どうにかして測量を進められればと思っていたんだが、これじゃどうしようも無い」
「自然が相手じゃ、仕方無いですよ。雪が溶けるまで待つしか無いんじゃないですか?」
ビートにそう言われ、ハンはもう一度、残念そうにうなずいた。
「溶ける頃には本土からの人員補充も終わり、別の仕事が増えるだろう。どっちにしても、測量に割ける時間は無い。
やれやれ……。道中でも言ってたが、測量はやはり、別の人間に任すしか無いか」
その言い方がとても残念そうに聞こえ、クーは思わず、クスっと笑みを漏らしてしまった。
「……なんだ? 何がおかしい?」
耳ざとくハンに聞かれ、クーは慌ててごまかす。
「あっ、いえ、……あの、ハン。雪が先程より一層厳しくなっているように見受けられますけれど、このまま戻るのは危険ではないかしら」
「うん? ……ふむ」
ほんの1分にも満たない時間で、既にまた、ハンの頭に雪が積もってきている。それをもう一度払い除けながら、ハンは周囲を見回しつつ、背負っていた荷物を広げ始めた。
「クーの言う通りだ。視界も悪いし、このまま戻ろうとすれば、その途中で遭難しかねん。ここに設営して、状況が変わるまで休止しよう」
「さーんせーいでーす」
猫耳をプルプル震えさせながら、マリアも荷物をどさっと下ろした。
防寒用の魔法陣を描き、テントを張り、早めの夕食を作ったところで、ハンたちはようやく一息ついた。
「はぁー……、スープあったかおいし~い……」
芋のスープが入ったカップを握りしめつつ、間延びしたため息を漏らすマリアに、ハンたち三人が吹き出す。
「クスっ、……ええ、身に沁みるような温かさですわね。実を申せばわたくし、あまり体温が高い方ではございませんので、こうして両手で包んでいると、ほっとした心地がいたします」
「そうなのか?」
これを聞いて、ハンがばつの悪そうな顔をクーに向ける。
「だったら、誘わない方が良かったかな」
「そんなことはございません」
クーは首を振り、こう続けた。
「かねてよりわたくしは、この地に住まう方の文化について学びたく存じておりましたから、古代の村跡や遺構が現存していると伺った時、とても嬉しく感じましたの。調査いたせるのであれば、多少の寒さは我慢いたします」
「……まったく、君は」
ハンは肩をすくめ、呆れたようなため息を漏らした。
「どこまでも自分の欲求に素直な人間だな」
「あら、いけませんかしら」
「ほどほどにしてくれ。度が過ぎると周りに迷惑をかける」
「あなたが仰るようなことかしら?」
「どう言う意味だよ」
「ご自分でお考えあそばせ」
「なんなんだ……」
と、二人のやりとりを見ていたマリアとビートが、揃って笑い出した。
「ふふっ」
「あはは……」
「何だよ?」
ハンに軽くにらまれ、マリアがぱたぱたと手を振って返す。
「なんだかんだ言って、お二人仲いいですよねーって」
「うん? ……まあ、そりゃな。ノースポートで会ってから2年も経つし、ある程度気心は知れてるってところもある」
「やっぱりお二人って」
そこでマリアがにやあっと笑い、こんなことを尋ねてきた。
「この北方遠征が終わったら、結婚されるんですか? それともこっちにいる間に既成事実作っちゃう感じです?」
「はぁ!?」「ちょ、ちょっと、マリア?」
ハンとクーは揃って立ち上がり、異口同音にマリアの質問を否定しようとする。
「なんでそこまで話が飛躍するんだ!?」
「わ、わたくしがそんなはしたないことをいたすはずが、ごっ、ございませんでしょう!?」
「クーとはまだそんな関係じゃない!」
「それにまだ、正式にお付き合いしている間柄でもございません!」
が、慌てふためく二人に生暖かい視線を向けつつ、マリアはうんうんとうなずいている。
「あー、はいはい、『まだ』ですね、『まだ』ですよねー、はいはーい」
「うっ、……い、いや、それは単純に、ただ言葉の綾であってだな、俺は、その、正直な意見としてはだな……」
ハンはまだ抗弁しようとしているらしく、しどろもどろに言葉を立て並べている。しかし――。
「はぅぅ……」
どう言い繕ってもごまかせそうにないと諦め、クーは顔を両手で抑え、黙り込んでしまった。
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