「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第5部
琥珀暁・雄執伝 1
神様たちの話、第231話。
余暇の潰し方。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
遠征隊と――そしてとりわけ、エリザの――尽力により、沿岸部に住まう人々の暮らしは、隊がこの地を訪れる以前に比べ、格段に良くなっていた。
そして暮らしが充実してくれば、それまでひたすら働くか、さもなくば眠ることだけが生活の全てであった者たちが、他のことにも目を向け始めるようになるのは、自然の成り行きと言え――。
「つまり市民が暇を持て余している、と?」
「そう言うこっちゃ」
エリザから街の状況を聞き、ハンは首を傾げた。
「それが何か?」
「何か、や無いやん」
気の無い返事に、エリザは肩をすくめて返す。
「遠征隊がこの国を統治しとるんやから、街の人らが困っとるコトがあるっちゅうんやったら、そら何とかしたらなアカンやろ、っちゅうてるんやん」
「はあ」
ハンはふたたび気の無さそうな返事をし、続いてこんなことを言ってのけた。
「では遠征隊の仕事を手伝ってもらいますか? 人手は十分ではありますが、探せば何かしらの用事を頼むことはできるでしょうし」
「アホちゃうかアンタ」
これを聞いて、エリザがため息をつく。
「『仕事せんでええ時間が作れてきたから何やおもろいコトあらへんか』、っちゅうてはんねんや。なんで仕事の合間に仕事せなアカンねん。気持ち悪いコト言いなや」
「き、……気持ち悪い? ですって? そこまで言われるようなことじゃないでしょう」
明らかに不機嫌そうな顔を向けてきたハンに、横で話を聞いていたクーが、残念なものを見るような目をハンに向ける。
「わたくしもエリザさんの仰る通りと存じます。せっかくお仕事以外のお時間を作れそう、皆様の人生を豊かに、彩りあるものにする機会が設けられそうだと言うのに、それを新たな仕事で埋めようだなんて。あまりに品性の無いご発言です。
世の中の人間が皆、あなたのように仕事だけが生きがいだと申すような変人ばかりではございませんのよ」
「変人? 俺が?」
「変人っちゅうか、変態や。極めつけのド変態やで」
エリザとクーがうんうんとうなずき合う中、ハンは苦虫を噛み潰したような顔を二人に向ける。
「俺自身はそうは思いませんがね。まったく常識的な人間と……」「はいはいはい、変態はみんなそー言うもんや」
ハンの抗弁をさえぎり、エリザはクーに顔を向ける。
「ってワケでや、アタシらから何かしら娯楽を提供でけへんかっちゅうコトなんやけどもな、クーちゃん何かええ案無いか?」
「またお祭りでも催されてはいかがでしょう?」
「んー」
クーの出した案をメモに書き留めつつも、エリザはどこか、納得が行かなさそうな表情を浮かべている。
「悪くないと思うで。悪くないとは思うんやけども」
「けども?」
「こないだノルド王国さんらと友好条約締結した時も、沿岸部平定したでー言うてちょっと騒いだやん」
「ええ、記憶に新しいですわ」
「せやろ。ソレからそないに時間経ってへんのに、またお祭りやーってやっても、みんな『またか?』てなるやん」
「さようですわね。あまりお喜びにならないかも」
「そもそもおカネもソレなりにかかるし、短期間に二度も三度もやっとったら、流石に赤字出てまうわ。市政でも国政でもアタシが関わる以上、赤字出すようなマネは絶対無しや。
あと、お祭りやといっぺんワーッとやって、そんで終いやん?」
「と仰ると?」
「普段の生活ででけた余暇を毎日お祭りに充てるんは無理があるで。もっと毎日の生活に組み込めるようなもんにせんと」
「仰る通りですわね」
「ちゅうワケで、もっと小規模な娯楽は何か無いやろか、と。どないやろ」
「うーん……」
二人で悩んでいるところで、ハンが憮然とした顔のまま、席を立つ。
「そう言う話なら、俺の出番は無いでしょう。失礼します」
「せやろな。用事でけたら呼ぶわ」
「分かりました。では」
そのままハンは、部屋を後にする。残ったエリザとクーは顔を見合わせ、互いに呆れた目を向けていた。
「……何とかならんかな、あの子」
「何とかいたさなくてはなりませんわね」
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余暇の潰し方。
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1.
遠征隊と――そしてとりわけ、エリザの――尽力により、沿岸部に住まう人々の暮らしは、隊がこの地を訪れる以前に比べ、格段に良くなっていた。
そして暮らしが充実してくれば、それまでひたすら働くか、さもなくば眠ることだけが生活の全てであった者たちが、他のことにも目を向け始めるようになるのは、自然の成り行きと言え――。
「つまり市民が暇を持て余している、と?」
「そう言うこっちゃ」
エリザから街の状況を聞き、ハンは首を傾げた。
「それが何か?」
「何か、や無いやん」
気の無い返事に、エリザは肩をすくめて返す。
「遠征隊がこの国を統治しとるんやから、街の人らが困っとるコトがあるっちゅうんやったら、そら何とかしたらなアカンやろ、っちゅうてるんやん」
「はあ」
ハンはふたたび気の無さそうな返事をし、続いてこんなことを言ってのけた。
「では遠征隊の仕事を手伝ってもらいますか? 人手は十分ではありますが、探せば何かしらの用事を頼むことはできるでしょうし」
「アホちゃうかアンタ」
これを聞いて、エリザがため息をつく。
「『仕事せんでええ時間が作れてきたから何やおもろいコトあらへんか』、っちゅうてはんねんや。なんで仕事の合間に仕事せなアカンねん。気持ち悪いコト言いなや」
「き、……気持ち悪い? ですって? そこまで言われるようなことじゃないでしょう」
明らかに不機嫌そうな顔を向けてきたハンに、横で話を聞いていたクーが、残念なものを見るような目をハンに向ける。
「わたくしもエリザさんの仰る通りと存じます。せっかくお仕事以外のお時間を作れそう、皆様の人生を豊かに、彩りあるものにする機会が設けられそうだと言うのに、それを新たな仕事で埋めようだなんて。あまりに品性の無いご発言です。
世の中の人間が皆、あなたのように仕事だけが生きがいだと申すような変人ばかりではございませんのよ」
「変人? 俺が?」
「変人っちゅうか、変態や。極めつけのド変態やで」
エリザとクーがうんうんとうなずき合う中、ハンは苦虫を噛み潰したような顔を二人に向ける。
「俺自身はそうは思いませんがね。まったく常識的な人間と……」「はいはいはい、変態はみんなそー言うもんや」
ハンの抗弁をさえぎり、エリザはクーに顔を向ける。
「ってワケでや、アタシらから何かしら娯楽を提供でけへんかっちゅうコトなんやけどもな、クーちゃん何かええ案無いか?」
「またお祭りでも催されてはいかがでしょう?」
「んー」
クーの出した案をメモに書き留めつつも、エリザはどこか、納得が行かなさそうな表情を浮かべている。
「悪くないと思うで。悪くないとは思うんやけども」
「けども?」
「こないだノルド王国さんらと友好条約締結した時も、沿岸部平定したでー言うてちょっと騒いだやん」
「ええ、記憶に新しいですわ」
「せやろ。ソレからそないに時間経ってへんのに、またお祭りやーってやっても、みんな『またか?』てなるやん」
「さようですわね。あまりお喜びにならないかも」
「そもそもおカネもソレなりにかかるし、短期間に二度も三度もやっとったら、流石に赤字出てまうわ。市政でも国政でもアタシが関わる以上、赤字出すようなマネは絶対無しや。
あと、お祭りやといっぺんワーッとやって、そんで終いやん?」
「と仰ると?」
「普段の生活ででけた余暇を毎日お祭りに充てるんは無理があるで。もっと毎日の生活に組み込めるようなもんにせんと」
「仰る通りですわね」
「ちゅうワケで、もっと小規模な娯楽は何か無いやろか、と。どないやろ」
「うーん……」
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