「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第5部
琥珀暁・雄執伝 2
神様たちの話、第232話。
学習意欲の需要と供給。
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2.
とりあえず市井の要望をまとめるため、エリザは店の人脈を使い、街の人間を調査した。
「ふーん……?」
その調査結果を集計していたところで、エリザは首を傾げていた。
「どしたんスか?」
いつものように彼女を手伝っていたロウが顔を上げて尋ねたところで、エリザはぺらぺらとメモ用紙を振って見せる。
「みんな思ったよりマジメさんやなー思て」
「って言うと?」
「いやほら、『ヒマ潰すのんに何したいですか』っちゅうて、みんながお買い物するついでに聞いて回ったやん? そしたらな、大半の人がアタシらの言葉を覚えたいとか、アタシらが持って来た本読んでみたいとか返って来てんな」
「え……つまりベンキョーっすかぁ?」
げんなりした顔をするロウに、エリザはクスクス笑って返す。
「いや、まあ、分からへんコトは無いんやけどもな。今まで分からんかったコトがピンと来たっちゅうのんは楽しいからな。アタシらが母国語でしゃべっとるコトとか、紙の束の中に何が込められてるか分かったら、そら楽しいやろなーとは思うで。
アンタかて新しい釣具の使い方教えてもろたら、『面白そうやなー』『ちょっと使てみたいなー』て思うやろ?」
「そりゃまあ」
「ソレと一緒や。目新しいもんはやっぱり触ってみたくなるねん。ソレに――前からちょこっと思てたんやけど――この街の人ら、大半が熊獣人の人らやん?」
「そっスね」
「どうも『熊』の人ら、根がえらいクソ真面目みたいやねんな」
そう言われて、ロウはポン、と手を叩く。
「あー、確かに。戦闘でもアイツが『全速前進』っつったら、真面目に全力疾走してますしね」
「そう言うトコはハンくんと相性ええやろな、ホンマ。ま、ソレは置いといて。真面目やから勉強も積極的やし、向上心も大きいねんな。そもそも今まで虐げられとった人らやから、自分をもっと高めたい、バカにされへんようになりたいっちゅう意識は多かれ少なかれ持ってはるんやろ」
「そんなもんスかねぇ。やっぱり俺にはピンと来ないっスわ」
腑に落ちなさそうなロウを尻目に、エリザはニコニコ笑っていた。
「ま、みんなが欲しい言うてるんであれば、『ほなあげよか』って話やな」
街の要望を受け、エリザは街に塾を開き、遠征隊の人間を使って講習を始めた。ところが程無くして、エリザはとある問題にぶつかってしまった。
「足らんの?」
「はあ……」
講習を開いたところ、想定していたよりも多くの人間が参加したため、教科書や筆、紙などの教材が早々に尽きてしまったのである。
「どんくらい?」
「用意したのは50人分だったんですが、200人以上来まして」
「あちゃ、4倍かぁー……」
エリザは机にしまっていたメモをがさがさとかき分け、その中の1つを手に取る。
「ココもどないかせんとアカンなぁ。……えーと、……うーん」
「どうにかできそうっスか?」
横にいたロウに尋ねられ、エリザは肩をすくめて返す。
「そら採算度外視でめちゃめちゃ頑張ったらでけるやろけど、赤字はアカン。ヒトにモノ教える系は利益回収するのんにえらい時間かかるし。どないかして本やら何やら安う作らんと、商売にならへんな」
「どうすんスか?」
「方法は2つやな。教材作る費用抑えるか、講習料上げるか、や。せやけど後者は無いな。まだまだみんな貧乏やし、高うしたら誰も受けられへんなってまうわ」
「となると費用を抑えるってコトっスね。じゃ、ケチるしかないと」
「ソレも嫌やろ」
エリザはぺらぺらと手を振り、ロウの意見に反対する。
「費用っちゅうたら、材料費と手間賃やん? 本とか筆の材料っちゅうたら基本、木材や。森関係の資材はノルド王国さんトコから買うてるけど、ソレを『安うしてー』言い出したら、向こうさん『勘弁してえな』って困らはるわ。手間賃にしても、抑えるっちゅうコトは『タダ働きしてー』って言うてるようなもんやん? どっちも嫌やろ」
「そりゃまあ、そうでしょうけど。でも皆の要望に答える形でやってんスから、ちょっとくらい我慢すりゃ……」「アホか」
ロウの反論を、エリザはぴしゃりとさえぎる。
「今までが我慢に我慢の連続やった人らに、まだ我慢せえっちゅうんか? エグいコト言いなや」
「た、確かに。すんません」
ロウはたじたじとなりながらも、続けて尋ねる。
「でも、じゃあ、どうすんスか? もう手が無いじゃないっスか」
「ソコを考えるのんがアタシの仕事や。まあ、任しとき」
そう返してエリザは席を立ち、ロウに手招きする。
「アイデア出すのんに現場見るし、アンタついてき」
「あ、はい」
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学習意欲の需要と供給。
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2.
とりあえず市井の要望をまとめるため、エリザは店の人脈を使い、街の人間を調査した。
「ふーん……?」
その調査結果を集計していたところで、エリザは首を傾げていた。
「どしたんスか?」
いつものように彼女を手伝っていたロウが顔を上げて尋ねたところで、エリザはぺらぺらとメモ用紙を振って見せる。
「みんな思ったよりマジメさんやなー思て」
「って言うと?」
「いやほら、『ヒマ潰すのんに何したいですか』っちゅうて、みんながお買い物するついでに聞いて回ったやん? そしたらな、大半の人がアタシらの言葉を覚えたいとか、アタシらが持って来た本読んでみたいとか返って来てんな」
「え……つまりベンキョーっすかぁ?」
げんなりした顔をするロウに、エリザはクスクス笑って返す。
「いや、まあ、分からへんコトは無いんやけどもな。今まで分からんかったコトがピンと来たっちゅうのんは楽しいからな。アタシらが母国語でしゃべっとるコトとか、紙の束の中に何が込められてるか分かったら、そら楽しいやろなーとは思うで。
アンタかて新しい釣具の使い方教えてもろたら、『面白そうやなー』『ちょっと使てみたいなー』て思うやろ?」
「そりゃまあ」
「ソレと一緒や。目新しいもんはやっぱり触ってみたくなるねん。ソレに――前からちょこっと思てたんやけど――この街の人ら、大半が熊獣人の人らやん?」
「そっスね」
「どうも『熊』の人ら、根がえらいクソ真面目みたいやねんな」
そう言われて、ロウはポン、と手を叩く。
「あー、確かに。戦闘でもアイツが『全速前進』っつったら、真面目に全力疾走してますしね」
「そう言うトコはハンくんと相性ええやろな、ホンマ。ま、ソレは置いといて。真面目やから勉強も積極的やし、向上心も大きいねんな。そもそも今まで虐げられとった人らやから、自分をもっと高めたい、バカにされへんようになりたいっちゅう意識は多かれ少なかれ持ってはるんやろ」
「そんなもんスかねぇ。やっぱり俺にはピンと来ないっスわ」
腑に落ちなさそうなロウを尻目に、エリザはニコニコ笑っていた。
「ま、みんなが欲しい言うてるんであれば、『ほなあげよか』って話やな」
街の要望を受け、エリザは街に塾を開き、遠征隊の人間を使って講習を始めた。ところが程無くして、エリザはとある問題にぶつかってしまった。
「足らんの?」
「はあ……」
講習を開いたところ、想定していたよりも多くの人間が参加したため、教科書や筆、紙などの教材が早々に尽きてしまったのである。
「どんくらい?」
「用意したのは50人分だったんですが、200人以上来まして」
「あちゃ、4倍かぁー……」
エリザは机にしまっていたメモをがさがさとかき分け、その中の1つを手に取る。
「ココもどないかせんとアカンなぁ。……えーと、……うーん」
「どうにかできそうっスか?」
横にいたロウに尋ねられ、エリザは肩をすくめて返す。
「そら採算度外視でめちゃめちゃ頑張ったらでけるやろけど、赤字はアカン。ヒトにモノ教える系は利益回収するのんにえらい時間かかるし。どないかして本やら何やら安う作らんと、商売にならへんな」
「どうすんスか?」
「方法は2つやな。教材作る費用抑えるか、講習料上げるか、や。せやけど後者は無いな。まだまだみんな貧乏やし、高うしたら誰も受けられへんなってまうわ」
「となると費用を抑えるってコトっスね。じゃ、ケチるしかないと」
「ソレも嫌やろ」
エリザはぺらぺらと手を振り、ロウの意見に反対する。
「費用っちゅうたら、材料費と手間賃やん? 本とか筆の材料っちゅうたら基本、木材や。森関係の資材はノルド王国さんトコから買うてるけど、ソレを『安うしてー』言い出したら、向こうさん『勘弁してえな』って困らはるわ。手間賃にしても、抑えるっちゅうコトは『タダ働きしてー』って言うてるようなもんやん? どっちも嫌やろ」
「そりゃまあ、そうでしょうけど。でも皆の要望に答える形でやってんスから、ちょっとくらい我慢すりゃ……」「アホか」
ロウの反論を、エリザはぴしゃりとさえぎる。
「今までが我慢に我慢の連続やった人らに、まだ我慢せえっちゅうんか? エグいコト言いなや」
「た、確かに。すんません」
ロウはたじたじとなりながらも、続けて尋ねる。
「でも、じゃあ、どうすんスか? もう手が無いじゃないっスか」
「ソコを考えるのんがアタシの仕事や。まあ、任しとき」
そう返してエリザは席を立ち、ロウに手招きする。
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