「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第5部
琥珀暁・雄執伝 3
神様たちの話、第233話。
現場視察とアイデア。
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3.
ロウと丁稚数人を伴い、エリザは製本作業を行っている工房を訪ねた。
「邪魔すんでー、……っと、ホンマに邪魔になってまうな」
作業場の扉を開けるなり、糊と墨で汚れた職人たちの憔悴(しょうすい)しきった視線が集まり、エリザは「ゴメンな、気にせんとって」と頭を下げ、そのまま外に出た。
「チラっと見でやけど、えらい作業押してはるみたいやな。みんな顔が必死やったで」
そうつぶやくエリザに、丁稚の一人が答える。
「うちからかなりの数を発注してますし、遠征隊からも注文がありますからね……」
「しわ寄せが来とる形やな」
エリザはもう一度、今度は扉の隙間から作業場の様子をうかがい、問題点を探る。
「作業場の大きさ的に、単純にヒト増やしたところでどないもならへんやろな、コレは。そもそも雇い賃もバカにならんし。と言うて作業場大きくしたとて、こんだけ切羽詰まっとるなら焼け石に水やろし。
となると一番ええんは、今の体制で生産でける量を増やすコトやな」
極力邪魔にならないよう、隙間から覗きつつ、メモを取ることを繰り返していたが、やはり目立っていたらしく――。
「あの、女将さん」
中にいた職人が声を掛け、エリザを手招きした。
「いっそ中で見てくれませんか? 気になるので」
「あ、ゴメンな」
エリザは照れつつも、素直に作業場に入って中を見回し、声をかけてきた職人に尋ねた。
「作業、どないや? しんどいやんな」
「ええ。ずっと文字を写しっぱなしで手は痛いし、糊と墨の臭いでクラクラするしで」
「そらかなわんなぁ」
エリザは壁の窓に目をやり、メモに書き留める。
「手の疲れについては今すぐどうこうっちゅうワケに行かんけど、臭いについては近い内、何とかするわ。あ、アタシは気にせんと作業しといてや」
「はあ」
その後、作業場を一通り周り、メモを書き終えたところで、エリザは「しんどいやろけど、でける限り何とかしたるから」と皆に言い残して、作業場を後にした。
店に戻ったエリザは書き留めたメモを机に並べて、ロウと意見を交わしていた。
「窓については、風系の魔法陣描いたったら多少は換気でけると思うんよ」
「そっスね」
「ただ、根本的な解決にはならんからなぁ。やっぱり同じ人数でもっと多く作れるようにせな、どないもならんやろな」
「つっても、アレ一枚きれいに書き写すのに、どうやったって1時間、2時間はかかるでしょ? 早く終わらそうと思ったら、文字はグチャグチャになるでしょうし」
「ソレやねぇ。読める字書かんと、本にならんしなぁ。……ん?」
と、エリザはメモを見て首を傾げる。
「なんやコレ?」
「なんスか?」
「や、メモの端っこ。全部黒い点付いとる」
「あ、本当だ」
ロウはメモを取り、それぞれに付いた点を見比べ、「あ」と声を上げた。
「エリザさん、右手見せて下さい。右手の親指」
「ん?」
右手を開き、その親指を見て、エリザも原因に気付く。
「いつの間にか墨付いとったわ。コレかー」
「ソレっスね」
どうにもおかしくなり、エリザもロウも、クスクスと笑みを漏らす。
「ずーとメモ握りっぱやったから、全然気付かへんかったわ、アハハハ……」
「ふふ、ふふ……」
ひとしきり笑ったところで――一転、エリザはメモの、その黒い点をじっと見つめた。
「……ん? どしたんスか?」
「や、今ちょっとな、おっ、と思てな」
「お?」
きょとんとするロウに、エリザはこんなことを命じた。
「ちょと木の欠片持って来て。棒状で四角くて、親指くらいの大きさのん、5、6個くらい」
「はあ」
命じられた通りに、ロウは木片を調達し、エリザに渡す。
「何するんスか?」
「ちょっとな」
短く返し、エリザは机に仕舞っていた彫金道具でガリガリと、木片を削り始めた。
「木像でも作るんスか? 息抜きかなんかで」
「ちゃうちゃう。1時間くらいかかるから、ちょっと待っとき」
そう答え、エリザは作業に没頭し始めた。
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3.
ロウと丁稚数人を伴い、エリザは製本作業を行っている工房を訪ねた。
「邪魔すんでー、……っと、ホンマに邪魔になってまうな」
作業場の扉を開けるなり、糊と墨で汚れた職人たちの憔悴(しょうすい)しきった視線が集まり、エリザは「ゴメンな、気にせんとって」と頭を下げ、そのまま外に出た。
「チラっと見でやけど、えらい作業押してはるみたいやな。みんな顔が必死やったで」
そうつぶやくエリザに、丁稚の一人が答える。
「うちからかなりの数を発注してますし、遠征隊からも注文がありますからね……」
「しわ寄せが来とる形やな」
エリザはもう一度、今度は扉の隙間から作業場の様子をうかがい、問題点を探る。
「作業場の大きさ的に、単純にヒト増やしたところでどないもならへんやろな、コレは。そもそも雇い賃もバカにならんし。と言うて作業場大きくしたとて、こんだけ切羽詰まっとるなら焼け石に水やろし。
となると一番ええんは、今の体制で生産でける量を増やすコトやな」
極力邪魔にならないよう、隙間から覗きつつ、メモを取ることを繰り返していたが、やはり目立っていたらしく――。
「あの、女将さん」
中にいた職人が声を掛け、エリザを手招きした。
「いっそ中で見てくれませんか? 気になるので」
「あ、ゴメンな」
エリザは照れつつも、素直に作業場に入って中を見回し、声をかけてきた職人に尋ねた。
「作業、どないや? しんどいやんな」
「ええ。ずっと文字を写しっぱなしで手は痛いし、糊と墨の臭いでクラクラするしで」
「そらかなわんなぁ」
エリザは壁の窓に目をやり、メモに書き留める。
「手の疲れについては今すぐどうこうっちゅうワケに行かんけど、臭いについては近い内、何とかするわ。あ、アタシは気にせんと作業しといてや」
「はあ」
その後、作業場を一通り周り、メモを書き終えたところで、エリザは「しんどいやろけど、でける限り何とかしたるから」と皆に言い残して、作業場を後にした。
店に戻ったエリザは書き留めたメモを机に並べて、ロウと意見を交わしていた。
「窓については、風系の魔法陣描いたったら多少は換気でけると思うんよ」
「そっスね」
「ただ、根本的な解決にはならんからなぁ。やっぱり同じ人数でもっと多く作れるようにせな、どないもならんやろな」
「つっても、アレ一枚きれいに書き写すのに、どうやったって1時間、2時間はかかるでしょ? 早く終わらそうと思ったら、文字はグチャグチャになるでしょうし」
「ソレやねぇ。読める字書かんと、本にならんしなぁ。……ん?」
と、エリザはメモを見て首を傾げる。
「なんやコレ?」
「なんスか?」
「や、メモの端っこ。全部黒い点付いとる」
「あ、本当だ」
ロウはメモを取り、それぞれに付いた点を見比べ、「あ」と声を上げた。
「エリザさん、右手見せて下さい。右手の親指」
「ん?」
右手を開き、その親指を見て、エリザも原因に気付く。
「いつの間にか墨付いとったわ。コレかー」
「ソレっスね」
どうにもおかしくなり、エリザもロウも、クスクスと笑みを漏らす。
「ずーとメモ握りっぱやったから、全然気付かへんかったわ、アハハハ……」
「ふふ、ふふ……」
ひとしきり笑ったところで――一転、エリザはメモの、その黒い点をじっと見つめた。
「……ん? どしたんスか?」
「や、今ちょっとな、おっ、と思てな」
「お?」
きょとんとするロウに、エリザはこんなことを命じた。
「ちょと木の欠片持って来て。棒状で四角くて、親指くらいの大きさのん、5、6個くらい」
「はあ」
命じられた通りに、ロウは木片を調達し、エリザに渡す。
「何するんスか?」
「ちょっとな」
短く返し、エリザは机に仕舞っていた彫金道具でガリガリと、木片を削り始めた。
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