「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第5部
琥珀暁・雄執伝 4
神様たちの話、第234話。
職人エリザの本領発揮。
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4.
木片を削り始めてから1時間が経った頃、ようやくエリザは顔を上げた。
「……ふー。でけたわ」
「おつかれっス」
「んあ?」
そこでロウと目が合い、エリザは驚いた声を上げる。
「なんや、ずっとおったんか?」
「ええ」
「時間かかる言うてたんやから、ドコかでお茶しとったら良かったやんか」
「いやぁ、見てて飽きなかったもんで」
「変わっとるなぁ、アンタ。ま、ええわ。コレ見てみ」
そう言って、エリザは削った木片をトントンと揃える。
「……なんスか、コレ?」
削られた木片をじっと見つめ、首を傾げるロウを見て、エリザはニヤッと笑う。
「コレにな、墨ちょいと付けて、ほんでこう……」
説明しつつ、エリザは木片の先に墨を塗り、メモに押し付ける。
「ほれ」
「……はぁ」
メモに付いた墨を見て、ロウはもう一度首を傾げる。
「文字に見えますね。E……LI……SA……エリザさんスか」
「せや」
「つまりコレで文字を書くってコトっスか?」
「こう言うのんを一杯作ってな」
「手間じゃないっスか、そっちの方が?」
「一文字彫ったらソレで金型作れば、いくらでも増やせるやん?」
「まあ、そっスね」
「で、1ページ分作ったらソレ固めて、もっかい金型作ったったら、同じページがなんぼでも……」
「あっ、……なるほどっス」
ロウは目を丸くし、拍手する。
「流石っスね」
「んふ、ふふ……」
元々、貴金属を扱う宝飾職人として、並々ならぬ腕を持つエリザである。1週間のうちに、自分たちのことばで使う文字をすべて彫り終え、それを基に金型を作り上げ、教本約60ページ分を作業場で「書いて」見せた。
「す……すごい」
「これ一冊書くのに、丸一日かかるのに」
「20分もかかってない……ですよね」
驚きの声を上げ、感嘆する職人たちを前に、エリザも墨まみれになりながら、クスクス笑っていた。
「金型も今増やしとるから、明日、明後日には一杯作れるで。コレ使たら、もう手ぇ痛くならんで済むやろ?」
「はっ、はい」
職人たちはエリザを囲み、次々に感謝と尊敬の言葉を述べた。
「ありがとうございます、女将さん」
「なんて言うか、なんか、すごいなって」
「本当、それ……」
口々に称賛され、エリザも流石に顔を赤くした。
「まあ、何や、うん、喜んでもらえたら嬉しいわ、アハハハ……」
こうしてエリザが考案し、実用化させた技術――活版印刷は、飛躍的に本や書類の生産量を向上させた。
「いや、マジですげーっスわ」
「そんなにホメてもなんも出えへんで」
印刷された本を手に取り、しげしげと眺めているロウを見て、エリザはニコニコ笑っている。
「アイツもすげーって言ってたらしいっスね」
「アイツ? ああ、ハンくんか? せやねぇ、……せやねんけども、あの子また『これで生産効率が上がれば、さらに多くの仕事がこなせますね』みたいなコト言うててなぁ。なーんでそんなに仕事したがるんか。仕事の合間に仕事するとか、もう病気の域やでホンマ」
「ぞっとしないっスね。……でも、確かにすげーはすげーっスよね」
ロウは本を机に置き、こんな提案をしてきた。
「本土にも知らせといた方がいいんじゃないっスか? こんだけ便利な技術なら、向こうも大喜びでしょうし」
「お、そらええな。ソレ考えてへんかったわ。ありがとな、ロウくん」
「いや、そんな、へへへ……」
顔を真っ赤にして照れるロウをよそに、エリザは机の引き出しから「魔術頭巾」を取り出し、頭に巻く。
「『トランスワード:ロイド』、……いとるかー?」
自分の実の息子へと連絡を試み、まもなく応答が返ってくる。
《あ、うん、母さん。な、何か用?》
「用が無かったらお話したらアカンか? や、用はあるねんけどな」
《ご、ごめん》
「えーからえーから。いやな、こっちでアタシ、ちょっとええコト思い付いてな……」
こうしてエリザはロイドに活版印刷の技術を伝え、彼もロウと同様に、称賛の声を返してきた。
《す、すごいと思うよ、うん、ホンマ。あ、せやったら、あの、僕もちょっと作ってみて、ゼロさんに報告しとこか? ちょうど今、僕、リンダと一緒に、その、父さんのトコいてるから。あ、それか、母さんから言うた方がええんかな?》
「ん? んー……」
ロイドに問われ、エリザは思案する。
「んー……、や、アンタから言うといて。最近ちょこっとな、色々アレやし。アタシから言うより、アンタが言うた方が角も立たんやろ」
《あ、アレって?》
「色々や、色々。ま、ほなよろしゅう」
《う、うん。母さんも、あの、えっと、気ぃ付けて》
「ありがとさん。ほなな」
こうしてエリザは、本土に活版印刷の技術を伝えたが――これが後に、一つの騒動を起こすこととなった。
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職人エリザの本領発揮。
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4.
木片を削り始めてから1時間が経った頃、ようやくエリザは顔を上げた。
「……ふー。でけたわ」
「おつかれっス」
「んあ?」
そこでロウと目が合い、エリザは驚いた声を上げる。
「なんや、ずっとおったんか?」
「ええ」
「時間かかる言うてたんやから、ドコかでお茶しとったら良かったやんか」
「いやぁ、見てて飽きなかったもんで」
「変わっとるなぁ、アンタ。ま、ええわ。コレ見てみ」
そう言って、エリザは削った木片をトントンと揃える。
「……なんスか、コレ?」
削られた木片をじっと見つめ、首を傾げるロウを見て、エリザはニヤッと笑う。
「コレにな、墨ちょいと付けて、ほんでこう……」
説明しつつ、エリザは木片の先に墨を塗り、メモに押し付ける。
「ほれ」
「……はぁ」
メモに付いた墨を見て、ロウはもう一度首を傾げる。
「文字に見えますね。E……LI……SA……エリザさんスか」
「せや」
「つまりコレで文字を書くってコトっスか?」
「こう言うのんを一杯作ってな」
「手間じゃないっスか、そっちの方が?」
「一文字彫ったらソレで金型作れば、いくらでも増やせるやん?」
「まあ、そっスね」
「で、1ページ分作ったらソレ固めて、もっかい金型作ったったら、同じページがなんぼでも……」
「あっ、……なるほどっス」
ロウは目を丸くし、拍手する。
「流石っスね」
「んふ、ふふ……」
元々、貴金属を扱う宝飾職人として、並々ならぬ腕を持つエリザである。1週間のうちに、自分たちのことばで使う文字をすべて彫り終え、それを基に金型を作り上げ、教本約60ページ分を作業場で「書いて」見せた。
「す……すごい」
「これ一冊書くのに、丸一日かかるのに」
「20分もかかってない……ですよね」
驚きの声を上げ、感嘆する職人たちを前に、エリザも墨まみれになりながら、クスクス笑っていた。
「金型も今増やしとるから、明日、明後日には一杯作れるで。コレ使たら、もう手ぇ痛くならんで済むやろ?」
「はっ、はい」
職人たちはエリザを囲み、次々に感謝と尊敬の言葉を述べた。
「ありがとうございます、女将さん」
「なんて言うか、なんか、すごいなって」
「本当、それ……」
口々に称賛され、エリザも流石に顔を赤くした。
「まあ、何や、うん、喜んでもらえたら嬉しいわ、アハハハ……」
こうしてエリザが考案し、実用化させた技術――活版印刷は、飛躍的に本や書類の生産量を向上させた。
「いや、マジですげーっスわ」
「そんなにホメてもなんも出えへんで」
印刷された本を手に取り、しげしげと眺めているロウを見て、エリザはニコニコ笑っている。
「アイツもすげーって言ってたらしいっスね」
「アイツ? ああ、ハンくんか? せやねぇ、……せやねんけども、あの子また『これで生産効率が上がれば、さらに多くの仕事がこなせますね』みたいなコト言うててなぁ。なーんでそんなに仕事したがるんか。仕事の合間に仕事するとか、もう病気の域やでホンマ」
「ぞっとしないっスね。……でも、確かにすげーはすげーっスよね」
ロウは本を机に置き、こんな提案をしてきた。
「本土にも知らせといた方がいいんじゃないっスか? こんだけ便利な技術なら、向こうも大喜びでしょうし」
「お、そらええな。ソレ考えてへんかったわ。ありがとな、ロウくん」
「いや、そんな、へへへ……」
顔を真っ赤にして照れるロウをよそに、エリザは机の引き出しから「魔術頭巾」を取り出し、頭に巻く。
「『トランスワード:ロイド』、……いとるかー?」
自分の実の息子へと連絡を試み、まもなく応答が返ってくる。
《あ、うん、母さん。な、何か用?》
「用が無かったらお話したらアカンか? や、用はあるねんけどな」
《ご、ごめん》
「えーからえーから。いやな、こっちでアタシ、ちょっとええコト思い付いてな……」
こうしてエリザはロイドに活版印刷の技術を伝え、彼もロウと同様に、称賛の声を返してきた。
《す、すごいと思うよ、うん、ホンマ。あ、せやったら、あの、僕もちょっと作ってみて、ゼロさんに報告しとこか? ちょうど今、僕、リンダと一緒に、その、父さんのトコいてるから。あ、それか、母さんから言うた方がええんかな?》
「ん? んー……」
ロイドに問われ、エリザは思案する。
「んー……、や、アンタから言うといて。最近ちょこっとな、色々アレやし。アタシから言うより、アンタが言うた方が角も立たんやろ」
《あ、アレって?》
「色々や、色々。ま、ほなよろしゅう」
《う、うん。母さんも、あの、えっと、気ぃ付けて》
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