「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第5部
琥珀暁・雄執伝 5
神様たちの話、第235話。
活版印刷を巡る騒動。
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5.
エリザがロイドに活版印刷を伝えて、3日後の夜――。
「……んあ?」
既に就寝していたエリザの狐耳のピアスに、ぴり、ぴりとした感触が伝わる。
「なんやな? ……『リプライ』」
「頭巾」を巻き、応答するなり、娘、リンダの泣きじゃくった声が耳に響いてきた。
《があやあああん、うえええええん》
「お、お、ちょ、ちょっ、待ちいや、なんや?」
流石のエリザも娘の泣き声にうろたえ、跳ね起きる。
《にいやんがああああ、びいいいいいい》
「お、落ち着き、な、ちょ、アンタ、落ち着きって、なあ」
《エリちゃん!》
と、もう一人、通信に入って来る。
「ん? ゲートか?」
《ああ、俺だ。リンダが泣きじゃくってるから、俺が代わりに》
「あ、ああ。どないしたんよ、こんな夜中に」
《いや、俺もいきなりのことでさ、動転してるんだ。何をどう言ったらいいか》
「アンタのコトはどないでもええねん! 何があったか早よ言わんかいッ!」
苛立ち、声を荒げたエリザに、ゲートの怯んだ声が恐る恐る返ってくる。
《す、すまん。えーと、……そうだ、結論から言おう。ロイドが捕まった》
「ん?」
《ロイドが、ゼロに捕まったんだ》
突拍子も無いことを伝えされ、エリザは聞き返す。
「……ちょとゴメンな、『ロイドがゼロに捕まった』っちゅうところがちょっと聞き取りにくいんやけど」
《そう言ったんだ》
「寝ぼけとんの? ソレともコレ、アタシの夢か何かか?」
《こんな状況で寝られるわけないだろ。君もしっかり起きてるはずだと思う》
「もっかい聞くで? ロイドがどうなったって?」
《捕まった。ゼロに》
何度も聞き返し、何の聞き違いも取り違いも無いと把握はできたが、聡いエリザでもこの状況はまったく、把握できなかった。
「……どう言うコトか、一から説明してもろてええか?」
《ああ》
エリザから活版印刷の技術を伝えられたロイドは、すぐさま自分でも文字型を彫り、ゲートの紹介を経てゼロに謁見した。
「やあ、えーと……」
「ろ、ロイド・ゴールドマンです。ご、ご面前に、は、拝しまして、あ、あの、きょん、いえ、恐悦……」
「いや、いや、かしこまった挨拶は結構だよ。こんにちは、ロイド」
ゼロは――この数年、エリザに対していい印象を持っていないと言うことだったが――エリザの息子であるロイドに、この時点まではにこやかに接してくれた。
「それで、今日はどんな用事かな? ゲートから、『すぐに見せたいものがあるんだ』と聞いてるけど」
「あ、は、はい。こ、これになります」
ぺこぺこと頭を下げ、ロイドは持っていたかばんから、自分が彫ってきた文字型を取り出し、ゼロに見せた。
「……それは?」
その瞬間、ゼロの穏やかだった顔に、何故か険が差す。
「あ、あの、これ使て、あの、本、あの、できると……」
「ちょっと、詳しく聞かせてもらおうか」
おもむろにゼロが立ち上がり、ロイドの手をつかむ。
「はひぇ?」
「こっちに来てくれ」
「は、ははは、はひ、わかりましっ、ましゅ、ました」
目を白黒させ、恐縮し切っているロイドにチラリとも目を合わせず、ゼロは引っ張るようにして、謁見の間から去ろうとする。
「お、おい? ゼロ? どうしたんだよ?」
「……」
ロイドを連れてきたゲートも無視し、そのままゼロは、ロイドと共にその場を後にしてしまった。
《……で、どうしようも無いから一旦家に帰ったんだが、ついさっき、城のヤツから『ロイドの投獄と処刑が決定した』と》
「待てやおい」
エリザは喉の奥から声を絞り出し、ゲートに尋ねる。
「ほんなら何か、文字型見せただけでゼロさんがキレて、ロイドを処刑しようって言い出したっちゅうコトか?」
《そうなる》
「ふざけとんのか?」
《ふ、ふざけてない! マジなんだ! でも俺も、本当、何がなんだかさっぱりで》
「アンタこのまま放っとくつもりやないやろな!? まさかなあ!? そんなワケ無いわなぁ!?」
怒鳴るエリザに、ゲートもたじろぎつつも、しどろもどろにどうにか応じる。
《なっ、なわけ、無いだろ? お、俺も今から城に行って、ゼロに確認しに行くし、処刑を止めるよう説得する。このままロイドが殺されるなんて、あってたまるかよ》
「頼んだで。ほんで、城行くんやったら『頭巾』も持って行き。アタシも今から連絡入れる。3人で『お話』や」
《分かった。……頼む》
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エリザがロイドに活版印刷を伝えて、3日後の夜――。
「……んあ?」
既に就寝していたエリザの狐耳のピアスに、ぴり、ぴりとした感触が伝わる。
「なんやな? ……『リプライ』」
「頭巾」を巻き、応答するなり、娘、リンダの泣きじゃくった声が耳に響いてきた。
《があやあああん、うえええええん》
「お、お、ちょ、ちょっ、待ちいや、なんや?」
流石のエリザも娘の泣き声にうろたえ、跳ね起きる。
《にいやんがああああ、びいいいいいい》
「お、落ち着き、な、ちょ、アンタ、落ち着きって、なあ」
《エリちゃん!》
と、もう一人、通信に入って来る。
「ん? ゲートか?」
《ああ、俺だ。リンダが泣きじゃくってるから、俺が代わりに》
「あ、ああ。どないしたんよ、こんな夜中に」
《いや、俺もいきなりのことでさ、動転してるんだ。何をどう言ったらいいか》
「アンタのコトはどないでもええねん! 何があったか早よ言わんかいッ!」
苛立ち、声を荒げたエリザに、ゲートの怯んだ声が恐る恐る返ってくる。
《す、すまん。えーと、……そうだ、結論から言おう。ロイドが捕まった》
「ん?」
《ロイドが、ゼロに捕まったんだ》
突拍子も無いことを伝えされ、エリザは聞き返す。
「……ちょとゴメンな、『ロイドがゼロに捕まった』っちゅうところがちょっと聞き取りにくいんやけど」
《そう言ったんだ》
「寝ぼけとんの? ソレともコレ、アタシの夢か何かか?」
《こんな状況で寝られるわけないだろ。君もしっかり起きてるはずだと思う》
「もっかい聞くで? ロイドがどうなったって?」
《捕まった。ゼロに》
何度も聞き返し、何の聞き違いも取り違いも無いと把握はできたが、聡いエリザでもこの状況はまったく、把握できなかった。
「……どう言うコトか、一から説明してもろてええか?」
《ああ》
エリザから活版印刷の技術を伝えられたロイドは、すぐさま自分でも文字型を彫り、ゲートの紹介を経てゼロに謁見した。
「やあ、えーと……」
「ろ、ロイド・ゴールドマンです。ご、ご面前に、は、拝しまして、あ、あの、きょん、いえ、恐悦……」
「いや、いや、かしこまった挨拶は結構だよ。こんにちは、ロイド」
ゼロは――この数年、エリザに対していい印象を持っていないと言うことだったが――エリザの息子であるロイドに、この時点まではにこやかに接してくれた。
「それで、今日はどんな用事かな? ゲートから、『すぐに見せたいものがあるんだ』と聞いてるけど」
「あ、は、はい。こ、これになります」
ぺこぺこと頭を下げ、ロイドは持っていたかばんから、自分が彫ってきた文字型を取り出し、ゼロに見せた。
「……それは?」
その瞬間、ゼロの穏やかだった顔に、何故か険が差す。
「あ、あの、これ使て、あの、本、あの、できると……」
「ちょっと、詳しく聞かせてもらおうか」
おもむろにゼロが立ち上がり、ロイドの手をつかむ。
「はひぇ?」
「こっちに来てくれ」
「は、ははは、はひ、わかりましっ、ましゅ、ました」
目を白黒させ、恐縮し切っているロイドにチラリとも目を合わせず、ゼロは引っ張るようにして、謁見の間から去ろうとする。
「お、おい? ゼロ? どうしたんだよ?」
「……」
ロイドを連れてきたゲートも無視し、そのままゼロは、ロイドと共にその場を後にしてしまった。
《……で、どうしようも無いから一旦家に帰ったんだが、ついさっき、城のヤツから『ロイドの投獄と処刑が決定した』と》
「待てやおい」
エリザは喉の奥から声を絞り出し、ゲートに尋ねる。
「ほんなら何か、文字型見せただけでゼロさんがキレて、ロイドを処刑しようって言い出したっちゅうコトか?」
《そうなる》
「ふざけとんのか?」
《ふ、ふざけてない! マジなんだ! でも俺も、本当、何がなんだかさっぱりで》
「アンタこのまま放っとくつもりやないやろな!? まさかなあ!? そんなワケ無いわなぁ!?」
怒鳴るエリザに、ゲートもたじろぎつつも、しどろもどろにどうにか応じる。
《なっ、なわけ、無いだろ? お、俺も今から城に行って、ゼロに確認しに行くし、処刑を止めるよう説得する。このままロイドが殺されるなんて、あってたまるかよ》
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