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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 4;琥珀暁」
    琥珀暁 第5部

    琥珀暁・雄執伝 6

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    神様たちの話、第236話。
    エリザとゼロの争議。

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    6.
     エリザはすぐさまゼロに通信を送り、極力穏やかな声色を作って尋ねた。
    「今ですな、ゲートさんから聞いたんですけども、なんですか、ウチのロイドが捕まったとか? いや、なんかゲートさんの勘違いちゃうかーと思って、ちょっと今、確認取らさせていただいておりますんやけどもな?」
     が、ゼロはにべもなく、通信を切ろうとする。
    《話すことは無い。夜分遅くに非常識じゃないかな》
    「あのですなー」
     苛立ちを抑え、エリザはなおもやんわりと尋ねる。
    「ウチの息子が捕まったって聞いたら、確認したなるんが普通とちゃいますのん? ゼロさんかてアロイくんとかクーちゃんとか捕まったって聞いたら、こうして確認入れはりますよね? そん時に常識や何や、言うてる場合やと思わはります?」
    《まあ、そうだね。うん。でも私から言うことは何も無い》
    「ありますやんな? ゼロさん自ら連行したて聞いてますねん、アタシ」
    《形としてはそうなる。しかし投獄を決定したのは……》
    「ゼ・ロ・さ・ん・で・す・や・ん・なぁ?」
    《最終決定と言う意味で言えば、私にある》
    「で・す・や・ん・なぁ?」
     威圧感をにじませたエリザの声に、ようやくゼロも、まともな答えを返してきた。
    《……投獄の理由が聞きたいと?》
    「勿論ソレもありますし、ソレが納得行かへんもんやったら、アタシは即刻釈放を要求しますで。説明も何も無しでいきなり処刑なんて、公明正大で通っとるゼロさんがやるはずありまへんやろからなぁ?」
    《分かった。……ちょうど今、ゲートも来たらしいから、みんなで話そう》

     ゲートが会話に加わったところで、改めてゼロから、今回の件についての説明が成された。
    《罪状は『重要機密の窃取、および漏洩』だ。ロイドは現在私が中心となって研究していた技術を盗み出し、公に広めようとしていた。だからそうなる前に私が警吏に命じ、投獄させたのだ》
    「重要機密?」
    《それについては知らせられない》
    《言わなきゃ何がなんだか分からん。俺にも話せないことなのか?》
     ゲートに突っ込まれ、ゼロは渋々と言いたげな口ぶりで説明する。
    《書類や書物の大量製造を可能にするための技術開発だ》
    「ん? ソレって……」
    《そうだ。君の息子が持ち出したのは明白だ。あまつさえ、それをわざわざ私に見せに来た。大方、罪の意識を感じて申し出たのだろう》
    「ちゃいます」
     エリザは声を荒げ、それを否定した。
    「ソレはアタシから、ロイドに伝えたもんです。ゼロさんがしとったコトは、あの子は何も知りませんし、アタシも知る術はありまへん」
    《じゃあ何故、あの子は文字型を持っていたんだ?》
    「アタシが作り方教えたからです」
    《君が重要機密を知っていた理由は?》
    「そんなもん、知りません。アタシがこっちで、自ら考えて作ったんです」
    《信じられない。有り得ないことだ》
    「何がですねんな? 文字型作るのくらい、こっちで木材と鉛があれば簡単にでけますやろ? ソレともアタシのアタマでこんなアイデア、思い付くはずが無いとでも言わはるんですか?」
    《……それは、……いや、……君なら、確かに、……君の経験と技術があれば、……有り得ないことでは、無いと、思う》
    「はっきり言うときますで。この技術はアタシがこっちで一から考えて、作り出したもんです。ゼロさんトコが何してたか、アタシもロイドも全く知りまへん。ゼロさんが思とるようなコトは、全くありまへんからな。事実無根です。
     ちゅうワケで即刻、無罪放免したって下さい」
     畳み掛けるようにまくし立てたエリザに、ゼロは何も答えず、ただただ無言の時が流れる。
    《おい、ゼロ。何か言えって》
     たまりかねたらしく、ゲートが促すが、ゼロは歯切れ悪く応じるばかりである。
    《要求は良く分かった。至極当然の要求だ。それは良く分かっている。
     しかし、……その、……彼を釈放すれば、彼が印刷技術を広めることは、自明だろう。だが、その……、私の方でも、……研究を進めていたこともあるし、携わった人間が納得してくれるか……》
    《あん? 単にエリちゃんの方が、思い付くのも実用化するのも早かったってだけじゃないか。それが何だって言うんだ?》
    《だけど僕が先に、……い、いや、私が、……いや……》
    《お前、もしかして先に実用化されたのが悔しいのか?》
    《そ、そんな、ことは……》
    《仕方無いだろ、そんなの。別に競争してたわけじゃないんだし、さっさと釈放してやれよ》
    《……いや……しかし……》
     なかなか同意しようとしないゼロに、エリザはしびれを切らし、ついに怒鳴り出した。
    「あのですな、ゼロさん? いつまでもロイドを捕まえとく、何がなんでも処刑するっちゅうんやったら、アタシもやるコトやりますで!?」
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