「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第5部
琥珀暁・雄執伝 7
神様たちの話、第237話。
暴慮には暴策を。
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7.
エリザの明確な脅しの言葉に、ゼロの声が揺らぐ。
「や、やること? だって? な、何をするって言うんだ?」
《自分の息子がいつまでもいつまでも無実の罪で捕まっとって、アタシがこっちで素直にゼロさんの命令に従っとるワケ無いですやろ? アタシにとってはそんなんより息子の命の方が、1000000倍大事ですわ。
もしゼロさんが今、『うん』て言わへんのやったら、アタシは即刻帰って、兵隊集めてけしかけるくらいのコトはさせてもらいますで!?》
「そ、それは……」
このやり取りを聞いていたゲートは、内心肝を潰す。
(そりゃマジでまずいだろって、エリちゃん? お前がマジでそんなことしたら、遠征隊はめちゃめちゃになっちまう。シェロの一件からして、ハン一人で600人を統率するのはまず無理だ。ってかエリちゃんがマジで帰るっつったら、絶対100人か200人はそれに付いてくだろうし。そうなりゃ遠征隊が瓦解しちまう。
それに、マジでエリちゃんが帰ってきて挙兵なんかしてみろよ? 賛同するヤツはかなり出て来るだろう。それこそ、軍に匹敵するくらいの数が揃うことは目に見えてる。そんなのと戦う羽目になったら……! 負ければそのままエリちゃんの天下だし、勝ったとしても、ゼロは英雄から一転、『自国民を虐殺したゲス野郎』になっちまう――その戦い、勝っても負けても、ゼロの評判は地に墜ちちまうぞ!?
この脅しもあんまりにもあんまりな話だが、でもゼロ、お前だってこんなことに、いつまでも意地になってたって仕方無いだろ?)
ゲートの懸念を、ゼロも抱いていたのだろう――ようやく、ゼロはエリザの要求に応じた。
「……分かった。今回の件は、君の言うことを信じることとする。今から連絡して、ロイドは保釈させるよ。……だけど、その代わり」
《なんですのん》
「印刷技術に関して、山の北側で広めることはしないでもらえるとありがたい。いや、極力しないでもらいたい。私たちが進めていた研究が無駄になると、困る人間もいるんだ」
「そんなのお前だけじゃ、……いや、何でも無い。保釈されるってんならそれくらいいいよな、エリちゃん?」
《ええ、その条件で。ほんなら、よろしくお願いしますで》
「ああ」
ようやく話がまとまり、通信はそこで途切れた。
「ゼロ」
と、ゲートが声をかける。
「お前らしくないな。何だよ、今回の話は?」
「……何が?」
疲れ切った目を向けられるも、ゲートは追及をやめない。
「横で聞いてた俺でも、お前の言ってることもやってることも、かなり無茶苦茶だってことは分かったぞ? そもそも極秘の研究だって言うなら、それをどうしてロイドが盗み出せると思うんだ? あいつにそんな技術も度胸も無いぜ?」
「念には念を入れただけだよ。君だって機密が漏れたと分かったら、相応の対処を講じるだろう?」
「それにしたって子供一人に因縁付けて投獄するなんて、明らかにやりすぎだ。処刑なんてもっととんでもないぜ。どうしたんだよ、まったく?」
「……君の言う通り、確かにちょっと、僕は過敏になっていたかも知れない。彼女から何か言われなかったとしても、恐らく、処刑は取りやめただろう。数日取り調べれば疑いも晴れただろうし、いずれ保釈もされただろう。
冷静に考えれば、確かに行き過ぎた処置だったよ。ああ、冷静さ、今の僕は」
「お前、昔っから嘘が下手だよなぁ」
ゲートはため息混じりに、こう言い返す。
「冷静に見えないぜ、今のお前は。……いや、もうアレコレ言うのはやめとく。ロイドは俺が連れて帰るぞ。紹介したのは俺だし。いいよな、ゼロ?」
「ああ。連絡しておくよ」
「……じゃ、おやすみ。夜分遅くに悪かったな」
「おやすみ、ゲート」
それ以上は互いに会話も交わさず、目線を合わせることもせず、ゲートはその場を後にした。
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暴慮には暴策を。
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7.
エリザの明確な脅しの言葉に、ゼロの声が揺らぐ。
「や、やること? だって? な、何をするって言うんだ?」
《自分の息子がいつまでもいつまでも無実の罪で捕まっとって、アタシがこっちで素直にゼロさんの命令に従っとるワケ無いですやろ? アタシにとってはそんなんより息子の命の方が、1000000倍大事ですわ。
もしゼロさんが今、『うん』て言わへんのやったら、アタシは即刻帰って、兵隊集めてけしかけるくらいのコトはさせてもらいますで!?》
「そ、それは……」
このやり取りを聞いていたゲートは、内心肝を潰す。
(そりゃマジでまずいだろって、エリちゃん? お前がマジでそんなことしたら、遠征隊はめちゃめちゃになっちまう。シェロの一件からして、ハン一人で600人を統率するのはまず無理だ。ってかエリちゃんがマジで帰るっつったら、絶対100人か200人はそれに付いてくだろうし。そうなりゃ遠征隊が瓦解しちまう。
それに、マジでエリちゃんが帰ってきて挙兵なんかしてみろよ? 賛同するヤツはかなり出て来るだろう。それこそ、軍に匹敵するくらいの数が揃うことは目に見えてる。そんなのと戦う羽目になったら……! 負ければそのままエリちゃんの天下だし、勝ったとしても、ゼロは英雄から一転、『自国民を虐殺したゲス野郎』になっちまう――その戦い、勝っても負けても、ゼロの評判は地に墜ちちまうぞ!?
この脅しもあんまりにもあんまりな話だが、でもゼロ、お前だってこんなことに、いつまでも意地になってたって仕方無いだろ?)
ゲートの懸念を、ゼロも抱いていたのだろう――ようやく、ゼロはエリザの要求に応じた。
「……分かった。今回の件は、君の言うことを信じることとする。今から連絡して、ロイドは保釈させるよ。……だけど、その代わり」
《なんですのん》
「印刷技術に関して、山の北側で広めることはしないでもらえるとありがたい。いや、極力しないでもらいたい。私たちが進めていた研究が無駄になると、困る人間もいるんだ」
「そんなのお前だけじゃ、……いや、何でも無い。保釈されるってんならそれくらいいいよな、エリちゃん?」
《ええ、その条件で。ほんなら、よろしくお願いしますで》
「ああ」
ようやく話がまとまり、通信はそこで途切れた。
「ゼロ」
と、ゲートが声をかける。
「お前らしくないな。何だよ、今回の話は?」
「……何が?」
疲れ切った目を向けられるも、ゲートは追及をやめない。
「横で聞いてた俺でも、お前の言ってることもやってることも、かなり無茶苦茶だってことは分かったぞ? そもそも極秘の研究だって言うなら、それをどうしてロイドが盗み出せると思うんだ? あいつにそんな技術も度胸も無いぜ?」
「念には念を入れただけだよ。君だって機密が漏れたと分かったら、相応の対処を講じるだろう?」
「それにしたって子供一人に因縁付けて投獄するなんて、明らかにやりすぎだ。処刑なんてもっととんでもないぜ。どうしたんだよ、まったく?」
「……君の言う通り、確かにちょっと、僕は過敏になっていたかも知れない。彼女から何か言われなかったとしても、恐らく、処刑は取りやめただろう。数日取り調べれば疑いも晴れただろうし、いずれ保釈もされただろう。
冷静に考えれば、確かに行き過ぎた処置だったよ。ああ、冷静さ、今の僕は」
「お前、昔っから嘘が下手だよなぁ」
ゲートはため息混じりに、こう言い返す。
「冷静に見えないぜ、今のお前は。……いや、もうアレコレ言うのはやめとく。ロイドは俺が連れて帰るぞ。紹介したのは俺だし。いいよな、ゼロ?」
「ああ。連絡しておくよ」
「……じゃ、おやすみ。夜分遅くに悪かったな」
「おやすみ、ゲート」
それ以上は互いに会話も交わさず、目線を合わせることもせず、ゲートはその場を後にした。
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