「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第5部
蒼天剣・錯綜録 5
晴奈の話、第242話。
キレてる4人。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
「アカン、おれへんかったわー」
シリンは頭をポリポリかきながら、フォルナと話をしていたテーブルに戻ってきた。
「セイナさん、用事が済んだらスパッと帰るタイプなんやなぁ。そこら辺、さすがおサムライさん、ちゅーか。
……て、あれ? フォルナちゃん、どこ行ったんやろ?」
フォルナはパチ、と目を開けた。
「ん……」
目を覚ましてすぐ、口に猿ぐつわをかまされ、手足を縛られているのに気付いた。
(え?)
「目、覚めたみたいだなぁ」
「いやぁ、ビックリしたぜ」
「ああ。まさか、だよな」
「あのお姫様が、こんなとこにいるなんてよぉ」
どこかで聞いたことのある声がする。
(この声、あの時の……!)
フォルナの目の前には、半年前フォルナを襲ったならず者4人が立っていた。リーダー格の男が、狂気をはらんだ目でニヤリと笑う。
「何でここに、って顔してるな。そうだよ、脱獄したのさ。
いやぁ……、辛かったぜ。無理矢理脱走してさ、そこでも警吏を2人殺しちまった。もう一回捕まったら、確実に死刑だな」
続いて顔に傷のある男が――晴奈が付けたものである――怒りを押し殺した声で、ここにいる理由を説明した。
「そんでもさ、俺たちを捕まえたあの女とそのお仲間さんだけは、何としてでも復讐してやらなきゃ気が済まねえ。その一念で、俺たちゃ央中を探し回ってたのさ。
そしたら最近、この闘技場であの女が活躍してるって言うじゃねーか。そんでこっちに来てみりゃ、ビンゴってわけだ」
「う……」
フォルナの中に、様々な不安がよぎった。
(そんな見つけ方が……。もしかしたら、他にもわたくしとお姉さまを一緒に見かけた人がいるかも知れない。そしてもし、それを王国の追っ手が知ったら……!
いいえ、そんなことよりも直近の問題として――わたくし、この人たちに殺されてしまう!)
フォルナは辺りを見回す。
(どこかの……、倉庫かしら? 入口も窓もがっちりと閉じられてる。これではもし、猿ぐつわが無かったとしても……)
フォルナの様子を眺めていた一人が、ニヤニヤと得意気に笑いながら、フォルナの考えていることを当てる。
「無駄だ。ここは人通りの少ない港の外れ。古い倉庫だから、誰も来るわけない」
「さてと、目も覚めたことだし……」
4人はフラッと立ち上がり、手に鉈や斧、短剣を持ってフォルナに近付いてきた。
「ん……、んー……!」
フォルナはうめきながら、もぞもぞと縛られた足で後ずさる。
「抵抗してくれるなや、お姫様。もういい加減、追いかけんの疲れたからよぉ」
「そう、そう……」
「俺たちこーんなに苦しんだんだから、アンタも一杯苦しんで死んでくれよ」
「さ、大人しく、な……?」
4人の顔つきは、以前に会った時よりもさらに狂気と疲労感を増している。フォルナは心底ぞっとした。
(人は、こんなに醜くなれるものなの?
こんなに血走って据わった、濁った目。見たことない……!)
フォルナは目をつぶり、死を覚悟した。
と、その時。
「う、動くなッ!」
入口が開き、誰かが叫んだ。
「えっ?」「だ、誰だ?」
男たち4人は一斉にビクッと震え、入口の方を向いた。
(えぇー……!? あれって、もしかして……)
そこにはガタガタと震えながら、何かを握りしめているエランがいた。
「う、動くと撃つぞ! 本気だからな! 大人しく投降するんだ!」
男たちは一瞬硬直したが、すぐにエランの方に向かって動き出す。
「ああん?」
「何だそりゃ?」
「撃つって何をだ? 弓もボウガンもパチンコも持ってねーじゃねーか」
「邪魔すんなや、兄ちゃん」
いかにも短気そうな男が、鉈を振り上げてエランに襲い掛かる。
「ひっ!」
エランは震えながら、手に持っていた何かをギュッと握った。
次の瞬間パン、と言う音が倉庫に響き、鉈を持っていた男が肩を押さえてのた打ち回った。
「ぎっ……、ぎゃああーッ!?」
「うっ、撃つと言ったはずだ! 大人しくしろッ!」
ところがリーダーの男は臆する様子も無く、エランの武器を見破った。
「それは銃だな? 昔、ゴールドマン財団が作った新兵器、……だが、その有用性を見出せず、幻の武器となったやつだ。
最近は央南の戦争で活躍したり、金火公安が制式採用したりして、復活しつつあるらしいが……」
男がばっと飛び出し、エランとの距離を詰める。
「来るなッ!」
エランがまた発砲する。しかし男には当たらず、倉庫の壁に弾丸がめり込んだ。
「慣れてないと敵に当たらない、弾を撃ち尽くしたらそれで終わり、当たっても急所じゃなけりゃダメージが少ない……。
使えないんだよ、そんなもんよぉ!」
男が叫んでいる間も、エランは撃ち続けた。しかし、男の言う通り弾は一発も当たることなく、全弾撃ちつくしてしまった。
「あ……っ」
「さあ、どうする『狐』さん?」
男はエランの目の前まで迫り、銃を持つ手をつかむ。
「う、う……」
エランは顔を真っ青にし、ブルブル震えている。
「そらっ」
男はエランの腕をぐりっとひねり、同時にエランの足をすくう。エランはなす術も無く倒れこんだ。
「いたっ!」
「ハハハ、バカだこいつは! 見たところ一人じゃないか!
助けも無しにこんなくだらない武器一丁で4人を相手にしようなんて、とんだ従者だな!」
「じゅ、従者?」
倒れ込み、顔を踏みつけられたエランが尋ねる。が、男は答えない。
「あのお姫様もつくづく不運だぜ……。こんな役立たずしか助けに来てくれないなんてな!」
「姫? な、何のことだ……?」
エランはもう一度尋ねたが、男は一転、イラついたような口調で返す。
「あぁ? さっきからうるさいな、このゴミめ!」
「げっ!?」
男は倒れたままのエランを蹴り飛ばした。エランはえびぞりになり、ゲホゲホと咳き込みながら胃液を吐き出す。
「ハハ、こいつ吐きやがった! け、けけっ……!」
「ゴホ、ぐえ、あうっ」
男はタガが外れたように、エランを暴行する。ボキ、と言う音が2度聞こえ、エランは血を流しながら床を転がっていく。
「オラ、さっきの威勢はどうしたぁぁ!?」
「むぐぐー!」
フォルナは思わず、やめて、と叫ぼうとした。だが猿ぐつわのため、くぐもった声しか出てこない。
「ひへへえっ、死ねぇ!」
男は狂気に満ちた声を挙げ、エランの顔面を蹴り潰そうと足を振り上げた。
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「アカン、おれへんかったわー」
シリンは頭をポリポリかきながら、フォルナと話をしていたテーブルに戻ってきた。
「セイナさん、用事が済んだらスパッと帰るタイプなんやなぁ。そこら辺、さすがおサムライさん、ちゅーか。
……て、あれ? フォルナちゃん、どこ行ったんやろ?」
フォルナはパチ、と目を開けた。
「ん……」
目を覚ましてすぐ、口に猿ぐつわをかまされ、手足を縛られているのに気付いた。
(え?)
「目、覚めたみたいだなぁ」
「いやぁ、ビックリしたぜ」
「ああ。まさか、だよな」
「あのお姫様が、こんなとこにいるなんてよぉ」
どこかで聞いたことのある声がする。
(この声、あの時の……!)
フォルナの目の前には、半年前フォルナを襲ったならず者4人が立っていた。リーダー格の男が、狂気をはらんだ目でニヤリと笑う。
「何でここに、って顔してるな。そうだよ、脱獄したのさ。
いやぁ……、辛かったぜ。無理矢理脱走してさ、そこでも警吏を2人殺しちまった。もう一回捕まったら、確実に死刑だな」
続いて顔に傷のある男が――晴奈が付けたものである――怒りを押し殺した声で、ここにいる理由を説明した。
「そんでもさ、俺たちを捕まえたあの女とそのお仲間さんだけは、何としてでも復讐してやらなきゃ気が済まねえ。その一念で、俺たちゃ央中を探し回ってたのさ。
そしたら最近、この闘技場であの女が活躍してるって言うじゃねーか。そんでこっちに来てみりゃ、ビンゴってわけだ」
「う……」
フォルナの中に、様々な不安がよぎった。
(そんな見つけ方が……。もしかしたら、他にもわたくしとお姉さまを一緒に見かけた人がいるかも知れない。そしてもし、それを王国の追っ手が知ったら……!
いいえ、そんなことよりも直近の問題として――わたくし、この人たちに殺されてしまう!)
フォルナは辺りを見回す。
(どこかの……、倉庫かしら? 入口も窓もがっちりと閉じられてる。これではもし、猿ぐつわが無かったとしても……)
フォルナの様子を眺めていた一人が、ニヤニヤと得意気に笑いながら、フォルナの考えていることを当てる。
「無駄だ。ここは人通りの少ない港の外れ。古い倉庫だから、誰も来るわけない」
「さてと、目も覚めたことだし……」
4人はフラッと立ち上がり、手に鉈や斧、短剣を持ってフォルナに近付いてきた。
「ん……、んー……!」
フォルナはうめきながら、もぞもぞと縛られた足で後ずさる。
「抵抗してくれるなや、お姫様。もういい加減、追いかけんの疲れたからよぉ」
「そう、そう……」
「俺たちこーんなに苦しんだんだから、アンタも一杯苦しんで死んでくれよ」
「さ、大人しく、な……?」
4人の顔つきは、以前に会った時よりもさらに狂気と疲労感を増している。フォルナは心底ぞっとした。
(人は、こんなに醜くなれるものなの?
こんなに血走って据わった、濁った目。見たことない……!)
フォルナは目をつぶり、死を覚悟した。
と、その時。
「う、動くなッ!」
入口が開き、誰かが叫んだ。
「えっ?」「だ、誰だ?」
男たち4人は一斉にビクッと震え、入口の方を向いた。
(えぇー……!? あれって、もしかして……)
そこにはガタガタと震えながら、何かを握りしめているエランがいた。
「う、動くと撃つぞ! 本気だからな! 大人しく投降するんだ!」
男たちは一瞬硬直したが、すぐにエランの方に向かって動き出す。
「ああん?」
「何だそりゃ?」
「撃つって何をだ? 弓もボウガンもパチンコも持ってねーじゃねーか」
「邪魔すんなや、兄ちゃん」
いかにも短気そうな男が、鉈を振り上げてエランに襲い掛かる。
「ひっ!」
エランは震えながら、手に持っていた何かをギュッと握った。
次の瞬間パン、と言う音が倉庫に響き、鉈を持っていた男が肩を押さえてのた打ち回った。
「ぎっ……、ぎゃああーッ!?」
「うっ、撃つと言ったはずだ! 大人しくしろッ!」
ところがリーダーの男は臆する様子も無く、エランの武器を見破った。
「それは銃だな? 昔、ゴールドマン財団が作った新兵器、……だが、その有用性を見出せず、幻の武器となったやつだ。
最近は央南の戦争で活躍したり、金火公安が制式採用したりして、復活しつつあるらしいが……」
男がばっと飛び出し、エランとの距離を詰める。
「来るなッ!」
エランがまた発砲する。しかし男には当たらず、倉庫の壁に弾丸がめり込んだ。
「慣れてないと敵に当たらない、弾を撃ち尽くしたらそれで終わり、当たっても急所じゃなけりゃダメージが少ない……。
使えないんだよ、そんなもんよぉ!」
男が叫んでいる間も、エランは撃ち続けた。しかし、男の言う通り弾は一発も当たることなく、全弾撃ちつくしてしまった。
「あ……っ」
「さあ、どうする『狐』さん?」
男はエランの目の前まで迫り、銃を持つ手をつかむ。
「う、う……」
エランは顔を真っ青にし、ブルブル震えている。
「そらっ」
男はエランの腕をぐりっとひねり、同時にエランの足をすくう。エランはなす術も無く倒れこんだ。
「いたっ!」
「ハハハ、バカだこいつは! 見たところ一人じゃないか!
助けも無しにこんなくだらない武器一丁で4人を相手にしようなんて、とんだ従者だな!」
「じゅ、従者?」
倒れ込み、顔を踏みつけられたエランが尋ねる。が、男は答えない。
「あのお姫様もつくづく不運だぜ……。こんな役立たずしか助けに来てくれないなんてな!」
「姫? な、何のことだ……?」
エランはもう一度尋ねたが、男は一転、イラついたような口調で返す。
「あぁ? さっきからうるさいな、このゴミめ!」
「げっ!?」
男は倒れたままのエランを蹴り飛ばした。エランはえびぞりになり、ゲホゲホと咳き込みながら胃液を吐き出す。
「ハハ、こいつ吐きやがった! け、けけっ……!」
「ゴホ、ぐえ、あうっ」
男はタガが外れたように、エランを暴行する。ボキ、と言う音が2度聞こえ、エランは血を流しながら床を転がっていく。
「オラ、さっきの威勢はどうしたぁぁ!?」
「むぐぐー!」
フォルナは思わず、やめて、と叫ぼうとした。だが猿ぐつわのため、くぐもった声しか出てこない。
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短編・掌編

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