「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第5部
琥珀暁・雄執伝 8
神様たちの話、第238話。
両雄の確執。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
8.
話し合いから1時間後、ロイドから涙混じりの連絡があり、エリザはようやく安堵した。
「ホンマにもう……」
《ごめん、母さん、僕、こんなんなるなんて思わへんくって……》
グスグスと涙声で謝るロイドに、エリザは優しい声をかけてやる。
「アンタは何も悪ない。ゼロさんがアホみたいな勘違いしただけや。もう気にせんとき。……ああ、せや。ゼロさんからな、印刷技術に関しては山の北で広めんといてってお願いされたから、そっちでは誰にも言わんときや」
《う、うん。分かった》
「ま、南でどうのっちゅう話は無かったから、そっちは好きにしたらええやろけど。……でも、変やんなぁ」
《って言うと?》
尋ねたゲートに、エリザは疑問を述べた。
「実際、アタシが印刷技術作ったワケやし、最初からゼロさん、アタシに相談するなり何なりしてくれたら、話は早かったんちゃうやろかと思うんやけども」
《ふーむ……、確かにな。大体、『重要機密』って扱いも変だろ。そりゃすげえ技術だと思うけど、でもたかが製本技術だろ? 秘密にしとくような話じゃないと思うんだが》
「せやねぇ……?」
この疑問もゲートの調査により、1週間後に詳細が判明した。
《どうやらな、ゼロは最近のエリちゃんの活躍っぷりが相当、悔しかったみたいなんだ》
「アタシの?」
《ほら、遠征隊の躍進も、ハンのって言うより、エリちゃんの手柄みたいに言われることがあるしさ。そうでなくても、山の南から来るヤツはみんな、ゼロよりエリちゃんの方を持て囃してるし。
長いことこっちで王様だ、神様だって持ち上げられたせいか、ゼロもなんだかんだ言って、その気になってる節があるからな。その『カミサマ』が、もうひとりの『カミサマ』に人気を奪われたくないってことさ。
で、印刷の件も、相談したらエリちゃんの手柄にされるかも知れないって思って、君に知られないよう密かに人を集めて、こっそり作ってたって話らしいんだよ》
これを聞いて、エリザは首を傾げる。
「ソレ、いつくらいからやっとったん? 少なくとも今年、去年の話やないやんな。だってアタシ、ココにいとるし。おらへんアタシを警戒するのも変な話やん?」
《ああ。3年前からだってさ》
「3年? なんでそんなかかるん? アタシ、アレ作るのんに1週間もかかってへんで?」
《君ほど腕のいい職人はそうそういないし、ゼロだって毎度口出しできるほどヒマじゃない。そもそも機密って話だから、大掛かりにもできない話だろうし、合間合間でコソコソやってたんだろう。だからこその3年だろうな。とは言え、後もうちょっとで完成するところだったみたいだが》
「あー……、そらまあ、確かに悔しいやろなぁ」
《エリちゃん》
と、ゲートが、どこか恥ずかしそうな声色で続ける。
《すごいヤツとは勿論認めてるが、俺はハンみたいにゼロのことをカミサマ扱いしてないし、周りが何を言おうと、君も俺の中では、か、可愛い……その……ヨメさん……だ。だ、だからなっ、何が言いたいかって言うとだ、ゼロの肩を必要以上に持ったりしないし、君のことも等身大に応援する。いや、君が何かしたいって言って、それをゼロが止めに入ろうとしたとしても、だ。俺はその時、絶対、君の味方をする。
そっ、それだけは、はっきり、言っとくからな》
「……えへへ」
エリザは自分の顔がにやけているのを感じながら、うんうんとうなずく。
「うん、うん、ありがとな、ゲート。アンタにそう言ってもろたら、アタシ、めっちゃめちゃ嬉しいわ。……ホンマ、ありがと」
《おっ、おう》
「……ほなな。また連絡してや」
《する、する。じゃ、じゃあな》
この一件はどうにか収束したものの――これを契機に、ゼロとエリザの間には少しずつ、だが確実に、確執が深まっていった。
琥珀暁・雄執伝 終
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両雄の確執。
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8.
話し合いから1時間後、ロイドから涙混じりの連絡があり、エリザはようやく安堵した。
「ホンマにもう……」
《ごめん、母さん、僕、こんなんなるなんて思わへんくって……》
グスグスと涙声で謝るロイドに、エリザは優しい声をかけてやる。
「アンタは何も悪ない。ゼロさんがアホみたいな勘違いしただけや。もう気にせんとき。……ああ、せや。ゼロさんからな、印刷技術に関しては山の北で広めんといてってお願いされたから、そっちでは誰にも言わんときや」
《う、うん。分かった》
「ま、南でどうのっちゅう話は無かったから、そっちは好きにしたらええやろけど。……でも、変やんなぁ」
《って言うと?》
尋ねたゲートに、エリザは疑問を述べた。
「実際、アタシが印刷技術作ったワケやし、最初からゼロさん、アタシに相談するなり何なりしてくれたら、話は早かったんちゃうやろかと思うんやけども」
《ふーむ……、確かにな。大体、『重要機密』って扱いも変だろ。そりゃすげえ技術だと思うけど、でもたかが製本技術だろ? 秘密にしとくような話じゃないと思うんだが》
「せやねぇ……?」
この疑問もゲートの調査により、1週間後に詳細が判明した。
《どうやらな、ゼロは最近のエリちゃんの活躍っぷりが相当、悔しかったみたいなんだ》
「アタシの?」
《ほら、遠征隊の躍進も、ハンのって言うより、エリちゃんの手柄みたいに言われることがあるしさ。そうでなくても、山の南から来るヤツはみんな、ゼロよりエリちゃんの方を持て囃してるし。
長いことこっちで王様だ、神様だって持ち上げられたせいか、ゼロもなんだかんだ言って、その気になってる節があるからな。その『カミサマ』が、もうひとりの『カミサマ』に人気を奪われたくないってことさ。
で、印刷の件も、相談したらエリちゃんの手柄にされるかも知れないって思って、君に知られないよう密かに人を集めて、こっそり作ってたって話らしいんだよ》
これを聞いて、エリザは首を傾げる。
「ソレ、いつくらいからやっとったん? 少なくとも今年、去年の話やないやんな。だってアタシ、ココにいとるし。おらへんアタシを警戒するのも変な話やん?」
《ああ。3年前からだってさ》
「3年? なんでそんなかかるん? アタシ、アレ作るのんに1週間もかかってへんで?」
《君ほど腕のいい職人はそうそういないし、ゼロだって毎度口出しできるほどヒマじゃない。そもそも機密って話だから、大掛かりにもできない話だろうし、合間合間でコソコソやってたんだろう。だからこその3年だろうな。とは言え、後もうちょっとで完成するところだったみたいだが》
「あー……、そらまあ、確かに悔しいやろなぁ」
《エリちゃん》
と、ゲートが、どこか恥ずかしそうな声色で続ける。
《すごいヤツとは勿論認めてるが、俺はハンみたいにゼロのことをカミサマ扱いしてないし、周りが何を言おうと、君も俺の中では、か、可愛い……その……ヨメさん……だ。だ、だからなっ、何が言いたいかって言うとだ、ゼロの肩を必要以上に持ったりしないし、君のことも等身大に応援する。いや、君が何かしたいって言って、それをゼロが止めに入ろうとしたとしても、だ。俺はその時、絶対、君の味方をする。
そっ、それだけは、はっきり、言っとくからな》
「……えへへ」
エリザは自分の顔がにやけているのを感じながら、うんうんとうなずく。
「うん、うん、ありがとな、ゲート。アンタにそう言ってもろたら、アタシ、めっちゃめちゃ嬉しいわ。……ホンマ、ありがと」
《おっ、おう》
「……ほなな。また連絡してや」
《する、する。じゃ、じゃあな》
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