「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第5部
琥珀暁・新尉伝 1
神様たちの話、第239話。
新任尉官、来る。
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1.
双月暦24年5月、遠征隊の交代要員が北の邦に到着することとなった。
「昨年、わたくしたちが訪れた頃より幾分早いご到着ですわね」
「今年は暖冬だったらしい。南の方では」
ハンとクーは談笑しつつ、沖の端にうっすらと見える船の到着を待ちわびていた。
「だから出発は俺たちの時より1ヶ月以上早かったらしいんだ。とは言えこっち側の海に差し掛かったところで、寒気に阻まれたとか。……と言うようなことを、ここ数週間で聞いた」
「どなたから? 父上からはここしばらく、通信を受けていないようにお見受けしておりましたけれど」
尋ねたクーに、ハンは沖の船を指差す。
「あの船の責任者からだ。……そうだ、クー。船が着く前に、いくつか注意しておくことがある」
「注意ですって? あなた、また何かお小言を?」
「いや、そうじゃない」
ハンはぱた、と手を振り、話を続ける。
「俺が言いたいのは、『相手に対して注意してくれ』ってことだ」
「相手に? その、責任者の方にと言うことかしら」
「そうだ。何と言うか……」
ハンは首をひねりつつ、説明する。
「かなり感情的と言うか気分屋と言うか、へんくつと言うか。話をしていて、やたら一方的にしゃべり倒したかと思うと、いきなり『じゃーね』って通信を切ってきたりする。正直言って、俺は相手したくないタイプだ」
「あら……」
「エリザさんだったら案外、気が合うかも分からんが」
どことなく、げんなりした様子を見せるハンに、クーは恐る恐る尋ねてみた。
「相手の方のお名前ですとか、階級や経歴はご存知ですの?」
「ああ、名前はエメリア・ソーン。年齢と階級は俺と同じで、22歳の尉官。これまでクロスセントラル周辺の街道工事を手がけてたって話だ」
「工事を?」
「ああ。陛下からの紹介では、『沿岸部が君たちの影響により統治下に置かれたことだし、多少なりとも生活基盤を充足させる責任は、既に遠征隊が有してしかるべきことだと思う。だからこっちでそう言う仕事に長けてる人を新たに派遣するよ』と」
「さようですか。でも、ハン」
クーはハンの袖を引き、船を指差す。
「それだけにしては、不釣り合いと存じられませんこと?」
「と言うと?」
「船の大きさです。わたくしたちが乗ってきたものとほとんど同じ、いえ、もしかしたらもっと大きいように見受けられますけれど、そんなに人員が必要でしょうか?」
「うん? ……ふむ」
クーの意見を受け、ハンも船の大きさを目測と指の長さとで測り、首を傾げた。
「確かに大きいな。一回りか、二回りは。
相当な人数を寄越してくれるのはいいが、確かに交代や工事なら、せいぜい200人程度のはずだ。だがあの大きさなら、こっちにいる600人と同数乗っていても、確かにおかしくない」
「ねえ、ハン?」
クーがもう一度、不安そうな顔をしつつ袖を引く。
「わたくし、何か嫌な予感を覚えるのですが、本当にあれは、ただの交代要員と工事人員なのかしら」
「それ以外、何があるって言うんだ?」
いぶかしむハンに、クーは表情を崩さないまま、こう続ける。
「お父様は、まさか、北の邦での戦線を拡大しようなどとお考えではないでしょうね?」
「そんなはずは無い。有り得ない」
ハンはきっぱりと、クーの不安を否定した。
「元々遠征隊は、この邦と平和的な関係を築くために派遣されたものだ。その目的を歪めるようなことを、陛下がお考えになるはずが無い。
それに、もし本当に、戦争を断行すると方針転換されたとしても、周囲が諌めないわけが無い。俺の親父だって、全力で止めに入るはずだ。何より陛下のお心が、そんな乱暴な手段を好まれるはずが無い。そうだろう?」
「……であればよろしいのですけれど、本当に」
ハンの意見を受けてもなお、クーが不安げな表情を崩すことは無かった。
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新任尉官、来る。
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双月暦24年5月、遠征隊の交代要員が北の邦に到着することとなった。
「昨年、わたくしたちが訪れた頃より幾分早いご到着ですわね」
「今年は暖冬だったらしい。南の方では」
ハンとクーは談笑しつつ、沖の端にうっすらと見える船の到着を待ちわびていた。
「だから出発は俺たちの時より1ヶ月以上早かったらしいんだ。とは言えこっち側の海に差し掛かったところで、寒気に阻まれたとか。……と言うようなことを、ここ数週間で聞いた」
「どなたから? 父上からはここしばらく、通信を受けていないようにお見受けしておりましたけれど」
尋ねたクーに、ハンは沖の船を指差す。
「あの船の責任者からだ。……そうだ、クー。船が着く前に、いくつか注意しておくことがある」
「注意ですって? あなた、また何かお小言を?」
「いや、そうじゃない」
ハンはぱた、と手を振り、話を続ける。
「俺が言いたいのは、『相手に対して注意してくれ』ってことだ」
「相手に? その、責任者の方にと言うことかしら」
「そうだ。何と言うか……」
ハンは首をひねりつつ、説明する。
「かなり感情的と言うか気分屋と言うか、へんくつと言うか。話をしていて、やたら一方的にしゃべり倒したかと思うと、いきなり『じゃーね』って通信を切ってきたりする。正直言って、俺は相手したくないタイプだ」
「あら……」
「エリザさんだったら案外、気が合うかも分からんが」
どことなく、げんなりした様子を見せるハンに、クーは恐る恐る尋ねてみた。
「相手の方のお名前ですとか、階級や経歴はご存知ですの?」
「ああ、名前はエメリア・ソーン。年齢と階級は俺と同じで、22歳の尉官。これまでクロスセントラル周辺の街道工事を手がけてたって話だ」
「工事を?」
「ああ。陛下からの紹介では、『沿岸部が君たちの影響により統治下に置かれたことだし、多少なりとも生活基盤を充足させる責任は、既に遠征隊が有してしかるべきことだと思う。だからこっちでそう言う仕事に長けてる人を新たに派遣するよ』と」
「さようですか。でも、ハン」
クーはハンの袖を引き、船を指差す。
「それだけにしては、不釣り合いと存じられませんこと?」
「と言うと?」
「船の大きさです。わたくしたちが乗ってきたものとほとんど同じ、いえ、もしかしたらもっと大きいように見受けられますけれど、そんなに人員が必要でしょうか?」
「うん? ……ふむ」
クーの意見を受け、ハンも船の大きさを目測と指の長さとで測り、首を傾げた。
「確かに大きいな。一回りか、二回りは。
相当な人数を寄越してくれるのはいいが、確かに交代や工事なら、せいぜい200人程度のはずだ。だがあの大きさなら、こっちにいる600人と同数乗っていても、確かにおかしくない」
「ねえ、ハン?」
クーがもう一度、不安そうな顔をしつつ袖を引く。
「わたくし、何か嫌な予感を覚えるのですが、本当にあれは、ただの交代要員と工事人員なのかしら」
「それ以外、何があるって言うんだ?」
いぶかしむハンに、クーは表情を崩さないまま、こう続ける。
「お父様は、まさか、北の邦での戦線を拡大しようなどとお考えではないでしょうね?」
「そんなはずは無い。有り得ない」
ハンはきっぱりと、クーの不安を否定した。
「元々遠征隊は、この邦と平和的な関係を築くために派遣されたものだ。その目的を歪めるようなことを、陛下がお考えになるはずが無い。
それに、もし本当に、戦争を断行すると方針転換されたとしても、周囲が諌めないわけが無い。俺の親父だって、全力で止めに入るはずだ。何より陛下のお心が、そんな乱暴な手段を好まれるはずが無い。そうだろう?」
「……であればよろしいのですけれど、本当に」
ハンの意見を受けてもなお、クーが不安げな表情を崩すことは無かった。
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