「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第5部
琥珀暁・新尉伝 2
神様たちの話、第240話。
剣呑エメリア。
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2.
昨年ハンたちがそうしたように、やってきた船はまず沖に停泊し、そこから小舟が一艘、港へとやって来た。
「どーも」
小舟に乗っていた、ハンと同じ階級章を胸に付けた長耳の女性が、ぺら、と手を振って挨拶した。
「君がシモン尉官でいいね?」
「ああ、そうだ。ハンニバル・シモンだ」
「私はエメリア・ソーン。エマでいいね。よろしくどうぞ。船はドコに留めたらいいね?」
「港に誘導員を待たせてある。そっちの指示に従ってくれ」
「どーも。……んで、そちらがクラム殿下でいらっしゃいますかね?」
くるん、と顔を向けてきたエマに、クーは内心、ぞわりと嫌な感触を覚えた。
(あ。直感いたしましたけれど、わたくしもこの人、苦手かも)
一瞬言葉を詰まらせてしまったものの、どうにかクーは笑顔を作って応じる。
「え、ええ。はじめまして、ソーン尉官。シモン尉官より貴官のお話は伺っておりますわ」
「あ、そ」
うやうやしいあいさつを2語で返され、クーは面食らう。
「あの、ソーン尉官、それは」
礼儀にうるさいハンが咎めようと口を開きかけたが、エマが先制する。
「お堅いアレコレは結構。そう言うのめんどいんでね。私のコトもそちらのシモン尉官といつもやり取りしてる感じで話してくれればいいからね」
「いや、しかし」
再度ハンが反論しかけるが、これもエマはまくし立てて抑え込む。
「君にしても、普段から彼女に対して『本日も御尊顔を拝しまして恐悦至極にございます』なーんて平身低頭してるワケじゃないだろ? 君とこの娘の距離感見てりゃ分かるね」
「う……い、いや」
「正直に態度晒すのといりもしない見栄張ってウソ付くのと、どっちが紳士的さ? 真面目な尉官殿ならどう答えるつもりかねぇ?」
会ってから1分足らずの間に散々やり込められ、クーはただただ圧倒されていた。
(かも、ではございませんわね。はっきり苦手な方です。なんだかエリザさんにも似ているような……)
一方、ハンも初手から面目を潰されたせいか、素直にエマへ応じていた。
「……そうだ。確かに君の言う通り、クラム殿下、いや、クーとは友人として親しくしている」
「だろうね。そんなワケだから、私ともそーゆー感じでよろしく」
「分かった。それじゃそろそろ、船を入渠させるぞ。問題無いな、エマ?」
「ああ。じゃ、そーゆーワケだから、伝えといてね。よろしゅー」
エマは乗っていた小舟に振り返り、部下に指示して、そのまま船へと戻らせる。
「さてと」
そこでもう一度くるんとハンに向き直り、エマは声を潜めつつ、ふたたび話し始めた。
「皆が来る前に一度、コレだけは言っといた方がいいかなと思ってね」
「うん?」
「君らも何となく感じてるだろうけど、あの船、結構な人数が乗ってるんだよね」
「ああ。陛下や軍本営からは、結局何名寄越すのか通達が無かった」
「だろうね。そうしないと向こうの都合が悪いからね」
「どう言うことだ?」
「単刀直入に言おう。ゼロは、……ああ、いや、タイムズ陛下は、戦争する気になっちゃってるね」
エマからとんでもないことを聞かされ、ハンは声を荒げた。
「ば、……馬鹿な! そんなこと、あるわけが無いだろう!?」
「声が大きい。みんなビックリするだろ? 黙って聞きな」
「……ああ」
「詳しいコトは後で説明するけども、ともかくこっちに寄越された600人はそーゆーつもりのヤツも大勢いるってコトを言っておきたかったんだ」
「600人だと?」
「無論、君が思ってるように、陛下は厭戦(えんせん:戦いを嫌うこと)派だった。いや、今も表面上は厭戦主義を採ってる。ソレは確かだ。……だからこそ今、君は戦うように仕向けられている。
ソレが向こうの思惑だってコトは、まず第一に伝えておかなきゃと思ってね」
「わ……わけが分からない」
困惑した様子のハンに背を向け、エマはニヤッとクーに笑みを浮かべて見せる。
「とりあえず疲れたしお腹も減ったし、でね。何かご飯とか無い、クーちゃん?」
「く、クーちゃん? ですって?」
「ソレとも殿下って呼ばれたい方?」
「……クーちゃんで結構ですわ」
憮然としつつも、クーはうなずいて返した。
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剣呑エメリア。
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昨年ハンたちがそうしたように、やってきた船はまず沖に停泊し、そこから小舟が一艘、港へとやって来た。
「どーも」
小舟に乗っていた、ハンと同じ階級章を胸に付けた長耳の女性が、ぺら、と手を振って挨拶した。
「君がシモン尉官でいいね?」
「ああ、そうだ。ハンニバル・シモンだ」
「私はエメリア・ソーン。エマでいいね。よろしくどうぞ。船はドコに留めたらいいね?」
「港に誘導員を待たせてある。そっちの指示に従ってくれ」
「どーも。……んで、そちらがクラム殿下でいらっしゃいますかね?」
くるん、と顔を向けてきたエマに、クーは内心、ぞわりと嫌な感触を覚えた。
(あ。直感いたしましたけれど、わたくしもこの人、苦手かも)
一瞬言葉を詰まらせてしまったものの、どうにかクーは笑顔を作って応じる。
「え、ええ。はじめまして、ソーン尉官。シモン尉官より貴官のお話は伺っておりますわ」
「あ、そ」
うやうやしいあいさつを2語で返され、クーは面食らう。
「あの、ソーン尉官、それは」
礼儀にうるさいハンが咎めようと口を開きかけたが、エマが先制する。
「お堅いアレコレは結構。そう言うのめんどいんでね。私のコトもそちらのシモン尉官といつもやり取りしてる感じで話してくれればいいからね」
「いや、しかし」
再度ハンが反論しかけるが、これもエマはまくし立てて抑え込む。
「君にしても、普段から彼女に対して『本日も御尊顔を拝しまして恐悦至極にございます』なーんて平身低頭してるワケじゃないだろ? 君とこの娘の距離感見てりゃ分かるね」
「う……い、いや」
「正直に態度晒すのといりもしない見栄張ってウソ付くのと、どっちが紳士的さ? 真面目な尉官殿ならどう答えるつもりかねぇ?」
会ってから1分足らずの間に散々やり込められ、クーはただただ圧倒されていた。
(かも、ではございませんわね。はっきり苦手な方です。なんだかエリザさんにも似ているような……)
一方、ハンも初手から面目を潰されたせいか、素直にエマへ応じていた。
「……そうだ。確かに君の言う通り、クラム殿下、いや、クーとは友人として親しくしている」
「だろうね。そんなワケだから、私ともそーゆー感じでよろしく」
「分かった。それじゃそろそろ、船を入渠させるぞ。問題無いな、エマ?」
「ああ。じゃ、そーゆーワケだから、伝えといてね。よろしゅー」
エマは乗っていた小舟に振り返り、部下に指示して、そのまま船へと戻らせる。
「さてと」
そこでもう一度くるんとハンに向き直り、エマは声を潜めつつ、ふたたび話し始めた。
「皆が来る前に一度、コレだけは言っといた方がいいかなと思ってね」
「うん?」
「君らも何となく感じてるだろうけど、あの船、結構な人数が乗ってるんだよね」
「ああ。陛下や軍本営からは、結局何名寄越すのか通達が無かった」
「だろうね。そうしないと向こうの都合が悪いからね」
「どう言うことだ?」
「単刀直入に言おう。ゼロは、……ああ、いや、タイムズ陛下は、戦争する気になっちゃってるね」
エマからとんでもないことを聞かされ、ハンは声を荒げた。
「ば、……馬鹿な! そんなこと、あるわけが無いだろう!?」
「声が大きい。みんなビックリするだろ? 黙って聞きな」
「……ああ」
「詳しいコトは後で説明するけども、ともかくこっちに寄越された600人はそーゆーつもりのヤツも大勢いるってコトを言っておきたかったんだ」
「600人だと?」
「無論、君が思ってるように、陛下は厭戦(えんせん:戦いを嫌うこと)派だった。いや、今も表面上は厭戦主義を採ってる。ソレは確かだ。……だからこそ今、君は戦うように仕向けられている。
ソレが向こうの思惑だってコトは、まず第一に伝えておかなきゃと思ってね」
「わ……わけが分からない」
困惑した様子のハンに背を向け、エマはニヤッとクーに笑みを浮かべて見せる。
「とりあえず疲れたしお腹も減ったし、でね。何かご飯とか無い、クーちゃん?」
「く、クーちゃん? ですって?」
「ソレとも殿下って呼ばれたい方?」
「……クーちゃんで結構ですわ」
憮然としつつも、クーはうなずいて返した。
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