「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第5部
琥珀暁・新尉伝 3
神様たちの話、第241話。
ゼロの肚の内。
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3.
「で、ちゃんと聞かせてくれないか」
一通りの受け入れ手続きが終わったところで、ハンはクー、エリザを交え、エマから本土の情報を聞き出していた。
「どうして陛下は方針転換したんだ?」
「変換はしてないさ。口でしゃべってる分にはね」
「あー、そう言うコトか」
エマの返した一言に、エリザが反応する。
「つまり『戦いたくなんかないけどなー』『戦ってほしくないなー』言うてて、その一方で『でも現地の人らは戦おうとしてるんやんなー』『困ったなー勝手なコトしとるなーあー困ったなー』とも言うてるんやな?」
「そーゆーコトだね。陛下は、君たちが勝手に戦線を拡大してるって喧伝してるのさ」
エマがうなずいたところで、ハンが憤った声を上げた。
「そんなわけがあるか! 俺たちは、いや、俺は一度もそんなことを陛下に申し上げた覚えは無い!」
「君やエリザが何を言ったかなんて、中央の人間は知らないね。陛下が『あいつらが勝手に』って世間に言っちゃえば、ソレが公然の事実ってヤツになるだけさね。今更君が中央に戻って根も葉も無いウソだって釈明したところで、誰も信じやしないね」
「くっ……」
苦々しい表情を浮かべ、ハンが黙り込んだところで、クーが手を挙げる。
「でもどうして、父上はそんなことを仰っているのでしょう?」
「ある程度は私の想像が混じってるけども」
そう前置きしつつ、エマは最近の事情を説明してくれた。
「こっちの邦――中央じゃ『北方』って言ってるけど――で遠征隊が沿岸部を下したって話が、中央に評判を巻き起こしてるね。『エリザが北方でまたえらいコトした』とか、『エリザが北方を征服しようとしてる』とか」
「アタシが? ……や、問題はアタシがどうのやないな。ゼロさんがソレで気ぃ揉んではるんやな?」
「多分ね」
二人のやり取りがよく分からず、クーが口を挟む。
「あの、それはつまり……?」
「つまりな――こないだゲートからも聞いたけども――ゼロさんはおもろくないねん、自分が評判に上がらへんちゅうのんが。
そら確かに戦争はしたくないんやろな。ソコは本音やわ。でも一方で、このまま放っといてアタシに評判全部かっさらわれる形になったら、ソレはソレで腹立つんやろ。せやから『現場判断』に任す形で――言い換えたら自分の責任にならへん形で――遠征隊がこっちで戦果を挙げ、間接的に自分の評判が上がるコトを期待してはるんやろ」
「そう言うコトだね」
これを聞いて、クーの心にじわ、と嫌な気分がにじむ。
「父上がそんなことを……」
「もう結構なおっさんだからね。ソレなりに名誉欲も承認欲もムクムク膨れてきてるのさ。ましてや20年前には、英雄として名を轟かせた男だ。そんな男が今、世間の話題を別の英雄にかっさらわれてるんだから、気分は良くないだろうさ」
「信じられませんわ……。そんなはしたないことをなさるだなんて」
「俺もだ」
ハンはぎゅっと拳を握り、エマに向き直る。
「今からでも陛下に抗議する。俺はそんなことのために、この邦に来たんじゃない」
「いいよ、やってみたら? 適当な理由付けて更迭されるだけだろうけどね」
エマに切り返され、ハンは一転、目を丸くする。
「なんだと?」
「私がココに来た理由が、マジで煉瓦(れんが)敷くためだけだと思ってるね? 君がやだっつった時の代替要員だろ、どう考えても」
「う……」
「陛下にしたって、元々から君も戦闘を嫌がってるってコトは承知してるさ。ココでごねるコトは予想済みだろうし、そんなら別の人間を用意するだけさね。勿論言うまでも無いし君がそんなアホなコトやるなんてコレっぽっちも考えてないけども、仮に私を閉じ込めるか何かしたところで、他のヤツが任命されるだけだからね」
「……やるしか無い、と?」
「だろうね。しかも『自発的に』ね。陛下のお望みはソレさ」
「……~っ」
突然、ハンは席を立ち、椅子を蹴っ飛ばした。
「陛下は……俺に、汚れ仕事を押し付けたって言うのか!? ふざけるなッ!」
「本当、ふざけた話だと私も思うね。ま、だからこそ私が来たってコトでもあるんだけどね」
そんなことを言い出したエマに、ハンはまたもぎょっとした顔を向けた。
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ゼロの肚の内。
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「で、ちゃんと聞かせてくれないか」
一通りの受け入れ手続きが終わったところで、ハンはクー、エリザを交え、エマから本土の情報を聞き出していた。
「どうして陛下は方針転換したんだ?」
「変換はしてないさ。口でしゃべってる分にはね」
「あー、そう言うコトか」
エマの返した一言に、エリザが反応する。
「つまり『戦いたくなんかないけどなー』『戦ってほしくないなー』言うてて、その一方で『でも現地の人らは戦おうとしてるんやんなー』『困ったなー勝手なコトしとるなーあー困ったなー』とも言うてるんやな?」
「そーゆーコトだね。陛下は、君たちが勝手に戦線を拡大してるって喧伝してるのさ」
エマがうなずいたところで、ハンが憤った声を上げた。
「そんなわけがあるか! 俺たちは、いや、俺は一度もそんなことを陛下に申し上げた覚えは無い!」
「君やエリザが何を言ったかなんて、中央の人間は知らないね。陛下が『あいつらが勝手に』って世間に言っちゃえば、ソレが公然の事実ってヤツになるだけさね。今更君が中央に戻って根も葉も無いウソだって釈明したところで、誰も信じやしないね」
「くっ……」
苦々しい表情を浮かべ、ハンが黙り込んだところで、クーが手を挙げる。
「でもどうして、父上はそんなことを仰っているのでしょう?」
「ある程度は私の想像が混じってるけども」
そう前置きしつつ、エマは最近の事情を説明してくれた。
「こっちの邦――中央じゃ『北方』って言ってるけど――で遠征隊が沿岸部を下したって話が、中央に評判を巻き起こしてるね。『エリザが北方でまたえらいコトした』とか、『エリザが北方を征服しようとしてる』とか」
「アタシが? ……や、問題はアタシがどうのやないな。ゼロさんがソレで気ぃ揉んではるんやな?」
「多分ね」
二人のやり取りがよく分からず、クーが口を挟む。
「あの、それはつまり……?」
「つまりな――こないだゲートからも聞いたけども――ゼロさんはおもろくないねん、自分が評判に上がらへんちゅうのんが。
そら確かに戦争はしたくないんやろな。ソコは本音やわ。でも一方で、このまま放っといてアタシに評判全部かっさらわれる形になったら、ソレはソレで腹立つんやろ。せやから『現場判断』に任す形で――言い換えたら自分の責任にならへん形で――遠征隊がこっちで戦果を挙げ、間接的に自分の評判が上がるコトを期待してはるんやろ」
「そう言うコトだね」
これを聞いて、クーの心にじわ、と嫌な気分がにじむ。
「父上がそんなことを……」
「もう結構なおっさんだからね。ソレなりに名誉欲も承認欲もムクムク膨れてきてるのさ。ましてや20年前には、英雄として名を轟かせた男だ。そんな男が今、世間の話題を別の英雄にかっさらわれてるんだから、気分は良くないだろうさ」
「信じられませんわ……。そんなはしたないことをなさるだなんて」
「俺もだ」
ハンはぎゅっと拳を握り、エマに向き直る。
「今からでも陛下に抗議する。俺はそんなことのために、この邦に来たんじゃない」
「いいよ、やってみたら? 適当な理由付けて更迭されるだけだろうけどね」
エマに切り返され、ハンは一転、目を丸くする。
「なんだと?」
「私がココに来た理由が、マジで煉瓦(れんが)敷くためだけだと思ってるね? 君がやだっつった時の代替要員だろ、どう考えても」
「う……」
「陛下にしたって、元々から君も戦闘を嫌がってるってコトは承知してるさ。ココでごねるコトは予想済みだろうし、そんなら別の人間を用意するだけさね。勿論言うまでも無いし君がそんなアホなコトやるなんてコレっぽっちも考えてないけども、仮に私を閉じ込めるか何かしたところで、他のヤツが任命されるだけだからね」
「……やるしか無い、と?」
「だろうね。しかも『自発的に』ね。陛下のお望みはソレさ」
「……~っ」
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「陛下は……俺に、汚れ仕事を押し付けたって言うのか!? ふざけるなッ!」
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