「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第5部
琥珀暁・新尉伝 5
神様たちの話、第243話。
エマの経緯。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
エリザが店の人脈を使い、エマのことを第二中隊の兵士たちからそれとなく聞き込み調査した結果、以下のことが判明した。
「まず、コネ的なもんはほぼ無いわ。マジもんの実力で20歳の時、尉官に任命されたらしいわ」
「それは――俺が言うのもなんですが――相当な出世ですね」
驚くハンに、エリザが苦笑して返す。
「アンタも確かに実力派は実力派やけど、ゲートの口添えがあったんは確かやからな。せやけどエマの場合、ソレもあらへんねん。
アンタも知っての通り、今の軍やらゼロさんの周りやらで偉くなろう思たら、誰かしら権力者層の後ろ楯があらへんと、どないもならん。無ければ100匹バケモノ倒そうがものすごい魔力持ってようが、行けて上等兵か、曹官止まりや。事実、今おる尉官や佐官はゲートやらパウロさんやら、ゼロさんの側近の人らとつながっとるからな。
せやけど、エマの場合はソレが無いねん。や、厳密に言うたら声は掛けられたらしいんやけども、……まーコレが傑作でな」
「と言うと?」
尋ねたハンに、エリザがクスクスと笑いを漏らしながら答える。
「アンタが知ってるかどうか知らんけど、オテロっちゅう将軍おるねんけどな」
「聞いた覚えがありますね。第4次ウォールロック北麓戦や第7次サウスフィールド戦で戦功を挙げた……」「ソレはええねん。人となりはどないや?」
「ん、ん……」
問われて、ハンは言葉を濁す。
「俺自身は会ったことが無いので何とも言えませんが、良い評判は、あまり……。親父からも『あいつは女関係に汚い』と」
「ソレやねん」
「つまり、口説かれたと?」
ハンの言葉に、エリザはいよいよ笑い転げた。
「アハハハ……、らしいわ。でもな、どうもエマ、ソコでひっぱたきよったらしいねん」
「なっ……? 仮にも将軍を、尉官がですか?」
「エマのあの性格やったら、相手がゼロさんくらいの大物でも、やらしく口説かれたら蹴飛ばすやろな。ま、つまりそう言うヤツらしいわ。正直、ソレで軍での居心地は悪うなったっぽいけどな」
「つまりここへ送られたのは、半分左遷だと?」
「ソレもあるやろし、もう半分はホンマに道路整備と戦争準備やろな。……あー、と。話戻すけども、つまりコネについてはエマの方から全切りしよったらしいわ。部下の子らが言うてたわ、『自分から昇進の道潰しよった』っちゅうてな」
と、ここでエリザは一転、神妙な顔をする。
「でもな、ソコが妙やねんな」
「と言うと?」
「オテロさんひっぱたいたんは船出の半年前――つまり今から1年近く前の話らしいんやけど、その前はなんちゅうか、割と狡(こす)い子やったらしいわ」
「狡い?」
「偉くなるためには何でもするような、いけ好かんヤツやったっちゅう話や。さっきも言うた通り、偉くなろう思たら誰かしら偉いさんと関係持たなアカンからな。その当時のエマやったら、オテロさんの誘いに乗ってもおかしないヤツやったっちゅううわさもあるねんな。
ほんでもっと詳しく聞いたら、どうもその前に、事故でケガしたらしいねん」
「ケガを?」
「せや。自分が敷いとった煉瓦道を検査で歩いとったら、煉瓦が崩れてそのまんま崖下まで転がってしもたらしいんよ。頭も打ったらしゅうて、1ヶ月くらい病院におったらしいわ。で、性格が変わったんも大体その辺りからちゃうか、と」
「頭を打って性格が変わった、ですか。……なんだか胡散臭い話ですね」
そう返したハンに、エリザも苦笑して見せる。
「同感やね。ともかく、あの子にウラらしいウラは無いわ。誰かの差し金っちゅうようなコトも、まず考えられへん。となればアンタへの態度や進言は、あの子自身の損得にしかならん。ソコから言うたら、ウソつく意味が何もあらへん。アンタ怒らしたってしゃあないからな。せやから、言葉通りに聞いてええやろと思う。あの子が話した内容はほぼほぼ、あの子が言うた通りに判断して間違い無いやろな。
で、コレはアタシ個人の意見やけども、あの子自身を信用するかせえへんかっちゅうたら、今はまだ、とりあえずっちゅう感じやね。よっぽど胡散臭いコト言い出さん限りは問題無いやろ」
「ふむ……」
特に反論する気も起きず、ハンはこくりとうなずいた。
「エリザさんの言うことですからね。俺はそれを信頼してます」
「そらどうも」
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エマの経緯。
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5.
エリザが店の人脈を使い、エマのことを第二中隊の兵士たちからそれとなく聞き込み調査した結果、以下のことが判明した。
「まず、コネ的なもんはほぼ無いわ。マジもんの実力で20歳の時、尉官に任命されたらしいわ」
「それは――俺が言うのもなんですが――相当な出世ですね」
驚くハンに、エリザが苦笑して返す。
「アンタも確かに実力派は実力派やけど、ゲートの口添えがあったんは確かやからな。せやけどエマの場合、ソレもあらへんねん。
アンタも知っての通り、今の軍やらゼロさんの周りやらで偉くなろう思たら、誰かしら権力者層の後ろ楯があらへんと、どないもならん。無ければ100匹バケモノ倒そうがものすごい魔力持ってようが、行けて上等兵か、曹官止まりや。事実、今おる尉官や佐官はゲートやらパウロさんやら、ゼロさんの側近の人らとつながっとるからな。
せやけど、エマの場合はソレが無いねん。や、厳密に言うたら声は掛けられたらしいんやけども、……まーコレが傑作でな」
「と言うと?」
尋ねたハンに、エリザがクスクスと笑いを漏らしながら答える。
「アンタが知ってるかどうか知らんけど、オテロっちゅう将軍おるねんけどな」
「聞いた覚えがありますね。第4次ウォールロック北麓戦や第7次サウスフィールド戦で戦功を挙げた……」「ソレはええねん。人となりはどないや?」
「ん、ん……」
問われて、ハンは言葉を濁す。
「俺自身は会ったことが無いので何とも言えませんが、良い評判は、あまり……。親父からも『あいつは女関係に汚い』と」
「ソレやねん」
「つまり、口説かれたと?」
ハンの言葉に、エリザはいよいよ笑い転げた。
「アハハハ……、らしいわ。でもな、どうもエマ、ソコでひっぱたきよったらしいねん」
「なっ……? 仮にも将軍を、尉官がですか?」
「エマのあの性格やったら、相手がゼロさんくらいの大物でも、やらしく口説かれたら蹴飛ばすやろな。ま、つまりそう言うヤツらしいわ。正直、ソレで軍での居心地は悪うなったっぽいけどな」
「つまりここへ送られたのは、半分左遷だと?」
「ソレもあるやろし、もう半分はホンマに道路整備と戦争準備やろな。……あー、と。話戻すけども、つまりコネについてはエマの方から全切りしよったらしいわ。部下の子らが言うてたわ、『自分から昇進の道潰しよった』っちゅうてな」
と、ここでエリザは一転、神妙な顔をする。
「でもな、ソコが妙やねんな」
「と言うと?」
「オテロさんひっぱたいたんは船出の半年前――つまり今から1年近く前の話らしいんやけど、その前はなんちゅうか、割と狡(こす)い子やったらしいわ」
「狡い?」
「偉くなるためには何でもするような、いけ好かんヤツやったっちゅう話や。さっきも言うた通り、偉くなろう思たら誰かしら偉いさんと関係持たなアカンからな。その当時のエマやったら、オテロさんの誘いに乗ってもおかしないヤツやったっちゅううわさもあるねんな。
ほんでもっと詳しく聞いたら、どうもその前に、事故でケガしたらしいねん」
「ケガを?」
「せや。自分が敷いとった煉瓦道を検査で歩いとったら、煉瓦が崩れてそのまんま崖下まで転がってしもたらしいんよ。頭も打ったらしゅうて、1ヶ月くらい病院におったらしいわ。で、性格が変わったんも大体その辺りからちゃうか、と」
「頭を打って性格が変わった、ですか。……なんだか胡散臭い話ですね」
そう返したハンに、エリザも苦笑して見せる。
「同感やね。ともかく、あの子にウラらしいウラは無いわ。誰かの差し金っちゅうようなコトも、まず考えられへん。となればアンタへの態度や進言は、あの子自身の損得にしかならん。ソコから言うたら、ウソつく意味が何もあらへん。アンタ怒らしたってしゃあないからな。せやから、言葉通りに聞いてええやろと思う。あの子が話した内容はほぼほぼ、あの子が言うた通りに判断して間違い無いやろな。
で、コレはアタシ個人の意見やけども、あの子自身を信用するかせえへんかっちゅうたら、今はまだ、とりあえずっちゅう感じやね。よっぽど胡散臭いコト言い出さん限りは問題無いやろ」
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