「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第5部
蒼天剣・錯綜録 6
晴奈の話、第243話。
急転直下の解決。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
6.
「ちょっとちょっと、それはまずいって」
その時だった。
倉庫に男の、おどけたような声がこだまする。
「……!? なんだなんだ、まだ誰かいるっての……」
足を振り上げたままの男は、そこで言葉を切った。
と言うよりも、中断させられた。入口から突っ込んできた大柄な「虎」に、逆に蹴っ飛ばされたからだ。
「『叩かれたらこんなに痛いんやで』ってオカンに言われへんかったんか、ボケ!」
男を蹴り飛ばしたのはあの大食漢の大女、シリンだった。
「いや、程度が違うんじゃないっスか? 普通、そこまで吹っ飛ばないっスって」
「どっちでもえーやん、そんなん。……生きとるか?」
「う、う……」
エランのうめく声が聞こえる。どうやらまだ生きているらしい。
「な、何者だ!?」
「そこのおっきなおねーさんは闘技場の人気選手。で……」
いつの間にか猫獣人の男が、倉庫に積まれた木箱の上に立っていた。
「オレとそこで血ぃ吐いてる『狐』は、金火公安の者だ。
アンタらやばいよー? 公安職員に暴行加えて、しかも女性を拉致監禁って。多分懲役30年か、50年か、それとも終身刑か。
今のうち、大人しくしといた方がいいと思うけどなー。それにホラ、そこの壁にひっついてる奴みたいになりたくなかったら、投降した方が絶対いいって」
猫獣人は木箱からトン、と床に降り、壁にめり込んでいるリーダーの男を指差す。
残った男3名は顔を見合わせ、すぐに武器を捨てた。
「何故ここが分かったのですか?」
「あー、ゴミ捨て場の近くでフォルナちゃんと、このアホらを見かけたって言う人がおってな、ほんで丁度、そっちの『猫』さんもウチと同じよーにセイナを訪ねとって、『話は聞いたっス、なんかヤバそうな香りするんで一緒に探しましょう』って言うてくれたんよ」
「まさかエランまでいたとは思わなかったっスけどね。ま、コイツが銃を乱射したおかげで見つけられたんで、感謝しとかないといけないっスね」
その後、猫獣人――フェリオが呼んだ公安職員によって、ならず者4人は逮捕された。
エランは肋骨と右腕を折る重傷だったが、命に別状は無かった。吐いていた血も、口の中を切っただけらしい。
応急処置を受け、病院に搬送されるのを待つエランに、フォルナは声をかけた。
「あの、エラン。わたくしのこと、尾行してらしたのですか?」
「あ、えっと、……はい。
そしたら、あいつらに連れて行かれたから、どうしようかと思って慌てて……。急いで銃を取りに戻ったんですが、今にも殺されそうだったから、思わず飛び出して。
それで、こんな目に遭っちゃうんだもんなぁ。……はぁ、情けないです」
フォルナはエランの左手を取って、優しく労う。
「いいえ、エラン。あなたのおかげで、わたくしは助かったのよ。その行動に、わたくしは深い感謝と敬意を表しますわ」
「あ、あはは……、ありがとうございます。
何だか本当にお姫様みたいですね、そのしゃべり方」
「っ!」
フォルナは慌てて、エランの口に手を当てる。
「むぐ?」
エランの顔に、驚きの色が浮かぶ。少ししてからエランはフォルナの手を避け、小声で尋ねた。
「あの、まさか本当に?」
「ええ。もしこのことが周りに知られれば、セイナやコスズさん、アケミさんにご迷惑がかかります。
内緒にしていただけないかしら?」
エランはそれを聞いて、クスクスと笑う。
「あはは……、まさかフォルナさんも、そんな秘密があったなんて」
「え? 『も』とおっしゃると?」
「実は……」
エランはさらに小声で、フォルナに耳打ちした。
「……まあ、そうでしたの!?」
「ほら、この髪」
エランはそっと、くしゃくしゃに潰れた帽子を上げる。
「確かに、それは……」
「後、僕も左利きなんですけど、うちの家系はそれ、多いんですよ」
「へぇ……」
「だからこれは、お互いに秘密ってことに」
「クス……、承知しましたわ」
この一件以来、フォルナとエランはようやく仲良くなり、また、助けてくれたシリンやフェリオとも、よく話すようになった。
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「ちょっとちょっと、それはまずいって」
その時だった。
倉庫に男の、おどけたような声がこだまする。
「……!? なんだなんだ、まだ誰かいるっての……」
足を振り上げたままの男は、そこで言葉を切った。
と言うよりも、中断させられた。入口から突っ込んできた大柄な「虎」に、逆に蹴っ飛ばされたからだ。
「『叩かれたらこんなに痛いんやで』ってオカンに言われへんかったんか、ボケ!」
男を蹴り飛ばしたのはあの大食漢の大女、シリンだった。
「いや、程度が違うんじゃないっスか? 普通、そこまで吹っ飛ばないっスって」
「どっちでもえーやん、そんなん。……生きとるか?」
「う、う……」
エランのうめく声が聞こえる。どうやらまだ生きているらしい。
「な、何者だ!?」
「そこのおっきなおねーさんは闘技場の人気選手。で……」
いつの間にか猫獣人の男が、倉庫に積まれた木箱の上に立っていた。
「オレとそこで血ぃ吐いてる『狐』は、金火公安の者だ。
アンタらやばいよー? 公安職員に暴行加えて、しかも女性を拉致監禁って。多分懲役30年か、50年か、それとも終身刑か。
今のうち、大人しくしといた方がいいと思うけどなー。それにホラ、そこの壁にひっついてる奴みたいになりたくなかったら、投降した方が絶対いいって」
猫獣人は木箱からトン、と床に降り、壁にめり込んでいるリーダーの男を指差す。
残った男3名は顔を見合わせ、すぐに武器を捨てた。
「何故ここが分かったのですか?」
「あー、ゴミ捨て場の近くでフォルナちゃんと、このアホらを見かけたって言う人がおってな、ほんで丁度、そっちの『猫』さんもウチと同じよーにセイナを訪ねとって、『話は聞いたっス、なんかヤバそうな香りするんで一緒に探しましょう』って言うてくれたんよ」
「まさかエランまでいたとは思わなかったっスけどね。ま、コイツが銃を乱射したおかげで見つけられたんで、感謝しとかないといけないっスね」
その後、猫獣人――フェリオが呼んだ公安職員によって、ならず者4人は逮捕された。
エランは肋骨と右腕を折る重傷だったが、命に別状は無かった。吐いていた血も、口の中を切っただけらしい。
応急処置を受け、病院に搬送されるのを待つエランに、フォルナは声をかけた。
「あの、エラン。わたくしのこと、尾行してらしたのですか?」
「あ、えっと、……はい。
そしたら、あいつらに連れて行かれたから、どうしようかと思って慌てて……。急いで銃を取りに戻ったんですが、今にも殺されそうだったから、思わず飛び出して。
それで、こんな目に遭っちゃうんだもんなぁ。……はぁ、情けないです」
フォルナはエランの左手を取って、優しく労う。
「いいえ、エラン。あなたのおかげで、わたくしは助かったのよ。その行動に、わたくしは深い感謝と敬意を表しますわ」
「あ、あはは……、ありがとうございます。
何だか本当にお姫様みたいですね、そのしゃべり方」
「っ!」
フォルナは慌てて、エランの口に手を当てる。
「むぐ?」
エランの顔に、驚きの色が浮かぶ。少ししてからエランはフォルナの手を避け、小声で尋ねた。
「あの、まさか本当に?」
「ええ。もしこのことが周りに知られれば、セイナやコスズさん、アケミさんにご迷惑がかかります。
内緒にしていただけないかしら?」
エランはそれを聞いて、クスクスと笑う。
「あはは……、まさかフォルナさんも、そんな秘密があったなんて」
「え? 『も』とおっしゃると?」
「実は……」
エランはさらに小声で、フォルナに耳打ちした。
「……まあ、そうでしたの!?」
「ほら、この髪」
エランはそっと、くしゃくしゃに潰れた帽子を上げる。
「確かに、それは……」
「後、僕も左利きなんですけど、うちの家系はそれ、多いんですよ」
「へぇ……」
「だからこれは、お互いに秘密ってことに」
「クス……、承知しましたわ」
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