「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第5部
琥珀暁・狐略伝 1
神様たちの話、第245話。
お国柄、お家柄。
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1.
双月暦24年5月下旬、エリザは数人の丁稚とロウを伴い、ふたたび西山間部を訪ねていた。
「どないでっか?」
「どう、とは?」
この数ヶ月に渡り、旺盛な食欲を十二分に満たし続けることができたらしく、以前に比べて明らかに顔色の良くなったミェーチに尋ね返され、エリザはニコニコ笑って返す。
「まず第一、ダリノワ陛下にお願いして、他の豪族さんらとも連携取られへんかって言うてた話ですけども」
「問題無く進行しているようだ。傍から見ている分には、意外なほどすんなりまとまったと言う印象であるな。同じ帝国に狙われる身ではあるものの、お互い覇を競う間柄、そう簡単に手を組もう、連携しようなどと話がまとまりはすまいと思っていたのだが……」
ミェーチはそこで破顔し、肩をすくめる。
「事情はどこも同じであったのだろう。女史がかねてから提示していた諸条件――扶持と礼金、そして魔術指南を告げたところ、いずれも多少なり逡巡はあったが、結局はその条件を呑むことで協力を得ることができた」
「上々ですな。ほんで、兵隊さんは全部で何人くらいに?」
「豪族だけでも、総勢300と言うところである。吾輩の軍団を合わせれば、500に届くだろう」
「そんだけいてはるんやったら、今後の作戦には十分ですな。で、もういっこ頼んでたんはどないでしょ?」
「そちらも問題無い。……と言うか、吾輩には依頼内容自体に問題があるように感じるのだが」
「前にも説明しましたやん」
「う、うむ。勿論承知しておる。だが、不安が無いわけでは無い。言わば遊び呆けているようなものではないか」
「ソコんところも詳細に説明しましたやん。戦うより仲良うする方が、っちゅうて」
「うむ……うーむ」
納得行かなさそうな表情を浮かべるミェーチに構わず、エリザは話題を変える。
「ほんで、あっちの方はどないでしょ?」
「うん?」
「娘さんとお婿さんの話です。仲良うしてはりますか?」
エリザがその話題を出した途端、ミェーチは一転、顔をほころばせる。
「うむ、万事円満なようである。先日、ついにシェロより『此度の作戦が成功した暁には式を挙げる』と約束を取ってな」
「あら、よろしいやないですか。おめでとうございます」
「うむ、うむ。……あ、ときに女史」
と、ミェーチが首を傾げつつ、こんなことを尋ねる。
「そちらの邦では、夫婦とも元々の姓を名乗るものなのか?」
「はあ、そうですな。……ん?」
これを受けて、エリザも首を傾げる。
「っちゅうと、おたくさんは違うんですか?」
「うむ。夫の姓を名乗るのが慣習となっておる。が、家督を継ぐなどする場合には、その限りではないのだが。此度も吾輩の家を継いでもらうものと考えておったが、もしシェロの血筋が格ある名家であったなら、不都合もあろうかと考え、一度打診したのだ。ところがシェロの奴、妙な顔をしてな。『何故名を変えねばならぬのか』と問い返されてしまった」
「はー……、そうですな、そらアタシも変な顔してまいますな。ちょっとこっちではあらへんような考えですわ」
「左様であるか。では家を継ぐとしたらどうするのだ?」
「兄弟姉妹がいてたら、分けっこですな。一人やったりいてへんかったりやったら、血筋の他の者にっちゅう感じですわ。ソレでもアカンかったら養子とかですな」
「ふーむ……。吾輩の縁者は娘だけでな。妻も天涯孤独の身であったそうだし、本人も既にこの世におらん。となると二人に頑張ってもらわねばならんな」
「そうですな。……あら? ちゅうコトは、ソコら辺の段取りはウチら式にやるっちゅうおつもりです?」
エリザに尋ねられ、ミェーチは深くうなずく。
「うむ。『舶来品』の方が何かとめでたくもあろう。それにこちらの慣習なぞ、結局は帝国の都合で作られたものばかりだ。我々に様々な辛苦を与えこそすれ、幸福などこれっぽっちも享受できぬ悪法ばかり押し付けるものであるからな。こちらから願い下げと言うものだ」
「さいでっか」
フンフンと鼻息荒く帝国を非難するミェーチに、エリザは薄く笑って返した。
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お国柄、お家柄。
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双月暦24年5月下旬、エリザは数人の丁稚とロウを伴い、ふたたび西山間部を訪ねていた。
「どないでっか?」
「どう、とは?」
この数ヶ月に渡り、旺盛な食欲を十二分に満たし続けることができたらしく、以前に比べて明らかに顔色の良くなったミェーチに尋ね返され、エリザはニコニコ笑って返す。
「まず第一、ダリノワ陛下にお願いして、他の豪族さんらとも連携取られへんかって言うてた話ですけども」
「問題無く進行しているようだ。傍から見ている分には、意外なほどすんなりまとまったと言う印象であるな。同じ帝国に狙われる身ではあるものの、お互い覇を競う間柄、そう簡単に手を組もう、連携しようなどと話がまとまりはすまいと思っていたのだが……」
ミェーチはそこで破顔し、肩をすくめる。
「事情はどこも同じであったのだろう。女史がかねてから提示していた諸条件――扶持と礼金、そして魔術指南を告げたところ、いずれも多少なり逡巡はあったが、結局はその条件を呑むことで協力を得ることができた」
「上々ですな。ほんで、兵隊さんは全部で何人くらいに?」
「豪族だけでも、総勢300と言うところである。吾輩の軍団を合わせれば、500に届くだろう」
「そんだけいてはるんやったら、今後の作戦には十分ですな。で、もういっこ頼んでたんはどないでしょ?」
「そちらも問題無い。……と言うか、吾輩には依頼内容自体に問題があるように感じるのだが」
「前にも説明しましたやん」
「う、うむ。勿論承知しておる。だが、不安が無いわけでは無い。言わば遊び呆けているようなものではないか」
「ソコんところも詳細に説明しましたやん。戦うより仲良うする方が、っちゅうて」
「うむ……うーむ」
納得行かなさそうな表情を浮かべるミェーチに構わず、エリザは話題を変える。
「ほんで、あっちの方はどないでしょ?」
「うん?」
「娘さんとお婿さんの話です。仲良うしてはりますか?」
エリザがその話題を出した途端、ミェーチは一転、顔をほころばせる。
「うむ、万事円満なようである。先日、ついにシェロより『此度の作戦が成功した暁には式を挙げる』と約束を取ってな」
「あら、よろしいやないですか。おめでとうございます」
「うむ、うむ。……あ、ときに女史」
と、ミェーチが首を傾げつつ、こんなことを尋ねる。
「そちらの邦では、夫婦とも元々の姓を名乗るものなのか?」
「はあ、そうですな。……ん?」
これを受けて、エリザも首を傾げる。
「っちゅうと、おたくさんは違うんですか?」
「うむ。夫の姓を名乗るのが慣習となっておる。が、家督を継ぐなどする場合には、その限りではないのだが。此度も吾輩の家を継いでもらうものと考えておったが、もしシェロの血筋が格ある名家であったなら、不都合もあろうかと考え、一度打診したのだ。ところがシェロの奴、妙な顔をしてな。『何故名を変えねばならぬのか』と問い返されてしまった」
「はー……、そうですな、そらアタシも変な顔してまいますな。ちょっとこっちではあらへんような考えですわ」
「左様であるか。では家を継ぐとしたらどうするのだ?」
「兄弟姉妹がいてたら、分けっこですな。一人やったりいてへんかったりやったら、血筋の他の者にっちゅう感じですわ。ソレでもアカンかったら養子とかですな」
「ふーむ……。吾輩の縁者は娘だけでな。妻も天涯孤独の身であったそうだし、本人も既にこの世におらん。となると二人に頑張ってもらわねばならんな」
「そうですな。……あら? ちゅうコトは、ソコら辺の段取りはウチら式にやるっちゅうおつもりです?」
エリザに尋ねられ、ミェーチは深くうなずく。
「うむ。『舶来品』の方が何かとめでたくもあろう。それにこちらの慣習なぞ、結局は帝国の都合で作られたものばかりだ。我々に様々な辛苦を与えこそすれ、幸福などこれっぽっちも享受できぬ悪法ばかり押し付けるものであるからな。こちらから願い下げと言うものだ」
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