「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第5部
琥珀暁・狐略伝 2
神様たちの話、第246話。
豪族連合。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2.
ミェーチと話している間に、会議の準備が整ったらしい。
「女将さん、団長さん、用意ができました。こちらにどうぞ」
「ありがとさん」
使いの者に連れられ、二人は会議の場へと向かう。と、エリザが使いの肩をトントンと叩き、ニヤニヤ笑いながら尋ねる。
「どないや?」
「え?」
「アタシは誤魔化されへんで? アンタ、こないだ指輪してへんかったやん。跡着いとるで、指」
指摘された途端、相手の顔が熊耳の先まで真っ赤に染まり、慌てて手を隠す。
「えぅっ、……あ、あー、こ、これは」
その手にポン、と手を置きつつ、エリザはこう続けた。
「お相手はどちらさん? や、当てたろか。隠そうとしたっちゅうコトは、村の娘とちゃうな?」
「あっ、あっ、あわわ」
「ああ、ああ、無理に言わんでええで。どの道、半月もしたらおおっぴらにでけるやろしな。そのつもりであの『お願い』やってもろてるんやし」
「あっ、ええ、そうですね。あの、俺、……が、頑張ります、俺」
「うんうん、よろしゅう」
相手はかくんかくんと首を振って踵を返し、先導を再開する。そのやり取りを眺めていたミェーチもエリザ同様、ニヤニヤと笑っていた。
「かっか、何とも青々しいものよ。傍で見ていて微笑ましいわい」
「ホンマですなぁ」
「はぅぅぅ……」
その後、彼は一度も振り返ることなく、エリザたちを案内してすぐ、そそくさと離れていった。
「遠方からはるばるご足労である、女将殿」
部屋にエリザが入るなり、円卓に着いていたダリノワ王が立ち上がり、深々と頭を下げる。
対するエリザもぺこ、と頭を下げ、挨拶を返す。
「ご無沙汰しとりました、陛下。……っと、他の皆さんとは初対面ですな。アタシはエリザ・ゴールドマンと言います。南の邦から遠征隊と共に参りました。こちらではお店やら何やらを細々やっとります。よろしゅう」
そう述べてもう一度頭を下げたところで、ダリノワ王と同様に席に着いていた、豪族の王たちが口を開く。
「エリザと申したか、女史のうわさはかねがね聞き及んでいる」
「絶世の美人と伺っておったが、なるほどなるほど、実に見目麗しい」
「うわさに違わぬ美貌であるな。いや、眼福である。良き目の保養だ」
「あらどーも」
称賛を受け、エリザはにこりと微笑んで返していたが、別の者たちがこんなことを言い出す。
「しかしわしが聞いていた限りでは、恐ろしき手練手管を用いる毒婦であるとか。左様には見えんな」
「然り。どんな女丈夫がやって来るかと思っておったが、ただ乳がでかい程度の女ではないか」
「一体どんな寝技でダリノワ王を口説いたやら。わしもあやかりたいものだ」
「はあ」
エリザはニコニコと笑みを浮かべたまま、左手をすい、と挙げる。
「ほなちょっとお休みしはります?」
「おう? 話が早いのう、ひひひ」
その王がニタニタと下卑た笑いを浮かべたところで、ダリノワ王がさっと顔を青ざめさせる。
「ち、ちと、カリーニン王よ。悪いことは申さぬ。謝った方が良いぞ」
「うん? 何を怯えておる、ダリノワ王? こんな女一人に何を恐れ……」
言い終わらないうちに、彼は白目を剥き、ばたん、と音を立てて卓に突っ伏した。
「なっ……」
突然のことに、他の王たちも目を丸くし、騒然となる。ダリノワ王も苦い表情を浮かべ、ぽつりとつぶやく。
「……だから言ったのだ。阿呆な奴め」
ただ一人、エリザはニコニコと笑顔を絶やさず、こう言ってのけた。
「何や寝言抜かしたはりましたから『おねんね』さしたりましたわ。他に眠いなー、夢見たいなーっちゅう方いらっしゃいます? アタシの『寝技』、めっちゃ効きますで?」
「……け、結構」
「つ、謹んで遠慮申し上げる」
「では、か、会議を始めよう」
エリザの威圧で、王たちは完全に恐れをなしたらしく、これ以降、軽口や下卑た冗談を言う者はいなかった。
@au_ringさんをフォロー
豪族連合。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2.
ミェーチと話している間に、会議の準備が整ったらしい。
「女将さん、団長さん、用意ができました。こちらにどうぞ」
「ありがとさん」
使いの者に連れられ、二人は会議の場へと向かう。と、エリザが使いの肩をトントンと叩き、ニヤニヤ笑いながら尋ねる。
「どないや?」
「え?」
「アタシは誤魔化されへんで? アンタ、こないだ指輪してへんかったやん。跡着いとるで、指」
指摘された途端、相手の顔が熊耳の先まで真っ赤に染まり、慌てて手を隠す。
「えぅっ、……あ、あー、こ、これは」
その手にポン、と手を置きつつ、エリザはこう続けた。
「お相手はどちらさん? や、当てたろか。隠そうとしたっちゅうコトは、村の娘とちゃうな?」
「あっ、あっ、あわわ」
「ああ、ああ、無理に言わんでええで。どの道、半月もしたらおおっぴらにでけるやろしな。そのつもりであの『お願い』やってもろてるんやし」
「あっ、ええ、そうですね。あの、俺、……が、頑張ります、俺」
「うんうん、よろしゅう」
相手はかくんかくんと首を振って踵を返し、先導を再開する。そのやり取りを眺めていたミェーチもエリザ同様、ニヤニヤと笑っていた。
「かっか、何とも青々しいものよ。傍で見ていて微笑ましいわい」
「ホンマですなぁ」
「はぅぅぅ……」
その後、彼は一度も振り返ることなく、エリザたちを案内してすぐ、そそくさと離れていった。
「遠方からはるばるご足労である、女将殿」
部屋にエリザが入るなり、円卓に着いていたダリノワ王が立ち上がり、深々と頭を下げる。
対するエリザもぺこ、と頭を下げ、挨拶を返す。
「ご無沙汰しとりました、陛下。……っと、他の皆さんとは初対面ですな。アタシはエリザ・ゴールドマンと言います。南の邦から遠征隊と共に参りました。こちらではお店やら何やらを細々やっとります。よろしゅう」
そう述べてもう一度頭を下げたところで、ダリノワ王と同様に席に着いていた、豪族の王たちが口を開く。
「エリザと申したか、女史のうわさはかねがね聞き及んでいる」
「絶世の美人と伺っておったが、なるほどなるほど、実に見目麗しい」
「うわさに違わぬ美貌であるな。いや、眼福である。良き目の保養だ」
「あらどーも」
称賛を受け、エリザはにこりと微笑んで返していたが、別の者たちがこんなことを言い出す。
「しかしわしが聞いていた限りでは、恐ろしき手練手管を用いる毒婦であるとか。左様には見えんな」
「然り。どんな女丈夫がやって来るかと思っておったが、ただ乳がでかい程度の女ではないか」
「一体どんな寝技でダリノワ王を口説いたやら。わしもあやかりたいものだ」
「はあ」
エリザはニコニコと笑みを浮かべたまま、左手をすい、と挙げる。
「ほなちょっとお休みしはります?」
「おう? 話が早いのう、ひひひ」
その王がニタニタと下卑た笑いを浮かべたところで、ダリノワ王がさっと顔を青ざめさせる。
「ち、ちと、カリーニン王よ。悪いことは申さぬ。謝った方が良いぞ」
「うん? 何を怯えておる、ダリノワ王? こんな女一人に何を恐れ……」
言い終わらないうちに、彼は白目を剥き、ばたん、と音を立てて卓に突っ伏した。
「なっ……」
突然のことに、他の王たちも目を丸くし、騒然となる。ダリノワ王も苦い表情を浮かべ、ぽつりとつぶやく。
「……だから言ったのだ。阿呆な奴め」
ただ一人、エリザはニコニコと笑顔を絶やさず、こう言ってのけた。
「何や寝言抜かしたはりましたから『おねんね』さしたりましたわ。他に眠いなー、夢見たいなーっちゅう方いらっしゃいます? アタシの『寝技』、めっちゃ効きますで?」
「……け、結構」
「つ、謹んで遠慮申し上げる」
「では、か、会議を始めよう」
エリザの威圧で、王たちは完全に恐れをなしたらしく、これ以降、軽口や下卑た冗談を言う者はいなかった。
- 関連記事



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[自作小説(ファンタジー)]
~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
~ Comment ~