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    「双月千年世界 4;琥珀暁」
    琥珀暁 第5部

    琥珀暁・狐略伝 4

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    神様たちの話、第248話。
    帝国属国の内部事情。

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    4.
     ハカラ王国の首都、ボリショイグロブ。この国は西山間部最北に位置しており、そのさらに北に点在する豪族らとの戦いの、最前線ともなっている。
     近隣の山々を知り尽くし、多方向から攻め込んでくる豪族に対抗する必要があるため、この国には他の各国よりも「機動力」が求められており、馬の飼育が盛んとなっている。
     当然、首都であるこの街には、あちこちに馬が繋がれており――。

    「臭いのう。獣臭がぷんぷんと臭うわ」
    「は……申し訳ございません」
     いかにも偉そうな格好と態度の男が、城の中から外を見下ろしながら、鼻をつまんで見せている。
    「屋内におっても、この臭さ。まったく垢抜けんところだわい」
    「汗顔の至りです。閣下御自ら、こんな僻地に足をお運びいただき……」
    「まったくだ。もう少しでもお前たちが役に立っておれば、このわしがこんな下賤な土地にまで来る必要など……」
     殊更にへりくだるこの城の主を、男は明らかに見下し、つらつらと罵倒の言葉をぶつけている。
    「そ、それで将軍閣下、今回のご用件をまだ伺っておりませんが」
    「うん? おお、そうであったな。いやなに、最近の豪族どもの動向が沈静化しておると聞いて、視察に参った次第である。本営の中には『とうとう我々に恐れをなしたか』などと楽観視する阿呆もおるが、わしは何らかの企みがあるものとにらんでおるのだ。故に豪族どもとの戦いの、最前線であるこの国を訪ねたのだが……」
    「はあ……。確かにここ数ヶ月、彼奴らと接触・交戦したと言うような報告は寄せられておりません。至って平和です」
    「それが臭い」
     そう切り返し、将軍はもう一度、窓の外に目をやる。
    「昨年の暮れまで跋扈しておった者どもが、こちらが何をしたわけでも無いのに、ぱたりと攻勢の手を止めるなど、何かしら企んでおるに違いない。であるからして、この周辺の警戒強化と共に、入念な偵察を行うよう命ずる」
    「御意」
     城主が平伏し、深々と頭を下げたところで――城に詰めている兵士が、慌てた顔で入ってきた。
    「た、大変です!」
    「なんじゃ、騒々しい。ここでは馬だけでなく、兵士もひぃひぃと鳴くのか」
    「し、失礼いたしました」
     城主はもう一度頭を下げ、兵士を叱る。
    「話の途中であるぞ! 一体何の用だ!?」
    「申し訳ございません! しかし今、襲撃を……」
    「襲撃だと!?」
     報告を聞くなり、将軍はかっと目を見開いた。
    「豪族どもか!?」
    「た、多分そうであると……」
     口ごもる兵士に、将軍は顔を真っ赤にして詰め寄る。
    「はっきり言えッ!」
    「あ、あの、攻撃と、多分、その、思うのですが」
    「ええい、ごちゃごちゃと! まず、何が起こっているのか言わんか!」
     散々怒鳴られ、兵士はぺこぺこと謝りつつ、しどろもどろに説明する。
    「し、失礼しました。ま、まずですね、城下町を巡回していた兵士が次々倒れまして、その端から、豪族と思しき者たちが現れ、縛り上げておりまして」
    「次々倒れて? いきなりか?」
    「そのそうです。しかし矢を射られた様子でもなく、突然、ばたりと。私も眼の前で、同僚がそうなるのを目にしまして、とっさにこちらまで戻りました」
    「ふむ。下手に助け起こそうものなら、お前も恐らく同じ目に遭っていただろう。その点は評価してやろう。だが豪族どもを一人も相手しなかったのか? やけに身なりが整っておるが」
    「もっ、申し訳ございません。多勢に無勢で……」
    「まあ良い。ともかく、敵に攻められているのであれば、こちらも打って出るだけの話だ。即刻兵を集め、迎撃せよ」
    「御意」
     城主はもう一度平伏し、兵士に命じた。
    「急いで集めてくれ。元々、兵士は首都に100名しかいないし、短期決戦を仕掛けられたら持ちこたえられんからな」
    「はっ!」
     兵士が敬礼し、その場を去ったところで、将軍がけげんな目を城主に向けた。
    「100名だと? 本軍より貴国には、常から300名を抱えておくよう命じられていたはずだろう?」
    「籍を置いているのは確かに300名なのですが、なにぶん、我が国もそう豊かではないので、常に城へ召し抱えるわけには……。残り200名は非正規兵、いわゆる民兵として通常は農村部におり、有事の際にのみ召集するようにしておりまして」
    「……まあ良い。いくらなんでも、100名すべて敵の手に落ちると言うことも無かろう」
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