「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第5部
琥珀暁・狐略伝 7
神様たちの話、第251話。
狐の計略。
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7.
エリザに促されるまま、成り行きで武装解除させられた兵士たちは、仕方無く結婚式に参加していた。
「さあ、飛び入りの方! どうぞ一杯!」
村の者から酒を勧められ、言われるがままに受け取る。
「どうも……」
所在無さげにちびちびと酒をすすっているところに、エリザがニコニコしながら近付いて来た。
「突然のお願い聞いてもろて、えらいすみませんなぁ」
「何を……」
何を勝手な、と文句を言いかけたが、その瞬間、いきなり弾き飛ばされた同僚の姿が脳裏に浮かび、口をつぐんでしまう。
「……話を聞きたいのだが。先程、話してくれると言っていただろう?」
「あ、はいはい」
エリザがすとん、と横に座ったところで、先程エリザに倒されたその同僚が、恐る恐る手を挙げる。
「さっきのは一体何です? 俺に仕掛けた、あの……」
「魔術ですわ」
「ま……じゅつ?」
「知りまへんか? 南の邦から来た人らのコトは?」
「うわさ程度です」
「アタシも南の方から来てるんですけどもね、そっちでは有名な技術っちゅうか、学問的なヤツですわ」
「はあ……?」
「それより俺が聞きたいのは」
先にエリザに話しかけられていた兵士が、再度口を開く。
「ここで行われていることと、ボリショイグロブで起こっていたことだ。どっちもあんたが関わっていると言っていたが」
「ええ。結婚式のコトはさっきお話しした通りですわ」
「だが、新郎は豪族の者に見える。何故王国の人間と結婚するんだ」
「そんなん本人たちの勝手ですやん。どっちも好きや、一緒に家庭作りたいて言うてるんですから」
「いや、異邦人のあんたには分からんだろうが、そんなことは帝国が許すはずが……」
「豪族の人らにとったら帝国さんの事情や法律なんか知ったこっちゃないですし、村の人らも、いらん横槍入れてくるようなもんに付き従うんやったら、まだ豪族さんらと仲良うする方がええやんな、と」
「なに……!? じゃあ、帝国に叛意(はんい)を?」
いきり立つ兵士に、エリザはニヤッと悪辣じみた笑みを見せる。
「結局、帝国さんらに従っとるんは、力ずくで言うコト聞かされとるからですやん? もっと力があって、話が分かるような人らが近くにおるんやったら、そらそっちに付きますわ」
「本当にそう思ってるのか? 豪族が帝国に勝てると?」
「確かに正直なところ、豪族さんらだけで勝つんは無理ですわ。せやから、色々結託してますねん」
「結託?」
「ええ。豪族さんらとミェーチ軍団、ソレからアタシらですな」
これを聞いて、兵士たちは顔を見合わせた。
「ミェーチ軍団って、こないだ門前払いされたって言ってた、あの……?」
「だろうな。で、そいつらが豪族と結託した、と。だが豪族と言ったって、ピンからキリまでいるだろう? 一体どこと……?」
「ソコら辺もアタシが話付けましてな。豪族のみなさん、一致団結してくれましてん。おかげで今回の作戦、随分上手いコト行ってるみたいですわ」
「なっ……」
もう一度顔を見合わせ、再度エリザに向き直る。
「あんた、何者なんだ? 帝国に反乱したり、豪族たちをまとめたり、……俺にはあんたが、とんでもない奴に思えてならない」
「言いましたやん。ちょと商売しとるだけですて」
この間ずっと笑みを絶やさず、不敵な態度でいたエリザに、兵士たちは絶句するしか無かった。
ようやく一人が、卓に置かれた酒をぐい、とあおり、恐る恐る尋ねる。
「その……、ボリショイグロブでの作戦にも加担してるって言ってたが、一体何をどうしたんだ? 曲がりなりにもハカラ王国の首都なんだから、守りは強固なはずなんだ。なのにいつの間にか、敵に侵入されていたし」
「ああ」
エリザはこの質問にも、笑って答えた。
「最初に中に入ったんは、豪族の人らとちゃいますねん。農村から手伝いに来てもろた、短耳の娘らですわ。腕っぷしは無いですけども、魔術の覚えはええ子ばっかりで。
ほんで巡回しとったり、詰所にいとったりしてはった兵士さんらを片付けてもろて、ほんで豪族さんらを招き入れた次第ですわ」
「なるほど……。豪族はほとんどが、熊耳や虎耳だからな。短耳はそう言う点で、ノーマークになる。そもそも『帝国に反旗を翻すのは豪族だ』と言う思い込みがあったし、農村の村娘なんかに警戒するわけが無い。それにあんた、さっきは武器らしい武器も無しに攻撃したよな。それが魔術なのか?」
「ええ、大体そう言うもんですわ」
「武器も無し、『熊』や『虎』でもなし、そもそも明らかに兵士と分かる身なりでなし、……じゃ、そりゃ素通しする。こっちの防衛網は、最初から機能してなかったんだな」
「そうなりますな」
にこりと笑うエリザに、兵士たちはとうとう、反抗心も敵対心も削がれてしまった。
「そうまで綺麗に作戦を組み立てられてるって言うなら、もう首都は陥落してるだろう。多分あのいけ好かない将軍も、西山間部基地に到着する前に捕まってるんだろうな」
「ああ、トブライネン将軍さんですな? ええ、捕まえたそうですわ。さっきリディアちゃん、……あーと、お手伝いしてもろてる娘から連絡受けてます」
「やっぱり。じゃ、俺たちの仕事は一つも無くなったってわけだ。……呑むかぁ」
「そうすっか……」
「あーあ……」
彼らは揃ってため息を一つ付き、それから卓上の料理に手を付け始めた。
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エリザに促されるまま、成り行きで武装解除させられた兵士たちは、仕方無く結婚式に参加していた。
「さあ、飛び入りの方! どうぞ一杯!」
村の者から酒を勧められ、言われるがままに受け取る。
「どうも……」
所在無さげにちびちびと酒をすすっているところに、エリザがニコニコしながら近付いて来た。
「突然のお願い聞いてもろて、えらいすみませんなぁ」
「何を……」
何を勝手な、と文句を言いかけたが、その瞬間、いきなり弾き飛ばされた同僚の姿が脳裏に浮かび、口をつぐんでしまう。
「……話を聞きたいのだが。先程、話してくれると言っていただろう?」
「あ、はいはい」
エリザがすとん、と横に座ったところで、先程エリザに倒されたその同僚が、恐る恐る手を挙げる。
「さっきのは一体何です? 俺に仕掛けた、あの……」
「魔術ですわ」
「ま……じゅつ?」
「知りまへんか? 南の邦から来た人らのコトは?」
「うわさ程度です」
「アタシも南の方から来てるんですけどもね、そっちでは有名な技術っちゅうか、学問的なヤツですわ」
「はあ……?」
「それより俺が聞きたいのは」
先にエリザに話しかけられていた兵士が、再度口を開く。
「ここで行われていることと、ボリショイグロブで起こっていたことだ。どっちもあんたが関わっていると言っていたが」
「ええ。結婚式のコトはさっきお話しした通りですわ」
「だが、新郎は豪族の者に見える。何故王国の人間と結婚するんだ」
「そんなん本人たちの勝手ですやん。どっちも好きや、一緒に家庭作りたいて言うてるんですから」
「いや、異邦人のあんたには分からんだろうが、そんなことは帝国が許すはずが……」
「豪族の人らにとったら帝国さんの事情や法律なんか知ったこっちゃないですし、村の人らも、いらん横槍入れてくるようなもんに付き従うんやったら、まだ豪族さんらと仲良うする方がええやんな、と」
「なに……!? じゃあ、帝国に叛意(はんい)を?」
いきり立つ兵士に、エリザはニヤッと悪辣じみた笑みを見せる。
「結局、帝国さんらに従っとるんは、力ずくで言うコト聞かされとるからですやん? もっと力があって、話が分かるような人らが近くにおるんやったら、そらそっちに付きますわ」
「本当にそう思ってるのか? 豪族が帝国に勝てると?」
「確かに正直なところ、豪族さんらだけで勝つんは無理ですわ。せやから、色々結託してますねん」
「結託?」
「ええ。豪族さんらとミェーチ軍団、ソレからアタシらですな」
これを聞いて、兵士たちは顔を見合わせた。
「ミェーチ軍団って、こないだ門前払いされたって言ってた、あの……?」
「だろうな。で、そいつらが豪族と結託した、と。だが豪族と言ったって、ピンからキリまでいるだろう? 一体どこと……?」
「ソコら辺もアタシが話付けましてな。豪族のみなさん、一致団結してくれましてん。おかげで今回の作戦、随分上手いコト行ってるみたいですわ」
「なっ……」
もう一度顔を見合わせ、再度エリザに向き直る。
「あんた、何者なんだ? 帝国に反乱したり、豪族たちをまとめたり、……俺にはあんたが、とんでもない奴に思えてならない」
「言いましたやん。ちょと商売しとるだけですて」
この間ずっと笑みを絶やさず、不敵な態度でいたエリザに、兵士たちは絶句するしか無かった。
ようやく一人が、卓に置かれた酒をぐい、とあおり、恐る恐る尋ねる。
「その……、ボリショイグロブでの作戦にも加担してるって言ってたが、一体何をどうしたんだ? 曲がりなりにもハカラ王国の首都なんだから、守りは強固なはずなんだ。なのにいつの間にか、敵に侵入されていたし」
「ああ」
エリザはこの質問にも、笑って答えた。
「最初に中に入ったんは、豪族の人らとちゃいますねん。農村から手伝いに来てもろた、短耳の娘らですわ。腕っぷしは無いですけども、魔術の覚えはええ子ばっかりで。
ほんで巡回しとったり、詰所にいとったりしてはった兵士さんらを片付けてもろて、ほんで豪族さんらを招き入れた次第ですわ」
「なるほど……。豪族はほとんどが、熊耳や虎耳だからな。短耳はそう言う点で、ノーマークになる。そもそも『帝国に反旗を翻すのは豪族だ』と言う思い込みがあったし、農村の村娘なんかに警戒するわけが無い。それにあんた、さっきは武器らしい武器も無しに攻撃したよな。それが魔術なのか?」
「ええ、大体そう言うもんですわ」
「武器も無し、『熊』や『虎』でもなし、そもそも明らかに兵士と分かる身なりでなし、……じゃ、そりゃ素通しする。こっちの防衛網は、最初から機能してなかったんだな」
「そうなりますな」
にこりと笑うエリザに、兵士たちはとうとう、反抗心も敵対心も削がれてしまった。
「そうまで綺麗に作戦を組み立てられてるって言うなら、もう首都は陥落してるだろう。多分あのいけ好かない将軍も、西山間部基地に到着する前に捕まってるんだろうな」
「ああ、トブライネン将軍さんですな? ええ、捕まえたそうですわ。さっきリディアちゃん、……あーと、お手伝いしてもろてる娘から連絡受けてます」
「やっぱり。じゃ、俺たちの仕事は一つも無くなったってわけだ。……呑むかぁ」
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