「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第5部
琥珀暁・乱心伝 1
神様たちの話、第253話。
晩餐の異変。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
「いつも、いつも、いつもだ。いつも思うことだが」
いつものハンたち4人、そして新たに加わったエマとで夕食を取っていた最中、やはりいつものように、ハンが酒の入ったグラスを片手に、愚痴を吐き始めた。
「どうしてエリザさんは、俺たちを軽視するんだかな。今回のことにしても、俺やクーですら詳しい経緯を知らされないままで、いきなり『西山間部の国3つを陥とした』と言ってきた。そして既に、残り2ヶ国の攻略も検討中である、とも。真面目に訓練してた俺たちが馬鹿みたいじゃないか」
「はあ」
「そーかもですねー」
この時点で既に愚痴を何周も聞かされているため、マリアとビートは生返事をしつつ、料理に目を向けている。
「これ美味しいですね」
「後でもっかい頼もっか」
ハンの隣に座るクーも、いかにも飽き飽きした様子で、グラスの縁に指を当て、くるくると撫でている。
「だからな、俺は……」
話が一巡したところで、クーはそのグラスから手を放し、ハンに目を向けた。
「ハン」
「ん? なんだ、クー?」
「ずっとお持ちになっていては、温もってしまうでしょう? こちらと交換なさい」
「ああ、悪いな」
クーから受け取ったグラスを手に取り、そのまま呑もうとしたところで――。
「あのさ、ハン」
これまでずっと黙々と酒を呑んでいたエマが、唐突に口を開いた。
「エマ?」
「黙って聞いてたけどさ、君って自分が特別な存在だと思い込んでるタイプのバカなんだね」
「な、なに?」
「ちょっと、エマ?」
愚痴が終わることを期待していたらしく、クーが困った顔を向ける。
「いいから」
が、エマは構わず、話を続ける。
「こないだも私言ったよね、遠征隊が今、ゼロからどんな期待をされてるかってさ」
「ああ。戦闘を仕掛け戦果を収めるように、だろう?」
「ソレさ、もういっこゼロの思惑があるってコト、分かってる?」
「どう言うことだ?」
「普段から君、平和主義者なコトほざいてるけどさ、ゼロんトコだってそう言うの、一杯いるだろ? そう言うヤツらが、遠征隊が北で力任せに侵攻してる、現地民を殺戮して回ってるって聞いたら、ソレを率いてるヤツ、つまり君や、何よりエリザのコトを、どう言う風に思うだろうね?」
「そんな風に言われたら、それは確かに、悪人と思うだろう」
「そう。そしてゼロは隙あらば、そう言う風に言ってやろうと狙ってるね。で、悪い評判をみんな君たちに押し付けて、自分はその成果だけを掠め取ろうとしてるね。つまり、実際に侵略した君たちをワルモノ扱いして遠ざけて、侵略した土地だけをもらっちゃおうって肚なのさ」
これを聞いて、ハンはとろんとしていた目を見開いた。
「ば、バカな! 陛下がそんな……」
「おバカは君だね。傍から見てたら明らかだってのに、当事者の君が『陛下がそんな下劣な真似をするなんて有り得ない』って、盲目的に信じ切ってる。ソレがおバカでなくて何だよって話だね。
エリザさえいなくなりゃ、残ったゼロは好き勝手なコトを言いたい放題。『遠征隊によって蹂躙された人々に補償を行う責任がある』とか何とかキレイゴト並べて、いいトコだけ全部持ってくつもりなのさ」
「い、いや、そんな……」
酔って赤くなったハンの顔が次第に、いつものように青ざめていく。畳み掛けるように、エマはこう続ける。
「あとさ、君がマジで真面目に真剣に考えるべきなのは、ゼロは君のコト、どうなろうが構わないって思ってるだろうってコトだからね?」
「な、なに?」
「繰り返すけど、今のゼロが重視してるのはエリザを排除するコトだ。『多少の犠牲』は目を瞑ろうとするだろうね。その犠牲が例え、親友の息子だろうとね」
「そんな……」
「『そんなバカな』? 『自分だけは守られる』って? エリザと一緒にこっちに送り込まれといて、ソレでまだ、『自分は特別』『助けてもらえる』って思ってる? だとしたら相当おめでたいね。きっとゼロが君のコト死刑だっつっても、当然とか仕方無いとか考えるんだろうね、君」
「う……ぐ」
ハンはとうとうグラスを卓に置き、すっかり顔を青くして、黙り込んでしまった。
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晩餐の異変。
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「いつも、いつも、いつもだ。いつも思うことだが」
いつものハンたち4人、そして新たに加わったエマとで夕食を取っていた最中、やはりいつものように、ハンが酒の入ったグラスを片手に、愚痴を吐き始めた。
「どうしてエリザさんは、俺たちを軽視するんだかな。今回のことにしても、俺やクーですら詳しい経緯を知らされないままで、いきなり『西山間部の国3つを陥とした』と言ってきた。そして既に、残り2ヶ国の攻略も検討中である、とも。真面目に訓練してた俺たちが馬鹿みたいじゃないか」
「はあ」
「そーかもですねー」
この時点で既に愚痴を何周も聞かされているため、マリアとビートは生返事をしつつ、料理に目を向けている。
「これ美味しいですね」
「後でもっかい頼もっか」
ハンの隣に座るクーも、いかにも飽き飽きした様子で、グラスの縁に指を当て、くるくると撫でている。
「だからな、俺は……」
話が一巡したところで、クーはそのグラスから手を放し、ハンに目を向けた。
「ハン」
「ん? なんだ、クー?」
「ずっとお持ちになっていては、温もってしまうでしょう? こちらと交換なさい」
「ああ、悪いな」
クーから受け取ったグラスを手に取り、そのまま呑もうとしたところで――。
「あのさ、ハン」
これまでずっと黙々と酒を呑んでいたエマが、唐突に口を開いた。
「エマ?」
「黙って聞いてたけどさ、君って自分が特別な存在だと思い込んでるタイプのバカなんだね」
「な、なに?」
「ちょっと、エマ?」
愚痴が終わることを期待していたらしく、クーが困った顔を向ける。
「いいから」
が、エマは構わず、話を続ける。
「こないだも私言ったよね、遠征隊が今、ゼロからどんな期待をされてるかってさ」
「ああ。戦闘を仕掛け戦果を収めるように、だろう?」
「ソレさ、もういっこゼロの思惑があるってコト、分かってる?」
「どう言うことだ?」
「普段から君、平和主義者なコトほざいてるけどさ、ゼロんトコだってそう言うの、一杯いるだろ? そう言うヤツらが、遠征隊が北で力任せに侵攻してる、現地民を殺戮して回ってるって聞いたら、ソレを率いてるヤツ、つまり君や、何よりエリザのコトを、どう言う風に思うだろうね?」
「そんな風に言われたら、それは確かに、悪人と思うだろう」
「そう。そしてゼロは隙あらば、そう言う風に言ってやろうと狙ってるね。で、悪い評判をみんな君たちに押し付けて、自分はその成果だけを掠め取ろうとしてるね。つまり、実際に侵略した君たちをワルモノ扱いして遠ざけて、侵略した土地だけをもらっちゃおうって肚なのさ」
これを聞いて、ハンはとろんとしていた目を見開いた。
「ば、バカな! 陛下がそんな……」
「おバカは君だね。傍から見てたら明らかだってのに、当事者の君が『陛下がそんな下劣な真似をするなんて有り得ない』って、盲目的に信じ切ってる。ソレがおバカでなくて何だよって話だね。
エリザさえいなくなりゃ、残ったゼロは好き勝手なコトを言いたい放題。『遠征隊によって蹂躙された人々に補償を行う責任がある』とか何とかキレイゴト並べて、いいトコだけ全部持ってくつもりなのさ」
「い、いや、そんな……」
酔って赤くなったハンの顔が次第に、いつものように青ざめていく。畳み掛けるように、エマはこう続ける。
「あとさ、君がマジで真面目に真剣に考えるべきなのは、ゼロは君のコト、どうなろうが構わないって思ってるだろうってコトだからね?」
「な、なに?」
「繰り返すけど、今のゼロが重視してるのはエリザを排除するコトだ。『多少の犠牲』は目を瞑ろうとするだろうね。その犠牲が例え、親友の息子だろうとね」
「そんな……」
「『そんなバカな』? 『自分だけは守られる』って? エリザと一緒にこっちに送り込まれといて、ソレでまだ、『自分は特別』『助けてもらえる』って思ってる? だとしたら相当おめでたいね。きっとゼロが君のコト死刑だっつっても、当然とか仕方無いとか考えるんだろうね、君」
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