「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第5部
琥珀暁・乱心伝 3
神様たちの話、第255話。
怒りのおかん。
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3.
エマからの叱咤を受けた、その3日後。
「なあ、ハンくん?」
西山間部から戻ってきたエリザが、心配そうな顔でハンを見つめてくる。
「なんです?」
「アンタ、熱でもあるんとちゃう?」
「は?」
突拍子も無い言葉をかけられ、ハンは目を丸くする。
「いきなり何なんですか」
「いつものアンタやったら、アタシ帰ってくるなり『なんでいつも勝手なコトするんだ』ってけしかけて来るやないの。せやのに今回、ずーと待ってんのに一向に来よらへんやん。調子でも悪いんちゃうって」
「そんなことはありません。健康です」
「ソレやったらええんやけどね。あ、ほんでな、アンタ来たら話しようと思って待っててんけどもな」
「話?」
尋ね返したハンに、エリザはこう切り出した。
「こないだ『頭巾』で言うた通り、今な、西山間部の5ヶ国のうち、ハカラ王国・レイス王国・オルトラ王国の3つがアタシら側になってんねんな。で、西山間部で残っとるんはスオミ王国とイスタス王国の2つやけど、こっちを攻めようと思たらどないしても、帝国さんの西山間部軍が出張ってきよるやん? ソレを何とかしようと思てな」
「なるほど」
「……ハンくん。ホンマに熱無いか?」
そう言ってエリザは前髪をかき上げ、ハンの額にぴと、と自分の額を当てた。
「無いです。何なんですか。近いですよ」
顔を離したハンに、エリザは首を傾げて返す。
「何なんですか、はこっちのセリフや。アンタ、いつものアレやったら『戦争なんてしません』やら何やら言うて突っかかるやんか」
「無論、するつもりはありませんし、エリザさんもそうでしょう?」
「……」
答えた途端、エリザの目がすー、と細くなる。
「ハンくん?」
「なんです?」
「エマちゃんに何や吹き込まれたんか?」
「なんでですか」
「ビートくんはアンタにずけずけモノ言うタイプやあらへんし、マリアちゃんはアンタが凹むようなコトは絶対言わへん。クーちゃんは強情張っても実は気ぃ弱いから、アンタがやいやい文句言うたら引っ込む娘や。となれば消去法で一人しかおれへんやろ」
「……特には、何も」
「『特には』? ほんならあるんやないの」
「う……」
「すっきり話しよし。いつものハンくんやないと、アタシも調子狂うわ」
「分かりましたよ、もう」
詰め寄られ、ハンは仕方無く白状した。
「……と言われまして」
「はぁーん?」
途端に、エリザは今までハンが聞いたことの無いような、怒りの混じった鼻息を漏らした。
「な、なんです?」
「そんなもん、ハラ立つやんか。自分の子に罵詈雑言かまされて、頭から酒びっしゃーって被されたなんて聞かされたら」
「あなたの子供ではないです」
「似たようなもんやろ」
くる、とエリザは身を翻し、すたすたと部屋の出口まで歩いて行く。
「エリザさん?」
「ちょっとオハナシしてくるわ」
「いや、あの、西山間部の話は?」
「そんなん後や」
怒りのこもった声色でそう返し、エリザは大股で出て行った。
エリザは勢い良くエマの執務室の扉を蹴飛ばし、ずかずかと中に押し入る。
「邪魔すんでー」
「邪魔すんなら帰ってね」
「あいよー、……て何でやねんな。用があるから来とんやろが」
机を挟んで相対し、両者ともにらみ合う。
「で、なに?」
「アンタ、随分好き勝手しとるらしいやないか」
「別にカミサマのご神託が下ったワケでもなし、好きにやらせてもらって何が悪いね?」
「けなして酒ブッかけるヤツがろくでなしの無礼者やなかったら、大抵のヤツは聖人やで」
「へーぇ? じゃあ聞いたの、私に泣かされましたわって。ろくでなしの愚か者の上に恥知らずか、あのおバカ娘。三冠達成だ……」
言い終わらない内に、エリザが魔杖を振り上げ、術を放つ。
「『ショックビート』!」
「ヘッ」
が――これまであらゆる益荒男たちを、一瞬の内に沈めてきたこの魔術を――エマは斜に構えたまま、右手をひょいと挙げ、指を鳴らして弾いた。
「……っ、う」
直後、エリザの狐耳からぼたっと、血が垂れる。それを見て、エマはニヤニヤ笑っている。
「さっすがぁ。反射術対策をしてたみたいだね。でなきゃ君は今頃、私の前でブザマ晒してたね」
「アンタな」
耳をぷる、と一振るいし、エリザは再度魔杖を向ける。
「コレ以上アタシを怒らす気ぃか?」
「勝手にプンプン怒ってろよ。バカを相手する気無いね」
「よぉ分かったわ。死にたいらしいな」
「安い挑発なんかするもんじゃないね。自分のバカを見せびらかすだけさ」
「挑発ぅ?」
エリザは魔杖を振り下ろし、火球を発生させた。
「アタシがコケおどしなんかするかいな。ガチのヤツや」
次の瞬間――部屋中に熱気と爆轟が発生し、窓と扉が残らず吹き飛んた。
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怒りのおかん。
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3.
エマからの叱咤を受けた、その3日後。
「なあ、ハンくん?」
西山間部から戻ってきたエリザが、心配そうな顔でハンを見つめてくる。
「なんです?」
「アンタ、熱でもあるんとちゃう?」
「は?」
突拍子も無い言葉をかけられ、ハンは目を丸くする。
「いきなり何なんですか」
「いつものアンタやったら、アタシ帰ってくるなり『なんでいつも勝手なコトするんだ』ってけしかけて来るやないの。せやのに今回、ずーと待ってんのに一向に来よらへんやん。調子でも悪いんちゃうって」
「そんなことはありません。健康です」
「ソレやったらええんやけどね。あ、ほんでな、アンタ来たら話しようと思って待っててんけどもな」
「話?」
尋ね返したハンに、エリザはこう切り出した。
「こないだ『頭巾』で言うた通り、今な、西山間部の5ヶ国のうち、ハカラ王国・レイス王国・オルトラ王国の3つがアタシら側になってんねんな。で、西山間部で残っとるんはスオミ王国とイスタス王国の2つやけど、こっちを攻めようと思たらどないしても、帝国さんの西山間部軍が出張ってきよるやん? ソレを何とかしようと思てな」
「なるほど」
「……ハンくん。ホンマに熱無いか?」
そう言ってエリザは前髪をかき上げ、ハンの額にぴと、と自分の額を当てた。
「無いです。何なんですか。近いですよ」
顔を離したハンに、エリザは首を傾げて返す。
「何なんですか、はこっちのセリフや。アンタ、いつものアレやったら『戦争なんてしません』やら何やら言うて突っかかるやんか」
「無論、するつもりはありませんし、エリザさんもそうでしょう?」
「……」
答えた途端、エリザの目がすー、と細くなる。
「ハンくん?」
「なんです?」
「エマちゃんに何や吹き込まれたんか?」
「なんでですか」
「ビートくんはアンタにずけずけモノ言うタイプやあらへんし、マリアちゃんはアンタが凹むようなコトは絶対言わへん。クーちゃんは強情張っても実は気ぃ弱いから、アンタがやいやい文句言うたら引っ込む娘や。となれば消去法で一人しかおれへんやろ」
「……特には、何も」
「『特には』? ほんならあるんやないの」
「う……」
「すっきり話しよし。いつものハンくんやないと、アタシも調子狂うわ」
「分かりましたよ、もう」
詰め寄られ、ハンは仕方無く白状した。
「……と言われまして」
「はぁーん?」
途端に、エリザは今までハンが聞いたことの無いような、怒りの混じった鼻息を漏らした。
「な、なんです?」
「そんなもん、ハラ立つやんか。自分の子に罵詈雑言かまされて、頭から酒びっしゃーって被されたなんて聞かされたら」
「あなたの子供ではないです」
「似たようなもんやろ」
くる、とエリザは身を翻し、すたすたと部屋の出口まで歩いて行く。
「エリザさん?」
「ちょっとオハナシしてくるわ」
「いや、あの、西山間部の話は?」
「そんなん後や」
怒りのこもった声色でそう返し、エリザは大股で出て行った。
エリザは勢い良くエマの執務室の扉を蹴飛ばし、ずかずかと中に押し入る。
「邪魔すんでー」
「邪魔すんなら帰ってね」
「あいよー、……て何でやねんな。用があるから来とんやろが」
机を挟んで相対し、両者ともにらみ合う。
「で、なに?」
「アンタ、随分好き勝手しとるらしいやないか」
「別にカミサマのご神託が下ったワケでもなし、好きにやらせてもらって何が悪いね?」
「けなして酒ブッかけるヤツがろくでなしの無礼者やなかったら、大抵のヤツは聖人やで」
「へーぇ? じゃあ聞いたの、私に泣かされましたわって。ろくでなしの愚か者の上に恥知らずか、あのおバカ娘。三冠達成だ……」
言い終わらない内に、エリザが魔杖を振り上げ、術を放つ。
「『ショックビート』!」
「ヘッ」
が――これまであらゆる益荒男たちを、一瞬の内に沈めてきたこの魔術を――エマは斜に構えたまま、右手をひょいと挙げ、指を鳴らして弾いた。
「……っ、う」
直後、エリザの狐耳からぼたっと、血が垂れる。それを見て、エマはニヤニヤ笑っている。
「さっすがぁ。反射術対策をしてたみたいだね。でなきゃ君は今頃、私の前でブザマ晒してたね」
「アンタな」
耳をぷる、と一振るいし、エリザは再度魔杖を向ける。
「コレ以上アタシを怒らす気ぃか?」
「勝手にプンプン怒ってろよ。バカを相手する気無いね」
「よぉ分かったわ。死にたいらしいな」
「安い挑発なんかするもんじゃないね。自分のバカを見せびらかすだけさ」
「挑発ぅ?」
エリザは魔杖を振り下ろし、火球を発生させた。
「アタシがコケおどしなんかするかいな。ガチのヤツや」
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