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    「双月千年世界 4;琥珀暁」
    琥珀暁 第5部

    琥珀暁・乱心伝 5

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    神様たちの話、第257話。
    爪痕。

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    5.
    「あのっ」
     と、クーが声を上げる。
    「お父様、あの、わたくしは、その、エマに、ろくでなしと断じられたのですけれど」
    《……うん、そう聞いてる》
    「お父様もわたくしのことは、下劣で誇れぬ人間とお考えでしょうか?」
    《それは無い。遠征隊の助けがあるとは言え、まだ17歳と言う若さで、危険な勢力が存在する土地へ飛び込む勇気を持つ君を、誇りに思わないわけが無い。安心してくれ、クー》
    「……ありがとう、……ございます」
     クーがふたたび黙り込んだところで、今度はゲートが尋ねてくる。
    《ソーンのことで一つ、確認してほしいんだが、彼女もハン、お前と同じように4人で班を組んでたんだ。一緒に来てるはずだが、みんなそっちで元気してるのか?》
    「どう言う意味だ?」
    《俺がお前の親父だからってのを差し引いても、お前の声に元気が無いのはすごく良く分かる。相当やり込められたんだろうなって、調子で分かる。ソーンが着いてから1ヶ月やそこらでそんなに凹まされるんなら、ずっと付き従ってた部下は大丈夫かなって》
     これを聞いて、エリザが腕を組んでうなる。
    「ふむー……。言われてみれば確かに、ちょと気になるトコではありますな。後で確認してみますわ」

     通信後、3人はすぐ、エマの部下たちに会いに行った。
    「邪魔すんでー、……ちょ?」
     顔を合わせたその瞬間、エリザは彼らが正常でないことを瞬間的に察した。何故なら――。
    「……ちょと聞くで。ご飯食べとる?」
    「はい」
    「今朝何食べたん?」
    「パンと水です」
    「パン、何個?」
    「1個です。でも大きかったので」
    「ゆうべのお夕飯は?」
    「パンと水です」
    「……何個?」
    「1個です。でも大きかったので」
    「ついでに聞くけども、昨夜の昼食は?」
    「さあ……思い出せないです」
    「パンと水か?」
    「あ、確かそうです。何で分かったんですか?」
    「……とりあえずな、みんな。アタシと一緒に食堂行くで。ちゃんとしたご飯食べよし」
     3人が3人ともガリガリに痩せこけ、目の焦点も合わない状態で、うつろな会話をしてきたからである。
     普段から公務では仏頂面を通しているハンでさえ、この異常を見て、愕然とした表情を見せていた。
    「お前たち、この半月、いや、3週間か、あまり顔を見ていなかったが、その、エマ、……いや、ソーン尉官に、何かされたのか?」
     名前を聞いた瞬間、3人はびくっと震え、後退りする。
    「い、いえ」
    「尉官には懇切丁寧にご指導いただいております」
    「尉官には問題はありません。むしろ……」「アタシな」
     と、エリザがにこっと笑みを向ける。
    「『君のこーゆートコがダメなんだよね』とか言うて『指導』名分で訓録垂れるヤツは、大ウソツキや思てるねん。ソレな、公に見てダメやろなっちゅうのを注意してるんやなくて、その指導しとるヤツ個人が気に入らんトコを、いかにも短所に聞こえるような、もっともらしい言葉に言い換えてけなしとるだけなんよ。
     ソイツにかかったら、真面目で職務に忠実なんは『自分の考えも持てへんアホ』やし、思慮深くて明日のコトまできちっと考える子は『うじうじ悩んでばかりで行動せえへんグズ』になるし、はっきり自分の意見と相手の問題点を伝えようとするしっかり者は『空気の読まれへん狂犬』扱いや」
    「えっ……」
    「そ、それ……」
    「どうして、知って……?」
     エリザの言葉を聞いた途端、3人ともぼたぼたと涙を流し、その場に座り込んでしまった。
    「ええコト教えたるで。エメリア・ソーン尉官はな、今、懲罰房送りになっとるねん。なんでか分かるか?」
    「ど、どうして?」
    「本人がいらんコトばっかり考えて誰彼構わず噛み付くアホやったからや。『人にアホ言うヤツがアホや』っちゅうこっちゃ。
     せやからな、アンタらはアホでもグズでもキチガイでもあらへん。全然そんなコト無い。安心し。アンタらはでける子や。アタシはよお見てるで、アンタらのコト」
    「う……ううー……」
    「先生ぇ……」
     泣き崩れる3人を優しく撫でるエリザを眺めながら――クーはそっと、ハンに耳打ちしていた。
    「非道に過ぎませんか? 人をこんな風に追い込むなんて……」
    「まったくだ。……これはもう、無期限拘束なんて処罰じゃ生ぬるいかも知れん」
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