「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第5部
琥珀暁・乱心伝 6
神様たちの話、第258話。
騒ぎだけを起こして。
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6.
エマの元部下を療養所に送ってすぐ、ハンたち3人は再度、エマについて話し合った。
「あまりにひどすぎます。エマを即刻除隊し、本国へ送り返すべきでしょう」
「極端なことは言いたくないですが、今回ばかりは俺もクーに同意します。一体彼らの他に後何人、同じように追い詰められた者がいるか。下手すれば自殺者が出かねない。そうなれば隊の士気が下がるどころじゃない。隊そのものが瓦解しかねません」
二人の意見を聞き、エリザもうなずく。
「アタシも同感や。やり口がエグすぎるわ。除隊と送還は決定や。
でもその前に、どう言うつもりでこんなコトしたんか、しっかり聞きに行かなな。意味も目的も無くこんなんするヤツが工事の指揮なんちゅうアタマ使うコト、よおでけるはずもあらへん。何かしらの思惑があるはずや」
「確かに」
1分もかからず全員一致で結論を出し、3人はエマが収監されている懲罰房へと向かった。
だが――。
「……これは!?」
懲罰房を監視していた兵士たちが軒並み床に倒れ、気を失っている。房も開いており、当然のごとく、中には誰もいない。
「逃げおったな」
「無茶苦茶だ」
ハンは額を両手で覆い、深いため息をつく。
「どうしますかね」
「どうもならんわ。こんだけスパっとキレイに消えられたら、後を追うんも無理やろ。……とりあえず報告と、今後のお話やね」
ハンたちは再度ゼロとゲートに連絡を取り、顛末を報告した。
《冗談みたいな話だな。いや、マジなんだろうけども。……で、どうすっかって話だが》
《ソーンに関しては不名誉除隊だろう。異論は無いね?》
「ええ」
「妥当ですな。無許可で房を抜け、その際に味方を攻撃したワケですし」
《合わせて、指名手配だ。自軍に被害をおよぼした人間を放っておいて、今後さらなる被害が発生しないとは断言できない。積極的に捜索し、身柄を拘束するべきだろう》
「了解しました」
こうして、エメリア・ソーンは第2中隊指揮官から一転、お尋ね者として全軍に追われる身となった。
「とは言え、捕まるとは思ってないがな」
いつものように、ハンはビートとマリア、そしてクーを伴い、夕食を取っていた。
「報告に上がってないし、陛下や親父からも聞いてないが、どうやらエマは魔術を使えるらしい。それも、相当の手練だ。でなきゃエリザさんの術を跳ね返したり、素手で懲罰房から脱走して兵士を倒したりなんてできないからな」
ハンの推察に、マリアがこう続ける。
「実際、あの後ソーン尉官の私室を憲兵班が確認したら、魔術書っぽいのが数点見付かったそうですし、長細い空き箱も残ってたらしいですよ。大きさと形からして、長いタイプの魔杖を入れとくやつっぽいって言ってました。エリザさんが使ってるのと同じくらいの」
「魔術書『っぽい』? 魔術書じゃないのか?」
尋ねたハンに、今度はビートが答える。
「僕も見てみたんですが、文字が変なんです。僕たちの字じゃ無さそうなんですよ」
「どう言うことだ? じゃあ、こっちの人間が魔術書を書いたってことか?」
「いえ、北方の文字でも無さそうでした。一応、こっちの人たちにも見せてみたんですが、ぽかんとしてました。『見たことない』と。エリザさんも一緒に検分してたんですが、すっごい険しい顔されてました。エリザさんにも多分、何がなんだかって感じだったんだと思います」
「そうか……」
と、クーが手を挙げる。
「療養所に送られた方たちは、ご無事ですの?」
「ああ。エリザさんが色々話して元気付けて、うまい飯をたっぷり食べさせて、ようやく落ち着いたらしい。だけど3人のうち2人は、かなり衰弱してるらしくてな。しばらく軍務には就けそうにないだろう。
ああ、そうだ。それで、残り1人のことなんだが、体調が戻り次第、うちの班に入れようかと思ってるんだ」
「え、そーなんですか?」
「ああ。元々真面目で勉強熱心なタイプだから、こっちの仕事にもすぐ、……いや」
ハンはクーのひんやりした視線に気付き、ぱたぱたと手を振って返す。
「今は測量させるつもりは無い。西山間部の状況も差し迫ってきているって話だし、こっちも動く必要があるとエリザさんから聞いてるからな。遠征隊の職務を優先する」
「『今は』?」
「……そんなににらむな。いずれ十分な余裕ができてから、職務の許容範囲内で行うつもりだ」
「あなた、まだご自分で行うおつもりなのかしら? いい加減に、他の方にお任せなさいと申し上げたはずですけれど」
「う……」
「それより、西山間部の状況とは? エリザさんからの周知の他に、何か情報が?」
尋ねられ、ハンはチラ、とマリアたちを一瞥しつつ答えた。
「ああ。……そうだな、そろそろお前たちにも経緯を説明しておこう。むしろ現時点で知ってないと、この後の行動が取り辛いだろうからな」
「と言うと?」
首を傾げる二人に、ハンとクーは、これまでエリザが仕掛けていたこと――遠征隊に知らせぬまま、ミェーチ軍団および豪族らと接触し、西山間部5ヶ国のうち3ヶ国を陥落させていたことを説明した。
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エマの元部下を療養所に送ってすぐ、ハンたち3人は再度、エマについて話し合った。
「あまりにひどすぎます。エマを即刻除隊し、本国へ送り返すべきでしょう」
「極端なことは言いたくないですが、今回ばかりは俺もクーに同意します。一体彼らの他に後何人、同じように追い詰められた者がいるか。下手すれば自殺者が出かねない。そうなれば隊の士気が下がるどころじゃない。隊そのものが瓦解しかねません」
二人の意見を聞き、エリザもうなずく。
「アタシも同感や。やり口がエグすぎるわ。除隊と送還は決定や。
でもその前に、どう言うつもりでこんなコトしたんか、しっかり聞きに行かなな。意味も目的も無くこんなんするヤツが工事の指揮なんちゅうアタマ使うコト、よおでけるはずもあらへん。何かしらの思惑があるはずや」
「確かに」
1分もかからず全員一致で結論を出し、3人はエマが収監されている懲罰房へと向かった。
だが――。
「……これは!?」
懲罰房を監視していた兵士たちが軒並み床に倒れ、気を失っている。房も開いており、当然のごとく、中には誰もいない。
「逃げおったな」
「無茶苦茶だ」
ハンは額を両手で覆い、深いため息をつく。
「どうしますかね」
「どうもならんわ。こんだけスパっとキレイに消えられたら、後を追うんも無理やろ。……とりあえず報告と、今後のお話やね」
ハンたちは再度ゼロとゲートに連絡を取り、顛末を報告した。
《冗談みたいな話だな。いや、マジなんだろうけども。……で、どうすっかって話だが》
《ソーンに関しては不名誉除隊だろう。異論は無いね?》
「ええ」
「妥当ですな。無許可で房を抜け、その際に味方を攻撃したワケですし」
《合わせて、指名手配だ。自軍に被害をおよぼした人間を放っておいて、今後さらなる被害が発生しないとは断言できない。積極的に捜索し、身柄を拘束するべきだろう》
「了解しました」
こうして、エメリア・ソーンは第2中隊指揮官から一転、お尋ね者として全軍に追われる身となった。
「とは言え、捕まるとは思ってないがな」
いつものように、ハンはビートとマリア、そしてクーを伴い、夕食を取っていた。
「報告に上がってないし、陛下や親父からも聞いてないが、どうやらエマは魔術を使えるらしい。それも、相当の手練だ。でなきゃエリザさんの術を跳ね返したり、素手で懲罰房から脱走して兵士を倒したりなんてできないからな」
ハンの推察に、マリアがこう続ける。
「実際、あの後ソーン尉官の私室を憲兵班が確認したら、魔術書っぽいのが数点見付かったそうですし、長細い空き箱も残ってたらしいですよ。大きさと形からして、長いタイプの魔杖を入れとくやつっぽいって言ってました。エリザさんが使ってるのと同じくらいの」
「魔術書『っぽい』? 魔術書じゃないのか?」
尋ねたハンに、今度はビートが答える。
「僕も見てみたんですが、文字が変なんです。僕たちの字じゃ無さそうなんですよ」
「どう言うことだ? じゃあ、こっちの人間が魔術書を書いたってことか?」
「いえ、北方の文字でも無さそうでした。一応、こっちの人たちにも見せてみたんですが、ぽかんとしてました。『見たことない』と。エリザさんも一緒に検分してたんですが、すっごい険しい顔されてました。エリザさんにも多分、何がなんだかって感じだったんだと思います」
「そうか……」
と、クーが手を挙げる。
「療養所に送られた方たちは、ご無事ですの?」
「ああ。エリザさんが色々話して元気付けて、うまい飯をたっぷり食べさせて、ようやく落ち着いたらしい。だけど3人のうち2人は、かなり衰弱してるらしくてな。しばらく軍務には就けそうにないだろう。
ああ、そうだ。それで、残り1人のことなんだが、体調が戻り次第、うちの班に入れようかと思ってるんだ」
「え、そーなんですか?」
「ああ。元々真面目で勉強熱心なタイプだから、こっちの仕事にもすぐ、……いや」
ハンはクーのひんやりした視線に気付き、ぱたぱたと手を振って返す。
「今は測量させるつもりは無い。西山間部の状況も差し迫ってきているって話だし、こっちも動く必要があるとエリザさんから聞いてるからな。遠征隊の職務を優先する」
「『今は』?」
「……そんなににらむな。いずれ十分な余裕ができてから、職務の許容範囲内で行うつもりだ」
「あなた、まだご自分で行うおつもりなのかしら? いい加減に、他の方にお任せなさいと申し上げたはずですけれど」
「う……」
「それより、西山間部の状況とは? エリザさんからの周知の他に、何か情報が?」
尋ねられ、ハンはチラ、とマリアたちを一瞥しつつ答えた。
「ああ。……そうだな、そろそろお前たちにも経緯を説明しておこう。むしろ現時点で知ってないと、この後の行動が取り辛いだろうからな」
「と言うと?」
首を傾げる二人に、ハンとクーは、これまでエリザが仕掛けていたこと――遠征隊に知らせぬまま、ミェーチ軍団および豪族らと接触し、西山間部5ヶ国のうち3ヶ国を陥落させていたことを説明した。
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