「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第5部
琥珀暁・乱心伝 7
神様たちの話、第259話。
新たなメンバーと新たな計画。
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7.
「そんなことしてたんですかー。全然気付きませんでした」
西山間部でのエリザの動向を聞き、マリアは目を丸くした。
「確かにちょくちょくエリザさん、こっちにいないなーとは思ってましたけど、ふつーに商売してるんだとばっかり」
「商売と言えば商売だろうな。取引するものが多少違うだけで」
「それで尉官、3ヶ国を占領したってことですけどー、そのまま残り2つも攻めるだけじゃないんですか? エリザさんから手を貸してほしいって話があったってことは……」
マリアに尋ねられ、ハンは短くうなずいて返す。
「そうだ。ここまでは言わば、奇襲作戦だった。だが同じ手を何度も使っていては、奇襲にならなくなる。遅かれ早かれ、相手に手の内が知られてしまうからな。だからここからは、戦法を変えると言う話だ。その戦法の一つとして、俺たち遠征隊が動くことを要請されたんだ」
「でもエリザさんも尉官も、戦闘を行うつもりはないんでしょう?」
ビートの言葉にもうなずいて返し、ハンはこう答える。
「そうだ。エマに言われて気付いたってのが癪だが――今、俺たちが実力行使に出れば、陛下に非難の口実を与えることになる。陛下は戦闘を行った俺たちを公然とそしり、何らかの処罰を与えるだろう。少なくとも、軍からの除隊は避けられない。エリザさんにしたって、どんな悪評を立てられるか分かったもんじゃない。そしてそれは、エリザさんの地位を大きく貶めることになる。
俺たちにとっても、エリザさんにとっても、その展開は決して望ましくないものだ。である以上、エリザさんはそうならないよう、あらゆる手段を講じて回避するだろう」
「回避とは、ちょとちゃうな」
と、ハンの背後から声がかけられる。
「エリザさん?」
「アカン方の道に行かへんようにするのんは同じやけど、アタシが考えとるんは『もっとええ道の建設』やね。ただ本道を迂回するだけやと、獣道やら何やら通らなアカンやん? ソレはしんどいから、もっと通りやすくて楽でけて早よ目的地に着ける道バーンと引いたった方が、後々ええやん?」
「なるほど。……それを言うためだけに来たわけではないですよね」
ハンはエリザの背後に立っている、短耳の女性に目を向ける。
「体調はもういいのか?」
「はい。大分良くなりました」
「そうか。……紹介する。彼女がさっき話した、シモン班の補充要員だ」
ハンに紹介され、女性はかちりと敬礼した。
「失礼します。メリベル・マイラ、19歳、上等兵です。ソーン尉官の元では資材管理を行っていました。至らない点は多々ありますが、よろしくご指導、ご鞭撻の程、お願いいたします」
「ハンニバル・シモン、尉官だ。よろしく頼む、マイラじょ……」
ハンが堅い挨拶で返そうとした途端、エリザが彼女の肩をぽんぽんと叩き、座るよう促した。
「はいはいメリーちゃん、ほな挨拶済んだし一緒にご飯食べよか」
「えっ、メリーちゃ、……えっ?」
相手が目を白黒させるのを尻目に、エリザはマリアに目配せする。マリアも察した様子で、彼女に声をかけた。
「あたしのいっこ下だね。あたしはマリア・ロッソ。よろしくね、メリーちゃん」
「えっ、あっ、は、はい」
「尉官はいっつもしかめっ面してるけど、人の言うことしっかり丁寧に聞いてくれる優しい人だから、何でも相談しなよ」
「りょ、了解です」
ビートも堅い挨拶を避け、気さくに声をかける。
「ビート・ハーベイです。よろしくです、メリーさん」
「……よ、ろしく」
ハンは一瞬、くだけた態度で接する二人を叱ろうかと考えたが――。
(そうすると多分、エリザさんが突っ込んでくるな。『ビビらせてどないすんねん』みたいなことを言って。だが、こっちでも萎縮させるのは、確かにあまりいい気分はしない。俺も倣うか)
ハンはコホン、と空咳し、改めて挨拶した。
「まあ、うちの班では気楽にやってもらって構わない。上官だ、後輩だからと言って、必要以上にかしこまったり、かしこまるのを強制したりはしない。だから俺も君のことはメリーと呼ぶが、それで構わないか?」
「は、はい」
「それじゃメリー、これからよろしく頼む」
「よろしくお願いします。……あの、早速ですが、尉官」
と、メリーが恐る恐ると言った様子で、手を挙げる。
「なんだ?」
「エリザ先生から、今度の軍事作戦にわたしが必要だと申し付けられたのですが」
「……うん?」
これを聞いて、ハンは首をかしげ、エリザに目を向ける。エリザはこくりとうなずき、こんなことを言ってきた。
「ソコら辺は今から説明するわ。あとな、マリアちゃん、ビートくん」
「なんでしょ?」
「はい」
「ゴメンやけど、アンタらその作戦、参加でけへんし」
「……へっ?」
突然の通達に、マリアもビートも、表情を凍り付かせた。
琥珀暁・乱心伝 終
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「そんなことしてたんですかー。全然気付きませんでした」
西山間部でのエリザの動向を聞き、マリアは目を丸くした。
「確かにちょくちょくエリザさん、こっちにいないなーとは思ってましたけど、ふつーに商売してるんだとばっかり」
「商売と言えば商売だろうな。取引するものが多少違うだけで」
「それで尉官、3ヶ国を占領したってことですけどー、そのまま残り2つも攻めるだけじゃないんですか? エリザさんから手を貸してほしいって話があったってことは……」
マリアに尋ねられ、ハンは短くうなずいて返す。
「そうだ。ここまでは言わば、奇襲作戦だった。だが同じ手を何度も使っていては、奇襲にならなくなる。遅かれ早かれ、相手に手の内が知られてしまうからな。だからここからは、戦法を変えると言う話だ。その戦法の一つとして、俺たち遠征隊が動くことを要請されたんだ」
「でもエリザさんも尉官も、戦闘を行うつもりはないんでしょう?」
ビートの言葉にもうなずいて返し、ハンはこう答える。
「そうだ。エマに言われて気付いたってのが癪だが――今、俺たちが実力行使に出れば、陛下に非難の口実を与えることになる。陛下は戦闘を行った俺たちを公然とそしり、何らかの処罰を与えるだろう。少なくとも、軍からの除隊は避けられない。エリザさんにしたって、どんな悪評を立てられるか分かったもんじゃない。そしてそれは、エリザさんの地位を大きく貶めることになる。
俺たちにとっても、エリザさんにとっても、その展開は決して望ましくないものだ。である以上、エリザさんはそうならないよう、あらゆる手段を講じて回避するだろう」
「回避とは、ちょとちゃうな」
と、ハンの背後から声がかけられる。
「エリザさん?」
「アカン方の道に行かへんようにするのんは同じやけど、アタシが考えとるんは『もっとええ道の建設』やね。ただ本道を迂回するだけやと、獣道やら何やら通らなアカンやん? ソレはしんどいから、もっと通りやすくて楽でけて早よ目的地に着ける道バーンと引いたった方が、後々ええやん?」
「なるほど。……それを言うためだけに来たわけではないですよね」
ハンはエリザの背後に立っている、短耳の女性に目を向ける。
「体調はもういいのか?」
「はい。大分良くなりました」
「そうか。……紹介する。彼女がさっき話した、シモン班の補充要員だ」
ハンに紹介され、女性はかちりと敬礼した。
「失礼します。メリベル・マイラ、19歳、上等兵です。ソーン尉官の元では資材管理を行っていました。至らない点は多々ありますが、よろしくご指導、ご鞭撻の程、お願いいたします」
「ハンニバル・シモン、尉官だ。よろしく頼む、マイラじょ……」
ハンが堅い挨拶で返そうとした途端、エリザが彼女の肩をぽんぽんと叩き、座るよう促した。
「はいはいメリーちゃん、ほな挨拶済んだし一緒にご飯食べよか」
「えっ、メリーちゃ、……えっ?」
相手が目を白黒させるのを尻目に、エリザはマリアに目配せする。マリアも察した様子で、彼女に声をかけた。
「あたしのいっこ下だね。あたしはマリア・ロッソ。よろしくね、メリーちゃん」
「えっ、あっ、は、はい」
「尉官はいっつもしかめっ面してるけど、人の言うことしっかり丁寧に聞いてくれる優しい人だから、何でも相談しなよ」
「りょ、了解です」
ビートも堅い挨拶を避け、気さくに声をかける。
「ビート・ハーベイです。よろしくです、メリーさん」
「……よ、ろしく」
ハンは一瞬、くだけた態度で接する二人を叱ろうかと考えたが――。
(そうすると多分、エリザさんが突っ込んでくるな。『ビビらせてどないすんねん』みたいなことを言って。だが、こっちでも萎縮させるのは、確かにあまりいい気分はしない。俺も倣うか)
ハンはコホン、と空咳し、改めて挨拶した。
「まあ、うちの班では気楽にやってもらって構わない。上官だ、後輩だからと言って、必要以上にかしこまったり、かしこまるのを強制したりはしない。だから俺も君のことはメリーと呼ぶが、それで構わないか?」
「は、はい」
「それじゃメリー、これからよろしく頼む」
「よろしくお願いします。……あの、早速ですが、尉官」
と、メリーが恐る恐ると言った様子で、手を挙げる。
「なんだ?」
「エリザ先生から、今度の軍事作戦にわたしが必要だと申し付けられたのですが」
「……うん?」
これを聞いて、ハンは首をかしげ、エリザに目を向ける。エリザはこくりとうなずき、こんなことを言ってきた。
「ソコら辺は今から説明するわ。あとな、マリアちゃん、ビートくん」
「なんでしょ?」
「はい」
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