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    「双月千年世界 4;琥珀暁」
    琥珀暁 第5部

    琥珀暁・狐謀伝 2

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    神様たちの話、第261話。
    オルトラ突破戦。

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    2.
     帝国本軍の通達によって、西山間部基地に駐留する兵士の中から200名、そしてスオミ王国とイスタス王国から召集された兵士300人が、オルトラ王国封鎖線の突破部隊として結成された。
    「いいか、今回の目的はオルトラ王国の封鎖線を解くことにある。こちらに実力を行使する準備があることを示唆した上で、話し合いを行うものとする。もしもそれで折り合いが付かないようであれば、遠慮はいらん。斬り殺してでも突破し、封鎖線を破壊せよ」
     将軍の命令を受け、部隊全軍に緊張が走る。
    「ずいぶん極端な、と驚く者もいるだろうが、昨今は情勢も緊迫している。ここで帝国の結束が乱れることがあれば、さらなる危機を招きかねない。それを鑑みれば、決して過敏な措置ではない。そのことを理解した上で行動せよ。以上だ」
     兵士たちのざわめきがまだ収まらないまま、突破部隊は進攻を開始した。

     西山間部基地を発って一週間ほどが経ち、西山間部軍はオルトラ王国の封鎖線まで接近した。
     大量の軍勢を目にし、明らかに動揺した様子を見せる封鎖線内のオルトラ王国軍兵士たちに、将軍が通達を行う。
    「我々は帝国西山間部方面監視基地の者だ! お前たちは帝国の了承を得ず街道および町の封鎖を行い、帝国の公益を損なっている! 即刻封鎖を解除し、道を開けろ!」
    「……」
     が、王国軍は何も答えず、槍や弓を構える。それを見て、将軍が再度通達する。
    「もう一度言うぞ! 道を開けろ! さもなくば我々は貴様らに危害を加えてでも、封鎖を突破する! 痛い目を見たくなければ、さっさと従え!」
    「……」
     再度威圧を受けても、王国軍は何も答えず、構えも解かない。しびれを切らしたらしく、将軍は背後の部下に命じる。
    「もう構ってられん! とっとと突破するぞッ!」
    「り、了解です!」
     怒り任せの命令を受け、部下たちは慌てて武器を構え、封鎖線に向かって進行し始めた。当然、王国軍は武器を向けつつも、後退し始める。
    「ふん、腰抜けどもめ! まあいい、このまま押し込んでしまえ!」
     自然と西山間部軍は王国軍を追う形となり、勢いに乗って奥へ、奥へと突き進んで行く。そうなってくると、当初戸惑い気味だった西山間部軍兵士たちも、調子に乗り出す。
    「い……行け行け、やっちまえ!」
    「おっ、おう!」
     やがて西山間部軍のほとんどが封鎖線を越え、陣地内のあちこちに入り込む。これに気を良くし、将軍は号令を発しようとした。
    「よし、このまま内部をかき回し、て……」
     が、その言葉が途中で詰まる。
     何故ならこの時、彼ののどに矢が刺さり、その出口を塞いでしまっていたからだ。

    「ぃよぉし、命中である!」
     敵将軍を射り、ミェーチは拳を振り上げてはしゃぐ。一方、傍らにいたシェロは、冷静に命令を下す。
    「これで敵の指揮系統は崩れた! 後は残った奴らを追い回せ!」
    「御意!」
     命令に従い、ミェーチ軍団の者たちが蜂起する。
    「う、うわっ、うわっ、うわあ!?」
    「よ、横、右っ、敵が!?」
    「左からも出たぞ!?」
     敵陣奥まで意気揚々と深入りしていた西山間部軍は一転、窮地に陥る。
    「閣下、ご命令を! ……閣下? か、閣下!?」
    「し、死んでる!? うわあああ!?」
    「ど、どうすんの、どうすんのこれ!?」
     命令を下す人間がいなくなり、西山間部軍は散り散りに逃げ始めた。その状況を確認し、シェロが再度命令する。
    「いいか、逃げるヤツは無理に追うな! 向かってくるヤツだけ相手しろ! 降参したら捕まえろ!」
    「了解!」
     つい先程まで追う立場だった西山間部軍は、あっさり追われる立場へと逆転する。
    「うおおおらああああッ!」
    「いい気になってんじゃねえぞゴラあああッ!」
    「俺たちをなめんじゃねええええッ!」
     自分たちより一回り、二回りも体格が違う、熊獣人や虎獣人の集団に追い回され、短耳ばかりの西山間部軍は血相を変え、ほうほうの体で逃げ回る。
    「ひっ、ひえっ、ひえあああ……」
    「ちょっ、まっ、だめっ」
    「ちょ、調子に乗るな、……ひいいいっ!」
     普段は帝国の威を笠に着、いばっていたであろう彼らは、今はみっともなく追い回される標的でしかなかった。



     こうして会敵から1時間も経たずに、西山間部軍は散り散りになって壊滅した。
     彼らを率いた将軍は、前述の通り死亡。500名の兵士もその半数が王国軍およびミェーチ軍団に拿捕され、残り半分も帝国本軍からの報復・処罰を恐れ、逃亡。帝国は惨敗を喫する形となった。
     そして当然、帝国に対して一方的に勝利したと言うこの事実を、単なる出来事として放っておくエリザではなく――ミェーチ軍団に命じて、この戦果を大々的に喧伝させた。
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