「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第5部
琥珀暁・狐謀伝 3
神様たちの話、第262話。
揺れる西山間部。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
「なんたることだ!」
帰投した兵士からの報告ではなく、街の巷説で情況を知らされたこともあり、帝国軍本営は苦々しい顔を揃えていた。
「500名からなる大部隊があっけなく全滅したばかりか、あられもないうわさとして早くも広まっているとは」
「そのうわさだが、どうやら敵方が流しているらしい」
「敵……か。海外人どもめ!」
一人が忌々しげにうなったところで、情報収集をした将軍が首を横に振る。
「いや、あのミェーチ軍団のようだ」
「と言うと、沿岸部を追い出された、あの?」
「うむ。確かにならず者集団と化した彼奴らにとって、帝国軍――の手先でしかないが――に勝利したと言う事実は、格好の宣伝材料となろう。既に西山間部では、帝国に対する信用が揺らいでいるとの報告も寄せられている」
「このまま看過すれば、スオミやイスタスも反帝国に転ずるやも、……と言うところか」
この一言に、将軍たちは揃って顔を見合わせた。
「そんなことがあっては、帝国が土台から揺らぎかねんぞ」
「然り。沿岸部はともかく、山間部の半分をも奪われるとなっては……」
「大勢がひっくり返ってしまう! 全土を支配し、覇権を握っていた我々が一転、追われる立場となってしまうだろう」
「それは……まずい」
「であるな」
もう一度顔を見合わせ、将軍たちは一様にため息を漏らす。
「どうすべきであろうか」
「このまま放っては置けん。まずはミェーチ軍団を殲滅し、西山間部の動揺を鎮めねば」
「当然である。……だが」
と、先程の将軍が手を挙げる。
「不穏なうわさも耳にしている」
「と言うと?」
「彼奴ら、どうやら豪族ども全員と結託し、連合を組んでいると言うのだ」
「なに……!?」
これを聞いて、円卓に着く全員に衝撃が走った。
「有り得ん! 唯我独尊の輩ばかりの豪族が、他の勢力と、ましてや沿岸部の奴らと手を組んだと言うのか!?」
「し、しかしそう考えれば、今回の惨敗も説明が付く。豪族と軍団が結託してオルトラなど3ヶ国を襲撃して占拠し、反帝国に仕立てたとすれば」
「なるほど、封鎖線内に引き寄せてから挟撃、と言うような策もできるわけか。小賢しい奴らめ」
「それだけでは無い。さらに軍団の奴ら、海外人とも手を組んでいると言うのだ」
「馬鹿な!」
この報告に、卓はまた揺れた。
「そんな、彼奴らにとって都合のいいことばかりが起きてたまるものか!」
「だが、聞いた話によれば、軍団の副団長は元々、海外人であったとか」
「なに……!? それが事実であれば、つながりがあると言うわけか」
「いや待て」
と、一人が手を挙げる。
「わしの持っている情報によれば、その副団長――ナイトマンとか言うそうだが――元々は確かに海外人の使節団だか遠征隊だかに在籍していたそうであるが、諍いを起こして放逐されたとも聞いておる。ほれ、沿岸部の一件が……」
「ふむ、ミェーチがノルド王国から離反したと言う、あの件か。そう言う経緯は確かに聞き及んでいる。……となると」
「海外人と手を組んだと言うその情報は、流石に嘘であろう。そのナイトマンが戦勝の勢いに乗るべく、欺瞞(ぎまん)工作を仕掛けたのだろうな」
「しかし、万一本当につながっていたとしたら」
「相手は200、300の小勢ではなく、1000を超える大軍勢と言うことになる。であればうかつな攻めは……」
「逆にこちらを危うくする、と言うわけか」
「この局面に来てさらなる敗北は、それこそ帝国の威光を地に墜とすことになる。慎重にならねば」
「うぬぬ……」
自分たちの危機的状況が仄見える中、軍本営の意見は錯綜し、次の手を打ちあぐねてしまっていた。
だが――事態はさらに、彼らにとって悪い方向に進展しようとしていた。
まだ敗北のショックから立ち直れないでいた西山間部基地を、ミェーチ軍団と豪族の連合軍が襲撃したのである。
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揺れる西山間部。
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「なんたることだ!」
帰投した兵士からの報告ではなく、街の巷説で情況を知らされたこともあり、帝国軍本営は苦々しい顔を揃えていた。
「500名からなる大部隊があっけなく全滅したばかりか、あられもないうわさとして早くも広まっているとは」
「そのうわさだが、どうやら敵方が流しているらしい」
「敵……か。海外人どもめ!」
一人が忌々しげにうなったところで、情報収集をした将軍が首を横に振る。
「いや、あのミェーチ軍団のようだ」
「と言うと、沿岸部を追い出された、あの?」
「うむ。確かにならず者集団と化した彼奴らにとって、帝国軍――の手先でしかないが――に勝利したと言う事実は、格好の宣伝材料となろう。既に西山間部では、帝国に対する信用が揺らいでいるとの報告も寄せられている」
「このまま看過すれば、スオミやイスタスも反帝国に転ずるやも、……と言うところか」
この一言に、将軍たちは揃って顔を見合わせた。
「そんなことがあっては、帝国が土台から揺らぎかねんぞ」
「然り。沿岸部はともかく、山間部の半分をも奪われるとなっては……」
「大勢がひっくり返ってしまう! 全土を支配し、覇権を握っていた我々が一転、追われる立場となってしまうだろう」
「それは……まずい」
「であるな」
もう一度顔を見合わせ、将軍たちは一様にため息を漏らす。
「どうすべきであろうか」
「このまま放っては置けん。まずはミェーチ軍団を殲滅し、西山間部の動揺を鎮めねば」
「当然である。……だが」
と、先程の将軍が手を挙げる。
「不穏なうわさも耳にしている」
「と言うと?」
「彼奴ら、どうやら豪族ども全員と結託し、連合を組んでいると言うのだ」
「なに……!?」
これを聞いて、円卓に着く全員に衝撃が走った。
「有り得ん! 唯我独尊の輩ばかりの豪族が、他の勢力と、ましてや沿岸部の奴らと手を組んだと言うのか!?」
「し、しかしそう考えれば、今回の惨敗も説明が付く。豪族と軍団が結託してオルトラなど3ヶ国を襲撃して占拠し、反帝国に仕立てたとすれば」
「なるほど、封鎖線内に引き寄せてから挟撃、と言うような策もできるわけか。小賢しい奴らめ」
「それだけでは無い。さらに軍団の奴ら、海外人とも手を組んでいると言うのだ」
「馬鹿な!」
この報告に、卓はまた揺れた。
「そんな、彼奴らにとって都合のいいことばかりが起きてたまるものか!」
「だが、聞いた話によれば、軍団の副団長は元々、海外人であったとか」
「なに……!? それが事実であれば、つながりがあると言うわけか」
「いや待て」
と、一人が手を挙げる。
「わしの持っている情報によれば、その副団長――ナイトマンとか言うそうだが――元々は確かに海外人の使節団だか遠征隊だかに在籍していたそうであるが、諍いを起こして放逐されたとも聞いておる。ほれ、沿岸部の一件が……」
「ふむ、ミェーチがノルド王国から離反したと言う、あの件か。そう言う経緯は確かに聞き及んでいる。……となると」
「海外人と手を組んだと言うその情報は、流石に嘘であろう。そのナイトマンが戦勝の勢いに乗るべく、欺瞞(ぎまん)工作を仕掛けたのだろうな」
「しかし、万一本当につながっていたとしたら」
「相手は200、300の小勢ではなく、1000を超える大軍勢と言うことになる。であればうかつな攻めは……」
「逆にこちらを危うくする、と言うわけか」
「この局面に来てさらなる敗北は、それこそ帝国の威光を地に墜とすことになる。慎重にならねば」
「うぬぬ……」
自分たちの危機的状況が仄見える中、軍本営の意見は錯綜し、次の手を打ちあぐねてしまっていた。
だが――事態はさらに、彼らにとって悪い方向に進展しようとしていた。
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