「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第1部
蒼天剣・討仇録 2
晴奈の話、24話目。
いなくなった友人。
2.
青江の街を海岸に沿って進みつつ、柊はこの街で道場を開いていると言うその人物について説明してくれた。
「彼の名前は楢崎瞬二。短耳で、わたしの9つ上の36歳。
今から7年前、焔流の免許皆伝を得て紅蓮塞を離れ、それ以来ずっとここに住んでいるの」
「なるほど」
郊外の住宅街に差し掛かったところで、柊が道の向こうにある大きな建物を指差す。
「あそこが道場。さ、行きましょ」
「はい」
だが、道場の前に立った途端、柊は首をかしげた。
「あ、れ……?」
道場に掲げられた看板には、「楢崎」と言う名前はどこにも無い。それどころか焔流の文字も家紋も、どこにも見当たらない。
「島、道場? あの、師匠?」
「お、おかしいわね? ここの、はずなんだけれど」
二人は顔を見合わせ、唖然とする。柊は動揺しているらしく、その口調はたどたどしい。
「あ、その、え? ……間違ってない、わよね、住所は。……ここ、よね。……しま、って誰なの? ……え? 楢崎は、どこに行っちゃったの?」
「あの、師匠。とりあえず中に入り、仔細を聞いてみてはいかがでしょうか?」
「そ、そうね」
恐る恐る、二人はその島道場に足を踏み入れる。途端に、中にいた門下生と思しき虎獣人に声をかけられた。
「おい、そこの女。うちに何の用だ」
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかしら?」
柊に尋ねられ、門下生は嫌そうな表情を浮かべた。
「何だ?」
「この道場って確か楢崎瞬二のもの、だったわよね?」
そう聞いた途端、門下生は顔を背ける。
「……し、らない」
門下生の動揺を読み取った柊は、もう一度尋ねてみる。
「知らないはずは無いわ。ここは確かに楢崎の道場だったはず。今、楢崎はどこにいるの?」
「知らないと言ったら知らない!」
門下生はブルブルと首を振り、頑なに否定する。その様子を見て、晴奈と柊は目で相槌を打つ。
(……参ったわね。これじゃ、埒が明かないわ)
(出直しましょうか?)
(そうね、それがいいかも)
二人はそのまま、道場を後にしようとしたが――。
「楢崎? ああ、わしが倒した、あの男のことか」
道場の奥から、白髪に白いヒゲをたくわえた、壮年の短耳が姿を現した。
「あなたが、島さん?」
いぶかしげに尋ねた柊に、男は大仰にうなずいて返す。
「いかにも。島竜王とは、わしのことだ」
晴奈と柊は、直感的にこの男の性格を見抜き――以前に良く似た男がいたため――また、目で会話する。
(うーん、クラウンみたいな奴ね)
(ええ、確かに)
「それで、楢崎が何だと?」
大儀そうに尋ねてきた島に、柊が聞き返した。
「あの、島さん、でしたか。楢崎を倒したとはつまり、道場破りをなさったと言うことでしょうか?」
「いかにも。ほんの3ヶ月前だが、ここで恥知らずにも道場を構えていた其奴を、わしがこらしめてやったのだ。
まったく、あの程度の力量で人を教えようとは、ふざけた男だ」
この言葉を聞いて晴奈は、一瞬だけ師匠の方に目をやった。
(……ああ、やっぱりだ)
晴奈の予想通り、柊から怒気が漏れていた。
だが彼女はよほどのことが無い限り、その怒りを表に出すことは無いと晴奈は知っているし、実際、この時は冷静に、柊は島に続けてこう尋ねていた。
「そうですか。今、楢崎はどちらに?」
島は大仰に首を振り、答える。
「知ったことか。今頃は自分の無能を嘆いて身投げでもして、魚や鳥のエサにでもなっているのかもな」
この返答に眉をひそめつつ、晴奈は再度、柊を見る。
無表情だったが、柊の目は確実に、怒りでたぎっていた。
道場を後にしたところで、柊は怒りをあらわにした。
「あの男に、楢崎が負ける? 信じられない! そんなこと、あり得ないわ!
楢崎の強さはわたしが良く知っている! 間違ってもあんな、性根の腐った奴に敗れるような男じゃない!
晴奈、一緒に楢崎を探しましょう。事の真偽を確かめないと」
「はい」
二人は市街地に移り、街の者に楢崎のことを尋ねてみた。
だがやはり、楢崎の行方は誰も知らないと言う。その代わりに聞いたのは、あの島と言う男の悪評ばかりだった。
「あの島と言う男、何でも楢崎さんと勝負する前に、何かを仕込んだとか。それに楢崎さんが引っかかって、その結果敗れてしまったそうだ」
「島は小ずるい男で、ああしてあちこちの道場を食い潰しているらしい。本人は名士気取りらしいが、実際は酒癖も手癖も悪い、鼻つまみ者だ」
「あいつが道場を乗っ取ってこの街に居座ってからと言うもの、道場界隈ではケンカが絶えないし、ご近所も迷惑してるそうだ」
ひどい評判に、晴奈は怒りに震えていた。
「何と言う下劣な奴だ!」
「本当、剣士の風上にも置けない奴ね。……何としてでも、楢崎を見つけないと」
柊も晴奈と動揺、憤っている。しかし、その一方で不安な様子も見せていた。
(やはり楢崎殿の消息がつかめぬことを、気にかけておられるらしい。見付かってほしいものだが……)
その後も懸命に聞き込みを続けたが、二人は結局楢崎本人を見付けることも、その消息をたどることもできなかった。
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いなくなった友人。
2.
青江の街を海岸に沿って進みつつ、柊はこの街で道場を開いていると言うその人物について説明してくれた。
「彼の名前は楢崎瞬二。短耳で、わたしの9つ上の36歳。
今から7年前、焔流の免許皆伝を得て紅蓮塞を離れ、それ以来ずっとここに住んでいるの」
「なるほど」
郊外の住宅街に差し掛かったところで、柊が道の向こうにある大きな建物を指差す。
「あそこが道場。さ、行きましょ」
「はい」
だが、道場の前に立った途端、柊は首をかしげた。
「あ、れ……?」
道場に掲げられた看板には、「楢崎」と言う名前はどこにも無い。それどころか焔流の文字も家紋も、どこにも見当たらない。
「島、道場? あの、師匠?」
「お、おかしいわね? ここの、はずなんだけれど」
二人は顔を見合わせ、唖然とする。柊は動揺しているらしく、その口調はたどたどしい。
「あ、その、え? ……間違ってない、わよね、住所は。……ここ、よね。……しま、って誰なの? ……え? 楢崎は、どこに行っちゃったの?」
「あの、師匠。とりあえず中に入り、仔細を聞いてみてはいかがでしょうか?」
「そ、そうね」
恐る恐る、二人はその島道場に足を踏み入れる。途端に、中にいた門下生と思しき虎獣人に声をかけられた。
「おい、そこの女。うちに何の用だ」
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかしら?」
柊に尋ねられ、門下生は嫌そうな表情を浮かべた。
「何だ?」
「この道場って確か楢崎瞬二のもの、だったわよね?」
そう聞いた途端、門下生は顔を背ける。
「……し、らない」
門下生の動揺を読み取った柊は、もう一度尋ねてみる。
「知らないはずは無いわ。ここは確かに楢崎の道場だったはず。今、楢崎はどこにいるの?」
「知らないと言ったら知らない!」
門下生はブルブルと首を振り、頑なに否定する。その様子を見て、晴奈と柊は目で相槌を打つ。
(……参ったわね。これじゃ、埒が明かないわ)
(出直しましょうか?)
(そうね、それがいいかも)
二人はそのまま、道場を後にしようとしたが――。
「楢崎? ああ、わしが倒した、あの男のことか」
道場の奥から、白髪に白いヒゲをたくわえた、壮年の短耳が姿を現した。
「あなたが、島さん?」
いぶかしげに尋ねた柊に、男は大仰にうなずいて返す。
「いかにも。島竜王とは、わしのことだ」
晴奈と柊は、直感的にこの男の性格を見抜き――以前に良く似た男がいたため――また、目で会話する。
(うーん、クラウンみたいな奴ね)
(ええ、確かに)
「それで、楢崎が何だと?」
大儀そうに尋ねてきた島に、柊が聞き返した。
「あの、島さん、でしたか。楢崎を倒したとはつまり、道場破りをなさったと言うことでしょうか?」
「いかにも。ほんの3ヶ月前だが、ここで恥知らずにも道場を構えていた其奴を、わしがこらしめてやったのだ。
まったく、あの程度の力量で人を教えようとは、ふざけた男だ」
この言葉を聞いて晴奈は、一瞬だけ師匠の方に目をやった。
(……ああ、やっぱりだ)
晴奈の予想通り、柊から怒気が漏れていた。
だが彼女はよほどのことが無い限り、その怒りを表に出すことは無いと晴奈は知っているし、実際、この時は冷静に、柊は島に続けてこう尋ねていた。
「そうですか。今、楢崎はどちらに?」
島は大仰に首を振り、答える。
「知ったことか。今頃は自分の無能を嘆いて身投げでもして、魚や鳥のエサにでもなっているのかもな」
この返答に眉をひそめつつ、晴奈は再度、柊を見る。
無表情だったが、柊の目は確実に、怒りでたぎっていた。
道場を後にしたところで、柊は怒りをあらわにした。
「あの男に、楢崎が負ける? 信じられない! そんなこと、あり得ないわ!
楢崎の強さはわたしが良く知っている! 間違ってもあんな、性根の腐った奴に敗れるような男じゃない!
晴奈、一緒に楢崎を探しましょう。事の真偽を確かめないと」
「はい」
二人は市街地に移り、街の者に楢崎のことを尋ねてみた。
だがやはり、楢崎の行方は誰も知らないと言う。その代わりに聞いたのは、あの島と言う男の悪評ばかりだった。
「あの島と言う男、何でも楢崎さんと勝負する前に、何かを仕込んだとか。それに楢崎さんが引っかかって、その結果敗れてしまったそうだ」
「島は小ずるい男で、ああしてあちこちの道場を食い潰しているらしい。本人は名士気取りらしいが、実際は酒癖も手癖も悪い、鼻つまみ者だ」
「あいつが道場を乗っ取ってこの街に居座ってからと言うもの、道場界隈ではケンカが絶えないし、ご近所も迷惑してるそうだ」
ひどい評判に、晴奈は怒りに震えていた。
「何と言う下劣な奴だ!」
「本当、剣士の風上にも置けない奴ね。……何としてでも、楢崎を見つけないと」
柊も晴奈と動揺、憤っている。しかし、その一方で不安な様子も見せていた。
(やはり楢崎殿の消息がつかめぬことを、気にかけておられるらしい。見付かってほしいものだが……)
その後も懸命に聞き込みを続けたが、二人は結局楢崎本人を見付けることも、その消息をたどることもできなかった。



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楢崎とは随分日本人な
道場破りか
まさか本当にそういうのあるとはね
この爺さんに負けたのムカつくな
良くいるなこういう奴
戦う前に勝負を優位を進める仕込みをする
雑魚だぬ
一流にはなれん奴だ
二流がいいとこだ
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