「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第5部
琥珀暁・狐謀伝 4
神様たちの話、第263話。
西山間部基地襲撃。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
「敵襲! 敵襲!」
まだ空気も温まらぬ早朝から、西山間部基地は緊張に包まれていた。
「北北西の方角より、多数の獣人が出現しました! 恐らく本営より通達のあった、ミェーチ軍団と豪族らの連合軍と思われます!」
「何ぃ!?」
報告を受け、基地司令は青ざめる。
「数は!?」
「500を超えているものと」
「500か……。現状で対処し切れん数ではないか。よし、迎撃だ!」
「了解です!」
大慌てで迎撃準備を整える中、司令は机に貼られた近隣地図を――例によって、ハンが見れば「なんだ、この落書きは?」と嘆きそうな程度のものでしかないが――確認しつつ、深呼吸する。
(落ち着け……落ち着け……、そう、そうだ、相手の動きを見極めねば。
本営からの通達では、敵は恐らくオルトラ王国まで版図を拡げているだろうとのことだったな。近隣に陣を張ったと言う報告は無かった。と言うことは、奴らはオルトラ王国からスオミ、イスタスを一気に通過し、ここまで突っ切ってきたのだろう。となれば、相当の疲労があるはず。しっかり陣形を固めて押し返せば、容易に撃退し得るだろう)
そう判断し、積極策を採って迎え撃とうとしたが――。
「左翼側が撃破されそうです!」
「右翼側、敵勢を抑え切れません!」
「至急、増員願います!」
疲労困憊と思われていた連合軍は、微塵もそんな様子を見せず、元気一杯に防衛線を押し潰してきたのである。
(な……何故だ!? いくら体格で上回る奴らとは言え、どう考えても、敵陣を強行突破してきたばかりの動きでは、……そうか、しまった!)
司令室で報告を受けていた司令は、再度地図に目をやり、重大な事実に気付く。
(平時であれば、属国から敵の動きを知らせに来る手筈になっている。だが先のオルトラ防衛線突破作戦で、スオミもイスタスも人員を150名ずつ、手持ちの半分も送った上、それがすべて戻って来ていないのだ! 通常の半分の人員では、その通知体制がまともに機能しているはずが無い!
であれば、彼奴らは敵陣で休養を取れる間も、余裕綽々でゆっくり進軍する間も十分にあったと言うわけか。迎撃ではなく、防御を固めて本国の応援を呼ぶべきだった。……くそッ!)
司令の判断ミスは、すぐさま迎撃戦の情況に影響する。
「防衛線、突破されました!」
「現在、基地城壁が攻撃されています!」
「攻勢を抑え切れません! 閣下、ご指示を!」
「う……ううっ」
司令は頭を抱え、絶望的な結末を迎えることを覚悟した。
ところが――。
「司令! そ、その、妙なことが」
「こ、今度は何だ!?」
「敵が突然、撤退しました」
「……は?」
司令は顔を上げ、尋ね返す。
「敵がどうしたと?」
「引き返しました。あわや城壁を乗り越えてくるかと言う状況だったのですが、突然慌てたような様子で、逃げ出しまして」
「ど、……どう言うことだ?」
司令は慌てて窓の外に身を乗り出し、基地の外を確認する。伝令が伝えた通り、連合軍はこの時既に、元来た方角の彼方へと走り去っていた。
「……わ、わけが分からん」
こうして――特に西山間部軍側が戦果を上げた要素も無く、基地防衛戦は終息してしまった。
この結果を報告され、軍本営はまたも、揃って首をかしげていた。
「一体何があったのだ?」
「分からん。どうにか属国に調査させたが、彼奴らは大慌てでオルトラ王国へ引き返したとしか」
「ううむ……?」
明確な回答が無いため、この話題は自然に途切れる。
「ところで、西山間部基地の被害状況は?」
「人的被害は約200名だ。先のオルトラ突破失敗の被害と合わせれば、基地の人員は最早半分以下、500を切った状況にある。基地自体も壁や城門の損傷が激しい。大掛かりな修復を要するだろう」
「となると、基地としての機能は難しいな。この状況でまた襲撃されようものなら……」
「次は守り切れんだろう。そして基地が陥落すれば、帝国の支配は届かなくなる。彼奴らは悠然とスオミ、イスタスを口説き、自軍に引き入れるだろう」
「早急に対処せねば。帝国本軍より人員を送り、基地修復と防衛力強化を急がせよ」
「御意」
と、ある将軍の元に一人、兵士がやって来る。
「どうした? ……ふむ、……ふむ、……ははあ、なるほど。そう言うことであったか」
兵士に耳打ちされ、その将軍はニヤリと笑った。
「なんだ?」
「彼奴らがいきなり逃げ出した原因が判明したのだ」
そう返しつつ、将軍はまた、ニヤリと笑った。
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西山間部基地襲撃。
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「敵襲! 敵襲!」
まだ空気も温まらぬ早朝から、西山間部基地は緊張に包まれていた。
「北北西の方角より、多数の獣人が出現しました! 恐らく本営より通達のあった、ミェーチ軍団と豪族らの連合軍と思われます!」
「何ぃ!?」
報告を受け、基地司令は青ざめる。
「数は!?」
「500を超えているものと」
「500か……。現状で対処し切れん数ではないか。よし、迎撃だ!」
「了解です!」
大慌てで迎撃準備を整える中、司令は机に貼られた近隣地図を――例によって、ハンが見れば「なんだ、この落書きは?」と嘆きそうな程度のものでしかないが――確認しつつ、深呼吸する。
(落ち着け……落ち着け……、そう、そうだ、相手の動きを見極めねば。
本営からの通達では、敵は恐らくオルトラ王国まで版図を拡げているだろうとのことだったな。近隣に陣を張ったと言う報告は無かった。と言うことは、奴らはオルトラ王国からスオミ、イスタスを一気に通過し、ここまで突っ切ってきたのだろう。となれば、相当の疲労があるはず。しっかり陣形を固めて押し返せば、容易に撃退し得るだろう)
そう判断し、積極策を採って迎え撃とうとしたが――。
「左翼側が撃破されそうです!」
「右翼側、敵勢を抑え切れません!」
「至急、増員願います!」
疲労困憊と思われていた連合軍は、微塵もそんな様子を見せず、元気一杯に防衛線を押し潰してきたのである。
(な……何故だ!? いくら体格で上回る奴らとは言え、どう考えても、敵陣を強行突破してきたばかりの動きでは、……そうか、しまった!)
司令室で報告を受けていた司令は、再度地図に目をやり、重大な事実に気付く。
(平時であれば、属国から敵の動きを知らせに来る手筈になっている。だが先のオルトラ防衛線突破作戦で、スオミもイスタスも人員を150名ずつ、手持ちの半分も送った上、それがすべて戻って来ていないのだ! 通常の半分の人員では、その通知体制がまともに機能しているはずが無い!
であれば、彼奴らは敵陣で休養を取れる間も、余裕綽々でゆっくり進軍する間も十分にあったと言うわけか。迎撃ではなく、防御を固めて本国の応援を呼ぶべきだった。……くそッ!)
司令の判断ミスは、すぐさま迎撃戦の情況に影響する。
「防衛線、突破されました!」
「現在、基地城壁が攻撃されています!」
「攻勢を抑え切れません! 閣下、ご指示を!」
「う……ううっ」
司令は頭を抱え、絶望的な結末を迎えることを覚悟した。
ところが――。
「司令! そ、その、妙なことが」
「こ、今度は何だ!?」
「敵が突然、撤退しました」
「……は?」
司令は顔を上げ、尋ね返す。
「敵がどうしたと?」
「引き返しました。あわや城壁を乗り越えてくるかと言う状況だったのですが、突然慌てたような様子で、逃げ出しまして」
「ど、……どう言うことだ?」
司令は慌てて窓の外に身を乗り出し、基地の外を確認する。伝令が伝えた通り、連合軍はこの時既に、元来た方角の彼方へと走り去っていた。
「……わ、わけが分からん」
こうして――特に西山間部軍側が戦果を上げた要素も無く、基地防衛戦は終息してしまった。
この結果を報告され、軍本営はまたも、揃って首をかしげていた。
「一体何があったのだ?」
「分からん。どうにか属国に調査させたが、彼奴らは大慌てでオルトラ王国へ引き返したとしか」
「ううむ……?」
明確な回答が無いため、この話題は自然に途切れる。
「ところで、西山間部基地の被害状況は?」
「人的被害は約200名だ。先のオルトラ突破失敗の被害と合わせれば、基地の人員は最早半分以下、500を切った状況にある。基地自体も壁や城門の損傷が激しい。大掛かりな修復を要するだろう」
「となると、基地としての機能は難しいな。この状況でまた襲撃されようものなら……」
「次は守り切れんだろう。そして基地が陥落すれば、帝国の支配は届かなくなる。彼奴らは悠然とスオミ、イスタスを口説き、自軍に引き入れるだろう」
「早急に対処せねば。帝国本軍より人員を送り、基地修復と防衛力強化を急がせよ」
「御意」
と、ある将軍の元に一人、兵士がやって来る。
「どうした? ……ふむ、……ふむ、……ははあ、なるほど。そう言うことであったか」
兵士に耳打ちされ、その将軍はニヤリと笑った。
「なんだ?」
「彼奴らがいきなり逃げ出した原因が判明したのだ」
そう返しつつ、将軍はまた、ニヤリと笑った。
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ブログ記事、3000件到達。丸11年かけてたどり着きました。
開始が2008年10月、1000件の時が「火紅狐」連載中の2011年3月、
2000件の時が「白猫夢」連載中の2014年11月なので、
1→1000が2年5ヶ月、1000→2000が3年8ヶ月、そして2000→3000が4年11ヶ月。
結構ペースダウンしているようです。
とは言え、まだまだやりたいことは山のようにあるので、
僕が死ぬか何かしない限り、休止状態になることは絶対にありません。
このペースで行くと4000件到達は恐らく6年2ヶ月後、2025年12月頃になりますが、
その時もきっとこうして、まだまだやるよとお伝えするつもり満々です。
恐らくその頃、双月シリーズは次々回作くらいまで進んでいるかも知れません。
きっと「DW」の次回作も進行中でしょう。
旅岡さんはタピオカに飽きているかも知れません。
もしかしたら何か新しいものを連載しているかも。
ただ、何があるにせよ――確実に僕は、何かしらやってます。やり続けています。
引き続き、お楽しみに!
……これ書いた翌日に死んだら最悪にドラマチックだなぁと思うのは、モノ書きの性か。
無論、死ぬわけに行きませんが。
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開始が2008年10月、1000件の時が「火紅狐」連載中の2011年3月、
2000件の時が「白猫夢」連載中の2014年11月なので、
1→1000が2年5ヶ月、1000→2000が3年8ヶ月、そして2000→3000が4年11ヶ月。
結構ペースダウンしているようです。
とは言え、まだまだやりたいことは山のようにあるので、
僕が死ぬか何かしない限り、休止状態になることは絶対にありません。
このペースで行くと4000件到達は恐らく6年2ヶ月後、2025年12月頃になりますが、
その時もきっとこうして、まだまだやるよとお伝えするつもり満々です。
恐らくその頃、双月シリーズは次々回作くらいまで進んでいるかも知れません。
きっと「DW」の次回作も進行中でしょう。
旅岡さんはタピオカに飽きているかも知れません。
もしかしたら何か新しいものを連載しているかも。
ただ、何があるにせよ――確実に僕は、何かしらやってます。やり続けています。
引き続き、お楽しみに!
……これ書いた翌日に死んだら最悪にドラマチックだなぁと思うのは、モノ書きの性か。
無論、死ぬわけに行きませんが。



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双月千年世界 3;白猫夢

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双月千年世界 2;火紅狐

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双月千年世界 1;蒼天剣

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