「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第5部
琥珀暁・狐謀伝 5
神様たちの話、第264話。
嘘か真か、そのうわさ。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
「原因?」
「それは何だ?」
尋ねられ、将軍は得意げに説明する。
「先日、ミェーチ軍団が海外人とも結託していると言う情報があっただろう? それが欺瞞であったことが確定したのだ」
「裏が取れたと?」
「うむ。と言うのも、彼奴らが大慌てで逃げ出したのは、その海外人が西山間部へ進攻してきたからなのだ」
「うん?」
「遡上の理由は容易に想像が付く。海外人も版図を拡げんとしているのだろう。だが、それは軍団にとっては望まざる事態、であるからこそ大急ぎで戻ってきたのだ。大方、『軍団と海外人にはつながりがある』、『もしもの場合には海外人が助太刀してくれる』とでも吹聴して、属国を軍門に引き入れたのだろうからな」
「なるほど、本当に海外人がやって来れば、その嘘が明らかになる。そうなれば属国も掌を返し、離反する。彼奴らにしてみれば、外来人の山間部遡上はどうあっても阻止しなければならぬ、と言うわけだ」
「うむ。加えて、その嘘で豪族をも味方に付けていたらしい」
「では、豪族も手を引こうとしている、と?」
「確証は無いが、その気配はある。相当揉めている様子が、斥候により確認されているそうだ」
「ほほう」
相手の混乱を聞き、円卓に並ぶ顔が悪辣に歪む。
「となれば、好機であるな」
「左様。ここで軍団を仕留めさえすれば、豪族の連合も解消され、当座の危機は去る。無論、海外人の問題は残ってはいるが、どうにか面目も立つであろう」
「でなければ今度こそ、我々は陛下に……」
「それ以上は口にするな。……恐ろしいことだ」
「うむ……」
敵の不和を聞き付けた帝国軍本営は、確実に軍団を討つべく、帝国本国から新たに500名の兵士を西山間部基地に送り、基地の防衛能力を復活させるとともに、基地周辺の警戒態勢を強化し、軍団の再襲に備えた。
そして程無く帝国軍本営は、一度北へ戻っていた敵勢力が、今度は軍団だけで南下し始めたとの情報を入手した。
「軍団単騎で、か。察するに、豪族との関係が決裂したと見える」
「いや、そうとも限らん。海外人の問題もあることであるし、豪族にとっても敵となる存在だ。豪族は北で、海外人を食い止めておるのやもな」
「どちらにしても、今度は軍団のみ。こちらの1000名に比べれば、200の小勢だ。いざぶつかれば、容易に撃破できる」
「加えて、退路は無しだ。逃げ帰ったところで、折り合いの悪くなった豪族か、あるいは海外人と戦う羽目になるであろうからな。南へ活路を開くしか、彼奴らに道は残されておらんのだ」
「ふっふっふ……。ここまで散々、我々を愚弄してきたが、軍団の命運もここに尽きたと言うわけだ」
双月暦では24年8月の頃、ミェーチ軍団はふたたび、西山間部基地を襲撃した。だが前述の通り、今度は豪族らを伴わない、200名程度の小勢であり――。
「左翼、敵撤退を確認! 現在、追走しています!」
「右翼側も現在、散り散りになった敵を追っています!」
「よし、よし!」
前回と打って変わって優勢であることを確信し、基地司令も血気盛んに命令を下している。
「前回の雪辱を晴らすぞ! 全軍前進、一人残らず殲滅するのだ!」
「了解であります!」
号令を受け、基地の外に出ていた兵士は皆、勢い良く駆け出し、退却を始めたミェーチ軍団の後を追って行った。
「ふふふ……、ははは、うわははははは! これで決着だッ!」
側近数名と共に残った司令は、高笑いを上げつつ、勝利を確信した。
が――。
「……まだ戻らないのか?」
「依然として、一人も、……です」
司令の心に不安が忍び寄り、彼は思わず空を見上げる。
「開戦からどれくらい経った?」
「昼前には会敵していましたから、もう4、5時間は経っているものと」
側近の言葉を受け、司令の背筋にぞわ、と怖気が走る。
「おかしい……。いくら相手の逃げ足が早くとも、逃げられたなら逃げられたで、そろそろ帰投してくるはずだろう?」
「その……はずですが」
「……嫌な予感がしてきたのだが、俺の思い過ごしだろうか」
「残念ながら、……私も同感です」
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嘘か真か、そのうわさ。
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5.
「原因?」
「それは何だ?」
尋ねられ、将軍は得意げに説明する。
「先日、ミェーチ軍団が海外人とも結託していると言う情報があっただろう? それが欺瞞であったことが確定したのだ」
「裏が取れたと?」
「うむ。と言うのも、彼奴らが大慌てで逃げ出したのは、その海外人が西山間部へ進攻してきたからなのだ」
「うん?」
「遡上の理由は容易に想像が付く。海外人も版図を拡げんとしているのだろう。だが、それは軍団にとっては望まざる事態、であるからこそ大急ぎで戻ってきたのだ。大方、『軍団と海外人にはつながりがある』、『もしもの場合には海外人が助太刀してくれる』とでも吹聴して、属国を軍門に引き入れたのだろうからな」
「なるほど、本当に海外人がやって来れば、その嘘が明らかになる。そうなれば属国も掌を返し、離反する。彼奴らにしてみれば、外来人の山間部遡上はどうあっても阻止しなければならぬ、と言うわけだ」
「うむ。加えて、その嘘で豪族をも味方に付けていたらしい」
「では、豪族も手を引こうとしている、と?」
「確証は無いが、その気配はある。相当揉めている様子が、斥候により確認されているそうだ」
「ほほう」
相手の混乱を聞き、円卓に並ぶ顔が悪辣に歪む。
「となれば、好機であるな」
「左様。ここで軍団を仕留めさえすれば、豪族の連合も解消され、当座の危機は去る。無論、海外人の問題は残ってはいるが、どうにか面目も立つであろう」
「でなければ今度こそ、我々は陛下に……」
「それ以上は口にするな。……恐ろしいことだ」
「うむ……」
敵の不和を聞き付けた帝国軍本営は、確実に軍団を討つべく、帝国本国から新たに500名の兵士を西山間部基地に送り、基地の防衛能力を復活させるとともに、基地周辺の警戒態勢を強化し、軍団の再襲に備えた。
そして程無く帝国軍本営は、一度北へ戻っていた敵勢力が、今度は軍団だけで南下し始めたとの情報を入手した。
「軍団単騎で、か。察するに、豪族との関係が決裂したと見える」
「いや、そうとも限らん。海外人の問題もあることであるし、豪族にとっても敵となる存在だ。豪族は北で、海外人を食い止めておるのやもな」
「どちらにしても、今度は軍団のみ。こちらの1000名に比べれば、200の小勢だ。いざぶつかれば、容易に撃破できる」
「加えて、退路は無しだ。逃げ帰ったところで、折り合いの悪くなった豪族か、あるいは海外人と戦う羽目になるであろうからな。南へ活路を開くしか、彼奴らに道は残されておらんのだ」
「ふっふっふ……。ここまで散々、我々を愚弄してきたが、軍団の命運もここに尽きたと言うわけだ」
双月暦では24年8月の頃、ミェーチ軍団はふたたび、西山間部基地を襲撃した。だが前述の通り、今度は豪族らを伴わない、200名程度の小勢であり――。
「左翼、敵撤退を確認! 現在、追走しています!」
「右翼側も現在、散り散りになった敵を追っています!」
「よし、よし!」
前回と打って変わって優勢であることを確信し、基地司令も血気盛んに命令を下している。
「前回の雪辱を晴らすぞ! 全軍前進、一人残らず殲滅するのだ!」
「了解であります!」
号令を受け、基地の外に出ていた兵士は皆、勢い良く駆け出し、退却を始めたミェーチ軍団の後を追って行った。
「ふふふ……、ははは、うわははははは! これで決着だッ!」
側近数名と共に残った司令は、高笑いを上げつつ、勝利を確信した。
が――。
「……まだ戻らないのか?」
「依然として、一人も、……です」
司令の心に不安が忍び寄り、彼は思わず空を見上げる。
「開戦からどれくらい経った?」
「昼前には会敵していましたから、もう4、5時間は経っているものと」
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「おかしい……。いくら相手の逃げ足が早くとも、逃げられたなら逃げられたで、そろそろ帰投してくるはずだろう?」
「その……はずですが」
「……嫌な予感がしてきたのだが、俺の思い過ごしだろうか」
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