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    「双月千年世界 4;琥珀暁」
    琥珀暁 第5部

    琥珀暁・狐謀伝 6

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    神様たちの話、第265話。
    とどめの欺瞞作戦。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    6.
     いくつかの隊に分かれ撤退するミェーチ軍団の殿(しんがり)に追いつこうと、西山間部軍の兵士たちは馬に鞭をやる。
    「もっと急げ! 見失うぞッ!」
     だが、相手は森に入ったり丘を突っ切ったりと、翻弄するかのように逃げ回る。そして1時間、2時間も追走するうち、とうとう見失ってしまった。
    「くそッ!」
    「散々追いかけさせておいて……!」
    「腰抜けめ!」
     ゼェゼェと息を荒くし、へたり込む馬から降り、兵士たちは辺りを見回す。
    「……あれ?」
     そこでようやく、自分たちが暗い森の中にいることに気付いた。
    「どこだここ?」
    「いや……、分からん」
    「地図無いのか?」
    「あっても、……めちゃくちゃに走り回ったから、どこがどこだか」
    「何だよそれ。バカじゃねえの?」
    「お前も一緒になって迷ったんじゃねえか。どっちもどっちだっつーの」
    「ケッ」
     揉めるものの何の解決にもならず、やがて全員が黙り込む。
    「……今、昼くらいか?」
    「割と明るいから、多分」
    「あーあ、腹減ったなぁ」
    「わかる。ぐーぐー言ってる」
     どうしようも無いので、とりあえず全員、木陰に座り込む。
    「で、どう報告する? まんま『逃げられました』じゃ、怒られるかも知れねーし」
    「いや、変なウソ付いてバレたらそっちの方がヤバいだろ」
    「同感。素直に報告すりゃいいだろ」
    「そっかなぁ……。まあいいや」
     雑談しつつ、衣服やかばんを探るが、木の実一つ出て来ない。
    「基地前で蹴散らして終わり、……と思ってたから、糧食なんか持って来てないよなぁ」
    「そりゃそうだ。ここまで追い回す予定じゃなかったもんな」
    「あーあ、腹減ったなぁ」
    「繰り返すなよ。俺だって減ってんだから」
     と、全員の腹がぐう、と鳴ったところで――。
    「おい」
     森の奥から士官服の男が、十数名の兵士らと共に現れた。彼の胸に付いた階級章を見て、兵士たちは慌てて立ち上がり敬礼する。
    「しっ、指揮官殿! ……ですよね?」
    「見ての通りだ。ここで何をやっている?」
    「申し訳ありません! 敵を追っていたのですが、見失いました。それで、……そのー、恥ずかしながら、道に迷ってしまった次第でして」
    「そうだろうと思って、迎えに来た。一緒に来い」
    「あ、ありがとうございます!」
     揃って頭を下げたところで、指揮官はくるりと踵を返し、付いて来るよう促した。

     森を抜けたところで、兵士の一人が首をかしげる。
    「あの、指揮官殿」
    「どうした?」
    「北へ向かっているようですが……?」
    「敵の本隊は叩いたが、散った残党がそこら辺をうろついている。貴官らの消耗を鑑みれば会敵は得策ではないと判断したため、迂回している」
    「そ、そうでありましたか! ご厚慮に気付かず、失礼いたしました!」
    「構わん」
     無口な指揮官は一言だけ返し、ふたたび歩き出そうとする。と、別の者が手を挙げる。
    「あの、大変失礼なことを申し上げますが、指揮官殿は以前から我が基地に? お顔を拝見した覚えが無いのですが」
    「今回の作戦で帝国本軍から派遣されている」
    「了解であります。と言うことは、そちらの女、……あ、いや、女性も本軍の?」
    「え、あ、えっと……?」「そうだ」
     ぎこちなくうなずく女性をさえぎり、指揮官が代わりに答える。
    「俺の秘書官だ」
    「そ、そうでありましたか。いや、女の兵士なんているのかと思って、……い、いえ、すみません」
    「他に質問はあるのか?」
     そう言って、指揮官がギロリと兵士たちをにらんできたため、彼らは顔を見合わせ、無言でうなずき合う。
    (これ以上女について質問するな、……ってことだよな)
    (他に何があんだよ)
    (本軍の人間だし、変な詮索したら飛ぶぜ、首)
    (二重の意味でな)
    「どうした?」
     再度尋ねられ、兵士たちはブンブンと首を横に振った。
    「問題ありませんです、はい!」
    「失礼いたしました!」
    「ならいい」
     それ以上口を開くことなく、兵士たちは指揮官の後を付いて行った。

     そうして北へ向かって進み続け――。
    「着いたぞ」
     指揮官に連れられた兵士たちは、唖然とする。
    「あ、あれ?」
    「……基地、じゃない」
    「って、言うか」
    「ケモノ耳のヤツだらけ、……ってことは」
     そこで指揮官が振り返り、淡々と説明した。
    「察しの通り、ここは西山間部基地じゃない。俺たちの陣地だ。
     ここまで連れて来ておいてこんなことを言うのもなんだが、お前たちは疑いを持つべきだったな。同じ格好で同じことばを話せる短耳だから友軍、と考えるのは短絡的だろう」
    「……まさか、そんな」
     兵士たちは後ずさったが、男の背後に弓を構えた獣人が多数並んで立っているのを確認し、やむなく降参した。



     こうして、撤退したと見せかけたミェーチ軍団を追い回し、細かく分断された上、本陣から遠く引き離された西山間部軍の兵士たちは、帝国軍に偽装したハンと遠征隊の短耳たちに誘導されるまま、半日がかりでそのすべて、およそ900名が彼らの駐屯地へと逐次連行され、次々に拿捕・収容されていった。
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