「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第5部
琥珀暁・平西伝 2
神様たちの話、第268話。
エマの行状と行方。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2.
「あ、ほんでゼロさん」
《う、うん? なん、……何かな?》
まだ悔しさのにじむ声色で返事したゼロに、エリザが畳み掛ける。
「もう8月も末ですし、時期的には人員交代でけるギリギリっちゅうところですけども、もう増員はいりまへんで。現状でもヒマしとる子がチラホラおりますし、無理くり仕事作っとる状態ですねん。コレ以上わっさわっさ送られたかて、持て余すだけですわ。交代要員送ってもらうだけで結構ですからな。
何しろアタシらは、戦争やるようなつもりで来とるワケちゃいますから」
《あ、うん……。分かった、人事部門に伝えておくよ。
っと、そうだ。人事と言えばエリザ、エメリア・ソーンの件はどうなったかな?》
エマの件について言及され、エリザはふう、とため息をつく。
「進展無しですわ。懲罰房を脱走してから以降、足取りはさっぱりです。西山間部でも聞き込みを行ってもらいましたけども、誰も見てへんと」
《そうか……。こちらでも一応、彼女の素行や部下への態度などを調査してたんだけど、やっぱり報告が上がってなかっただけで、相当ひどいことをやってたらしい》
「ひどい?」
《部下への暴言や中傷は日常的に行われていて、特に酷いケースでは髪の毛を引っ張って耳元で怒鳴る、背中を蹴っ飛ばして転倒させるなどの暴力行為も、度々あったそうだ。しかもその都度、『私のコトを誰かに言いふらしたらどうなるか分かってるね?』とおどして、報告させないようにしていたそうだ。
仕事に関しては相当にこなしてくれたから、十分信頼に足る人物だと思っていたけど、……残念ながら評定方法に、重大な欠陥があったと認めざるを得ない。再発防止に務めるよ》
「ソレ、いっこ聞いときたいコトあるんですけどもな」
と、エリザが尋ねる。
「エマちゃんのそう言う行動、目立ち出したんはいつからとか分かります?」
《調査した限りでは、どうやら1年前、道路敷設中の事故で負傷した後かららしい。それまでは打算的で、何と言うか、あざといところもあったらしいんだが、事故から復帰して以降は妙に攻撃的と言うか、人間嫌いになったと言うか、とにかく他人を遠ざけようとすることが多くなったと言う話だ》
「その事故で頭打ったっちゅう話でしたな。せやけども、頭打って性格変わったっちゅうのんも出来過ぎな話と思いますけどな」
《その点については同感だ。だが君がさっき言った通り、これは調査によって明らかにされた、厳然たる事実だ。憶測じゃない》
「ふむー……。ま、ともかく捜査は続けますわ。交代要員が確定し次第、また連絡させてもらいますわ」
《分かった。じゃあ、また》
「ほな」
報告を終え、エリザはもう一度、ふー、とため息をついた。
「吸うてええ?」
「どうぞ」
「ありがとさん」
エリザは胸元から煙管を取り出し、火を点けながら、ハンに目を向ける。
「エマちゃんの話やけどもな」
「何か隠していた事実があったとか?」
「いや、そうやないんよ。捜査に進展無いんはホンマや。アンタも知っとるやろ」
「エリザさんのことですから、俺に知らせていない何かしらの情報をつかんでいるのかと」
「今回はそう言うん、無いねん。いやな、アタシが言いたいんは、偽者なんやないかっちゅうコトやねん」
「偽者? エマが、と言うことですか?」
けげんな顔をするハンに、エリザは煙管の先を向ける。
「せや。そもそも団体行動を乱す、と言うよりも、団体そのものをグッチャグチャに破壊しかねへんようなろくでなしを、軍の人事部門が雇おうと思うか?」
「確かに有り得ませんね」
「人事があそこまでメチャクチャなヤツ、雇う時に気付かんようなマヌケやとは思えへんし、仮に気付かへんまま雇ったとて、ヒラの時やったら上に報告されてすぐクビやろ」
「ふむ……。あの性格を考えれば、昇進するまで本性を隠していた、とするのも妙ですしね」
「となると、ドコかで入れ替わったと考えるのんが一番有り得そうな話やろ?」
「それが事故の時、と考えてるんですね」
「せや。ただ、ソレが何のためなんか、そっちはピンと来いひんねんな」
「そうですね。単純に北へ来たいと言う目的であれば、士官よりも兵士にすり替った方が面倒が少ないでしょうし」
「せやろ? ……ま、今エマちゃんを名乗っとるヤツが捕まらん限り、結論は出されへんな。この件は引き続き、捜査の結果を待つしか無いわ」
「同感です」
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エマの行状と行方。
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「あ、ほんでゼロさん」
《う、うん? なん、……何かな?》
まだ悔しさのにじむ声色で返事したゼロに、エリザが畳み掛ける。
「もう8月も末ですし、時期的には人員交代でけるギリギリっちゅうところですけども、もう増員はいりまへんで。現状でもヒマしとる子がチラホラおりますし、無理くり仕事作っとる状態ですねん。コレ以上わっさわっさ送られたかて、持て余すだけですわ。交代要員送ってもらうだけで結構ですからな。
何しろアタシらは、戦争やるようなつもりで来とるワケちゃいますから」
《あ、うん……。分かった、人事部門に伝えておくよ。
っと、そうだ。人事と言えばエリザ、エメリア・ソーンの件はどうなったかな?》
エマの件について言及され、エリザはふう、とため息をつく。
「進展無しですわ。懲罰房を脱走してから以降、足取りはさっぱりです。西山間部でも聞き込みを行ってもらいましたけども、誰も見てへんと」
《そうか……。こちらでも一応、彼女の素行や部下への態度などを調査してたんだけど、やっぱり報告が上がってなかっただけで、相当ひどいことをやってたらしい》
「ひどい?」
《部下への暴言や中傷は日常的に行われていて、特に酷いケースでは髪の毛を引っ張って耳元で怒鳴る、背中を蹴っ飛ばして転倒させるなどの暴力行為も、度々あったそうだ。しかもその都度、『私のコトを誰かに言いふらしたらどうなるか分かってるね?』とおどして、報告させないようにしていたそうだ。
仕事に関しては相当にこなしてくれたから、十分信頼に足る人物だと思っていたけど、……残念ながら評定方法に、重大な欠陥があったと認めざるを得ない。再発防止に務めるよ》
「ソレ、いっこ聞いときたいコトあるんですけどもな」
と、エリザが尋ねる。
「エマちゃんのそう言う行動、目立ち出したんはいつからとか分かります?」
《調査した限りでは、どうやら1年前、道路敷設中の事故で負傷した後かららしい。それまでは打算的で、何と言うか、あざといところもあったらしいんだが、事故から復帰して以降は妙に攻撃的と言うか、人間嫌いになったと言うか、とにかく他人を遠ざけようとすることが多くなったと言う話だ》
「その事故で頭打ったっちゅう話でしたな。せやけども、頭打って性格変わったっちゅうのんも出来過ぎな話と思いますけどな」
《その点については同感だ。だが君がさっき言った通り、これは調査によって明らかにされた、厳然たる事実だ。憶測じゃない》
「ふむー……。ま、ともかく捜査は続けますわ。交代要員が確定し次第、また連絡させてもらいますわ」
《分かった。じゃあ、また》
「ほな」
報告を終え、エリザはもう一度、ふー、とため息をついた。
「吸うてええ?」
「どうぞ」
「ありがとさん」
エリザは胸元から煙管を取り出し、火を点けながら、ハンに目を向ける。
「エマちゃんの話やけどもな」
「何か隠していた事実があったとか?」
「いや、そうやないんよ。捜査に進展無いんはホンマや。アンタも知っとるやろ」
「エリザさんのことですから、俺に知らせていない何かしらの情報をつかんでいるのかと」
「今回はそう言うん、無いねん。いやな、アタシが言いたいんは、偽者なんやないかっちゅうコトやねん」
「偽者? エマが、と言うことですか?」
けげんな顔をするハンに、エリザは煙管の先を向ける。
「せや。そもそも団体行動を乱す、と言うよりも、団体そのものをグッチャグチャに破壊しかねへんようなろくでなしを、軍の人事部門が雇おうと思うか?」
「確かに有り得ませんね」
「人事があそこまでメチャクチャなヤツ、雇う時に気付かんようなマヌケやとは思えへんし、仮に気付かへんまま雇ったとて、ヒラの時やったら上に報告されてすぐクビやろ」
「ふむ……。あの性格を考えれば、昇進するまで本性を隠していた、とするのも妙ですしね」
「となると、ドコかで入れ替わったと考えるのんが一番有り得そうな話やろ?」
「それが事故の時、と考えてるんですね」
「せや。ただ、ソレが何のためなんか、そっちはピンと来いひんねんな」
「そうですね。単純に北へ来たいと言う目的であれば、士官よりも兵士にすり替った方が面倒が少ないでしょうし」
「せやろ? ……ま、今エマちゃんを名乗っとるヤツが捕まらん限り、結論は出されへんな。この件は引き続き、捜査の結果を待つしか無いわ」
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