「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第5部
琥珀暁・平西伝 4
神様たちの話、第270話。
荒れない晩餐。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
「……そりゃ確かに、こっちには1人の被害も出てないさ。だけどどうにも、納得しかねる部分はあるんだ。結局は連合側に犠牲を強いた形になるんだからな」
「そうですね。わたしもその点、気にかかってました。先生は補償されたと仰ってましたけど」
「あの人のことだから、そう言う、いわゆる損得って点は、帳尻を合わせようとはするんだ。だが……」
シモン班はこれまでずっとそうしてきたように、この晩も街の食堂で夕食を取りつつ、酔ったハンによる、取り留めのない愚痴を聞かされていた。
これまでと違ったのは、新しく班員となったメリーが真面目に相槌を打ち、相手してくれていたことである。
「……だから、いくら被害0だとは言え、結局は遠征隊が美味しいところを取っただけの形になってるってことが、やはり俺には納得しかねるんだよ」
「わたしも同感です。やっぱりわたしの気持ちとしては、もっとお返ししないとって思いますよね」
「ああ。メリー、やっぱり君もそう思うか」
「ええ。あくまでわたしの、一個人の意見ではですけれど」
「いや、俺も同意見だ。それを分かってくれて、非常にありがたい」
「恐縮です」
何周も同じ話を繰り返すハンに対し、真面目で優しいメリーは丁寧に、何度も肯定して答えている。いつもなら話すうち、次第に不機嫌になるのだが、メリーの反応がハンには心地良かったらしく、明らかに満足した様子で立ち上がった。
「……っと、今日はこれで帰るとするか。お前たちはどうする?」
「へっ?」
今まで一度も無かったハンの行動に、マリアとビートは目を丸くする。クーも同様に驚いていたが、何とか受け答えする。
「え、ええと、わたくしたちはまだ、色々お話したいことがございますから、お先にどうぞ」
「そうか。それじゃ、俺はこれで失礼する。ここまでの代金は払っておくからな」
「あ、どーも。尉官、お気を付けて」
「ああ、おやすみ」
ハンは満足げな様子のまま、店を出てしまった。その後姿を見送ったところで、マリアがメリーに声を掛ける。
「メリーちゃん、すごいね。尉官があんなニッコニコして帰ったの、あたし初めて見たよー」
「そうなんですか? わたしはただ、そうだなぁ、そうだなぁと思ってお話ししただけなんですけど……」
「言われてみれば確かに、僕たちあんまり、酔っ払った尉官をまともに相手したこと無いですね。そりゃ班組んだばかりの頃は、真面目にうなずいてた記憶はありますけど」
「でもぐーるぐる同じ話するから、いつの間にかめんどくさくなっちゃったんだよね。そー考えたら、やっぱり初々しいよね、メリーちゃん」
「恐縮です」
顔を赤らめるメリーに、マリアは笑いかけた。
「恐縮なんてしなくていーって。や、ホントいい子だよね。尉官が気に入るのも分かるなー」
「え? 尉官が、……わたしを、ですか?」
一転、メリーは意外そうな顔をする。それを目にした途端、クーは思わず声を上げてしまった。
「ちょ、調子にっ、……あ、あっ、いえ」
「ん? 何か言った、クーちゃん?」
が、マリアたちには聞かれていなかったらしく、尋ね返してくる。クーは平静を装い、ごまかしておいた。
「えーと、……いえ、何か頼もうかと存じまして。マリアはいかがかしら」
「あ、そーですね。じゃー、カボチャのスープとカニグラタンとウニ乗せじゃがバターとー……」
マリアがずらずらとメニューを並べるのを聞いて、メリーはクスクスと笑っていた。
「本当に、マリアさんっていっぱい食べますね。色んなもの食べられて、うらやましいです。わたし、もうお腹いっぱいですもん」
「ん、……えへへへ、まーね」
嬉しそうに笑うマリアを眺めながら、ビートはクーに耳打ちしていた。
「メリーさんって、何て言うか、毒気が無いですよね。誰が何しても素直にほめてくれますし」
「……ええ、そうですわね。……好感、持てますわよね」
「ですよね。僕も同感です。本当、いい人ですよ」
「……そう……」
その後は、マリアたちとどんな話をしたかも覚えておらず――気付けばクーは、部屋着にも着替えぬまま、自室のベッドに突っ伏していた。
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荒れない晩餐。
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「……そりゃ確かに、こっちには1人の被害も出てないさ。だけどどうにも、納得しかねる部分はあるんだ。結局は連合側に犠牲を強いた形になるんだからな」
「そうですね。わたしもその点、気にかかってました。先生は補償されたと仰ってましたけど」
「あの人のことだから、そう言う、いわゆる損得って点は、帳尻を合わせようとはするんだ。だが……」
シモン班はこれまでずっとそうしてきたように、この晩も街の食堂で夕食を取りつつ、酔ったハンによる、取り留めのない愚痴を聞かされていた。
これまでと違ったのは、新しく班員となったメリーが真面目に相槌を打ち、相手してくれていたことである。
「……だから、いくら被害0だとは言え、結局は遠征隊が美味しいところを取っただけの形になってるってことが、やはり俺には納得しかねるんだよ」
「わたしも同感です。やっぱりわたしの気持ちとしては、もっとお返ししないとって思いますよね」
「ああ。メリー、やっぱり君もそう思うか」
「ええ。あくまでわたしの、一個人の意見ではですけれど」
「いや、俺も同意見だ。それを分かってくれて、非常にありがたい」
「恐縮です」
何周も同じ話を繰り返すハンに対し、真面目で優しいメリーは丁寧に、何度も肯定して答えている。いつもなら話すうち、次第に不機嫌になるのだが、メリーの反応がハンには心地良かったらしく、明らかに満足した様子で立ち上がった。
「……っと、今日はこれで帰るとするか。お前たちはどうする?」
「へっ?」
今まで一度も無かったハンの行動に、マリアとビートは目を丸くする。クーも同様に驚いていたが、何とか受け答えする。
「え、ええと、わたくしたちはまだ、色々お話したいことがございますから、お先にどうぞ」
「そうか。それじゃ、俺はこれで失礼する。ここまでの代金は払っておくからな」
「あ、どーも。尉官、お気を付けて」
「ああ、おやすみ」
ハンは満足げな様子のまま、店を出てしまった。その後姿を見送ったところで、マリアがメリーに声を掛ける。
「メリーちゃん、すごいね。尉官があんなニッコニコして帰ったの、あたし初めて見たよー」
「そうなんですか? わたしはただ、そうだなぁ、そうだなぁと思ってお話ししただけなんですけど……」
「言われてみれば確かに、僕たちあんまり、酔っ払った尉官をまともに相手したこと無いですね。そりゃ班組んだばかりの頃は、真面目にうなずいてた記憶はありますけど」
「でもぐーるぐる同じ話するから、いつの間にかめんどくさくなっちゃったんだよね。そー考えたら、やっぱり初々しいよね、メリーちゃん」
「恐縮です」
顔を赤らめるメリーに、マリアは笑いかけた。
「恐縮なんてしなくていーって。や、ホントいい子だよね。尉官が気に入るのも分かるなー」
「え? 尉官が、……わたしを、ですか?」
一転、メリーは意外そうな顔をする。それを目にした途端、クーは思わず声を上げてしまった。
「ちょ、調子にっ、……あ、あっ、いえ」
「ん? 何か言った、クーちゃん?」
が、マリアたちには聞かれていなかったらしく、尋ね返してくる。クーは平静を装い、ごまかしておいた。
「えーと、……いえ、何か頼もうかと存じまして。マリアはいかがかしら」
「あ、そーですね。じゃー、カボチャのスープとカニグラタンとウニ乗せじゃがバターとー……」
マリアがずらずらとメニューを並べるのを聞いて、メリーはクスクスと笑っていた。
「本当に、マリアさんっていっぱい食べますね。色んなもの食べられて、うらやましいです。わたし、もうお腹いっぱいですもん」
「ん、……えへへへ、まーね」
嬉しそうに笑うマリアを眺めながら、ビートはクーに耳打ちしていた。
「メリーさんって、何て言うか、毒気が無いですよね。誰が何しても素直にほめてくれますし」
「……ええ、そうですわね。……好感、持てますわよね」
「ですよね。僕も同感です。本当、いい人ですよ」
「……そう……」
その後は、マリアたちとどんな話をしたかも覚えておらず――気付けばクーは、部屋着にも着替えぬまま、自室のベッドに突っ伏していた。
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