「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第5部
琥珀暁・平西伝 5
神様たちの話、第271話。
温和メリー。
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5.
すっかり上の空になってしまったクーをよそに、マリアがメリーに質問する。
「で、で、西山間部の作戦って、どんな感じだったの? なんか今回は短耳の人だけしか参加してないって言ってたし、あたしもビートも、こっちでお留守番だったし」
「作戦、……と言えるほどのものでは無かったです。軍団と豪族の連合軍が西山間部で帝国軍と交戦して勝利したとのことで、そこで出た捕虜を移送するだけでしたので」
「でも尉官は作戦って言ってたよ?」
「と言われても、本当にわたしも、捕虜の移送としか聞かされてませんし、実際、捕虜らしき人たちは素直に付いて来てましたから、戦闘なども起きませんでしたし」
「ふーん……? や、他にも何人か、参加した知り合いに聞いてみたんだけど、みんな同じよーな感じだったんだよね。『作戦だったのか何なのか、いまいち分かんない』って。作戦じゃないにしては、やたらあっちこっち歩き回ったり、わざわざ帝国軍の服着てたりしてたらしいし。捕虜の人たちを回収する時、相手に警戒させないようにとか何とかって聞かされたって」
「ええ、現場で渡されました。わたしも何だか変だなぁとは思っていたんですが、先生が『えーからえーから』と、半ば強引に」
「エリザさんらしいなぁ。……そこまで念入りにごまかすってことは、もう絶対、教えてくれそうにないよねー」
「多分そうですね。ノースポート作戦の時は終了後にあっさり教えてくれましたけど、終わってもまだ詳細が周知されないってことは、改めて先生に聞いてみても、恐らくとぼけられて終わりでしょうね」
そう言って肩をすくめるビートに、マリアは笑って返した。
「あはは、だよねー。じゃ、もうこの話はいいや。考えたって答え出ないだろうし」
「そ、そう言う考えもあるんですね」
目を丸くしているメリーを見て、ビートが首を横に振る。
「考えと言うより、マリアさんの場合はあんまり考えないタイプだってだけです」
「ひどくない?」
口を尖らせるマリアを見て、ビートはまた肩をすくめる。
「正直、マリアさんが考え込んでるようなところは見た覚えが無いもんで」
「あたしだって色々考えてるよ? ……明日の朝ご飯とか」
「結局ご飯ばっかりじゃないですか、はは……」
ハンが店を後にしてから1時間ほど後、マリアたちも帰ることにした。
「クーちゃん、クーちゃんってば」
「はあ……はい……」
まだぼんやりしたままのクーの手を引き、マリアはビートとメリーに向き直る。
「なんかクーちゃん酔っ払っちゃったみたいだから、あたし送ってく。じゃねー」
「はい、また明日」
「おやすみなさい」
二人きりになったところで、ビートが尋ねる。
「そう言えば尉官から、また測量に行かないかと打診されたんですが、メリーさんも誘われましたか?」
「あ、はい」
「もう返事したんですか?」
「ええ、ぜひご一緒したいと。出張申請も出しました」
それを聞いて、ビートは苦い顔を向けた。
「率直に言って、あんまりおすすめしませんよ」
「あら、そうなんですか?」
「尉官は神経質で完璧主義ですから、納得行く結果が出るまで何度でも測ろうとしますし。真面目に付き合ったら相当疲れます。ましてやメリーさん、測量の経験は無いですよね? 勝手が分からないと、かなり苦労すると思いますよ」
「あ、一応ですけど、自分で勉強してみました。あまりご迷惑をかけないようにって」
「そうですか。……うーん」
ビートは腕を組み、空を仰ぐ。
「不安ですね……。女性相手だから、尉官も無茶言ったりしないとは思うんですが」
「大丈夫だと思いますよ。すごく優しい方ですから」
思いもよらないことを聞き、ビートの長い耳がぴょんと跳ねた。
「誰がですって?」
「シモン尉官です」
「どの辺がです?」
「例えば、さっきのお店でも――ご自分の意見を話される前までは――皆さんの話に耳を傾けていらっしゃいましたし、言葉を選んで話をされているご様子でした。気配りのできる方だな、と」
「……あー、……そうか、メリーさんの前の上司と比べたら、そりゃ誰だっていい人ですよね」
「それを抜きにしても、わたしは尉官のこと、いい人だと思ってますよ」
そう言ってにこっと笑うメリーに目を向け、ビートはまた、苦笑いしていた。
「まあ、その、……あんまり、期待しちゃ駄目ですよ?」
「ご忠告、ありがとうございます。ビートさんも優しい人ですね」
「……そりゃどうも」
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温和メリー。
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5.
すっかり上の空になってしまったクーをよそに、マリアがメリーに質問する。
「で、で、西山間部の作戦って、どんな感じだったの? なんか今回は短耳の人だけしか参加してないって言ってたし、あたしもビートも、こっちでお留守番だったし」
「作戦、……と言えるほどのものでは無かったです。軍団と豪族の連合軍が西山間部で帝国軍と交戦して勝利したとのことで、そこで出た捕虜を移送するだけでしたので」
「でも尉官は作戦って言ってたよ?」
「と言われても、本当にわたしも、捕虜の移送としか聞かされてませんし、実際、捕虜らしき人たちは素直に付いて来てましたから、戦闘なども起きませんでしたし」
「ふーん……? や、他にも何人か、参加した知り合いに聞いてみたんだけど、みんな同じよーな感じだったんだよね。『作戦だったのか何なのか、いまいち分かんない』って。作戦じゃないにしては、やたらあっちこっち歩き回ったり、わざわざ帝国軍の服着てたりしてたらしいし。捕虜の人たちを回収する時、相手に警戒させないようにとか何とかって聞かされたって」
「ええ、現場で渡されました。わたしも何だか変だなぁとは思っていたんですが、先生が『えーからえーから』と、半ば強引に」
「エリザさんらしいなぁ。……そこまで念入りにごまかすってことは、もう絶対、教えてくれそうにないよねー」
「多分そうですね。ノースポート作戦の時は終了後にあっさり教えてくれましたけど、終わってもまだ詳細が周知されないってことは、改めて先生に聞いてみても、恐らくとぼけられて終わりでしょうね」
そう言って肩をすくめるビートに、マリアは笑って返した。
「あはは、だよねー。じゃ、もうこの話はいいや。考えたって答え出ないだろうし」
「そ、そう言う考えもあるんですね」
目を丸くしているメリーを見て、ビートが首を横に振る。
「考えと言うより、マリアさんの場合はあんまり考えないタイプだってだけです」
「ひどくない?」
口を尖らせるマリアを見て、ビートはまた肩をすくめる。
「正直、マリアさんが考え込んでるようなところは見た覚えが無いもんで」
「あたしだって色々考えてるよ? ……明日の朝ご飯とか」
「結局ご飯ばっかりじゃないですか、はは……」
ハンが店を後にしてから1時間ほど後、マリアたちも帰ることにした。
「クーちゃん、クーちゃんってば」
「はあ……はい……」
まだぼんやりしたままのクーの手を引き、マリアはビートとメリーに向き直る。
「なんかクーちゃん酔っ払っちゃったみたいだから、あたし送ってく。じゃねー」
「はい、また明日」
「おやすみなさい」
二人きりになったところで、ビートが尋ねる。
「そう言えば尉官から、また測量に行かないかと打診されたんですが、メリーさんも誘われましたか?」
「あ、はい」
「もう返事したんですか?」
「ええ、ぜひご一緒したいと。出張申請も出しました」
それを聞いて、ビートは苦い顔を向けた。
「率直に言って、あんまりおすすめしませんよ」
「あら、そうなんですか?」
「尉官は神経質で完璧主義ですから、納得行く結果が出るまで何度でも測ろうとしますし。真面目に付き合ったら相当疲れます。ましてやメリーさん、測量の経験は無いですよね? 勝手が分からないと、かなり苦労すると思いますよ」
「あ、一応ですけど、自分で勉強してみました。あまりご迷惑をかけないようにって」
「そうですか。……うーん」
ビートは腕を組み、空を仰ぐ。
「不安ですね……。女性相手だから、尉官も無茶言ったりしないとは思うんですが」
「大丈夫だと思いますよ。すごく優しい方ですから」
思いもよらないことを聞き、ビートの長い耳がぴょんと跳ねた。
「誰がですって?」
「シモン尉官です」
「どの辺がです?」
「例えば、さっきのお店でも――ご自分の意見を話される前までは――皆さんの話に耳を傾けていらっしゃいましたし、言葉を選んで話をされているご様子でした。気配りのできる方だな、と」
「……あー、……そうか、メリーさんの前の上司と比べたら、そりゃ誰だっていい人ですよね」
「それを抜きにしても、わたしは尉官のこと、いい人だと思ってますよ」
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「まあ、その、……あんまり、期待しちゃ駄目ですよ?」
「ご忠告、ありがとうございます。ビートさんも優しい人ですね」
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