「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第5部
蒼天剣・剛剣録 1
晴奈の話、第245話。
金火狐一族の名を冠する大会。
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1.
ロイド・ゴールドマン――エリザの私生児。父親は諸説あるが、不明。
母の築き上げたゴールドマン商会を継ぐも、彼女の才能までは受け継ぐことはできず、ゴールドマン家の成長を止めることとなった。そのためゴールドマン家総帥の座を、たった4年で従兄弟のレオンに明け渡した。
レオン・ゴールドマン――エリザの甥。
「親の姉弟がそれぞれの生まれた子を取り違えたのではないか」と言われるほど、ロイドとは比べ物にならない商才を持っていた。ロイドの失策により停滞したゴールドマン家を復興、再成長させる。
ニコル・ゴールドマン――エリザの弟。
亡くなった父の後を継ぎ、金属装飾の店を営んでいた。ある事件で命を狙われるも、旅に出ていた姉によって助けられる。
以降、姉の覇業を助けることに後の人生を尽くした。
エリザ・ゴールドマン――ゴールドマン商会の祖。
父が亡くなった後、とある旅の魔術師にその才能と知性を見出され、共に旅を始める。
長い旅から戻った後、その旅と魔術師から得た知識・技術・能力を最大限に発揮し、大規模な貴金属の採掘と精錬、加工を生業とし、莫大な富を得る。
さらに神代の大戦争、二天戦争においても多大な貢献を積み、天帝教においては「商売と知恵の女神」として祀られている。さらには現在使われている魔術の半分近くは、彼女が師と共に研究・洗練したものが基礎となっているとされており、この数多の業績・実績により、央中地域に広まる天帝教の派生宗教、通称「央中天帝教」では、彼女を最高神として崇めている。
ちなみに、金火狐一族の基礎を築き上げたこの四名の御利益にあやかろうとしてきたのか、彼女ら四名の名前はその子孫にも度々付けられ、受け継がれている。
また、この四名の名は、別のところにも用いられている。九尾闘技場のリーグ名には、彼女たちの名前が冠されているのだ。
519年5月21日――エリザリーグ、開幕の日。
早朝、晴奈は楢崎を赤虎亭に呼び出し、ゲン担ぎの定食を振舞っていた。
「カツ丼定食です。『勝つぞ』、と言うことで」
「ありがとう、黄くん」
エリザリーグは全員が一斉に戦うわけではなく、3日おきに対戦が組まれる。1日目の今日は、楢崎とクラウンが対決するのだ。
「盛り上がってる時にこんなことを言えば、水を差してしまうけれども……」
楢崎は箸を置き、腕を組んで静かに胸のうちを語る。
「僕が出てしまって良いものか、と思ってるんだ。僕の目的は、人さらいを探すことだからね。それなのに、こんなお祭り騒ぎに担ぎ出されてしまって……」
「いや、楢崎殿。それは違います」
晴奈はお茶を差し出しながら、それに反論する。
「楢崎殿の本分は、一流の剣士。不幸な出来事が元でこの街まで来てしまいましたが、その腕が本物であることには変わりありません。
剣士である以上、己の力量を正しく見定めるのも、たしなみではないでしょうか。そう考えれば、此度の大会は絶好の機会ではないかと」
晴奈の言葉に、楢崎は深くうなずいた。
「……そうだね。君の言う通り、僕は剣士だ。その矜持、誇りは放浪の旅に出てもなお、しっかりと保ち続けていたつもりだ。
精一杯腕を振るい、剣士の本分を全うしよう」
「……ご武運を祈っております、楢崎殿」
「ああ。黄くん、君も頑張ってくれ」
楢崎は大きく深呼吸して、定食を食べ始めた。
今日の対戦は無いが開会式に参加するため、残りの3名――晴奈、シリン、ロウも闘技場にやって来た。
エリザリーグの時にしか使われない、最も豪華で大きなリングの上に五人が並び、大勢の観客から注目と喝采を浴びている。
(うーむ……、声援がまるで花火のようだ。ビリビリと体を揺らしている)
これまで色々な戦いを経験してきた晴奈でさえも、この場に漂う雰囲気に飲まれ、緊張しているのが、自分でも感じられる。
横に立つ四人に視線を向けてみると、やはり多少なりとも緊張している様子が伺えた。
シリンは観客席にパタパタと手を振って笑っているが、よく見れば耳や尻尾が小刻みに震えている。
楢崎は目をつぶったままだ。この後の試合について、真剣に考えているのだろう。
ロウはじっと、斜め上に視線を向けている。その方向に目を向けると、教会で会ったシルビアや子供たちが応援しているのが見えた。
クラウンは――よくよく考えれば、最後に会ってから実に10年ぶりの再会となる――ずっと上の空だ。と言うよりも、大会が始まる前から既に、疲れているような印象を受ける。
(いや……、実際、疲れているのだろう。
私とて、たかだか半年足らず闘技場に通った程度であるし、苦戦した覚えも無いが、それでもどことなく、気疲れしているのは事実だ。クラウンはその10倍、20倍、いやもっとか。それだけ長い間参戦しているのだから、精神的疲労は私の比ではあるまい。
ましてやここ数年、成果が出ていないとも聞く。結果の出ない挑戦を続ければ、誰しも心がすり減ってしまうものだ。まさしく疲れているのだろうな。この大会にだけではなく、人生そのものに。
……とは言え、こんな奴に同情なぞ、これっぽっちもしようとは思わぬが)
と、リングにアナウンスが響く。
「皆様、お待たせいたしました!」
晴奈たち五人が一斉に前を向いたところで、アナウンス席の上に設けられた貴賓席に、金髪に赤いメッシュが入った、狐獣人の司会者が現れた。
「ただいまより、519年・上半期エリザリーグを開催いたします!」
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金火狐一族の名を冠する大会。
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ロイド・ゴールドマン――エリザの私生児。父親は諸説あるが、不明。
母の築き上げたゴールドマン商会を継ぐも、彼女の才能までは受け継ぐことはできず、ゴールドマン家の成長を止めることとなった。そのためゴールドマン家総帥の座を、たった4年で従兄弟のレオンに明け渡した。
レオン・ゴールドマン――エリザの甥。
「親の姉弟がそれぞれの生まれた子を取り違えたのではないか」と言われるほど、ロイドとは比べ物にならない商才を持っていた。ロイドの失策により停滞したゴールドマン家を復興、再成長させる。
ニコル・ゴールドマン――エリザの弟。
亡くなった父の後を継ぎ、金属装飾の店を営んでいた。ある事件で命を狙われるも、旅に出ていた姉によって助けられる。
以降、姉の覇業を助けることに後の人生を尽くした。
エリザ・ゴールドマン――ゴールドマン商会の祖。
父が亡くなった後、とある旅の魔術師にその才能と知性を見出され、共に旅を始める。
長い旅から戻った後、その旅と魔術師から得た知識・技術・能力を最大限に発揮し、大規模な貴金属の採掘と精錬、加工を生業とし、莫大な富を得る。
さらに神代の大戦争、二天戦争においても多大な貢献を積み、天帝教においては「商売と知恵の女神」として祀られている。さらには現在使われている魔術の半分近くは、彼女が師と共に研究・洗練したものが基礎となっているとされており、この数多の業績・実績により、央中地域に広まる天帝教の派生宗教、通称「央中天帝教」では、彼女を最高神として崇めている。
ちなみに、金火狐一族の基礎を築き上げたこの四名の御利益にあやかろうとしてきたのか、彼女ら四名の名前はその子孫にも度々付けられ、受け継がれている。
また、この四名の名は、別のところにも用いられている。九尾闘技場のリーグ名には、彼女たちの名前が冠されているのだ。
519年5月21日――エリザリーグ、開幕の日。
早朝、晴奈は楢崎を赤虎亭に呼び出し、ゲン担ぎの定食を振舞っていた。
「カツ丼定食です。『勝つぞ』、と言うことで」
「ありがとう、黄くん」
エリザリーグは全員が一斉に戦うわけではなく、3日おきに対戦が組まれる。1日目の今日は、楢崎とクラウンが対決するのだ。
「盛り上がってる時にこんなことを言えば、水を差してしまうけれども……」
楢崎は箸を置き、腕を組んで静かに胸のうちを語る。
「僕が出てしまって良いものか、と思ってるんだ。僕の目的は、人さらいを探すことだからね。それなのに、こんなお祭り騒ぎに担ぎ出されてしまって……」
「いや、楢崎殿。それは違います」
晴奈はお茶を差し出しながら、それに反論する。
「楢崎殿の本分は、一流の剣士。不幸な出来事が元でこの街まで来てしまいましたが、その腕が本物であることには変わりありません。
剣士である以上、己の力量を正しく見定めるのも、たしなみではないでしょうか。そう考えれば、此度の大会は絶好の機会ではないかと」
晴奈の言葉に、楢崎は深くうなずいた。
「……そうだね。君の言う通り、僕は剣士だ。その矜持、誇りは放浪の旅に出てもなお、しっかりと保ち続けていたつもりだ。
精一杯腕を振るい、剣士の本分を全うしよう」
「……ご武運を祈っております、楢崎殿」
「ああ。黄くん、君も頑張ってくれ」
楢崎は大きく深呼吸して、定食を食べ始めた。
今日の対戦は無いが開会式に参加するため、残りの3名――晴奈、シリン、ロウも闘技場にやって来た。
エリザリーグの時にしか使われない、最も豪華で大きなリングの上に五人が並び、大勢の観客から注目と喝采を浴びている。
(うーむ……、声援がまるで花火のようだ。ビリビリと体を揺らしている)
これまで色々な戦いを経験してきた晴奈でさえも、この場に漂う雰囲気に飲まれ、緊張しているのが、自分でも感じられる。
横に立つ四人に視線を向けてみると、やはり多少なりとも緊張している様子が伺えた。
シリンは観客席にパタパタと手を振って笑っているが、よく見れば耳や尻尾が小刻みに震えている。
楢崎は目をつぶったままだ。この後の試合について、真剣に考えているのだろう。
ロウはじっと、斜め上に視線を向けている。その方向に目を向けると、教会で会ったシルビアや子供たちが応援しているのが見えた。
クラウンは――よくよく考えれば、最後に会ってから実に10年ぶりの再会となる――ずっと上の空だ。と言うよりも、大会が始まる前から既に、疲れているような印象を受ける。
(いや……、実際、疲れているのだろう。
私とて、たかだか半年足らず闘技場に通った程度であるし、苦戦した覚えも無いが、それでもどことなく、気疲れしているのは事実だ。クラウンはその10倍、20倍、いやもっとか。それだけ長い間参戦しているのだから、精神的疲労は私の比ではあるまい。
ましてやここ数年、成果が出ていないとも聞く。結果の出ない挑戦を続ければ、誰しも心がすり減ってしまうものだ。まさしく疲れているのだろうな。この大会にだけではなく、人生そのものに。
……とは言え、こんな奴に同情なぞ、これっぽっちもしようとは思わぬが)
と、リングにアナウンスが響く。
「皆様、お待たせいたしました!」
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