「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第5部
琥珀暁・平西伝 6
神様たちの話、第272話。
エリザのなぐさめ。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
6.
シモン班が測量調査に出たその朝、しょんぼりしているクーの元に、エリザが訪ねてきた。
「おはようさん」
「おはようございます、エリザさん」
「やっぱりやな」
挨拶を終えるなり、エリザはクーの顔に両手を添え、ため息を付いてきた。
「え、なっ、え、エリザさん?」
「アンタ、ココんトコまともに寝てへんやろ?」
「ぅえ?」
「目ぇは赤いし、お肌もカサついとるし。よっぽど嫌なコトあった、っちゅう顔しとるで」
「……そこまでお見通しであれば、今のわたくしの気持ちも察していらっしゃるのでしょう?」
尋ねたクーに、エリザはこくんとうなずいて返す。
「そらな。そうやなかったら、朝っぱらからお邪魔せえへんて。……ハンくんのコトやろ?」
「ええ」
「あの子はアタマのネジ、1本2本飛んどるんかと思う時あるな。アンタの気持ち知っとるはずやのに、最近お気にの女の子と悪びれもせんと遊びに行くとか、正気を疑うでホンマ」
「浮気性、……と言うと語弊がございますわね。そ、そもそも、お付き合いしているわけでは、ございませんし。もっと的確に、申すとすれば、やはり、わたくしは、……ぐす、……相手にされて、……ひっく、……いないの、でしょうね」
話しているうちに悲しさが押し寄せ、クーの目からぼたぼたと涙がこぼれ出す。
「や、そない急に決め付けんでも、な? ……しゃあないな。うん、気ぃ済むまで泣いたらええ。落ち着くまでアタシが側にいたるから」
そう言って、エリザはハンカチを差し出す。クーはそれを半ばひったくるように受け取り、顔に押し当てた。
「……ひっく……ひっく……お、お気遣い、……ぐすっ、……感謝、いたしますわ」
ひとしきり泣き、ようやく落ち着いたところで、ずっと肩を抱いていてくれたエリザが笑う。
「ハンカチぐっしょぐしょや。よお泣いたなぁ」
「申し訳ございません……」
「ええて、ええて。せや、お腹も空いたやろし、ちょっと街行かへんか?」
「え? ……あ、と」
「ま、その前にお風呂入ろか。髪の毛もくしゃくしゃやし、顔も真っ赤やしな。整えへんとな」
「え、ええ」
そのまま連れ立って浴場へ向かい、二人で湯船に浸かる。
「はぁ……あ」
「落ち着いたか?」
「ええ、大分。……あの、お聞きいただきたい件がひとつ」
「なんや?」
「ハンの、今回の測量調査ですけれど、ハンはわたくしに、まったく声をかけて下さらなかったのです」
「そらひどいな。一回くらい誘ったったらええやろにな。そらまあ、こないだのんで懲りたんやろけども」
「わたくし、言い過ぎたのかしら……」
ちゃぷ、と湯船に顔まで沈んだクーの頭を、エリザが優しく撫でる。
「あの子は言われ過ぎるくらいで丁度ええねん。普段ろくに、周りから叱られへんのやから。
自分では人格者やー、良識ある人間やー思とるみたいやけどな、実際他人を軽く見とるわ、自分の考えを押し付けるわで、めちゃめちゃ嫌われやすい性格してんねん。こないだのシェロくん時の騒ぎも、アタシが何とかしたらへんかったら、反乱起こされとったで。せやから叱れる人間がこまめに叱ったるくらいで、丁度良おなるんや。
アンタのやったコトは何も間違うてへん。バッチリやっとるで」
「ありがとうございます、エリザさん」
クーはエリザにぴと、と肩を付け、ほんの少しだけエリザに寄り添おうとしたが、エリザは笑って、ぐい、と自分の懐に抱き込んで来る。
「遠慮せんでええよ」
「きゃっ!?」
ぎゅっと抱きしめられるが、クーに不快感は無く、むしろ――物理的にだけではなく――温かいものを、じんわりと感じていた。
「何やかんやで2年も故郷離れとるからな。色々寂しい気持ちもあるやろ? もっと甘えてええよ」
「……ふふっ、……ありがとう」
苛立ちや不安で凝り固まった心が解れるのを感じながら、クーもエリザの腕を抱きしめていた。
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6.
シモン班が測量調査に出たその朝、しょんぼりしているクーの元に、エリザが訪ねてきた。
「おはようさん」
「おはようございます、エリザさん」
「やっぱりやな」
挨拶を終えるなり、エリザはクーの顔に両手を添え、ため息を付いてきた。
「え、なっ、え、エリザさん?」
「アンタ、ココんトコまともに寝てへんやろ?」
「ぅえ?」
「目ぇは赤いし、お肌もカサついとるし。よっぽど嫌なコトあった、っちゅう顔しとるで」
「……そこまでお見通しであれば、今のわたくしの気持ちも察していらっしゃるのでしょう?」
尋ねたクーに、エリザはこくんとうなずいて返す。
「そらな。そうやなかったら、朝っぱらからお邪魔せえへんて。……ハンくんのコトやろ?」
「ええ」
「あの子はアタマのネジ、1本2本飛んどるんかと思う時あるな。アンタの気持ち知っとるはずやのに、最近お気にの女の子と悪びれもせんと遊びに行くとか、正気を疑うでホンマ」
「浮気性、……と言うと語弊がございますわね。そ、そもそも、お付き合いしているわけでは、ございませんし。もっと的確に、申すとすれば、やはり、わたくしは、……ぐす、……相手にされて、……ひっく、……いないの、でしょうね」
話しているうちに悲しさが押し寄せ、クーの目からぼたぼたと涙がこぼれ出す。
「や、そない急に決め付けんでも、な? ……しゃあないな。うん、気ぃ済むまで泣いたらええ。落ち着くまでアタシが側にいたるから」
そう言って、エリザはハンカチを差し出す。クーはそれを半ばひったくるように受け取り、顔に押し当てた。
「……ひっく……ひっく……お、お気遣い、……ぐすっ、……感謝、いたしますわ」
ひとしきり泣き、ようやく落ち着いたところで、ずっと肩を抱いていてくれたエリザが笑う。
「ハンカチぐっしょぐしょや。よお泣いたなぁ」
「申し訳ございません……」
「ええて、ええて。せや、お腹も空いたやろし、ちょっと街行かへんか?」
「え? ……あ、と」
「ま、その前にお風呂入ろか。髪の毛もくしゃくしゃやし、顔も真っ赤やしな。整えへんとな」
「え、ええ」
そのまま連れ立って浴場へ向かい、二人で湯船に浸かる。
「はぁ……あ」
「落ち着いたか?」
「ええ、大分。……あの、お聞きいただきたい件がひとつ」
「なんや?」
「ハンの、今回の測量調査ですけれど、ハンはわたくしに、まったく声をかけて下さらなかったのです」
「そらひどいな。一回くらい誘ったったらええやろにな。そらまあ、こないだのんで懲りたんやろけども」
「わたくし、言い過ぎたのかしら……」
ちゃぷ、と湯船に顔まで沈んだクーの頭を、エリザが優しく撫でる。
「あの子は言われ過ぎるくらいで丁度ええねん。普段ろくに、周りから叱られへんのやから。
自分では人格者やー、良識ある人間やー思とるみたいやけどな、実際他人を軽く見とるわ、自分の考えを押し付けるわで、めちゃめちゃ嫌われやすい性格してんねん。こないだのシェロくん時の騒ぎも、アタシが何とかしたらへんかったら、反乱起こされとったで。せやから叱れる人間がこまめに叱ったるくらいで、丁度良おなるんや。
アンタのやったコトは何も間違うてへん。バッチリやっとるで」
「ありがとうございます、エリザさん」
クーはエリザにぴと、と肩を付け、ほんの少しだけエリザに寄り添おうとしたが、エリザは笑って、ぐい、と自分の懐に抱き込んで来る。
「遠慮せんでええよ」
「きゃっ!?」
ぎゅっと抱きしめられるが、クーに不快感は無く、むしろ――物理的にだけではなく――温かいものを、じんわりと感じていた。
「何やかんやで2年も故郷離れとるからな。色々寂しい気持ちもあるやろ? もっと甘えてええよ」
「……ふふっ、……ありがとう」
苛立ちや不安で凝り固まった心が解れるのを感じながら、クーもエリザの腕を抱きしめていた。
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