「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第5部
琥珀暁・平西伝 7
神様たちの話、第273話。
色めく港町。
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7.
入浴を終え、街の食堂で食事を楽しんだ後、クーとエリザはそのまま街をぶらついていた。
「なんだか、以前にも増して人の往来が増えたように感じますわね」
「実際、西山間部からの人も来てはるみたいやね。帝国からの支配が無くなって以降は、『美味しいもんあるらしいで』言うてぞろぞろ降りてきてはるわ」
「まあ。と言うことは、『虎』の方ばかり?」
「や、『熊』の人も短耳もやね。……ふふふ、ソレやけどな」
エリザはニコニコ笑いながら、こう続けた。
「言うたら『新婚旅行』みたいなのんもちょこちょこいてはるんよ。ソレも、今まで対立しとった豪族の人らと、帝国の人らみたいにな」
「へぇ……?」
言われて辺りを見回してみると、確かに熊耳・虎耳の人間と短耳の男女が、仲睦まじげに連れ立って歩いているのが目に入る。
「でも、そう簡単に仲良くいたせるものでしょうか? 長年に渡って、両者とも争いを続けていたはずですのに。ましてや帝国は『熊耳と虎耳は賤民である』と、配下国に徹底していたはずでは」
「ちゅうてもその指導は10年、20年程度やん? 100年、200年の伝統とかやったら変えるのんは難しいけども、たかだか当代の皇帝が無理無理押し付けたような習慣なんか、そいつからの圧力が無くなった途端にみんな捨てよるわ。いがみ合いにしたかて、結局は帝国の命令でやらされてたようなもんやん。豪族さんらもソレがちゃんと分かっとるから、ああやって仲良うでけとるっちゅうワケや」
「そんなもの……かしら」
「そんなもんや。論より証拠やで」
「左様ですわね」
そうして、二人で笑っていると――エリザが突然、「……はぁ」と憂鬱そうなため息を漏らした。
「如何いたしまして?」
「や、仲良さそうな子ら見てたらな、ちょっとめんどいコト思い出してもうてな」
「めんどい……?」
首をかしげたクーに、エリザが肩をすくめて返す。
「あー、と、な。ほら、あのー……、シェロくんがな」
「シェロが?」
その名前を耳にし、クーは思わず顔をしかめる。
「やっぱりそーゆー反応やんなぁ」
エリザに見透かされるが、クーは悪びれずに答える。
「ええ。正直申しましてわたくし、シェロにはあまり良い印象を抱いておりませんわ。こちらにいらした時から無愛想で不躾な方でしたし、あの事件のこともございますもの」
「せやろなぁ。ハンくんもそう思てるやろな。……うーん」
「何か、シェロに関わることが、……あ」
尋ねかけて、クーはエリザの視線が街行く男女に向けられていることに気付き、そこから彼女が言わんとすることを察する。
「そう言えば以前、シェロがミェーチ元将軍の娘さんとお付き合いされていると伺ったことがございましたわね」
「あー、うん」
「あれから月日が経ちましたし、今回の件でミェーチ元将軍は西山間部で安堵されたとも伺っておりますわ。となればそろそろ、シェロにも身を固めるようなお話が立つのでは?」
「まあ、そう言うコトやねんな」
エリザはもう一度ため息をつき、こう続けた。
「ほんで再来週、結婚式挙げるでーってコトになったはええものの、アタシに出席して欲しいと。や、ソレは全然ええねん。アレコレ世話焼いた相手の吉事やし、そら出たらなアカンやん。アタシ自身は出る気満々やねん。問題はな」
「遠征隊の、エリザさん以外の重要人物も呼んで欲しい、と?」
「せやねん。ちゅうのんも今回の件な、向こうさんには『遠征隊と一緒に戦った』っちゅうように伝わっとんねんな。や、向こうさんにとったら、そらそうなんやけども」
「あら」
「せやから、『今度のおめでたい式には遠征隊のお偉いさんが出て来て当然』みたいな空気になっとってな。そらアタシは行くけども、いっつも顔見せとるからな。ミェーチさんからも『今度は特別な催事故、いつもは顔を見せぬような者が訪ねてきて欲しいものだ』言うて、釘刺されてしもてん」
「難儀ですわね。それでハンか、もしくはわたくしを、と?」
「せやねん。や、クーちゃんがどうしても行きたないっちゅうコトやったら、アタシがハンくん説得して、無理無理来さすけどもな」
「構いませんわ。わたくしでよろしければ、出席いたしますわよ」
「へ?」
思ってもいない回答だったらしく、エリザの目が点になる。
「ええの?」
「ええ。何だかんだと申しましても、ご結婚なさると言うことであれば、是非お祝いいたしたく存じますもの」
「ソレやったらええねん。や、ホンマ助かるわぁ」
「どういたしまして」
そう返し、クーはにこっと笑って見せた。
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7.
入浴を終え、街の食堂で食事を楽しんだ後、クーとエリザはそのまま街をぶらついていた。
「なんだか、以前にも増して人の往来が増えたように感じますわね」
「実際、西山間部からの人も来てはるみたいやね。帝国からの支配が無くなって以降は、『美味しいもんあるらしいで』言うてぞろぞろ降りてきてはるわ」
「まあ。と言うことは、『虎』の方ばかり?」
「や、『熊』の人も短耳もやね。……ふふふ、ソレやけどな」
エリザはニコニコ笑いながら、こう続けた。
「言うたら『新婚旅行』みたいなのんもちょこちょこいてはるんよ。ソレも、今まで対立しとった豪族の人らと、帝国の人らみたいにな」
「へぇ……?」
言われて辺りを見回してみると、確かに熊耳・虎耳の人間と短耳の男女が、仲睦まじげに連れ立って歩いているのが目に入る。
「でも、そう簡単に仲良くいたせるものでしょうか? 長年に渡って、両者とも争いを続けていたはずですのに。ましてや帝国は『熊耳と虎耳は賤民である』と、配下国に徹底していたはずでは」
「ちゅうてもその指導は10年、20年程度やん? 100年、200年の伝統とかやったら変えるのんは難しいけども、たかだか当代の皇帝が無理無理押し付けたような習慣なんか、そいつからの圧力が無くなった途端にみんな捨てよるわ。いがみ合いにしたかて、結局は帝国の命令でやらされてたようなもんやん。豪族さんらもソレがちゃんと分かっとるから、ああやって仲良うでけとるっちゅうワケや」
「そんなもの……かしら」
「そんなもんや。論より証拠やで」
「左様ですわね」
そうして、二人で笑っていると――エリザが突然、「……はぁ」と憂鬱そうなため息を漏らした。
「如何いたしまして?」
「や、仲良さそうな子ら見てたらな、ちょっとめんどいコト思い出してもうてな」
「めんどい……?」
首をかしげたクーに、エリザが肩をすくめて返す。
「あー、と、な。ほら、あのー……、シェロくんがな」
「シェロが?」
その名前を耳にし、クーは思わず顔をしかめる。
「やっぱりそーゆー反応やんなぁ」
エリザに見透かされるが、クーは悪びれずに答える。
「ええ。正直申しましてわたくし、シェロにはあまり良い印象を抱いておりませんわ。こちらにいらした時から無愛想で不躾な方でしたし、あの事件のこともございますもの」
「せやろなぁ。ハンくんもそう思てるやろな。……うーん」
「何か、シェロに関わることが、……あ」
尋ねかけて、クーはエリザの視線が街行く男女に向けられていることに気付き、そこから彼女が言わんとすることを察する。
「そう言えば以前、シェロがミェーチ元将軍の娘さんとお付き合いされていると伺ったことがございましたわね」
「あー、うん」
「あれから月日が経ちましたし、今回の件でミェーチ元将軍は西山間部で安堵されたとも伺っておりますわ。となればそろそろ、シェロにも身を固めるようなお話が立つのでは?」
「まあ、そう言うコトやねんな」
エリザはもう一度ため息をつき、こう続けた。
「ほんで再来週、結婚式挙げるでーってコトになったはええものの、アタシに出席して欲しいと。や、ソレは全然ええねん。アレコレ世話焼いた相手の吉事やし、そら出たらなアカンやん。アタシ自身は出る気満々やねん。問題はな」
「遠征隊の、エリザさん以外の重要人物も呼んで欲しい、と?」
「せやねん。ちゅうのんも今回の件な、向こうさんには『遠征隊と一緒に戦った』っちゅうように伝わっとんねんな。や、向こうさんにとったら、そらそうなんやけども」
「あら」
「せやから、『今度のおめでたい式には遠征隊のお偉いさんが出て来て当然』みたいな空気になっとってな。そらアタシは行くけども、いっつも顔見せとるからな。ミェーチさんからも『今度は特別な催事故、いつもは顔を見せぬような者が訪ねてきて欲しいものだ』言うて、釘刺されてしもてん」
「難儀ですわね。それでハンか、もしくはわたくしを、と?」
「せやねん。や、クーちゃんがどうしても行きたないっちゅうコトやったら、アタシがハンくん説得して、無理無理来さすけどもな」
「構いませんわ。わたくしでよろしければ、出席いたしますわよ」
「へ?」
思ってもいない回答だったらしく、エリザの目が点になる。
「ええの?」
「ええ。何だかんだと申しましても、ご結婚なさると言うことであれば、是非お祝いいたしたく存じますもの」
「ソレやったらええねん。や、ホンマ助かるわぁ」
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そう返し、クーはにこっと笑って見せた。
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