「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第5部
琥珀暁・平西伝 8
神様たちの話、第274話。
冠婚式。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
8.
「おぉ、クラム殿下! ようこそ参られた!」
クーの顔を見るなり、ミェーチは満面の笑みを浮かべ、クーの手をがっちり握りしめた。
「いやいや、こうしてこの西山間部でお目見えが叶うとは、なんと幸甚であるか!」
「お喜びいただけまして、こちらも光栄ですわ」
自分より頭2つ半も背の高いミェーチを見上げ、クーもにっこりと笑って返す。
「エリザさんから、ご栄達のほどを伺っておりますわ。おめでとうございます、将軍閣下。いえ、陛下とお呼びした方がよろしいかしら」
「いやいや、陛下などと呼ばれては甚だ恐縮である。何しろこの地をを任されて、まだ幾許(いくばく)も経っておらぬからな」
西山間部戦終結後、豪族たちは自分たちが元々治めていた西山間部各地に戻り、約四半世紀ぶりに君臨・統治することとなった。
また、ミェーチ軍団についても、無血陥落させた西山間部基地とその周辺の土地を安堵され、ミェーチがその地域の首長、即ち国王となった。
「とは言え、手放しで喜べはせん。何しろ東山間部が目と鼻の先であるからな。有事の際には、この砦が最前線となることは想像に難くない」
「であるからこそ、安堵も容易に認められたのでしょうね。ですけれど、王と認められたのは事実ですから、吉事には変わりございませんわ」
「うむ。加えて娘も本日、婿を迎えることとなった。吉事が重なり、誠に喜ばしい限りだ」
「心からお祝いいたします。改めて、おめでとうございます、陛下」
「……うむ」
クーの言葉に、ミェーチは心底嬉しそうに顔をほころばせていた。
そうこうしている内に式の開始が告げられ、クーは来賓席に通された。ところが――。
(……あら? エリザさんはどちらかしら。てっきりお隣の席かと存じておりましたけれど)
隣が空席のまま、式が開始される。クーが戸惑っている間に、砦の中庭にリディアとミェーチが現れた。
(エリザさんからお聞きしていた通り、わたくしたちの作法に則って式を進めるようですわね。結婚の誓いを行う際には、新郎新婦の、最も親しい方を帯同させるのが習わしですし、……となると、シェロは如何なさるのかしら? わたくしたちの作法に則るとするなら、シェロもご両親か、あるいは親しいご友人を帯同させなければなりませんけれど――シェロには誠に失礼ですけれど――どちらもいらっしゃらないわよね?)
そんなことを考えながら成り行きを見守っていると、やがて「答え」が姿を現した。
「あらっ」
思わず、声を漏らしてしまう。何故なら花婿姿のシェロの隣には、エリザが佇んでいたからだ。
(もしかしてエリザさんが億劫がっていた本当の理由は、こちらにあったのかしら。ご自分が代役を頼まれると、予想が付いてらしたのでしょうね)
どうやらクーの予想通りらしく、エリザはどことなく居心地悪そうな様子で、シェロの手を引いて中庭を進んで行く。
「ほれ、着いたで」
「……ども」
気まずいのはシェロの方もらしく、彼もほとんど、エリザと目を合わそうとしていない。
「オホン、……ほな、誓いしてもらうで」
シェロを連れてきたエリザが、そのまま二人の前に立つ。
「まず、新郎のシェロ・ナイトマン。アンタは新婦、リディア・ミェーチを妻とし、生涯愛し続けるコトを誓うか?」
「誓います」
どうにか踏ん切りをつけたらしく、シェロは背筋を正してエリザに向き直り、深くうなずく。
「では新婦のリディア・ミェーチ。アンタは新郎、シェロ・ナイトマンを夫とし、生涯愛し続けるコトを誓うか?」
「はい!」
リディアも満面の笑みで答え、エリザはどことなく、ほっとしたような顔をした。
「ほな、その誓いの証明として、二人はココでキスな」
「はっ、はい」
「あ……」
シェロは顔を真っ赤にしつつ、同様に紅潮したリディアの肩に手を置き、顔を寄せる。
「あ、……と、……いい?」
「……ど、どうぞ」
そのまま二人が顔を重ねたところで、エリザがぱちぱちと拍手する。それにつられる形で、皆も拍手し始めた。
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冠婚式。
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「おぉ、クラム殿下! ようこそ参られた!」
クーの顔を見るなり、ミェーチは満面の笑みを浮かべ、クーの手をがっちり握りしめた。
「いやいや、こうしてこの西山間部でお目見えが叶うとは、なんと幸甚であるか!」
「お喜びいただけまして、こちらも光栄ですわ」
自分より頭2つ半も背の高いミェーチを見上げ、クーもにっこりと笑って返す。
「エリザさんから、ご栄達のほどを伺っておりますわ。おめでとうございます、将軍閣下。いえ、陛下とお呼びした方がよろしいかしら」
「いやいや、陛下などと呼ばれては甚だ恐縮である。何しろこの地をを任されて、まだ幾許(いくばく)も経っておらぬからな」
西山間部戦終結後、豪族たちは自分たちが元々治めていた西山間部各地に戻り、約四半世紀ぶりに君臨・統治することとなった。
また、ミェーチ軍団についても、無血陥落させた西山間部基地とその周辺の土地を安堵され、ミェーチがその地域の首長、即ち国王となった。
「とは言え、手放しで喜べはせん。何しろ東山間部が目と鼻の先であるからな。有事の際には、この砦が最前線となることは想像に難くない」
「であるからこそ、安堵も容易に認められたのでしょうね。ですけれど、王と認められたのは事実ですから、吉事には変わりございませんわ」
「うむ。加えて娘も本日、婿を迎えることとなった。吉事が重なり、誠に喜ばしい限りだ」
「心からお祝いいたします。改めて、おめでとうございます、陛下」
「……うむ」
クーの言葉に、ミェーチは心底嬉しそうに顔をほころばせていた。
そうこうしている内に式の開始が告げられ、クーは来賓席に通された。ところが――。
(……あら? エリザさんはどちらかしら。てっきりお隣の席かと存じておりましたけれど)
隣が空席のまま、式が開始される。クーが戸惑っている間に、砦の中庭にリディアとミェーチが現れた。
(エリザさんからお聞きしていた通り、わたくしたちの作法に則って式を進めるようですわね。結婚の誓いを行う際には、新郎新婦の、最も親しい方を帯同させるのが習わしですし、……となると、シェロは如何なさるのかしら? わたくしたちの作法に則るとするなら、シェロもご両親か、あるいは親しいご友人を帯同させなければなりませんけれど――シェロには誠に失礼ですけれど――どちらもいらっしゃらないわよね?)
そんなことを考えながら成り行きを見守っていると、やがて「答え」が姿を現した。
「あらっ」
思わず、声を漏らしてしまう。何故なら花婿姿のシェロの隣には、エリザが佇んでいたからだ。
(もしかしてエリザさんが億劫がっていた本当の理由は、こちらにあったのかしら。ご自分が代役を頼まれると、予想が付いてらしたのでしょうね)
どうやらクーの予想通りらしく、エリザはどことなく居心地悪そうな様子で、シェロの手を引いて中庭を進んで行く。
「ほれ、着いたで」
「……ども」
気まずいのはシェロの方もらしく、彼もほとんど、エリザと目を合わそうとしていない。
「オホン、……ほな、誓いしてもらうで」
シェロを連れてきたエリザが、そのまま二人の前に立つ。
「まず、新郎のシェロ・ナイトマン。アンタは新婦、リディア・ミェーチを妻とし、生涯愛し続けるコトを誓うか?」
「誓います」
どうにか踏ん切りをつけたらしく、シェロは背筋を正してエリザに向き直り、深くうなずく。
「では新婦のリディア・ミェーチ。アンタは新郎、シェロ・ナイトマンを夫とし、生涯愛し続けるコトを誓うか?」
「はい!」
リディアも満面の笑みで答え、エリザはどことなく、ほっとしたような顔をした。
「ほな、その誓いの証明として、二人はココでキスな」
「はっ、はい」
「あ……」
シェロは顔を真っ赤にしつつ、同様に紅潮したリディアの肩に手を置き、顔を寄せる。
「あ、……と、……いい?」
「……ど、どうぞ」
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