「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第5部
琥珀暁・平西伝 9
神様たちの話、第275話。
見えぬ相手。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
9.
式が滞りなく済んだその晩、クーとエリザはミェーチの砦に泊まることとなった。
「無論、今夜は南の塔には寄らぬよう、くれぐれもお頼み申す」
「承知しておりますわ」
「なんぼなんでも結婚初夜に、お部屋にお邪魔するんは野暮ですからな」
「うむ、であれば結構」
どこかそわそわした様子ながら、ミェーチは話を切り出してきた。
「お二方を夜分にお呼びしたのは、他でもござらん。今後のことについて、見解を伺いたくてな」
「今後のこと?」
尋ねたクーに、ミェーチは難しい顔で返す。
「此度の戦で、帝国の版図は3分の1まで縮むこととなった。これは即ち、帝国が最早この邦の覇権を喪失したことを意味する。普通に考えるならば、大勢は決したと考えて相違無いものであろう。だが……」
「帝国にはよほど強力な戦力が存在する、と?」
「うむ。でなければ四半世紀前には影も形も無かった帝国が、瞬く間に覇権を奪取することなど不可能だ。……とは言え、正直に言えば吾輩も、帝国がどのような兵や策を用いて征服を進めていたのか、詳しいことは聞き及んでおらん。何しろ、実際に戦っていた者たちはその戦いの最中に討ち死にするか、あるいは処刑されてしまったのだからな。
吾輩の親父も現ノルド王のお父上もその時の戦で敗北し、そのまま処刑されたクチである。両人とも沿岸部から西山間部への戦いへ出征し、再びその姿を見た時には、どちらも既に首だけの状態であった」
「まあ……」
「その首級を無造作に我らの足元に投げ捨て、帝国軍はこう命じた。『本日を以て貴様らは我がジーン帝国の属国民となった。以降は謀反や反乱など考えず、我々の奴隷となって未来永劫尽くすのだ』と。
親父も先王も、相当の兵(つわもの)であった。その二人がああも無残な姿で戻ってきては、誰一人として反抗しようなどと言う者は現れなかった。以来20年以上に渡って、ノルド王国は帝国の属国として冷遇され続けてきたのだ」
嘆くように語り、ミェーチは目の端にきら、と光るものを見せた。
「……すまん。大の男が泣き言なぞ」
「しゃあないでしょ。ひどい話ですやん。誰かて泣きますわ」
「そう言ってくれると、いくらか慰められる。……その、つまりだな」
「現状、帝国が逆襲やら報復やらしに来るとしても、どんな手の打ち方してくるか分からへんっちゅうコトですな」
エリザの言葉に、ミェーチは苦々しい顔で「うむ」とうなずく。
「打つ手が分からん以上、迎撃のしようが無い。一応、正面から攻めてくることを想定した陣を構えてはおくが……」
「正面から来ると思って背後から来られたりなんかしたら、一巻の終わりですな」
「正にそれだ。かと言って全方向への盤石な守りなど、いくらこの砦が難攻不落といえども不可能であるからな。
そこで女史に伺いたいのだが、我々はどのように守りを固めればよろしいだろうか?」
尋ねられ、エリザは腕を組んでうなる。
「んー……。そう言われてもですな、アタシの方もろくな情報を持ってませんからな。ミェーチさんと同じく、正攻法への対処しかおすすめでけませんわ」
「そうであるか」
「とは言え、今後のコトを考えたら情報集めは必須ですからな。今まで通り商売の傍ら相手の動きを調べて、ソレを元に方策を整えていくようにしましょか」
「かたじけない。誠に、女史には世話になりっぱなしである。これほどのご恩、どのように返せば良いものか」
深々と頭を下げたミェーチに、エリザはぺらぺらと手を振って返す。
「そないにかしこまらんと。今までもアタシらは仲良う持ちつ持たれつでやってきたんですから、今後もええ『おともだち』として、お付き合いして下さい」
「……うむ」
ミェーチは笑顔を見せ、もう一度頭を下げた。
こうして沿岸部に続き西山間部も帝国の支配から逃れることとなり、激動を続けていた北の邦の情勢は、次第に「親中央・反帝国」の形で収束し始めた。
残る帝国圏――東山間部はまだ何も、動きを見せていない。
琥珀暁・平西伝 終
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見えぬ相手。
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式が滞りなく済んだその晩、クーとエリザはミェーチの砦に泊まることとなった。
「無論、今夜は南の塔には寄らぬよう、くれぐれもお頼み申す」
「承知しておりますわ」
「なんぼなんでも結婚初夜に、お部屋にお邪魔するんは野暮ですからな」
「うむ、であれば結構」
どこかそわそわした様子ながら、ミェーチは話を切り出してきた。
「お二方を夜分にお呼びしたのは、他でもござらん。今後のことについて、見解を伺いたくてな」
「今後のこと?」
尋ねたクーに、ミェーチは難しい顔で返す。
「此度の戦で、帝国の版図は3分の1まで縮むこととなった。これは即ち、帝国が最早この邦の覇権を喪失したことを意味する。普通に考えるならば、大勢は決したと考えて相違無いものであろう。だが……」
「帝国にはよほど強力な戦力が存在する、と?」
「うむ。でなければ四半世紀前には影も形も無かった帝国が、瞬く間に覇権を奪取することなど不可能だ。……とは言え、正直に言えば吾輩も、帝国がどのような兵や策を用いて征服を進めていたのか、詳しいことは聞き及んでおらん。何しろ、実際に戦っていた者たちはその戦いの最中に討ち死にするか、あるいは処刑されてしまったのだからな。
吾輩の親父も現ノルド王のお父上もその時の戦で敗北し、そのまま処刑されたクチである。両人とも沿岸部から西山間部への戦いへ出征し、再びその姿を見た時には、どちらも既に首だけの状態であった」
「まあ……」
「その首級を無造作に我らの足元に投げ捨て、帝国軍はこう命じた。『本日を以て貴様らは我がジーン帝国の属国民となった。以降は謀反や反乱など考えず、我々の奴隷となって未来永劫尽くすのだ』と。
親父も先王も、相当の兵(つわもの)であった。その二人がああも無残な姿で戻ってきては、誰一人として反抗しようなどと言う者は現れなかった。以来20年以上に渡って、ノルド王国は帝国の属国として冷遇され続けてきたのだ」
嘆くように語り、ミェーチは目の端にきら、と光るものを見せた。
「……すまん。大の男が泣き言なぞ」
「しゃあないでしょ。ひどい話ですやん。誰かて泣きますわ」
「そう言ってくれると、いくらか慰められる。……その、つまりだな」
「現状、帝国が逆襲やら報復やらしに来るとしても、どんな手の打ち方してくるか分からへんっちゅうコトですな」
エリザの言葉に、ミェーチは苦々しい顔で「うむ」とうなずく。
「打つ手が分からん以上、迎撃のしようが無い。一応、正面から攻めてくることを想定した陣を構えてはおくが……」
「正面から来ると思って背後から来られたりなんかしたら、一巻の終わりですな」
「正にそれだ。かと言って全方向への盤石な守りなど、いくらこの砦が難攻不落といえども不可能であるからな。
そこで女史に伺いたいのだが、我々はどのように守りを固めればよろしいだろうか?」
尋ねられ、エリザは腕を組んでうなる。
「んー……。そう言われてもですな、アタシの方もろくな情報を持ってませんからな。ミェーチさんと同じく、正攻法への対処しかおすすめでけませんわ」
「そうであるか」
「とは言え、今後のコトを考えたら情報集めは必須ですからな。今まで通り商売の傍ら相手の動きを調べて、ソレを元に方策を整えていくようにしましょか」
「かたじけない。誠に、女史には世話になりっぱなしである。これほどのご恩、どのように返せば良いものか」
深々と頭を下げたミェーチに、エリザはぺらぺらと手を振って返す。
「そないにかしこまらんと。今までもアタシらは仲良う持ちつ持たれつでやってきたんですから、今後もええ『おともだち』として、お付き合いして下さい」
「……うむ」
ミェーチは笑顔を見せ、もう一度頭を下げた。
こうして沿岸部に続き西山間部も帝国の支配から逃れることとなり、激動を続けていた北の邦の情勢は、次第に「親中央・反帝国」の形で収束し始めた。
残る帝国圏――東山間部はまだ何も、動きを見せていない。
琥珀暁・平西伝 終
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これにて「琥珀暁」第5部、終了です。
北方大陸も残るは東山間部、帝国本国とその周辺を残すばかり。
果たして帝国はどんな攻勢に打って出るのか。
そしてエリザとハンは本土からのいちゃもんを、どうやってかわしていくのか。
そしてそして、ハンは一体誰を選ぶのか――。
色々ごちゃついてます。まとめるの大変。
これにて「琥珀暁」第5部、終了です。
北方大陸も残るは東山間部、帝国本国とその周辺を残すばかり。
果たして帝国はどんな攻勢に打って出るのか。
そしてエリザとハンは本土からのいちゃもんを、どうやってかわしていくのか。
そしてそして、ハンは一体誰を選ぶのか――。
色々ごちゃついてます。まとめるの大変。



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