今日の旅岡さん
一生分作ったかも知れへん
旅岡さんたちの通う学校の文化祭で催される「店舗」の中で、
いわゆる「喫茶店モノ」は生徒会抽選による定員制となっている。
と言うのも教室内は火気厳禁であり、調理は専用教室でしか行なえない。
その上、中高大一貫性であるために、4室しか無い調理室を皆が一斉に使うと大混乱になるからである。
そんな事情があるので当然、喫茶店の競争率は高い。
なのでクラスで何をするか会議した時も、喫茶店を提案しなかった。
アジアンスイーツ大好き、食いしんぼの旅岡さん以外は。
と言って、文化祭での催しモノなんて大抵喫茶店かお化け屋敷、
さもなくばテーマの良く分からない展示くらいしか無いと言うのが相場。
結局、旅岡さんの猛プッシュ以外に決定打も無く、
クラス委員長の夜狼さんはダメもとで喫茶店に応募した。
……そしたらあろうことか、当選してしまったのである。
絶対ムリと思っていただけに、皆大慌てとなった。
発案者の旅岡さんでさえ当選と聞いて「うそぉ!?」と叫んだくらいである。
勿論言い出しっぺの彼女も一応アイデアだけは温めていたものの、
それ以外の準備なんか全くできていなかった!
旅岡さんのアイデア――それは黄さんのお店で出ているスイーツをそのまま出してはどうか、と言うものだった。
これならば事前準備は黄さんへの連絡だけで済むし、
搬入も店からそのまま調理室の冷蔵庫へ運ぶだけ。
翌日お茶を淹れて温めれば、そのまま店に出せる。
黄さんも学校への大量搬入ができてボロ儲け、旅岡さんたちも楽して店が出せる。
双方ウィンウィン、旅岡さんのアイデアの勝利である。
が、喫茶店に出す量となると結構なモノになってしまう。
黄さんからも「決まったら早く教えてね。1週間前とかちょこっと困るからね」と念押しされていたが、
通達された時点でその1週間前である。旅岡さんは慌てて店へと駆け出そうとした。
が、ここでクラス一の見栄っ張り、虎海お嬢様から「わたくしにお任せなさい」の一声。彼女が連絡してくれると言うのだ。
クラスの皆はほっと一安心。搬入を虎海さんに一任し、他の皆は店づくりに集中した。
無論、旅岡さんのアイデアは、クラス会議の場で旅岡さん自身が説明していたし、
その場にいた虎海さんにも、間違い無く伝わっていたはずなのだ。
ところが――繰り返すが――虎海さんは見栄っ張りだった。
そして文化祭前日、事件は起こった。
見栄っ張りの虎海さんは「出来合いのモノをそのままお出しするなんて」などと、
いかにも一度も調理経験の無い類の人間が安易に考えそうな極めて面倒臭いことをお考えあそばせ、
完成品ではなく原材料を持って来させたのだ。
しかも当の本人は用事があるとか言って調理室には来ず、
虎海さんのお屋敷の使用人さんに持って来させると言う、
トンデモお嬢様っぷりをご発揮あそばされたのである。
当然、旅岡さんも夜狼さんも「話がちゃうやんけ!?」と激怒したが、時既に遅し。
かくして、そのまま調理室に置いて行かれた総重量50キロのタピオカ粉と小麦粉、
あんこ、そして茶葉の山を前にし、旅岡さんと夜狼さんは途方に暮れた。
文化祭は明日に迫っている。時間は残り、約半日。
手の空いた者を総動員しての、調理地獄が始まった。

旅岡「うー……終われへん」
夜狼「口じゃなく手動かしてよ。もうギリギリだって、あたし何回言った?」
旅岡「分かってるけどー……言いたなるやんか」
夜狼「ボーッとしない! 桃まんもゴマ団子も、あと200個ずつ作んなきゃいけないのよ!?」
旅岡「はうぅー……」
夜狼「にしても、ほんっっっとに虎海さんにはアタマ来るわね。みんなこーしてヒィヒィ言ってんのに。
後で絶対あたしが文句言ってやるわ」
富士見「……ほんと面倒見いいよね、いいんちょ」
大江「ほんとにねー」
夜狼「そこの二人、聞こえてるわよ。ほら手ぇ動かす!」
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
なお、文化祭にはどうにか間に合った模様。
……全員の顔は粉と疲労で蒼白だったものの。
夜狼「でも意外だったのは、あんたがこーゆーの料理できたってことよね。あんたいなかったらマジで詰んでたわ」
旅岡「料理は得意やねん、あたし。……でももう一生分作ったかも知れへん」
夜狼「あたしだってこんなにお団子丸めたの、生まれて初めてよ」
クラスのみんな「本当にな」
そして虎海さんは罰として、文化祭後のおつかれさま会用の桃まん、
クラス全員分を、一人で作らされる羽目になったとさ。
めでたしめでたし。
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いわゆる「喫茶店モノ」は生徒会抽選による定員制となっている。
と言うのも教室内は火気厳禁であり、調理は専用教室でしか行なえない。
その上、中高大一貫性であるために、4室しか無い調理室を皆が一斉に使うと大混乱になるからである。
そんな事情があるので当然、喫茶店の競争率は高い。
なのでクラスで何をするか会議した時も、喫茶店を提案しなかった。
アジアンスイーツ大好き、食いしんぼの旅岡さん以外は。
と言って、文化祭での催しモノなんて大抵喫茶店かお化け屋敷、
さもなくばテーマの良く分からない展示くらいしか無いと言うのが相場。
結局、旅岡さんの猛プッシュ以外に決定打も無く、
クラス委員長の夜狼さんはダメもとで喫茶店に応募した。
……そしたらあろうことか、当選してしまったのである。
絶対ムリと思っていただけに、皆大慌てとなった。
発案者の旅岡さんでさえ当選と聞いて「うそぉ!?」と叫んだくらいである。
勿論言い出しっぺの彼女も一応アイデアだけは温めていたものの、
それ以外の準備なんか全くできていなかった!
旅岡さんのアイデア――それは黄さんのお店で出ているスイーツをそのまま出してはどうか、と言うものだった。
これならば事前準備は黄さんへの連絡だけで済むし、
搬入も店からそのまま調理室の冷蔵庫へ運ぶだけ。
翌日お茶を淹れて温めれば、そのまま店に出せる。
黄さんも学校への大量搬入ができてボロ儲け、旅岡さんたちも楽して店が出せる。
双方ウィンウィン、旅岡さんのアイデアの勝利である。
が、喫茶店に出す量となると結構なモノになってしまう。
黄さんからも「決まったら早く教えてね。1週間前とかちょこっと困るからね」と念押しされていたが、
通達された時点でその1週間前である。旅岡さんは慌てて店へと駆け出そうとした。
が、ここでクラス一の見栄っ張り、虎海お嬢様から「わたくしにお任せなさい」の一声。彼女が連絡してくれると言うのだ。
クラスの皆はほっと一安心。搬入を虎海さんに一任し、他の皆は店づくりに集中した。
無論、旅岡さんのアイデアは、クラス会議の場で旅岡さん自身が説明していたし、
その場にいた虎海さんにも、間違い無く伝わっていたはずなのだ。
ところが――繰り返すが――虎海さんは見栄っ張りだった。
そして文化祭前日、事件は起こった。
見栄っ張りの虎海さんは「出来合いのモノをそのままお出しするなんて」などと、
いかにも一度も調理経験の無い類の人間が安易に考えそうな極めて面倒臭いことをお考えあそばせ、
完成品ではなく原材料を持って来させたのだ。
しかも当の本人は用事があるとか言って調理室には来ず、
虎海さんのお屋敷の使用人さんに持って来させると言う、
トンデモお嬢様っぷりをご発揮あそばされたのである。
当然、旅岡さんも夜狼さんも「話がちゃうやんけ!?」と激怒したが、時既に遅し。
かくして、そのまま調理室に置いて行かれた総重量50キロのタピオカ粉と小麦粉、
あんこ、そして茶葉の山を前にし、旅岡さんと夜狼さんは途方に暮れた。
文化祭は明日に迫っている。時間は残り、約半日。
手の空いた者を総動員しての、調理地獄が始まった。

旅岡「うー……終われへん」
夜狼「口じゃなく手動かしてよ。もうギリギリだって、あたし何回言った?」
旅岡「分かってるけどー……言いたなるやんか」
夜狼「ボーッとしない! 桃まんもゴマ団子も、あと200個ずつ作んなきゃいけないのよ!?」
旅岡「はうぅー……」
夜狼「にしても、ほんっっっとに虎海さんにはアタマ来るわね。みんなこーしてヒィヒィ言ってんのに。
後で絶対あたしが文句言ってやるわ」
富士見「……ほんと面倒見いいよね、いいんちょ」
大江「ほんとにねー」
夜狼「そこの二人、聞こえてるわよ。ほら手ぇ動かす!」
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
なお、文化祭にはどうにか間に合った模様。
……全員の顔は粉と疲労で蒼白だったものの。
夜狼「でも意外だったのは、あんたがこーゆーの料理できたってことよね。あんたいなかったらマジで詰んでたわ」
旅岡「料理は得意やねん、あたし。……でももう一生分作ったかも知れへん」
夜狼「あたしだってこんなにお団子丸めたの、生まれて初めてよ」
クラスのみんな「本当にな」
そして虎海さんは罰として、文化祭後のおつかれさま会用の桃まん、
クラス全員分を、一人で作らされる羽目になったとさ。
めでたしめでたし。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
おまけ。
旅岡「あんこと粉余ったやん? こんなん作ってみた」
夜狼「白っ」
「白いたい焼き」と言うスイーツをご存知だろうか?
通常のたい焼きは小麦粉を使っており、出来上がりはきつね色となるが、
これにタピオカ粉を多めに加えると、真っ白なたい焼きが出来上がるのである。

旅岡「名付けて白ドラ焼き」
クラスの子「ちょおかわいぃ」
旅岡「へっへーん」
クラスの子「食べていいの?」
クラスの子「撮っていい?」
旅岡「どーぞどーぞ」
虎海「わ、わたくしもよろしいかしら?」
旅岡「あんたの桃まんまだ残ってるで。桃かゲンコツか分からへんけど」
虎海「(´・ω・)」
旅岡「じょーだんや。食べよし」
虎海「(´・∀・)」
おまけ。
旅岡「あんこと粉余ったやん? こんなん作ってみた」
夜狼「白っ」
「白いたい焼き」と言うスイーツをご存知だろうか?
通常のたい焼きは小麦粉を使っており、出来上がりはきつね色となるが、
これにタピオカ粉を多めに加えると、真っ白なたい焼きが出来上がるのである。

旅岡「名付けて白ドラ焼き」
クラスの子「ちょおかわいぃ」
旅岡「へっへーん」
クラスの子「食べていいの?」
クラスの子「撮っていい?」
旅岡「どーぞどーぞ」
虎海「わ、わたくしもよろしいかしら?」
旅岡「あんたの桃まんまだ残ってるで。桃かゲンコツか分からへんけど」
虎海「(´・ω・)」
旅岡「じょーだんや。食べよし」
虎海「(´・∀・)」
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