「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第5部
蒼天剣・剛剣録 2
晴奈の話、第246話。
落ちた下馬評。
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2.
エリザリーグと賞金についてもう一度、詳しく説明しておこう。
エリザリーグは年二回、5月~6月と、11月~12月に行われる。参加人数は5名、全10回の総当り形式で対戦が組まれる。
強豪同士が対戦するため、双方に相当の疲労やケガ、ストレスが発生する。そのため、試合は1日1回、3日おきに行われる(なお、エリザリーグ開催中もニコルリーグを除くリーグ戦は通常通り行われる)。
1回の試合に勝てば、賞金10万クラム。また、優勝賞金は100万クラム。これだけでも全勝すれば140万の大金となるが、もう一つ大きく金が動くところがある。非公式に存在する賭博団体が、この試合結果を賭けの対象にしているのだ。
大きな注目を集めるイベントなので、賭けられる総額も半端な額ではなく、一説では数百万、数千万の金が集まるとも言われている。
大仰な演出と演説めいた前説が散々続いた後、ようやく一回戦が始まった。
「さあ、それではいよいよ第1戦、クラウン対ナラサキの開始です!
東口からは歴戦の覇者、『キング』こと、ピサロ・クラウンの入場です! 前回のエリザリーグでは2勝2敗と、残念ながらあまり良い結果を残すことはできませんでした!
しかし、しかし! 今回こそはその巨体と経験を活かした、まさに王と呼ぶべき試合を我々に見せてくれるはずです! 闘技場選手歴28年の底力を今回こそ見せつけてくれると、我々一同期待しております!」
アナウンスに従って、クラウンがリングの東口からその姿を現した。
「……ケッ、くだらねえことをグチャグチャと」
小声で誰にも分からないようにつぶやいたが、その厭世観(えんせいかん)は観客に伝わってくる。
「何かさ……」
「うん?」
「キング、老けたよなぁ」
「そうだな」
観客たちは口々に、クラウンの様子に眉をひそめている。
「もう50だっけ?」
「いや、まだ49だったと思うけど」
「どっちにしたって、もう闘技場でワーワー暴れる歳じゃないだろ」
「あのおっさん、頭の中は子供だからなぁ」
「ははは……」
(ちくしょう……)
十数年前は歓声だった観客の声も、今では嘲笑に近い。
「今回、どうなのよ?」
「勝てるわけないじゃん」
「だよなぁ。最近じゃ全然、ニコルで代理出場もしてないんだろ?」
「もう終わりだよ、終わり。俺、この試合もナラサキに賭けたもん」
「あ、俺も。聞いたか、ナラサキのオッズ(払い戻し率)1.02だって」
「低っ。て言うか、それって1倍切ったってことだろ、元の倍率が」
「ああ。元は確か0.79だってさ。賭けにならないから、補正入ったんだって」
「胴元は赤字だろうな」
「こりゃ、来期はキング消えるな」
「間違いないだろ。これじゃ賭けにならないし、大赤字出すことになるし」
観客のざわめき自体は、クラウンの熊耳に聞こえてはいない。
だが、クラウンの意気消沈が観客に伝わったように、観客の冷たい視線は、クラウンにはたまらなくなるほど感じられる。
(くそっ……、くそっ……、くそっ……!
お前ら、もっと応援しろよ! もっと、俺を盛り上げろよッ! 何だこの、まるでゴミ捨て場のガラクタでも眺めるような視線はよぉ……!)
そんなクラウンに構うはずもなく、司会者は楢崎の紹介に移る。
「続いて西口からはナイスミドル、央南剣士のシュンジ・ナラサキの入場です!
昨年11月末に出場してから、勝率8割強とまずまずの成績で進んできました! その憂愁を帯びた漢の顔は、同年代の女性客の人気を一手に集める、オリエンタルな甘いマスク!
もちろんもちろん、腕は超一流! 央南を代表する剣術一派、焔流剣術の使い手です! 長年磨いてきたその技術が、キングを相手にどこまで通用するかが見所でしょう!」
西口に現れた楢崎は、非常に清々しい顔をしている。朝、晴奈と語ったことが、彼の心を非常に澄み渡らせていた。
(何だか、こんな気持ちは若い時以来だな。すごく、ワクワクしている……! 刀を振るうこと自体が、ひどく楽しかったあの時と一緒だ。
そうか……、そう言えば篠原と戦った時以来だな。あの時以来、僕は心のどこかで自分の剣術を信頼できなくなっていた。
こうして嬉々として刀を手にしているのは、もう何年ぶりになるか……)
楢崎の心の中には、過去の事件が蘇ってきていた。
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落ちた下馬評。
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2.
エリザリーグと賞金についてもう一度、詳しく説明しておこう。
エリザリーグは年二回、5月~6月と、11月~12月に行われる。参加人数は5名、全10回の総当り形式で対戦が組まれる。
強豪同士が対戦するため、双方に相当の疲労やケガ、ストレスが発生する。そのため、試合は1日1回、3日おきに行われる(なお、エリザリーグ開催中もニコルリーグを除くリーグ戦は通常通り行われる)。
1回の試合に勝てば、賞金10万クラム。また、優勝賞金は100万クラム。これだけでも全勝すれば140万の大金となるが、もう一つ大きく金が動くところがある。非公式に存在する賭博団体が、この試合結果を賭けの対象にしているのだ。
大きな注目を集めるイベントなので、賭けられる総額も半端な額ではなく、一説では数百万、数千万の金が集まるとも言われている。
大仰な演出と演説めいた前説が散々続いた後、ようやく一回戦が始まった。
「さあ、それではいよいよ第1戦、クラウン対ナラサキの開始です!
東口からは歴戦の覇者、『キング』こと、ピサロ・クラウンの入場です! 前回のエリザリーグでは2勝2敗と、残念ながらあまり良い結果を残すことはできませんでした!
しかし、しかし! 今回こそはその巨体と経験を活かした、まさに王と呼ぶべき試合を我々に見せてくれるはずです! 闘技場選手歴28年の底力を今回こそ見せつけてくれると、我々一同期待しております!」
アナウンスに従って、クラウンがリングの東口からその姿を現した。
「……ケッ、くだらねえことをグチャグチャと」
小声で誰にも分からないようにつぶやいたが、その厭世観(えんせいかん)は観客に伝わってくる。
「何かさ……」
「うん?」
「キング、老けたよなぁ」
「そうだな」
観客たちは口々に、クラウンの様子に眉をひそめている。
「もう50だっけ?」
「いや、まだ49だったと思うけど」
「どっちにしたって、もう闘技場でワーワー暴れる歳じゃないだろ」
「あのおっさん、頭の中は子供だからなぁ」
「ははは……」
(ちくしょう……)
十数年前は歓声だった観客の声も、今では嘲笑に近い。
「今回、どうなのよ?」
「勝てるわけないじゃん」
「だよなぁ。最近じゃ全然、ニコルで代理出場もしてないんだろ?」
「もう終わりだよ、終わり。俺、この試合もナラサキに賭けたもん」
「あ、俺も。聞いたか、ナラサキのオッズ(払い戻し率)1.02だって」
「低っ。て言うか、それって1倍切ったってことだろ、元の倍率が」
「ああ。元は確か0.79だってさ。賭けにならないから、補正入ったんだって」
「胴元は赤字だろうな」
「こりゃ、来期はキング消えるな」
「間違いないだろ。これじゃ賭けにならないし、大赤字出すことになるし」
観客のざわめき自体は、クラウンの熊耳に聞こえてはいない。
だが、クラウンの意気消沈が観客に伝わったように、観客の冷たい視線は、クラウンにはたまらなくなるほど感じられる。
(くそっ……、くそっ……、くそっ……!
お前ら、もっと応援しろよ! もっと、俺を盛り上げろよッ! 何だこの、まるでゴミ捨て場のガラクタでも眺めるような視線はよぉ……!)
そんなクラウンに構うはずもなく、司会者は楢崎の紹介に移る。
「続いて西口からはナイスミドル、央南剣士のシュンジ・ナラサキの入場です!
昨年11月末に出場してから、勝率8割強とまずまずの成績で進んできました! その憂愁を帯びた漢の顔は、同年代の女性客の人気を一手に集める、オリエンタルな甘いマスク!
もちろんもちろん、腕は超一流! 央南を代表する剣術一派、焔流剣術の使い手です! 長年磨いてきたその技術が、キングを相手にどこまで通用するかが見所でしょう!」
西口に現れた楢崎は、非常に清々しい顔をしている。朝、晴奈と語ったことが、彼の心を非常に澄み渡らせていた。
(何だか、こんな気持ちは若い時以来だな。すごく、ワクワクしている……! 刀を振るうこと自体が、ひどく楽しかったあの時と一緒だ。
そうか……、そう言えば篠原と戦った時以来だな。あの時以来、僕は心のどこかで自分の剣術を信頼できなくなっていた。
こうして嬉々として刀を手にしているのは、もう何年ぶりになるか……)
楢崎の心の中には、過去の事件が蘇ってきていた。
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選手の紹介書いてる時、笑いそうで笑いそうで。
何や、甘いマスクてw
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2016.06.16 修正
選手の紹介書いてる時、笑いそうで笑いそうで。
何や、甘いマスクてw
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2016.06.16 修正



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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
リーグなので、総当りになるのですね。それはそれで面白そうですね。某ゲームでは124人によるトーナメント戦で、負けたものは死ぬ、という徹頭徹尾残酷なものもありましたね。名前なしのキャラがどんどん減っていって、最後は会話する人がいなくなる感が壮絶ですたね。
今回は死ななそうで何よりですね。
今回は死ななそうで何よりですね。
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NoTitle
あんまりバイオレンス過ぎると、お客さんがドン引きしてしまうでしょうし、闘技場側で死人が出ないよう、制限されてるんでしょうね。
124人でどんどん死んでいくトーナメントですか。
決勝の寂寥感が計り知れませんね。