DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 13 ~ フォックス・ハンティング ~ 8
ウエスタン小説、第8話。
暴虐に沈む町。
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8.
ハーデンビル郊外で機関車を強奪してからわずか3日後、ジェフは仇敵らの根城がM州海沿いの町、ポートショアにあることを看破し、その郊外にたどり着いていた。
(さて、ざっと見渡してみるに、状況は想定しうる中で最悪のものとなっているようだな)
ジェフは町を一望できる丘から望遠鏡を使って町の様子を探り、あちこちに血痕や弾痕、そして家屋の焼けた痕跡があることを確認する。
(どうやら『ウルフ』がDJの手下と基地を掌握し、町を武力で支配したらしい。でなければ、町がまるでソドムとゴモラのように荒れ果てているはずが無い。十中八九、DJが『ウルフ』の扱いを間違えたのだろう。あの三下程度の器量で、悪のカリスマたる『ウルフ』を御せるはずが無いからな。恐らくDJも、とっくに殺されているだろう)
と、望遠鏡の視界に、服をびりびりに破られ、顔を崩れた化粧と涙でぐちゃぐちゃにした女が映る。
(うん……?)
女の背後に視点を移し、ごろつきじみた男が3名、彼女を追っているのを把握する。
(やれやれ。確かにあれでは、ソドムとゴモラだ)
当然、ジェフは不義非道の類を見過ごすような男でも、号泣する女性を見捨てるような男でもない。即座に拳銃を抜き、彼らの前方にある店を狙って、パン、パンと発砲した。
(あの店の主には悪いが、人助けだ。ご容赦願いたいね)
もう一度望遠鏡に目を通し、女を追っていた男たちが一人残らず店の看板の下敷きになっているのを確認して、ジェフは「うむ」とうなずいた。
町に入り、ジェフは誰にも見付からないよう、裏路地を足音も無くひたひたと進む。と、程無くして、いかにもまともな稼業に就いているとは思えないような風体の男が、血の付いた酒瓶を抱いて寝転んでいるのを見付け、ジェフは静かに、彼のそばに忍び寄る。
(この無法地帯で呑気に寝ていられるのは、ここを牛耳る側の人間だけだからな)
ジェフはトントンと彼の肩を叩き、優しく声をかける。
「君、済まないが目を覚ましてくれるかね?」
「んが……んあっ……?」
ぼんやりと目を開いた男に、ジェフはにこやかに尋ねる。
「デイビッド・ジュリアス・ヴェルヌを知っているかね?」
「え……だ、誰だ、あんた?」
当惑した様子の男に、ジェフは笑顔を崩さず続ける。
「私はジェフ・パディントンだ」
「……パディントン!?」
弾かれたように、がばっと上半身を起こした男に、ジェフは拳銃を向ける。
「騒がないでもらいたい。大人しく話を聞かせてもらえば、私はこれ以上人差し指を動かしはしないし、何なら酒代くらい出してやろう」
「あ……う」
「もう一度聞くぞ。ヴェルヌはどうした?」
あっさり観念したらしく、男は素直に応じる。
「し、……死んだ。『ウルフ』の兄貴に殺されちまったよ」
「そうか、やはりな。『ウルフ』はどうした? ヴェルヌを倒してそのまま大人しくしているとは思えんし、実際、町は荒れ果てている。一暴れしたんだろう?」
「ああ。手駒にした奴らと寄ってたかってボスを、……ヴェルヌさんを蜂の巣にした後、『変なトコに通報するバカが出るかも知れねえ』とか言い出して、町を襲い始めたんだ。保安官オフィスやら電報局やら、中にいた奴らごと燃やした上、駅もレールから車輌から全部爆破して、誰も外に出られないようにしたんだ」
「奴ならそうするだろう。そして恐らくは、明日にでも町すべてを燃やし尽くすつもりだろう。手下の半分以上を巻き添えにしてな」
「ま、マジか?」
「これまで彼が繰り返してきた凶状を聞くかね? 聞けば納得するだろう」
「……いや、いい。想像付いてるし、聞き覚えもある。じゃあ、俺も殺されるのか?」
「可能性はあるだろう。誰が死のうと、奴には関係が無い。自分の手下だろうと、そうでなかろうと、だ。奴の殺人に大した理由など無い。あるとすれば、人が無様に死ぬのを見ること自体が、奴にとってはこの上無い娯楽であるからだ」
「……っ」
この短いやり取りですっかり酒気が抜けてしまったらしく、男は真顔になる。
「あんた、これからどうするんだ?」
「私が誰だか、何をする男なのか、君は知っているだろう?」
「……」
男はしばらく黙っていたが、やがて酒瓶を傍らに置き、地面に地図を描いて説明した。
「この道を曲がって、港まで進んでくれ。側にある船渠(ドック)が俺たちのアジトだ」
「ありがとう」
ジェフは懐から100ドル札を出し、男に手渡して、その場を去った。
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暴虐に沈む町。
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8.
ハーデンビル郊外で機関車を強奪してからわずか3日後、ジェフは仇敵らの根城がM州海沿いの町、ポートショアにあることを看破し、その郊外にたどり着いていた。
(さて、ざっと見渡してみるに、状況は想定しうる中で最悪のものとなっているようだな)
ジェフは町を一望できる丘から望遠鏡を使って町の様子を探り、あちこちに血痕や弾痕、そして家屋の焼けた痕跡があることを確認する。
(どうやら『ウルフ』がDJの手下と基地を掌握し、町を武力で支配したらしい。でなければ、町がまるでソドムとゴモラのように荒れ果てているはずが無い。十中八九、DJが『ウルフ』の扱いを間違えたのだろう。あの三下程度の器量で、悪のカリスマたる『ウルフ』を御せるはずが無いからな。恐らくDJも、とっくに殺されているだろう)
と、望遠鏡の視界に、服をびりびりに破られ、顔を崩れた化粧と涙でぐちゃぐちゃにした女が映る。
(うん……?)
女の背後に視点を移し、ごろつきじみた男が3名、彼女を追っているのを把握する。
(やれやれ。確かにあれでは、ソドムとゴモラだ)
当然、ジェフは不義非道の類を見過ごすような男でも、号泣する女性を見捨てるような男でもない。即座に拳銃を抜き、彼らの前方にある店を狙って、パン、パンと発砲した。
(あの店の主には悪いが、人助けだ。ご容赦願いたいね)
もう一度望遠鏡に目を通し、女を追っていた男たちが一人残らず店の看板の下敷きになっているのを確認して、ジェフは「うむ」とうなずいた。
町に入り、ジェフは誰にも見付からないよう、裏路地を足音も無くひたひたと進む。と、程無くして、いかにもまともな稼業に就いているとは思えないような風体の男が、血の付いた酒瓶を抱いて寝転んでいるのを見付け、ジェフは静かに、彼のそばに忍び寄る。
(この無法地帯で呑気に寝ていられるのは、ここを牛耳る側の人間だけだからな)
ジェフはトントンと彼の肩を叩き、優しく声をかける。
「君、済まないが目を覚ましてくれるかね?」
「んが……んあっ……?」
ぼんやりと目を開いた男に、ジェフはにこやかに尋ねる。
「デイビッド・ジュリアス・ヴェルヌを知っているかね?」
「え……だ、誰だ、あんた?」
当惑した様子の男に、ジェフは笑顔を崩さず続ける。
「私はジェフ・パディントンだ」
「……パディントン!?」
弾かれたように、がばっと上半身を起こした男に、ジェフは拳銃を向ける。
「騒がないでもらいたい。大人しく話を聞かせてもらえば、私はこれ以上人差し指を動かしはしないし、何なら酒代くらい出してやろう」
「あ……う」
「もう一度聞くぞ。ヴェルヌはどうした?」
あっさり観念したらしく、男は素直に応じる。
「し、……死んだ。『ウルフ』の兄貴に殺されちまったよ」
「そうか、やはりな。『ウルフ』はどうした? ヴェルヌを倒してそのまま大人しくしているとは思えんし、実際、町は荒れ果てている。一暴れしたんだろう?」
「ああ。手駒にした奴らと寄ってたかってボスを、……ヴェルヌさんを蜂の巣にした後、『変なトコに通報するバカが出るかも知れねえ』とか言い出して、町を襲い始めたんだ。保安官オフィスやら電報局やら、中にいた奴らごと燃やした上、駅もレールから車輌から全部爆破して、誰も外に出られないようにしたんだ」
「奴ならそうするだろう。そして恐らくは、明日にでも町すべてを燃やし尽くすつもりだろう。手下の半分以上を巻き添えにしてな」
「ま、マジか?」
「これまで彼が繰り返してきた凶状を聞くかね? 聞けば納得するだろう」
「……いや、いい。想像付いてるし、聞き覚えもある。じゃあ、俺も殺されるのか?」
「可能性はあるだろう。誰が死のうと、奴には関係が無い。自分の手下だろうと、そうでなかろうと、だ。奴の殺人に大した理由など無い。あるとすれば、人が無様に死ぬのを見ること自体が、奴にとってはこの上無い娯楽であるからだ」
「……っ」
この短いやり取りですっかり酒気が抜けてしまったらしく、男は真顔になる。
「あんた、これからどうするんだ?」
「私が誰だか、何をする男なのか、君は知っているだろう?」
「……」
男はしばらく黙っていたが、やがて酒瓶を傍らに置き、地面に地図を描いて説明した。
「この道を曲がって、港まで進んでくれ。側にある船渠(ドック)が俺たちのアジトだ」
「ありがとう」
ジェフは懐から100ドル札を出し、男に手渡して、その場を去った。
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