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    DETECTIVE WESTERN

    DETECTIVE WESTERN 13 ~ フォックス・ハンティング ~ 10

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    ウエスタン小説、第10話。
    化ける「狐」と荒れる「狼」。

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    10.
     ジェフは町で倒した組織のごろつきたちから服と猫目三角形の紋章を奪い、変装した上で、敵のアジトに正面から侵入した。当然あっさり、見張りに出くわすが――。
    「ただいま戻りました」
     ジェフは平然と仲間である風を装い、にっこり笑みを返し、おどけた仕草で敬礼する。
    「おう、ご苦労さん。異状は?」
     相手もまったくいぶかしがる様子を見せず、普通に挨拶して返してくる。
    「あったらこんな風にヘラヘラ笑ってやしませんよ」
    「違えねえや、ははは……」
     そんな風に――まさかこの小汚い若者の中身が50歳を超えた、組織最大の宿敵であるなどとは微塵も匂わせること無く――ジェフはアジトの奥へと進んで行く。
    (察するに、『ウルフ』がボスに成り代わってから3日か、4日と言ったところか。昨日、今日掌握したにしては状況が落ち着きすぎているし、かと言って1週間も経てば、鉄道や電信・電話の不通に誰かしら気付く。そうなれば組織も異状を察知し、襲撃することは必至だ。幹部殺しも、幹部に取って代わることも、シャタリーヌが容認するとは思えんからな)
     すんなり武器庫へ到着し、ジェフは辺りを見回す。
    (こちらには見張りの姿は無し、か。不用心、……と言うより、鍵を掛けているから不要と判断しているのだろう。ま、私にとっては好都合だ)
     10ポンド以上はありそうな頑丈な錠前が掛かっていたが、ジェフは懐から針金を取り出し、10秒もかからず解錠する。
    (アジト内を見回ってみた限り、ここに武器を集め、どこかに出撃する計画を立てているらしい。となれば相当量の武器と、そしてそれに使用する火薬が積まれているはずだ)
     ジェフの予想通り、武器庫内には大量の銃器と、樽詰めになった火薬が山積みされていた。
    (さて、と)
     ジェフは手近にあった樽を次々に開け、ごろんと転がし始めた。

    「よーし、出来上がりだ」
     義手の噛み合わせを直し終わり、ウィリスは右腕にはめ込む。
    「正直、直す前は端っこがめり込んで痛えのなんのって」
    「はあ」
     ここまで散々ウィリスの悪口雑言や常軌を逸した行動に付き合わされ、手下の顔色は明らかに悪くなっていた。が、手下の様子には目もくれず、ウィリスは義手に見入っている。
    「……失礼します」
     手下がこっそりと部屋を後にしたが、結局ウィリスは、義手が完成して以降は一度も彼の方を見ようともしなかった。
    「ま、モノがつかめないことに変わりは無いが、見てくれだけはきっちりしとかなきゃ、格好付かねえからなあ。片手ってんじゃ、女も寄り付かねえ。ま、俺はもう女にはこりごりだけどもな。……ん?」
     ここでようやく手下が消えたことに気付き、ウィリスは部屋の中を見回し、フンと鼻息を漏らした。
    (なんだよ、ちょっとくらい話に付き合ってもいいだろ? ……まあ、いいか)
     数日前までDJのものだったデスクに脚を投げ出してふんぞり返り、ウィリスは再度、義手に目をやる。
    (しかし手の形が若干気にいらねえな。指伸ばしっぱじゃ、敬礼じゃねえか。もう軍隊だのなんだのってのもこりごりなんだよ、俺は。
     ……『こりごり』、か。正直、女なんかもう、お近付きになんかなりたくねえし、近付いて来たらブチ殺してえくらいなんだ。きゃあきゃあわめくサマなんかイラついて仕方ねえし、化粧の甘ったるい臭いを嗅ぐとヘドが出そうになる。お前らなんかといたって楽しくねえんだよ。
     と言って、他に楽しみなんかこれっぽっちもねえ。酒も飯も、もう何食ったって泥みてえな味しかしねえ。仕事だってそうさ。軍じゃ偉ぶってばっかりで頭空っぽのお方々に敬礼して回って、行きたくもねえところにあっちこっち飛ばされてばっかりだった。もう二度とやりたくねえ。他の仕事だって色々就いたが、結局どれもこれも、俺にはまったく合わなかった。やりがいも面白味もねえ。ましてやダリウスが新しいアメリカだとか何とかほざいてたが、知ったこっちゃねえ。まったく俺は、世の中の色んなもんが嫌いになっちまったよ。もう全部、こりごりなんだよな。
     ああ、まったく気に入らねえ。うんざりだ。一切合切がもう、全部消し飛んじまえやって感じだよ――この世界丸ごと、俺にゃもう『こりごり』なんだ)
     悶々と考え事をしている内に、ウィリスの心の中が乱れ始める。
    「……クソが」
     その心の乱れは怒りに一本化され、どうしようもない苛立ちが、彼の心に満ちていく。
    「イラつくなあ……まったくイライラして仕方ねえぜ」
     がたん、と乱暴に椅子を倒して立ち上がり、ウィリスは拳銃を手に取った。
    「一人、二人くらいブッ殺さなきゃ、収まりそうにねえなあ……!」

     と――ウィリスが立ち上がるとほぼ同時にドゴンと鈍い爆発音が轟き、アジト全体がぐらりと揺れた。
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