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    DETECTIVE WESTERN

    DETECTIVE WESTERN 13 ~ フォックス・ハンティング ~ 12

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    ウエスタン小説、第12話。
    「狐」と「狼」、最後の決闘。

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    12.
    「てめえ、俺の部屋で何やってやがった?」
     ウィリスが額に青筋を浮かべ、ジェフににじり寄って来る。
    「そもそもてめえ、真面目に探してるようじゃねえよな。まるで別の目的があるようじゃねえか、ええ、おい?」
    「いや……その……」
     流石のジェフも、焦りを覚える。
    「顔を見せろ。帽子も取れ。いいや、この場で素っ裸になりやがれ」
    「あー、……と」
     この場から脱する方法を頭の中でざっと巡らせ、ジェフはばっと後ろに飛び退き、もう一度部屋の中に入り、即座に鍵を掛けた。
    「あっ、……てめっ、待ちやがれ!」
     閉めたドアの向こうから聞こえてくるウィリスの怒鳴り声に背を向け、ジェフはもう一度思案する。
    (さて、状況はかなり悪くなったわけだが、幸いなことに私には2つのアドバンテージがある。1つはお前がそのドアを破るまでに、2分はかかることだ。そしてもう1つは、2分あれば打開策を閃く頭脳が、私にはあると言うことだ)
     ジェフは部屋を見渡し、中央に置いてある作業机に注目する。
    (ご丁寧に工具まで揃えてくれているとは)
     ウィリスが義手の調整に使っていた工具を手に取り、続いてジェフは窓に目をやる。
    (常道なら外に逃げれば終わりだが、ここは船渠だからな。そのまま飛び出すのは凡策だ)
     窓の外に広がるメキシコ湾をチラ、と眺めつつ、ジェフは万力を作業机から取り外した。

     ウィリスがドアを蹴破ると同時に、がしゃん、と窓が割れる音が部屋に響く。
    「チッ、飛び込みやがったか!」
     手下と共に窓の外に身を乗り出したその瞬間――左にいた手下ががくんと頭を下げ、そのまま海に転落する。
    「……ッ!?」
     瞬間、ウィリスはがばっと身を翻し、窓から離れる。その一瞬の間に、右隣にいた手下も同様にがつっと痛々しい音を立て、海へ落ちて行った。
    「ふむ。本命は仕留め損なったか」
     窓の外からジェフのおどけた声が聞こえ、ウィリスはまた怒鳴る。
    「てめえッ! 上だなッ!?」
    「上がってきてはどうかね? 君としても、私をこのまま逃がすのは不本意だろう?」
    「コケにしやがって……!」
     ウィリスは右腕の義手をチラ、と見て、窓の外に身を乗り出した。
    「うっ、……ぐっ、……このっ」
     左手一本と両脚でどうにか壁をよじ登り、ウィリスも屋上に上がる。

    「はぁ……はぁ……」
    「なかなか器用だな。今度お前が姿を消すことがあれば、ウエスタンショーの軽業師を当たるとしようか。次があればだがな」
     変装を解き、元の50代に戻ったジェフは拳銃を構え、ウィリスに告げる。
    「お前が奪ったアジトは壊滅させた。船も沈んだだろう。お前にもう、武器は無い。大人しく投降しろ」
    「ケッ、てめえ一人っきりで何をいきがってやがる。この俺を誰だと思ってやがる?」
    「十分知っているとも。元南軍のろくでなしだ。お前を語る言葉など、それだけで十分足りる」
    「……ッ」
     ウィリスも拳銃を抜いて構え、対峙する。
    「なめてんじゃねえぞ! 俺は……」「お前はただの犯罪者だ。お前は万人からさげすまれる、ただのクズだ。英雄なんかじゃあない」
     ジェフの言葉で、ウィリスの目が一瞬で真っ赤に血走った。
    「……殺してやる……」
     瞬間、ウィリスは弾丸を発射する。が、この一連の行動を予期できないジェフではなく――。
    「知っているかね?」
     ウィリスの視線と銃口の向きから相手の狙いを見抜き、ジェフは身を翻して初弾をかわす。そしてかわしざま、きっちりと狙いを定めて、拳銃の引き金を絞った。
    「うぐあっ!?」
     拳銃から放たれた44口径ロングコルト弾はウィリスの左肩を貫通し、ウィリスは拳銃を放り出して、その場に倒れ込んだ。
    「決闘は先に撃った者に罪が問われると言うことを。故に、君の完全敗北だ」
    「う……ぐ……くそ……ぉ……」
     ジェフが勝利を宣言するも、ウィリスは身をよじらせ、なおも拳銃を手に取ろうとする。ジェフはその拳銃に狙いを定め、もう一発撃った。
    「うっ……」
     拳銃はあっけなく弾かれ、屋根の下に落ちて行く。
    「くそ、くそっ、くそおっ……!」
     ウィリスはそれを追うように、屋根の縁から身を乗り出した。
    「それ以上無様を晒すものでもないだろう、ウィリス・ウォルトン」
    「うるせえ、……おい、ここだ! ここにパディントンがいるぞ! 登ってブッ殺せ!」
     どうやら下の階から顔を出していた手下たちを見付け、呼んでいるらしいが、ジェフはふう、とため息を付く。
    「そんな悠長なことをしている暇が、彼らにあるとは思えんがね」
    「ああん!?」
    「海の方を見てみたまえ」
     言われてウィリスは顔を上げる。
    「……っ」
     彼の視線の先、メキシコ湾の沖合いから、黒煙を上げる蒸気船が続々と近付いて来ていた。
    「見えただろう? 私の親友が、大勢呼んできてくれたようだ。そもそも私がたった一人でのこのこと敵地に乗り込んでくるような、向こう見ずで思慮の浅い人間と思っていたのかね?
     もう逃げられんぞ。観念したまえ」
     ジェフの言葉に、ようやく心が折れたらしく――ウィリスはがっくりとうなだれ、そのまま動かなくなった。

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    ブログ「妄想の荒野」の矢端想さんに挿絵を描いていただきました。
    ありがとうございます!
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