「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第5部
蒼天剣・剛剣録 4
晴奈の話、第248話。
三傑の戦い。
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4.
上段に構えたままの篠原に楢崎と藤川はじりじりと近寄り、間合いを詰めていく。その後ろにいる重蔵は、じっと静観している。
「うりゃあッ!」
先に仕掛けたのは藤川だった。にらみ合った状態から、不意に駆け出す。
「……むっ!」
間一髪で篠原が防ぎ、藤川の初太刀が止められた。そこで楢崎も、篠原目がけて飛び込んでいく。
「とうっ!」「甘いわッ!」
篠原は楢崎の突撃を見抜き、藤川と鍔迫り合いになったまま、楢崎の腹を蹴る。
「うっ、ぐ……」
楢崎は腹を押さえ、二、三歩下がる。一瞬藤川が楢崎に気を取られた隙に、篠原は藤川を突き飛ばした。
「うおっ!?」
「甘い、甘いぞお前ら!」
篠原は仁王立ちになり、楢崎たちと距離を取る。握られた刀から火がほとばしるのを見て、重蔵がうなった。
「ぬう……。同門に『焔』を向けるか」
「俺の邪魔をするな、クズ共ッ!」
篠原は火の灯った刀を構え、斬りかかってきた。
「くそッ!」
「燃える刀」が藤川に迫る。藤川も刀に火を灯して篠原の太刀を防ぎ、もう一度鍔迫り合いの形になった。
だが小柄な藤川より、上背のある篠原の方が圧倒的に力が強く、藤川は半ば押さえつけられるような姿勢になる。
「ぐ、く……」
「藤川、一つ焔流の古さを教えてやる……」
篠原が小声で、藤川に何かを伝える。それを聞いた藤川の額に、青筋が走る。
「……バカ言ってんじゃねえ。焔流に弱点なんぞ、あるわけあるかってんだ」
「あるのだ。それをお前の体に叩き込んでやる」
「何だと……!?」
次の瞬間、ブチブチと鋼線が千切れるような音と共に、藤川は吹き飛ばされた。
「ふ、藤川くん!」
「が、はっ……」
藤川の右腕が断たれている。そして胸には、ブスブスと煙を上げる焦げ跡が付いていた。
「これがその証明だ」
「てめえ、一体、何を……」
篠原は足元に落ちた藤川の刀と腕を手に取る。それは既に燃え尽き、炭と2本の錆びた棒になっていた。
「ごくごく単純なことなのだ。そして、その単純なことが焔流、最大の弱点だ」
「……」
重蔵は倒れた藤川を、愕然とした表情で見つめている。一方、楢崎は憤慨していた。
「何てことを……! 篠原くん、君は正気なのか!? 友人を斬るなんて!」
「友人? 友人と言ったか、楢崎」
篠原は藤川の腕と刀を投げ捨て、ニタニタと笑う。
「俺はこいつもお前も、友人だなどとは思っていない。俺の行く道を邪魔する、ただの雑魚だ」
「……許さないぞ、篠原くん。いや、篠原ッ!」
元来直情径行な楢崎は篠原の凶行と台詞に怒り狂い、飛び出した。
「ふんッ!」
三度、篠原は鍔迫り合いの形になる。だが、今度は篠原の分が悪い。篠原より頭2つほど、楢崎の方が大柄なのだ。
「む、ぬう……」
「許さないッ、許さないぞ篠原ァッ!」
体が大きい分、筋力や腕力も相応に強い。篠原は次第に、グイグイと圧されていく。だが篠原は依然、不敵に笑っている。
「馬鹿の一つ覚えの如く、許さん許さんと……。許さなければどうだと言うのだ?
貴様如き格下が俺を許すの許さないだの、片腹痛いわ!」
篠原の刀にふたたび火が灯る。瞬間、楢崎は危険を感じ取った。
「だあッ!」
「お、う……!?」
素早く蹴りを入れ、篠原を突き飛ばす。篠原はのけぞり体勢を崩しかけたが、後ろにとんとんと歩いてこらえきる。
「……ふ、臆したか」
「ぐ……!」
落ち着いた中年の今とは違い、この時の楢崎はまだ負けん気が強かった。篠原の挑発を受け、すぐ頭に血が上る。
「瞬さん、落ち着きなされ」
「……はい」
背後からかけられる重蔵の声に何とか答えるが、頭の中は友人を斬られ、挑発されたことに対する怒りがまだ煮え立っている。
「行くぞ、篠原ッ!」
「はっ、宣言などせずさっさと向かえばいいだろう。相変わらず鈍重な男よ」
「ッ!」
もう一度挑発され、楢崎は本格的に激昂した。
「うおりゃーッ!」
渾身の力を込め、篠原に斬りかかる。流石の篠原も、この渾身の一撃には怯む様子を見せた。
「む……!」
楢崎が握る刀に、これでもかと言うくらいの炎が燃え盛る。
楢崎は激情に任せ、その炎を篠原にぶつけた。
「う、おおお……!」
炎は確実に篠原を捉え、分厚い道着を切り裂いた。
(やった、か……!?)
楢崎の五体が、急激にだるくなる。気合いを込めすぎた反動で、強烈なだるさが楢崎にまとわり付いてきた。
「……っく」
しかし、まだ篠原の生死を確認できていない。楢崎は残った気力を振り絞り、脚に力を入れて倒れそうになるのをこらえた。
「どうだ、篠原……!」
頭が非常に重たく感じられ、前を向くことさえも辛い。楢崎はその方向に目を向けずに、間違いなく斬りつけ、相当の深手を負ったはずの篠原に問いかける。
だが、返って来た声は予想以上に余裕綽々な色を帯びていた。
「これがお前の全力だと言うのか? フン、痛くもかゆくもないわ!」
「な、ん、だと……」
心が折れ、楢崎の脚から力が抜けていく。
重たい頭を無理矢理に上げてみると、上半身裸になった篠原が悠然と立っているのが、視界に入った。
「なぜ、なんだ……」
その問いに答える代わりに、篠原は楢崎の左肩から右脇にかけてバッサリと斬りつけた。
「ぐああッ!」
屈強な楢崎といえども、深く斬り付けられては流石に立っていられなかった。
「お前も焔流が、どんなに矛盾を抱えているのか分からんようだな。まったく、愚かな……」
倒れ込んだ瞬間、篠原が何か言っていたようだが、それを聞く意識は残っていなかった。
完全に気を失う直前、重蔵の怒鳴り声と、強烈な爆発音が聞こえた気がした。
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三傑の戦い。
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上段に構えたままの篠原に楢崎と藤川はじりじりと近寄り、間合いを詰めていく。その後ろにいる重蔵は、じっと静観している。
「うりゃあッ!」
先に仕掛けたのは藤川だった。にらみ合った状態から、不意に駆け出す。
「……むっ!」
間一髪で篠原が防ぎ、藤川の初太刀が止められた。そこで楢崎も、篠原目がけて飛び込んでいく。
「とうっ!」「甘いわッ!」
篠原は楢崎の突撃を見抜き、藤川と鍔迫り合いになったまま、楢崎の腹を蹴る。
「うっ、ぐ……」
楢崎は腹を押さえ、二、三歩下がる。一瞬藤川が楢崎に気を取られた隙に、篠原は藤川を突き飛ばした。
「うおっ!?」
「甘い、甘いぞお前ら!」
篠原は仁王立ちになり、楢崎たちと距離を取る。握られた刀から火がほとばしるのを見て、重蔵がうなった。
「ぬう……。同門に『焔』を向けるか」
「俺の邪魔をするな、クズ共ッ!」
篠原は火の灯った刀を構え、斬りかかってきた。
「くそッ!」
「燃える刀」が藤川に迫る。藤川も刀に火を灯して篠原の太刀を防ぎ、もう一度鍔迫り合いの形になった。
だが小柄な藤川より、上背のある篠原の方が圧倒的に力が強く、藤川は半ば押さえつけられるような姿勢になる。
「ぐ、く……」
「藤川、一つ焔流の古さを教えてやる……」
篠原が小声で、藤川に何かを伝える。それを聞いた藤川の額に、青筋が走る。
「……バカ言ってんじゃねえ。焔流に弱点なんぞ、あるわけあるかってんだ」
「あるのだ。それをお前の体に叩き込んでやる」
「何だと……!?」
次の瞬間、ブチブチと鋼線が千切れるような音と共に、藤川は吹き飛ばされた。
「ふ、藤川くん!」
「が、はっ……」
藤川の右腕が断たれている。そして胸には、ブスブスと煙を上げる焦げ跡が付いていた。
「これがその証明だ」
「てめえ、一体、何を……」
篠原は足元に落ちた藤川の刀と腕を手に取る。それは既に燃え尽き、炭と2本の錆びた棒になっていた。
「ごくごく単純なことなのだ。そして、その単純なことが焔流、最大の弱点だ」
「……」
重蔵は倒れた藤川を、愕然とした表情で見つめている。一方、楢崎は憤慨していた。
「何てことを……! 篠原くん、君は正気なのか!? 友人を斬るなんて!」
「友人? 友人と言ったか、楢崎」
篠原は藤川の腕と刀を投げ捨て、ニタニタと笑う。
「俺はこいつもお前も、友人だなどとは思っていない。俺の行く道を邪魔する、ただの雑魚だ」
「……許さないぞ、篠原くん。いや、篠原ッ!」
元来直情径行な楢崎は篠原の凶行と台詞に怒り狂い、飛び出した。
「ふんッ!」
三度、篠原は鍔迫り合いの形になる。だが、今度は篠原の分が悪い。篠原より頭2つほど、楢崎の方が大柄なのだ。
「む、ぬう……」
「許さないッ、許さないぞ篠原ァッ!」
体が大きい分、筋力や腕力も相応に強い。篠原は次第に、グイグイと圧されていく。だが篠原は依然、不敵に笑っている。
「馬鹿の一つ覚えの如く、許さん許さんと……。許さなければどうだと言うのだ?
貴様如き格下が俺を許すの許さないだの、片腹痛いわ!」
篠原の刀にふたたび火が灯る。瞬間、楢崎は危険を感じ取った。
「だあッ!」
「お、う……!?」
素早く蹴りを入れ、篠原を突き飛ばす。篠原はのけぞり体勢を崩しかけたが、後ろにとんとんと歩いてこらえきる。
「……ふ、臆したか」
「ぐ……!」
落ち着いた中年の今とは違い、この時の楢崎はまだ負けん気が強かった。篠原の挑発を受け、すぐ頭に血が上る。
「瞬さん、落ち着きなされ」
「……はい」
背後からかけられる重蔵の声に何とか答えるが、頭の中は友人を斬られ、挑発されたことに対する怒りがまだ煮え立っている。
「行くぞ、篠原ッ!」
「はっ、宣言などせずさっさと向かえばいいだろう。相変わらず鈍重な男よ」
「ッ!」
もう一度挑発され、楢崎は本格的に激昂した。
「うおりゃーッ!」
渾身の力を込め、篠原に斬りかかる。流石の篠原も、この渾身の一撃には怯む様子を見せた。
「む……!」
楢崎が握る刀に、これでもかと言うくらいの炎が燃え盛る。
楢崎は激情に任せ、その炎を篠原にぶつけた。
「う、おおお……!」
炎は確実に篠原を捉え、分厚い道着を切り裂いた。
(やった、か……!?)
楢崎の五体が、急激にだるくなる。気合いを込めすぎた反動で、強烈なだるさが楢崎にまとわり付いてきた。
「……っく」
しかし、まだ篠原の生死を確認できていない。楢崎は残った気力を振り絞り、脚に力を入れて倒れそうになるのをこらえた。
「どうだ、篠原……!」
頭が非常に重たく感じられ、前を向くことさえも辛い。楢崎はその方向に目を向けずに、間違いなく斬りつけ、相当の深手を負ったはずの篠原に問いかける。
だが、返って来た声は予想以上に余裕綽々な色を帯びていた。
「これがお前の全力だと言うのか? フン、痛くもかゆくもないわ!」
「な、ん、だと……」
心が折れ、楢崎の脚から力が抜けていく。
重たい頭を無理矢理に上げてみると、上半身裸になった篠原が悠然と立っているのが、視界に入った。
「なぜ、なんだ……」
その問いに答える代わりに、篠原は楢崎の左肩から右脇にかけてバッサリと斬りつけた。
「ぐああッ!」
屈強な楢崎といえども、深く斬り付けられては流石に立っていられなかった。
「お前も焔流が、どんなに矛盾を抱えているのか分からんようだな。まったく、愚かな……」
倒れ込んだ瞬間、篠原が何か言っていたようだが、それを聞く意識は残っていなかった。
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