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    DETECTIVE WESTERN

    DETECTIVE WESTERN 13 ~ フォックス・ハンティング ~ 14

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    ウエスタン小説、第14話。
    天文学的。

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    14.
     リロイに電話を復旧してもらい、局長はすぐさま、友人へと電話をかけた。
    「やあトム、元気かい? ……うむ、……まあ、そうだ。うむ、……いや、今日はビジネスの話だ。探偵としてのね。君の会社は確か、西部地域への電信電話網を管理していたな?」
     これを聞いて、エミルとアデルは顔を見合わせた。
    「まさか局長……」
    「それを止めるのか?」
     と、局長が片目をパチ、とつむり、二人に黙るよう示唆する。二人が口をつぐんだところで、局長は話を再開した。
    「うむ、今聞こえたかも知れないが、実はC州全域の電報局と電話交換局を、一時期でいいから閉鎖してもらいたいんだ。名目は何でもいい。機器メンテナンスだとかバッファローが電柱を倒したとか、適当に言っておいてくれれば、……いや、……うむ、そうだな、確かに即決できるような話でないのは分かっている。だがこれは合衆国の安全上の問題で、……あー、いや、確かに私の領分をいささか超えた話ではあるが、合衆国国民として、国家の安全を思うことは、……いや、だからね、そう邪険にしないでくれたまえ、トム」
     どうやら相手が納得してくれないらしく、局長の口調が次第に苦味を帯び始める。
    「いや、確かに大きな損害だと言うことは承知している。私だって商売のことは多少分かるさ。だがこれをしてもらわなければだよ、君の言う損害以上の損害が合衆国全体におよぶ危険が、非常に高いんだ。どっちが損かと考えれば、……いや待て、待ってくれ、トム。そんなに怒鳴り散らさないでくれたまえ。確かにね、うん、確かにだよ、君の会社に大きな損害が出ることは想像に難くない。それは承知している。だが、だからと言ってだよ、看過しては君や君の会社だけではなく、合衆国全体にまで害がおよぶ話なんだ。……うむ、……うむ、……う、……うーむ、……あー、と」
     局長は耳から一旦受話器を離し、眉間を揉む。
    「分かった。どうにか算段を付ける。100万ドルだな? ……うむ。あと3時間以内に返事ができなければ、この話は無かったことにしてくれて構わん。じゃあまた後で、トム」
    「……ど、どうなりました?」
     恐る恐る尋ねたサムに、局長は肩をすくめて返した。
    「『そんな無茶な話があるか。損害賠償金として100万ドルでももらわん限り、俺は絶対にイエスとは言わんぞ』だとさ」
    「ひゃ、100万っスかぁ!?」
     金額を聞いて、ロバートが腰を抜かす。
    「て、てんぶんがくてきっすね」
    「『天文学的』だ、アホ。……しかし、そんなカネあるんですか?」
     尋ねたアデルに、局長は苦い表情を浮かべた。
    「あるわけが無いだろう。私の個人資産と探偵局の資産を併せても、その10分の1にも届かん」
    「で、……ですよね。じゃあ、どうするんです?」
    「算段を付けるとは言ったが、正直言って当ては無い。友人の銀行家筋を当たっても、恐らく10万ドルも集まらんだろうな。ましてや3時間でそんな話がまとまるはずが無い」
    「……つまり無理、と」
    「そうなるな」
     流石の局長も、完全にあきらめた様子を見せていた。

     と――。
    「アデル。あんた、いつまですっとぼけてるわけ?」
    「へ?」
     エミルに小突かれ、アデルはきょとんとした顔を彼女に向ける。
    「とぼけるって、何のことだよ?」
    「あんたまさか、マジに忘れてるわけじゃないわよね?」
    「何をだよ?」
    「バカ」
     エミルはため息を付きつつ、こう続けた。
    「N州の事件よ」
    「N州? ……あっ!」
    「思い出した?」
    「あったな……。そうか、それがあったな!」
    「多分あるわよ、100万くらいは」
     エミルは局長に向き直り、話を切り出した。
    「N州の事件――サムを助けに行ったあの事件で、あたしは炭鉱からダイヤ鉱脈を掘り出した奴らをリーランドさんと協力してかくまう代わりに、その分け前の1割をもらう約束をしていたのよ。あれから半年経ってるから、相当な額になってるはず。100万ドルくらいあっても、まったくおかしくないでしょうね。
     今からリーランドさんに連絡して、その分け前を今、もらうことにするわ。そのお金を、賠償金に回してちょうだい」
     話を聞いた局長は、犯罪者をかくまっていたことも、莫大な金を隠していたことも咎めず、静かに尋ねた。
    「いいのかね? 君はいつか、多大な資産を手にして、イギリスに隠居したいと言っていたじゃあないか」
    「このままイギリスにこもったって、あたしは絶対、死ぬまで後悔する。組織を潰さない限り、安心して隠居生活なんかできやしないわよ。
     あたしの因縁と悪夢を完全に消せるチャンスがあるって言うなら、100万ドル払ったってちっとも惜しくなんか無いわ」
    「……分かった。ありがとう、エミル」
     局長は深々と頭を下げ、電話をエミルに渡した。
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