DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 13 ~ フォックス・ハンティング ~ 15
ウエスタン小説、第15話。
最大にして最後の作戦。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
15.
「お久しぶり、リーランドさん」
エミルが電話をかけた相手――道楽者の大富豪、ロドニー・リーランドは、嬉しそうな声で答えてきた。
《おわおっ!? なんかクールセクシー系のお声のお嬢さん!? ……え、えーと、失礼、あの、誰ですか?》
「ありがと。エミル・ミヌーよ。覚えてるかしら?」
《えみ……えみる、えー、……あっ、あー、うん、覚えてる、バッチリ、オーケー。です。あっ、えーと、え、エミルさん、いや、……オホン。エミル、俺に電話って、あの、何か用事が?》
しどろもどろのロドニーに、エミルは淡々と用事を伝える。
「あたしがあなたに預けてたお金、いくらくらいになったかしら?」
《お金? お金……お金……おかね? ……あー! あー、はいはいはいはい、お金ね、うん、あの、アレだ、ダイヤ鉱山のヤツだよな?》
「そう、そのそれよ」
《えーと、ちょっと待ってくれよ、……おーいグリフィス、あれってどうなった? あれだよあれ、鉱山の利益。……あ、そんな出てたの? へー。……っと、待たせたな。今確認したら、なんか総額1200万ドルくらいになったってさ。だからあんたには120万ドル、……じゃないっけ、あん時の10人で10等分だから……》
話をさえぎり、エミルが続ける。
「それ、今ちょうだい。100万ドル分」
《……へ? 今?》
「今すぐ、100万ドルが必要なの。仲間も納得してくれてるわ」
《いや、今ったって、現金で送るのは無理だぜ。渡すとなると、俺が立て替えないと……》
「お願い。合衆国の危機を救うためなの」
《……何かすげーヤバそうでデカそうな話だな》
浮ついていたロドニーの声が、一転して真面目なものになる。
《分かった。今すぐ探偵局に送ればいいのか?》
「いえ、……局長、さっきの会社ってどこ?」
「N州のウエスタンテレグラフ&テレフォン社だ」
「ありがと。聞こえた? そこに送ってちょうだい」
《分かった、送金しとく。送金者が俺の名前じゃ変だよな?》
「ええ。ジェフ・F・パディントン名義でお願い。送ったら向こうに連絡しておいて」
《オーケー。じゃ、すぐ銀行に言っとくわ》
「ありがとね」
《あ、あ、ちょっと待った。あの、エミル》
と、エミルが電話を切ろうとしたところで、ロドニーが呼び止める。
「なにかしら?」
《あのー、えーと、……こ、今度お茶とかどうかなって》
「いいわよ。あなたがN州に来た時にでも、ね」
《おっ、おう! んじゃ、また! じゃあ、あの、じゃあ……》
そこで電話を切り、エミルは受話器を局長に返した。
「ありがとう。では返事を聞いてみるとしよう」
1時間後、再度電話をWT&T社へとつないだ局長は、今度は安堵した表情を浮かべていた。
「……うむ。……うむ。それで構わん。では、よろしく頼む」
「どうでした?」
尋ねたアデルに、局長は大きくうなずいた。
「二つ返事でオーケーしてくれた。まもなくC州の電信電話網は不通となる。これでポートショアの残党が本拠地に連絡することは不可能になった。ただし1週間の間だけだがね」
「そ、それだけですか?」
困った顔をしたサムに、局長は肩をすくめて返す。
「向こうも商売だ。それ以上停止させれば、被害は100万ドル以上になってしまう。これ以上エミルの財布をかじるわけには行かんだろう?」
「そ、そうですよね……、はい」
「よって、この1週間以内にすべての決着を付けなければならんと言うわけだ」
その言葉に、局員全員の顔に緊張の色が浮かんだ。
「決着……」
「そうだ。具体的に言えば、この1週間で我々はC州に到着し、装備を整えてサンドニシウス島に上陸し、大閣下を拘束せねばならん。でなければ1週間後、C州の電信電話網は回復し、異状を伝えられた組織は大慌てで島を飛び出し、行方知れずになる。そうなれば我々がもう一度組織の尻尾をつかむことは、向こう10年は不可能になるだろう。
そしてその優位を利用しない大閣下ではなかろう。その10年の間に、いや、1年以内にででも、合衆国殲滅のために培っていた資金と人員、そして銃火器を、我々探偵局の殲滅のためだけに傾斜投下してくれば、我々はひとたまりもあるまい」
「……」
誰ともなく、ゴクリと固唾を飲む音が響く。
「諸君」
局長が淡々と、しかし威厳をにじませた声で続ける。
「これが我々と組織の、最後の戦いになるだろう。全身全霊を以て、任務に当たってくれ」
その言葉に、自然と全員が敬礼していた。

DETECTIVE WESTERN 13 ~フォックス・ハンティング~ THE END
@au_ringさんをフォロー
最大にして最後の作戦。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
15.
「お久しぶり、リーランドさん」
エミルが電話をかけた相手――道楽者の大富豪、ロドニー・リーランドは、嬉しそうな声で答えてきた。
《おわおっ!? なんかクールセクシー系のお声のお嬢さん!? ……え、えーと、失礼、あの、誰ですか?》
「ありがと。エミル・ミヌーよ。覚えてるかしら?」
《えみ……えみる、えー、……あっ、あー、うん、覚えてる、バッチリ、オーケー。です。あっ、えーと、え、エミルさん、いや、……オホン。エミル、俺に電話って、あの、何か用事が?》
しどろもどろのロドニーに、エミルは淡々と用事を伝える。
「あたしがあなたに預けてたお金、いくらくらいになったかしら?」
《お金? お金……お金……おかね? ……あー! あー、はいはいはいはい、お金ね、うん、あの、アレだ、ダイヤ鉱山のヤツだよな?》
「そう、そのそれよ」
《えーと、ちょっと待ってくれよ、……おーいグリフィス、あれってどうなった? あれだよあれ、鉱山の利益。……あ、そんな出てたの? へー。……っと、待たせたな。今確認したら、なんか総額1200万ドルくらいになったってさ。だからあんたには120万ドル、……じゃないっけ、あん時の10人で10等分だから……》
話をさえぎり、エミルが続ける。
「それ、今ちょうだい。100万ドル分」
《……へ? 今?》
「今すぐ、100万ドルが必要なの。仲間も納得してくれてるわ」
《いや、今ったって、現金で送るのは無理だぜ。渡すとなると、俺が立て替えないと……》
「お願い。合衆国の危機を救うためなの」
《……何かすげーヤバそうでデカそうな話だな》
浮ついていたロドニーの声が、一転して真面目なものになる。
《分かった。今すぐ探偵局に送ればいいのか?》
「いえ、……局長、さっきの会社ってどこ?」
「N州のウエスタンテレグラフ&テレフォン社だ」
「ありがと。聞こえた? そこに送ってちょうだい」
《分かった、送金しとく。送金者が俺の名前じゃ変だよな?》
「ええ。ジェフ・F・パディントン名義でお願い。送ったら向こうに連絡しておいて」
《オーケー。じゃ、すぐ銀行に言っとくわ》
「ありがとね」
《あ、あ、ちょっと待った。あの、エミル》
と、エミルが電話を切ろうとしたところで、ロドニーが呼び止める。
「なにかしら?」
《あのー、えーと、……こ、今度お茶とかどうかなって》
「いいわよ。あなたがN州に来た時にでも、ね」
《おっ、おう! んじゃ、また! じゃあ、あの、じゃあ……》
そこで電話を切り、エミルは受話器を局長に返した。
「ありがとう。では返事を聞いてみるとしよう」
1時間後、再度電話をWT&T社へとつないだ局長は、今度は安堵した表情を浮かべていた。
「……うむ。……うむ。それで構わん。では、よろしく頼む」
「どうでした?」
尋ねたアデルに、局長は大きくうなずいた。
「二つ返事でオーケーしてくれた。まもなくC州の電信電話網は不通となる。これでポートショアの残党が本拠地に連絡することは不可能になった。ただし1週間の間だけだがね」
「そ、それだけですか?」
困った顔をしたサムに、局長は肩をすくめて返す。
「向こうも商売だ。それ以上停止させれば、被害は100万ドル以上になってしまう。これ以上エミルの財布をかじるわけには行かんだろう?」
「そ、そうですよね……、はい」
「よって、この1週間以内にすべての決着を付けなければならんと言うわけだ」
その言葉に、局員全員の顔に緊張の色が浮かんだ。
「決着……」
「そうだ。具体的に言えば、この1週間で我々はC州に到着し、装備を整えてサンドニシウス島に上陸し、大閣下を拘束せねばならん。でなければ1週間後、C州の電信電話網は回復し、異状を伝えられた組織は大慌てで島を飛び出し、行方知れずになる。そうなれば我々がもう一度組織の尻尾をつかむことは、向こう10年は不可能になるだろう。
そしてその優位を利用しない大閣下ではなかろう。その10年の間に、いや、1年以内にででも、合衆国殲滅のために培っていた資金と人員、そして銃火器を、我々探偵局の殲滅のためだけに傾斜投下してくれば、我々はひとたまりもあるまい」
「……」
誰ともなく、ゴクリと固唾を飲む音が響く。
「諸君」
局長が淡々と、しかし威厳をにじませた声で続ける。
「これが我々と組織の、最後の戦いになるだろう。全身全霊を以て、任務に当たってくれ」
その言葉に、自然と全員が敬礼していた。

DETECTIVE WESTERN 13 ~フォックス・ハンティング~ THE END
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
ブログ「妄想の荒野」の矢端想さんに挿絵を描いていただきました。
ありがとうございます!
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
DW13、終了です。
後は残すところ、DW14と15の2つ。来年完結予定です。
と言うことでいよいよ次回、最大の山場を迎えることとなります。
ちなみに――以前にもお伝えしましたが――DWは電子書籍として販売中です。
DWの番外編であるOW、「OUTLAW WESTERN」も収録されているので、ご興味のある方はお買い求め下さい。
ブログ「妄想の荒野」の矢端想さんに挿絵を描いていただきました。
ありがとうございます!
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
DW13、終了です。
後は残すところ、DW14と15の2つ。来年完結予定です。
と言うことでいよいよ次回、最大の山場を迎えることとなります。
ちなみに――以前にもお伝えしましたが――DWは電子書籍として販売中です。
DWの番外編であるOW、「OUTLAW WESTERN」も収録されているので、ご興味のある方はお買い求め下さい。
- 関連記事
-
-
DETECTIVE WESTERN 14 ~ 西の果て、遠い夜明け ~ 2 2020/10/02
-
DETECTIVE WESTERN 14 ~ 西の果て、遠い夜明け ~ 1 2020/10/01
-
DETECTIVE WESTERN 13 ~ フォックス・ハンティング ~ 15 2019/12/30
-
DETECTIVE WESTERN 13 ~ フォックス・ハンティング ~ 14 2019/12/29
-
DETECTIVE WESTERN 13 ~ フォックス・ハンティング ~ 13 2019/12/28
-



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
~ Comment ~