FC2ブログ

黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第5部

    蒼天剣・剛剣録 5

     ←蒼天剣・剛剣録 4 →蒼天剣・剛剣録 6
    晴奈の話、第249話。
    2度目の悲劇。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    5.
     篠原に受けた傷は深く、楢崎は半月以上に渡って生死の境をさまよった。とは言え治療術を使える妹弟子、雪乃が折良く旅から戻り、看病してくれたこともあり、九死に一生を得た。
     だが一方、藤川は焔流剣士としての道を絶たれてしまった。治療術といえども欠損した部分を完全に修復することはできず、斬られた腕を元に戻すことは不可能だったのだ。五体満足を必須とする免許皆伝試験を受ける資格を失った藤川は、皆に惜しまれつつ、紅蓮塞を離れることとなった。
     そして篠原については、重蔵によって斬られたものの、とどめを刺そうかと言うところで朔美の邪魔が入り、扇動され謀反に加わった門下生たちごと、その場から逃げ去ってしまったと言う。

     それからしばらく経ち、体の傷は完治したものの、楢崎の心には深い傷が残ったままだった。
     己が全力で放った渾身の一撃が通用せず、あろうことか一笑に付されると言う、これ以上無い屈辱と衝撃を味わい、自分の剣術への自信と信頼を失わせた。
     後に免許皆伝の証を得、己の名を冠した道場を建て、独立を果たしたものの、その傷は依然としてジクジクと、彼の心に痛みを与え続けていた。



     双月暦509年、晴奈と雪乃が青江を訪れる2ヶ月ほど前。
     結婚し子供も生まれ、道場の運営も軌道に乗り、何の心配もなく暮らしていた楢崎の元を、ある男が訪ねてきた。
    「御免! この道場の主はおるか?」
    「ああ、私ですが……?」
     その白髪の男は、いかにも我の強そうなヒゲ面と怒鳴り声を伴い、道場に上がってきた。
    「わしの名は島竜王。道場破りに参った」
     島の我が物顔の振る舞いと不躾な物言いに、楢崎以下道場の者は全員、呆れ返った。
     しかし声を荒立てて追い返しても、この島と言う男に「ならず者一人片付ける技量が無いのか」とうわさでも流されれば、道場の体面にかかわる。
     そう考えた楢崎は島の要求を呑み、さっさと叩き出すことにした。
    「はあ、そうですか。それじゃ、お手合わせを……」「いやいや、待たれい」
     ところが早速試合に移ろうとした途端、島が慌ててそれを止めた。
    「え?」
    「ほら、まあ、準備と言うものがある。2日ほど待たれよ」
     そう言うなり、島はそそくさと道場を出て行ってしまった。
    「何がしたいのやら?」
    「さあ……?」
     成り行きを見ていた門下生、柏木の問いに、楢崎も首をひねるばかりだった。

     だが、その翌日。島の言っていた「準備」に、楢崎はようやく気付かされた。
    「ああ、あなた!」
     道場で稽古に打ち込んでいた楢崎の元へ、妻が青い顔をして駆け寄ってきた。
    「どうした?」
    「瞬也が、瞬也がどこにもいないの!」
    「えっ?」
     楢崎は慌てて竹刀を放り出し、道場や母屋、近くの崖や海岸を探し回る。
     だが、半日探し回っても息子は見つからない。
    「一体、瞬也はどこに……」
     へとへとに疲れきって戻ってきたところで、青ざめた顔の門下生一同が出迎えた。
    「先生、あの」
    「うん?」
     柏木がおずおずと、一通の手紙を差し出した。
    「昨日の島と言う男の使いから、こちらが……」
    「島から?」
     手紙を受け取り読み進めるうちに、楢崎の顔も青ざめていく。
    「そんな……」
     手紙の内容は、次の通りだった。
     楢崎の息子、瞬也を誘拐したのは自分であること。返してほしければ、明日の道場を賭けた試合で負けること。もしこのことを道場以外の者に話したり、試合に勝ったりすれば、息子は生かして返さない、と。
     もし、これを受けたのが篠原に敗れる前の、血気盛んな頃の楢崎であれば、迷いなく島を叩きのめして問いつめ、息子の居場所を聞き出していただろう。
     だが、楢崎の心に付いた傷がそれを許さず、迷いを生じさせた。

     結局楢崎は平伏し、島に瞬也の居場所を尋ねた。
    「どこにいるんだ、島ッ!?」
    「それが人に教えを請う態度か? ん?」
     座り込み、土下座する楢崎の頭を踏みつけ、島は居丈高に振舞う。
    「……どこにいるんですか、島さん」
    「さあなぁ?」
     恥を忍んで尋ねる楢崎の頭を踏みつけたまま、島は馬鹿にしたように返す。
    「ふざけないでください……!」
    「ふざけてなどおらん。わしの知人に預けておるのだ。居場所はそいつしか知らん」
    「ぐ……っ」
    「それでは試合と参ろうか、のう?」
    「……うう、ぐっ」
     楢崎は額を地面に押し付けられたまま、心が張り裂けそうな思いで宣言した。
    「……私の、負けでいい。早く息子を返してくれ」
    「あぁん? 聞こえんなぁー」
    「負けだ、私の負けだッ!」
    「ひっひっひっひ……」
     島はいやらしい笑いを浮かべ、楢崎の頭を蹴りつけた。
    「その知人は街の宿におる。さっさと行け」
    「……ッ!」
     楢崎は頭から血が流れ出ているのも構わず、道場を飛び出した。
    「貴様……! もし先生が戻ってきたら、どうなるか分かっているだろうな!?」
     柏木が怒りに満ちた目で島をにらむが、島は平然と笑っている。
    「戻ってくればいいがなぁ?」
    「なっ……? どう言うことだ!?」
    「知人は夕べのうちに青江を発った。楢崎の息子を連れてな」
    「……!」
    「簡単な手がかりは、わざと残しておいた。それを見つけた楢崎は、急いでモノを追うだろう。だがモノは名うての犯罪請負人だ。恐らく永久に、楢崎には見つけられぬ」
     これを聞いた柏木は、顔を真っ赤にして島につかみかかった。
    「貴様ああーッ! それでも、それでも人間かッ! この外道めッ!」
     襟をつかまれた島は馬鹿にしたようにニヤつき、柏木の顔に唾を吐きかけた。
    「手を離さんか、無礼者。今日からわしは、ここの主だぞ」



     それからの10年間、楢崎は長い旅を続けてきた。その旅路は非常に辛く、苦しいものだった。
     さらったのはモノと言う名の男、手がかりはそれだけなのである。青江の宿で聞いた手がかりも、街を2、3巡るうちに続きを失った。
     他に頼るものは無し、ただひたすらそのモノと言う男と息子を探す、茫漠とした当てのない旅を続けていた。だが、それでも非常にわずかずつではあるが、色々な情報を旅の途中で手に入れることはできた。
     モノと言う男は、片腕の人間であること。「モノ」とは央北の言葉で、「単一のもの」「一欠片」と言う意味であること。モノはある組織の幹部であり、その組織は中央大陸を股にかけた犯罪者集団であること。

     そして、その犯罪組織の名前も道中で聞いた――殺刹峰(せつせつほう)。
     どこに本拠地があるのか、どれだけの人間が属しているのか、そして今までに、どれだけの者が犠牲になってきたのか――その一切が分からない、謎の組織だと言う。



     楢崎は殺刹峰を執拗に探し回り、そして導かれるようにゴールドコーストにたどり着いた。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2016.06.16 修正
    関連記事


    ブログランキング・にほんブログ村へ





    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 4;琥珀暁
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 3;白猫夢
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 2;火紅狐
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 1;蒼天剣
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 短編・掌編・設定など
    総もくじ 3kaku_s_L.png イラスト練習/実践
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 4;琥珀暁
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 3;白猫夢
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 2;火紅狐
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 1;蒼天剣
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 短編・掌編・設定など
    もくじ  3kaku_s_L.png DETECTIVE WESTERN
    もくじ  3kaku_s_L.png 短編・掌編
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
    もくじ  3kaku_s_L.png 携帯待受
    もくじ  3kaku_s_L.png 今日の旅岡さん
    総もくじ  3kaku_s_L.png イラスト練習/実践
    • 【蒼天剣・剛剣録 4】へ
    • 【蒼天剣・剛剣録 6】へ

    ~ Comment ~

    NoTitle 

    さらわれたのが自分の子供ですし、何より義に厚い剣士ですからねぇ。
    楢崎さんには見捨てることができませんでした……。

    NoTitle 

    人質というのは古今東西ワケ隔てなく使われているオーソドックスかつ効果的な方法ですよね。言葉遊びの使い分けはありますけどね。・・・・ウチの某勇者だと容赦なく見捨てるんでしょうけど。

    ・・意外にそれが長い間長引く可能性もあるから大変ですよね。それこそ人生を費やすことになったりしますので。
    管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    トラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【蒼天剣・剛剣録 4】へ
    • 【蒼天剣・剛剣録 6】へ