「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第5部
蒼天剣・剛剣録 6
晴奈の話、第250話。
筋肉超人、楢崎。
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6.
試合の開始が告げられるなり、クラウンは楢崎に向かって飛び込んでいく。
「うおらっしゃあああッ!」
リングを揺らす叫び声と共に、楢崎の頭を目がけて鉈が振り下ろされる。
「……おおおッ!」
楢崎は刀を上にかざし、クラウンの初弾を受ける。クラウンはこの時、心の中で勝利を確信し、笑い転げていた。
(け、けけけッ……! よりによって受けるか、この馬鹿野郎が!
俺様はクラウン、『キング』クラウンだぞ!? この俺の、『熊』の一撃が短耳ごときに受けられるわけねえだろうが! 反射的に受けやがったな、カスが!
このまま、ぶっ潰したらああああッ!)
鉈が当たる直前、クラウンは袖が千切れるくらいに筋肉を盛り上がらせ、渾身の力で鉈を叩きつける。ゴイン、と言う鈍く重たい音がリングに響き渡り、リングは楢崎の惨状を予感してどよめきかけた。
だが――。
「お、……おおお、おうッ!」
楢崎の頭が弾け飛ぶどころか、彼の刀さえも曲がっていない。
「……んな!?」
クラウンは予想とあまりに食い違う状況に、間の抜けた声を漏らした。両者の力は拮抗し合い、どちらも微動だにしない。
と、楢崎がブツブツと何かを唱え始めた。
「十害をはねつけ、百労をものともせず、千苦を乗り越え、万難を排して、一事を成す。この金剛の決意、剛胆なる性根こそ『剛剣』の極意なり」
楢崎の全身から立ちのぼる魔神のような気迫に、クラウンはたじろぐ。
「な、んだ? ま、魔術か? 呪文か?」
「魔術でも、呪文でも無い。ただの、……気合いだッ!」
袖がまくられ、二の腕まで見えていた楢崎の両腕がボン、と盛り上がる。先程のクラウンのそれと同じくらいの、いや、それ以上の膨れようだった。
「う、お、おおおお、りゃあああッ!」
楢崎は力一杯足を踏ん張り、両腕を振り上げる。力自慢のクラウンによる押さえつけを、力だけで無理矢理に吹き飛ばした。
「お、う……っ!?」
抑えがたい力に跳ね飛ばされ、クラウンがのけぞる。楢崎はそのまま刀を振り下ろし、クラウンを叩きのめした。
「うおりゃーッ!」「げふぅ!?」
ちなみに闘技場で刃物を使用する際は、殺傷能力を抑えるため刃に革を被せて防護してあるのだが、それでも刀は金属の塊である。
それを左肩に当てられては、流石のクラウンも耐え切れない。クラウンは胃液を吐きながら、仰向けに倒れた。
「……はぁ、はぁ」
楢崎はクラウンがピクリとも動かなくなったのを確認し、刀を納める。
どう言うわけか、これほどの力を加えられた刀は少しも曲がっていなかった。その様子はまるで、彼の剛毅な決意が刀に移ったかのようだった。
「勝者、シュンジ・ナラサキ!」
アナウンスが興奮に満ちた声で、楢崎の勝利を告げる。
試合時間は、わずか1分足らずだった。
「いや、感服いたしました、楢崎殿! まさか、あのクラウンに真っ向勝負で勝ってしまわれるとは」
晴奈がほめちぎりながら、楢崎の杯に酒を注ぐ。楢崎はまた赤虎亭に呼ばれ、初戦の勝利を祝われていた。
「いやいや……」
楢崎は酒と祝われる気恥ずかしさから、顔を赤らめている。
「むしろ、僕は力しかとりえが無いからね。あれ意外に勝つ方法は無かったんだよ」
「そう謙遜なさらずとも……」
「ううん、謙遜なんかじゃないよ。僕には冷静に物事を考える頭脳も、力量差をひっくり返せる技術や知識も……」「あーあーうっせー、んな暗いコト考えんなって!」
場が盛り下がりそうだったためか、朱海が突っ込んできだ。
「何はともあれ、アンタ今日は勝ったんだから楽しく祝おうぜ、なっ!」
朱海の言葉に、楢崎は頭をかきながらうなずく。
「そうですね、はは……。こんなおめでたい席で、湿っぽい話は良くない」
「そーだよ、さ、呑め呑めっ」
朱海はニッコリ笑って、酒瓶を両手に持ってはやしたてた。
「あ、晴奈も景気づけに呑んじゃいな。次だろ、試合」
「ええ。シリンと戦う予定です」
楢崎と並んでカウンターに座っていたシリンが、嬉しそうに手を挙げる。
「そーなんよ、アケミさん。ウチ、姉やんといきなりなんですわ」
「そりゃまた、闘技場が沸き立つでしょうねぇ」
小鈴が料理を運びながら、ニヤニヤと笑ってシリンと晴奈の肩を叩く。
「ま、どっちも頑張んなさいよ。あたしは、両方応援してるからね」
「ええ、存分に腕を振るうつもりです」
「へっへー、ウチもちょー頑張るからな」
晴奈とシリンはカウンター越しに堅く握手を交わしつつ、健闘を約束した。その様子を見ていた楢崎が、ぽつりとつぶやく。
「僕はその次、また戦うことになるみたいだ。次の相手は、ウィアードくんだそうだ」
「うぃ、……ロウですか。それはまた、苦戦しそうな」
「ああ。クラウンと違って、彼はなかなかの試合巧者のようだ。今回みたいな一筋縄では行かないだろう。
まあ、何を言っても、結局は頑張るしかないけれどね」
「はは、楢崎殿らしい」
この日の祝勝会は、和やかに締めくくられた。
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筋肉超人、楢崎。
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試合の開始が告げられるなり、クラウンは楢崎に向かって飛び込んでいく。
「うおらっしゃあああッ!」
リングを揺らす叫び声と共に、楢崎の頭を目がけて鉈が振り下ろされる。
「……おおおッ!」
楢崎は刀を上にかざし、クラウンの初弾を受ける。クラウンはこの時、心の中で勝利を確信し、笑い転げていた。
(け、けけけッ……! よりによって受けるか、この馬鹿野郎が!
俺様はクラウン、『キング』クラウンだぞ!? この俺の、『熊』の一撃が短耳ごときに受けられるわけねえだろうが! 反射的に受けやがったな、カスが!
このまま、ぶっ潰したらああああッ!)
鉈が当たる直前、クラウンは袖が千切れるくらいに筋肉を盛り上がらせ、渾身の力で鉈を叩きつける。ゴイン、と言う鈍く重たい音がリングに響き渡り、リングは楢崎の惨状を予感してどよめきかけた。
だが――。
「お、……おおお、おうッ!」
楢崎の頭が弾け飛ぶどころか、彼の刀さえも曲がっていない。
「……んな!?」
クラウンは予想とあまりに食い違う状況に、間の抜けた声を漏らした。両者の力は拮抗し合い、どちらも微動だにしない。
と、楢崎がブツブツと何かを唱え始めた。
「十害をはねつけ、百労をものともせず、千苦を乗り越え、万難を排して、一事を成す。この金剛の決意、剛胆なる性根こそ『剛剣』の極意なり」
楢崎の全身から立ちのぼる魔神のような気迫に、クラウンはたじろぐ。
「な、んだ? ま、魔術か? 呪文か?」
「魔術でも、呪文でも無い。ただの、……気合いだッ!」
袖がまくられ、二の腕まで見えていた楢崎の両腕がボン、と盛り上がる。先程のクラウンのそれと同じくらいの、いや、それ以上の膨れようだった。
「う、お、おおおお、りゃあああッ!」
楢崎は力一杯足を踏ん張り、両腕を振り上げる。力自慢のクラウンによる押さえつけを、力だけで無理矢理に吹き飛ばした。
「お、う……っ!?」
抑えがたい力に跳ね飛ばされ、クラウンがのけぞる。楢崎はそのまま刀を振り下ろし、クラウンを叩きのめした。
「うおりゃーッ!」「げふぅ!?」
ちなみに闘技場で刃物を使用する際は、殺傷能力を抑えるため刃に革を被せて防護してあるのだが、それでも刀は金属の塊である。
それを左肩に当てられては、流石のクラウンも耐え切れない。クラウンは胃液を吐きながら、仰向けに倒れた。
「……はぁ、はぁ」
楢崎はクラウンがピクリとも動かなくなったのを確認し、刀を納める。
どう言うわけか、これほどの力を加えられた刀は少しも曲がっていなかった。その様子はまるで、彼の剛毅な決意が刀に移ったかのようだった。
「勝者、シュンジ・ナラサキ!」
アナウンスが興奮に満ちた声で、楢崎の勝利を告げる。
試合時間は、わずか1分足らずだった。
「いや、感服いたしました、楢崎殿! まさか、あのクラウンに真っ向勝負で勝ってしまわれるとは」
晴奈がほめちぎりながら、楢崎の杯に酒を注ぐ。楢崎はまた赤虎亭に呼ばれ、初戦の勝利を祝われていた。
「いやいや……」
楢崎は酒と祝われる気恥ずかしさから、顔を赤らめている。
「むしろ、僕は力しかとりえが無いからね。あれ意外に勝つ方法は無かったんだよ」
「そう謙遜なさらずとも……」
「ううん、謙遜なんかじゃないよ。僕には冷静に物事を考える頭脳も、力量差をひっくり返せる技術や知識も……」「あーあーうっせー、んな暗いコト考えんなって!」
場が盛り下がりそうだったためか、朱海が突っ込んできだ。
「何はともあれ、アンタ今日は勝ったんだから楽しく祝おうぜ、なっ!」
朱海の言葉に、楢崎は頭をかきながらうなずく。
「そうですね、はは……。こんなおめでたい席で、湿っぽい話は良くない」
「そーだよ、さ、呑め呑めっ」
朱海はニッコリ笑って、酒瓶を両手に持ってはやしたてた。
「あ、晴奈も景気づけに呑んじゃいな。次だろ、試合」
「ええ。シリンと戦う予定です」
楢崎と並んでカウンターに座っていたシリンが、嬉しそうに手を挙げる。
「そーなんよ、アケミさん。ウチ、姉やんといきなりなんですわ」
「そりゃまた、闘技場が沸き立つでしょうねぇ」
小鈴が料理を運びながら、ニヤニヤと笑ってシリンと晴奈の肩を叩く。
「ま、どっちも頑張んなさいよ。あたしは、両方応援してるからね」
「ええ、存分に腕を振るうつもりです」
「へっへー、ウチもちょー頑張るからな」
晴奈とシリンはカウンター越しに堅く握手を交わしつつ、健闘を約束した。その様子を見ていた楢崎が、ぽつりとつぶやく。
「僕はその次、また戦うことになるみたいだ。次の相手は、ウィアードくんだそうだ」
「うぃ、……ロウですか。それはまた、苦戦しそうな」
「ああ。クラウンと違って、彼はなかなかの試合巧者のようだ。今回みたいな一筋縄では行かないだろう。
まあ、何を言っても、結局は頑張るしかないけれどね」
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